共和国の成立
広樹はカレーに出向いて、一度海を見渡した。
海はいつものようにきれいで、ブリトン島が見えた。
ぼーっと海を眺め、浮いている漁船を一つ一つ見ていると広樹は不審な船を見た。
明らかに広樹の所有する海軍の船と同じくらいの大きさの船が近づいてきているのだ。
「ただ事ではないな。」
そう呟き、広樹は走って海軍の監視塔へ向かった。
「総督、どうしますか?」
海軍の士官は広樹に尋ねる。
「構わん。海軍よ、出動せよ!
相手が撃ってきたのなら撃ち返せ!陸軍にも連絡を!」
そういって、広樹は大型の船に乗り込んだ。
船に乗り込み、広樹は甲板に立った。
すると敵は弓を仕掛けてきたため、広樹は応戦するように命令した。
「最新の火薬の使用を許可する!
敵の船に爆弾を届けてやれ!」
そういって広樹が爆弾を二個ほど投げ込んだ後、一斉に火矢が放たれた。
その一本がちょうど爆弾に命中し、敵の船は大爆発した。
轟音と閃光に恐れおののいた敵軍は、一気に撤退していった。
自軍に更に攻撃するよう命じたが、彼らは拒否した。
「自軍にも被害甚大、か。
仕方ない。取り敢えず引き上げるとしよう。」
そういって、広樹は港に戻っていった。
自軍の損害は小型船1隻で、敵は艦隊を全滅させられた。
しかし、勝利の喜びに浸ってはいられない。
カレーに蛮族の集団が上陸したとの情報が来たのだ。
広樹は海軍の兵士を率いて蛮族を滅ぼしに行った。
カレーには主に四つの区域がある。
一つ目は中央区。ここはその名の通り中央と広樹の城に続く道の周りで構成されていた。
二つ目は港区。軍の基地と造船所が集まっているカレーの工業地帯だ。
三つ目はシャネル区。ここはオストロとカレーをつなぐ交易路となっている。
四つ目はフィリップ区。ここはダンケルクとカレーを繋ぐ重要地域だ。
ここのうち、既にフィリップ区が陥落したとの情報が入ってきた。
広樹は中央区に全軍を配備し、じりじりと城へ遅滞戦術を行うことにした。
こうして広樹は火薬を全て持ち去り、中央区まで撤退した。
やはり敵は我々を壊滅させるつもりらしく、一気に攻撃を開始してきた。
蛮族は練度が高く、広樹の軍はどんどん追い込まれた。
「おい、城に非常事態宣言を発令するように言ってくれ。
そして食い止めている間に予備兵力の1000を集めてこちらに寄越すように伝えてくれ。」
そう使者に命令し、広樹は防衛に専念することにした。
海軍300人、陸軍200人で広樹は敵軍およそ1000とアルドルで対峙した。
敵はそろそろ補給が切れたらしく、町で略奪しようと試みていた。
しかし、その動きは広樹に察知された。
「よし、ではこのうちに奥の高原に逃げよう。
そして高原の奥で火矢を準備してくれ。俺は火薬を設置する。」
彼らを一度高原の奥で火矢を待機させてから、広樹は火薬を設置し始めた。
火薬を撒き終わった後、広樹は撤退した。
敵は火薬を警戒していたようだが、湿地帯であることに気づいてそのまま攻撃してきた。
そこで、広樹は火を放つように命令した。
火が火薬について、連鎖的に爆発を繰り返す。
敵は文明の力に恐れおののき、撤退していく準備をした。
しかし、不可能だった。
ここは湿地帯であり、広樹は綿に包んで火薬を湿気らないようにした。
そこまでしなければいけないほど水が多く、そこを爆破したのだ。
地下から水があふれだし、敵は足を取られていた。
「よし、弓を射かけて殺せ。遠慮はいらない。」
そういって、広樹は敵を壊滅させた。
そうして広樹は町を解放し、軍事パレードをした。
彼らの姿に人々は感服して軍事力の拡大を決心して自由を守る決意を固めた。
「よし、では選挙をしよう。
この選挙で自由党を大勝させる。そうすれば我々が勝つだろう。」
そういって、広樹は議会の解散を宣言した。
議会を解散した一週間後、選挙運動が開始された。
