宰相選出会議
2週間後、広樹はカレーの港の前でおよそ200人の若者の前で演説した。
その場には出迎えに来た民衆が何百人もおり、初めての公衆の面前での演説だった。
「我々はこれよりブリトン島へ行く。
そこで我々の敵を成敗しに行くのである。
初めての実戦となるものもいるだろう。
しかし、恐れずに攻撃すれば必ず勝つことができる。
それでは、総員船に乗り込むように。」
そういうと、広樹たちは数百人の拍手で包まれながら船に乗った。
出発前に広樹は船内の備蓄を確認する。
きちんと航海用の食料とその他作らせた装備品など、全ての物資があった。
広樹は錨を上げるよう命じ、甲板の上にたった。
そして、広樹の合図で帆が掲げられた。
そうして、船が悠々とカレー海峡を進んだ。
この海は比較的平穏な海で、なかなか嵐に遭遇することはなかった。
船の兵士たちも海とかかわって生きてきたものが多く、そのことを熟知していた。
そのため、我々は嵐に恐怖することなくブリトンへたどり着いた。
ブリトン島のドルベーで下船すると、チャールズが直々に出迎えに来てくれた。
「来てくれてありがとう。」
そういって、彼は広樹の手を強く握る。
「さて、君たちカレーの軍の力を発揮してほしい。
またかなりの距離の移動になると思うが、頑張ってくれたまえ。」
そういって、用意があるからと彼は屋敷に戻っていった。
広樹は中継地点としてベッドフォードに行くことにした。
この土地はノーサンプトンへ大きい街道が続いており、また屋敷からもそこまで離れていなかった。
馬車を借りてそれを運搬しながら、広樹はその地へ行くことにした。
順調に進み、途中ロンディニウムで案内人を雇ってからは、さらに順調に行った。
しかし、ルートンという土地を進むときに困ったことが起こった。
その町は今山賊により支配されており、通ることができない。
迂回も検討したが、それは案内人によって止められた。
「どっちに迂回しても川があり、しかもしばらく橋がありません。
湿地も多く、ここを迂回するのは不可能です。」
広樹は質問する。
「気になったのだが、ここら辺に森林はあるか?
そして、川の幅はどのくらいか?」
彼は少し目をつむって言う。
「確か、森はそこら中にありました。
川幅は,,,おそらく30ヤードほどかと。」
広樹は「そうか。」というと軍に呼びかける。
「今からこの町を迂回する。
そのために橋を作らなければならない。
なので、森の木を使って橋を作ろう。
道具は恐らく村があるだろう、そこのものを使わせてもらおう。」
そういって、広樹は進路を少し東へ変えた。
東には森があり、そこには予想通り村があった。
そこで木を切るための斧を借りた。
「では、今から急増の橋を作る。
まずは細めの木を切ってくれ。
それを横並びにして川の方まで続けてくれ。」
そういうと、皆はよくわからないという顔だったが命令に従うことにした。
しばらくたち、ころの列が完成した。
そのころの上に伐った木が通り、橋はすぐにできた。
もう陽は暮れかけていたため、その村で休息をとらせてもらうことにした。
翌日、橋を渡り町を迂回して道に戻った。
道に戻ってそのまま進んでいたところ、何か追っかけてくる集団がいた。
広樹は目を凝らしてよく見てみるととんでもないものが見えた。
そう、山賊である。
しかし、数は少なかった。
なので広樹は早速陣形を組ませ、彼らと戦った。
彼らは一蹴されて、全員が捕虜となった。
「なぜ襲ったのだ?言ってみろ。」
そういって、広樹は山賊の長のような者の首に剣を近づける。
彼の顔はみるみるうちに青ざめていき、泣いて命乞いをした。
広樹はため息をつく。
そして、彼の首を跳ねた。
残りのものの首も広樹がはねた後、兵士に行った。
「このような臆病者はいつか死ぬ。
