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徴兵

翌朝、広樹が目を覚ますと、もう時刻はだいたい8時くらいだった。

もっとも、この時代に時計なんかない。だから憶測でしかないのだが、かなり遅く起きたことには違いない。

そう考え、広樹は急いで身支度をし、下の店の作業場に行った。

下へ行くと、ジェームズとメリーがもう既に店を開いて作業している姿が見えた。

申し訳ないと思い、彼らに一礼すると、二人は笑って「おはよう。」と言ってくれた。

そして、ジェームズからある仕事を頼まれた。

「広場に行ってチラシを配ってくれないか?」

というものだった。

実は広樹はアルバイトでチラシ配りをしていたため、(懐かしいな)と思いつつ、仕事を引き受けた。


広場に行くと、そこには大量の人が集まっていた。

「ジェネリアさん、なんとかなりませんか?」

よぼよぼと話すこの街の長らしき人物に、ジェネリアと考えられる金髪の女性は溜息を付きながら返した。

「何度も言っているでしょう。これは伯領の為に必要なことです。ガーレン殿、人を用意していただけませんか?」

そういうとガーレンは頭を抱えた。

周りにいる人々は、口々に「横暴だ!」と叫んだ。

(何やら面倒なことが起きてるな。)と思いつつ、広告配りに専念しようとしたその時、ジェネリアが話しかけてきた。

「君、結構いい体格してるね。軍に入らないかい?」

(あったばっかりの人を軍に誘うとか、すごい人だなこの人…)と思い、断ろうと声を出そうとした瞬間、ジェネリアはこう言った。

「仮に入らなかったら、この村の人を全員徴兵するよ?」

(人生で初めて、いや二回目くらいにこんな雑な脅し文句聞いたかもしれないな。こんなんでは流石に人々も私に何も言わないだろう…)

こう思い、人々がいる方を見てみると、彼らは広樹を睨みつけていた。

そして、口々にこう言った。「頼む、お前は軍に入ってくれ!」

(あれに負けるとか…マジかよ。そんなことできるわけないだろ。)そう思ったが、流石に民衆の圧力が怖かったので、一応「前向きに考えておきます。」と政治家がよく使いそうな文句を言った。

「いや、ダメだ。今返事がほしい。」そう返されると、広樹は動揺した。

(こいつとんでもないやつだな。流石にこれの下では働きたくないな。)と思ったが、(民衆の圧力で私に迷惑がかかるならともかく、ジェームズさん達にも迷惑がかかるのはいけないな。)

と思ったため、渋々それを受け入れた。

「わかりました。しかし、少し準備期間をください。具体的には3日ほど。」

「3日だな。わかった、3日後の正午、ここで会おう。」

(やってしまった…)と後悔に満ちる広樹は、

民衆の歓声を受けても何も感じず、家に帰ろうとしたその時、「あ…チラシ…」と、広告のことを思い出し、広場でチラシ配りに専念した。


正午頃、チラシをすべて配り終わり、店に戻ろうとしたとき、エリスが彼の目の前に現れた。

「やぁ、昨日ぶりだね。」

「エリスですか。実は3日後軍に行くことになりました。なのでしばらく会えなくなりそうです。」

そういうと、広樹は帰ろうとした。エリスが「ちょっと!レーヌ!」と言い引き止めようとしたが、広樹は放心状態で店に戻った。

店に戻ると、昼飯の準備をしているジェームズがいた。

「おかえり。今日の昼はソーセージだよ。」

(ソーセージか。私の大好物だ。)

そう心の中で呟くと、広樹は一心不乱に食べ始めた。

ジェームズは驚いた様子を見せたが、すぐにいつもの様子に戻り、広樹の肩を優しく叩くと、

仕事場に戻っていった。

(ジェームズに私が軍に行くことを伝えないとな…)そう思ったが、なかなか言い出せずに、チラシ配りに戻った。気づけば、もう夕方になっていた。


夕食時、広樹はついにジェームズ夫妻に話を切り出した。

「ジェームズさん、実は…私、軍にはいることになりました。」

そう言うと、ジェームズとメリーは優しい微笑みを浮かべた。ジェームズが先に言葉をかけた。

「そんなこと、もう知ってるよ。買い物に来た人が教えてくれたからね。」

続けてメリーが言う。

「私たちの知り合いが言ってたよ。『この前街に来た子、勇気あるわねー』って。」

(俺に勇気なんてない。周りの圧力に流される。今までもそうやって生きてきた。)そう心の中で叫ぶと眉間にシワを寄せた後椅子から立ち上がり、夕食を食べるのをやめ部屋に戻ってしまった。


(なんであそこでむきになってしまったんだろうか。素直に言葉を受け取っておけばよかったな。)そう考えているうちに、メリーから風呂が湧いたと知らされ、風呂に入って部屋に戻って寝てしまった。


翌朝、早く寝たからか日の出より先に起きた。

(少し起床が早すぎたかな?)と考え、暇つぶし程度に散歩に行くことにした。

散歩に出発していくらか時間が過ぎ、小川に架かった橋を通ると、橋の上にエリスがいた。

「昨日はなんで帰っちゃったの?」

そう尋ねられると、広樹は少し笑みを浮かべ、

「いえ、疲れたので家に帰りたかっただけですよ。」と言った。

エリスは不満そうに、「む~…」と言った。

そして、広樹を指で指しながらこう言った。

「というかさ、なんで敬語なの?!たぶん同い年なんだから敬語じゃなくていいでしょ?!」

(確かに。)と思い、少し頷いたあと、

「なら今度からタメ口で話しますね。」

と言った。

エリスは嬉しそうに、「うん!」と言った。

エリスは思い出したように広樹に話した。

「そういえば、レーヌも軍に行くんだね。」

広樹は少し驚いたが、すぐに冷静になった。

「ああ、2日後の正午に広場に行くという約束をしただけ、だけどな。にしても、なんで知ってるんだ?」

そう聞くと、エリスは

「昨日言ってたじゃん。」と言った。

(そうだったか?)と思い、人が多くなってきたので帰ろうとしたその時、「邪魔だー!」という声が聞こえた。

声がした方向を見ると、泥棒らしき人がこちらに向かっている様子とそれを追っかけている衛兵らしき人がいた。

「まずい!」そう言うと、広樹は橋の端にエリスを抱き寄せた。

だが、泥棒は二人にあたった。

二人は小川に広樹がエリスに覆いかぶさるようにおちてしまった。

広樹はすぐに立ち上がり、川辺に行ってからエリスに手を差し伸べた。

二人は恥ずかしそうな笑みを浮かべたあと、エリスは広場の方向に走っていってしまった。

広樹は「待って!」と言おうとしたが、時既に遅かった。

エリスは見えないところに行ってしまったため、広樹は落ち込みながら店に帰った。

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