非常事態宣言は継続したままで、1000人を未だ動員していた。
そんなころに、ロタリンギアでマチルダが追放され、フリージア統の教会が勢力を握ったと伝えられた。
彼女は今、カレーの近くのカンブレーで幽閉されているようだった。
「そうか。いつか分からないが彼らはうちに攻めてくるかもな。
わざわざカレーの近くと宣伝したのもそれだろう。ならば、無茶な挑発には乗らないように。」
そういって、広樹は軍隊を近くに配備しておくことにした。
選挙は自由党の圧勝で27議席、つまり全体の8割を獲得した。
広樹は満足し、初の議会に向かった。
「私は次の解散までの期間を設けようと思います。
解散を行ったら、半年間はできないという条項を設け、政治の安定化を図りたいと思います。」
この意見は全政党が賛成し、直ぐに住民による投票が行われることになった。
この会議はすぐに終わり、広樹は一度ランスの執務室に行った。
その時である。突如南のロタリンギアが攻撃を始めたのである。
ランスは国境近くの町なので、直ぐに指揮することができた。
「了解した。ランスにて全軍を待機。
敵の規模がわかったなら即言うように。」
そういって、広樹は駐屯地に行って演説をした。
「諸君。我々の信仰を脅かすものが我々を愚かにも攻撃してきた。
彼らは彼の土地の支配者を幽閉し、我々を屈服させに来た。
しかし我々には信仰、屈強な君たちのような兵士、そして進歩した技術がある。
これを用いて敵を屈服させようぞ。」
そう話し、広樹は200の兵隊をランスに残して自身は南の森に行った。
南の森から敵が悠々と領土を進撃しているのを目撃した。
その数およそ2000、広樹の軍では太刀打ちできないほどの多さだった。
しかし、広樹は余裕を見せていた。
海軍にランスに援軍を送るよう要請し、自身はそのまま待機した。
敵がランスに入り、守備隊と交戦したと連絡が入った。
広樹はここぞとばかりに部隊を動かし、ランス南方にて敵の背後をついた。
敵はちょうどランスでの激しい抵抗の末撤退しようとしたところであり体力が残っていなかった。
しかし、そこに体力が有り余っている海軍の援軍と広樹の軍が攻撃してきたのである。
彼らはもう戦うほどの力はなく、降伏した。
広樹は彼らを全員処刑するよう命じると、自身はカンブレーへと向かった。
カンブレーまでに抵抗はなく、むしろ協力する市民もいた。
広樹は彼らの丁重なもてなしに感謝し、カンブレーの城に入城した。
この城は数人の見張りがいたが、彼らは広樹の敵とはなりえなかった。
そうして広樹はマチルダの解放に成功した。
広樹はマチルダの名のもとにフリージア統への抵抗を呼びかけた。
そうして敵の首都のリールに入城し、敵は降伏を申し入れた。
敵の指導者は全て斬首され、広樹はマチルダに領主に戻るように要請した。
しかし、彼女は否定する。
「私が追い出された時点で私は領主失格だわ。
だから、あなたに領土を全て渡すわ。」
「そうですか。あなたの決定なら仕方ありません。その代わり、うちの政府に入ってくれませんか?」
そういって、広樹は彼女が収めていた神聖帝国とガリアの国境の北部を手に入れた。
ここは非常に重要な地域で、神聖帝国とガリアの緩衝地帯となっていた。
そのため、かなり自由な気質を持つ地域で広樹の統治政策とよく合った。
安心して統治を開始し、広樹はマチルダを保健省のトップに任命した。
広樹は今までのようなカレーという名を改め、『共和国』という名前に変更した。
この共和国では自由主義という思想が採用され、権利運動を推進した。
その流れは諸外国へと向かい、ガリアにおいてその運動は活発となる。
こうして共和国初代総督となった広樹は、早速チャールズのもとへ行った。
「おぉ、どうした。何かあったのか?」
そういつものように聞いてくるチャールズに、広樹は淡々と答えた。