こういう運命にあるとこを心得ておくように。」
そういって、血を拭き終わった後再度歩き出した。
翌日の昼頃、ベッドフォードにたどり着いた。
広樹は軍隊に略奪をしないように厳命すると、彼らをいったん休ませた。
明後日には伯爵軍が到着する。
決行日は5日後であった。
それまでに広樹は陣地を下見しに行くことにした。
ポイント1は目立った危険な場所もなく、安全だった。
丘もいたって普通の丘で、その真ん中には大きな樹があった。
広樹は安心して町に戻った。
町で軍はとても人気の存在となっていった。
噂によると彼らはいろいろな手伝いをし、決闘騒ぎも収めたそうだ。
広樹は喜ぶ。
きちんと道徳観のある軍隊を持つことができててとても安心したのだ。
そして、満ち足りた気持ちで夕食をとることにした。
夕食は備蓄の持ってきた食料で、固いパンを食べた。
それだけでは足りないだろうと、町の人々が軽いスープを作ってくれた。
広樹は彼らに感謝しながら、パンをスープに浸して食べた。
翌朝、予定より早めに伯爵軍が到着した。
このままでは食料の備蓄が少なくなってしまうと、広樹は早めに攻撃することにした。
伯爵軍の司令官はジェネリアで、広樹は意思疎通が容易であると安心した。
「ジェネリア様。少し早いですが今日の夜には出発しませんか?
このままでは食料は尽きてしまいます。
なので、早めに攻撃することをお勧めします。」
彼女は少し考えて言った。
「確かにその通りだ。
君の言った時間に出発しよう。」
そういって兵士たちにそれを伝えて、今日の夜には出発することにした。
ジェネリアに作戦の概要を伝える。
「,,,なので、ジェネリア様にはノーサンプトンへの攻撃をしていただきたいです。」
「了解した。しかし、ポイント1へ行く部隊は誰が担当するのだ?」
「それはアントンにやってもらいましょう。
彼なら騎馬隊の扱いに長けております。」
そういって、部隊の配置は決まった。
広樹は昼頃、アントンの所へ行き一緒に昼食をとった。
街中のおしゃれなレストランで、二人は会食することにした。
「こうやってゆっくり話すのは初めてですね。
さて、何食べます?」
広樹はメニュー表をじっくり見る。
「では、このウサギのスープにしましょうかね。」
そういう広樹を見て、アントンは笑う。
「ウサギですか、なかなか通ですね。
僕はこのラムのワイン煮込みにします。」
料理が運ばれてくる間、いろいろな話をした。
「この後の戦略はどうなるでしょうか?
私としては西のアルスター島に侵攻して北のセル人を倒し、
それからガリア人を滅ぼすのが良いと思います。」
アントンも賛同する。
「そうですね。
このままガリア人と敵対を続けるよりはそちらの案の方がいいと思います。
そういえば噂で聞きましたが、ホーストン一族とメルシア一門を排除するつもりなようで。
貴族を完全に従属させるつもりですか?」
広樹は首を振る。
「まさか。そんなことはできませんよ。
反対派の粛清を行うだけで、それ以上はしません。」
アントンはクスッと笑う。
「それもそうですね。」
彼がそういったすぐあと、料理が運ばれてきた。
春のウサギのスープはかなり固くあっさりとしている。
しかし、良く煮込まれているためホロホロと崩れるような食感だった。
噛めば噛むほどスープの味が出てきて、とてもおいしかった。
しかもちょうどいい塩辛さであった。
パンはとても甘みがあり、スープの塩辛さを中和してくれた。
広樹は腹を満たした後、直ぐに装備を確認しに行った。
部隊の装備は全て到着時と同じだけあり、広樹は安心した。
日没のころ、広樹は兵士を集めて演説した。
「初めて剣を握るものもいれば、そうでないものもいる。
初めて剣を握るものはそうでないものから学べ。
そうでないものは命を懸けて戦え。