「我が国は貴国の友好国として独立いたします。
このことを認めていただきたい。」
チャールズは嬉しそうな顔で喜ぶ。
「おめでとう。独立してよいぞ。
理由は後でわかるだろう。じゃあ、頑張ってくれたまえ。」
そういって、彼は退室していった。
共和国憲法は見直され、大幅な改善がなされた。
まず、軍事における制限は撤廃された。
これだけのみならず、広樹はカレーの軍を革命軍と改め、拡大した。
また、政治のシステムも大幅に変わった。
今までの1093年憲法と呼称されているものから大幅に一新され、革命憲法を成立させた。
この憲法は前の憲法を受け継ぐも、議会の定数を100人に改め、総督弾劾権が追加された。
これに対して総督は議会に対する解散権を持つようになった。
総督は6年の任期を持ち、4期までの再選を認められた。
非常事態の権力については、憲法の範囲内とされた。
宣戦布告は議会の過半数の賛成によって議会によって行われる。
こうして新しく制定された憲法は、各国に発表され、早速取り入れる団体が出てきた。
そのうちの一つにガリアにおける共和制の成立を目論む自由ガリアと呼ばれる団体があった。
全体議会の再招集が行われ、新たな政党も結党された。
人民党、共和党、自由党、王党の4つの政党が成立した。
人民党は国家の経済、個人の問題に介入することを極力やめようとする政党である。
共和党は軍隊の拡大に反対し、外交で解決しようとする政党である。
そして、教会との関係を強化すべきといった政党である。
自由党は軍隊を拡大し、自由のための戦争に介入する政党である。
教会との関係に懐疑的で、政府をより大きくしようとしている。
王党は広樹を王として戴冠させ、王政を施行させようとしていた。
それ以外は自由党と似ており、憲法を存続させる姿勢でいた。
それそれ人民党が14議席、共和党が19議席、自由党が65議席、王党が2議席獲得した。
人民党と共和党は連合を組む形となると予想されている。
「よし、ではアルスター島に侵攻しよう。
彼の土地はまだ誰も征服しておらず、我々の領土拡張の第一歩となるであろう。」
しかし、反対も多かった。
「今はまだ軍事力がついていないから、やめるべきだと思うわ。」
そういってマチルダは反対する。
「しかし、今しかないのも事実だ。
既にブリトン、ガリアの国がアルスターに興味を示している。
我々は誰よりも早くかの地を征服しなければならない。」
「いや、やめとけって。
もうすぐ徴兵が完了するんだろ?それまで待とうぜ。」
和也も反対したため、広樹はそれに従うことにした。
広樹は自身も軍の訓練に参加することにし早速カレーの基地へ向かった。
ここでは今騎兵訓練が行われており、馬を用いて戦っていた。
馬には何回か乗ったことはあるが、こうして戦うことは初めてだった。
広樹はまず普通に木の剣を使って戦うことになった。
木の剣で広樹は自身の力で相手をねじ伏せ、それなりの才能があることを示した。
そして馬に乗って一度剣を振ってみる。
初めのうちはあまりうまくできなかったものの、何度かやるうちに乗りこなせるようになった。
広樹は何回か打ち合い、なんとか一回勝利することができた。
「なかなか疲れたな。では、君たちも頑張ってくれ。」
そういって、広樹は城に戻っていった。
広樹は城に戻ると一通の手紙が届いていた。
不審に思いながら開けてみるとそこには黒十字が入っていた。
そして、文字が書かれた紙が入っていた。
「レーヌ・アルフレッド殿。
ラテニアの教皇座に来てください。できる限り早急に。」
広樹はかなり怪しんだが、行かないわけにもいかず、ハインリヒを呼んである程度の護衛をつけて向かうことにした。
ハインリヒがカレーに到着した。
「すみません。わざわざここまで来てもらって。」
「いや、いいさ。じゃあ、行こうか。」
そういって、二人は護衛と共に馬車に乗ってラテニアまで行った。
ラテニア。そこはラテニア教の総本山がありフリージアの墓が存在する場所だった。
そこの前に教皇座があり、ここで異端審問が行われていた。
「貴様は神の使徒である我々の立場を平民と同列とした。
よって、異端として貴様を死罪に処する。」
広樹は鼻で笑う。
「ばかばかしい。お前らも人間だろ。
なぁ、ランドリアの公爵のボウズ。」
そういって教皇を煽る。
教皇は顔が見えないところにいたが、明らかに怒っていた。
「私は神の使いである。私にそのような口をきいていいのか?」
「さぁ?貴様のような皇帝陛下から逃げた男が神の使いなど馬鹿げている。
神はおっしゃった。すべてのものは平等であると。
大方ダキアが欲しかったんだろうな。それと、聖十字騎士団について教えてもらおうか。
あいつらは何なんだ?お前らのお気に入りの僧兵部隊か?それとも略奪者か?」
そういうと、教皇は反論しようとしたようだが言葉が詰まる。
「神の代理人が人を殺すなど、あってはならない。
全人類を愛せと、神はおっしゃった。
貴様らの教えなど正しくもない。正しい教えは神聖書にしかない。」
教皇は怒り狂って怒鳴った。
「黙れ!貴様のような背教者が神を語るなど、言語道断!」
しかし、広樹はとどめの一撃を刺した。
「背教者?それは宗教の教えに反したもののことか。
では聞こう。神を免罪符として人を殺してはいけないのだったな。
じゃあ、貴様らの聖十字共はなんだ?信仰を利用しているではないか。
このような会議、根本から間違っているといえよう。」
皇帝もそれに賛同する。
「教皇。彼の言う通りでございます。
あなた様の今のやっていることは矛盾に満ちている。
改めるべきかと、思われます。」
しかし、彼は収まらなかった。
「もうよい!貴様らを破門する!」
そういって、二人は会議から追い出された。
カレーに行って広樹は聖職者の出迎えを受けた。
「お疲れさまでした。
あなた様が指摘してくださらなければ教皇はもっと付け上がっていたでしょう。」
そういって聖職者は広樹に感謝を述べた。
広樹は「当然のことをしたまでだ。」と言って、ハインリヒと共に会議を始めた。
「陛下。私は今二つのことを提案いたします。
まず、教皇の影響の排除についてです。
貴国でもボヘミア、プロシア、西ゲルマニアにおいて新教が流行っておりましょう。
彼らを鎮めるために陛下も新教に改宗してみては?」
説得に時間がかかると思われたが、意外にもあっさりと承諾してくれた。
「わかった。それもいいだろう。」
広樹は驚いた。
ただ、破門された後なら納得がいかないこともなかった。
「ありがとうございます。
そして、うちと同盟を結んでほしいのです。
教皇が敵となり、我々は同盟を結びラテニアの坊主を震え上がらせなければなりません。
ガリアが敵として来たならば、我々は彼の国を共同で叩きましょう。
我が軍は動員が終わっていませんが、そのうち15000くらいとなるでしょう。」
ハインリヒが資料を読む。
「人口50万で、15000は多すぎやしないか?
うちですら2000万くらいでようやく15万なのに,,,」
「大丈夫です。うちは小国ながら豊かな地域が多いので税収が多いのですよ。
しかも、いざとなれば国民全員を動員することもできます。
彼らも民兵組織の構成員ですから。」
そういう広樹の目には、必ずガリアを倒すという覚悟が感じられた。
その心意気を感じとったのか、ハインリヒは了承した。
「もちろんだ。一緒にガリアを倒そう。」
こうして、共和国と神聖帝国の間で条約と同盟が結ばれた。
神聖帝国はランドリア、ブルゴニアの割譲で決まり、
共和国はパ・リーヌを含むガリアの北部を割譲することになった。
こうして、両国は対ガリアに向けて一致団結した。