これはブリトン統一のための最初の一歩だ。
では行くぞ。」
そういって、広樹は先頭に立ち出発した。
広樹が陣地に着くころにはもう月が真上にいた。
彼らを休ませて、自身も休むことにした。
翌朝、広樹は丘の上に見張り台を作った。
そうして見張り台が完成してしばらくたった後、ジェネリアの部隊が敵を引き付けてこっちへ来た。
広樹は全軍をネン川に張り付けて、両軍はしばらくにらみ合った。
時々敵が攻撃してきたものの、広樹は彼らを弓で撃退した。
そうしてしばらく小競り合いがあったのち、騎馬隊が側面から攻撃を始めた。
「今だ!全軍突撃!」
それを見て広樹の軍も一斉射撃と突撃を開始。
突然の攻撃に彼らはうろたえ、どんどん後退していった。
広樹は合流した後およそ300の兵をバーミンガムへ向けて、自身は彼らを追撃することにした。
ウィリントンという村の近くで、敵は完全に壊滅した。
広樹はこのままバーミンガムへ向かい、敵の本拠地へ向かった。
そこでは既に敵は降伏したようで、コペントリーという町で敵の部族は降伏した。
ジェネリアがこちらの代表として交渉することになり、広樹も同席した。
「では、我々はあなたの領地を全て没収します。
そして、あなたの一族を処刑いたします。」
そうして、敵の部族は完全に消滅し、広樹はバーミンガムを征服することに成功した。
この戦争により広樹の名声はブリトン中に響くことになった。
こうして広樹は凱旋し、ロンディニウムを熱狂させた。
伯爵のもとに戦果を報告しに行くと、彼は広樹に騎士の称号を授けることにした。
それは、ジェネリアの手によって行われることになった。
「私の騎士ではなく、ジェネリアの為に命を尽くしてくれ。
私はもう死んでもいい年だしな。」
そういう理由だった。
広樹は安定した譲位を彼に約束し、宰相会議を必ず成功させることを決意した。
そのために広樹は初日から暗躍した。
まず、ホーストン家とメルシア一族以外の立候補を圧力によって阻止した。
そうして彼らは初めて演説をした。
「私は全ての人々を団結させて、ブリトンを統一したいと思います。
そのためにブリトン島内の全国家、部族を会議に招待し、統一させたいと思います。」
ホーストンはその考えを明らかにした。
対してクレシアは異なる考え方を話した。
「ブリトン統一は武力によってのみ成し遂げられる。
そのために軍隊を整備し、北の諸国に対し攻撃を行おう。」
そういって武力による統一を提案した。
広樹はこの演説を聞いて鼻で笑った。
(面白い茶番だ。
あと少しで死ぬとも知らず。)
そう考えて、広樹はすぐに退席した。
広樹はメルシアの軍隊がいることを確認すると、そこにいる味方の軍隊に夜になったら宿泊場所付近に移動するように命じた。
そうして準備が整うと、広樹は自軍の精鋭10人ほどと共に候補者の宿泊場所の下見に行った。
彼らは城の二階に泊まることになっており、そこまで侵入が難しい城ではなかった。
そこで、広樹は強行突入をしてホーストンを殺害することにした。
殺害した後は簡単な仕事だ。
クレシアを強制的に議場に連れて行き、そのまま刑を追及する。
そうして候補者が一人もいなくなった後、宰相職の廃止を宣言する。
これで広樹とチャールズの計画は完成だ。
このままいけば必ず成功すると、広樹は確信した。
夜になり、いよいよ作戦が開始された。
広樹は自身含めて3人で侵入をした。
事前に抑えていたこともあり、広樹はすんなりとホーストンの部屋に来れた。
部屋に入って広樹はすぐにホーストンの胸に剣を刺した。
すんなりと死んでくれたため、広樹はわずかな明かりを基に資料を見つけ出す。
ある程度資料が見つかったため、広樹は退散した。
そして、門の前にしばらく待機することにした。
広樹はしばらく今後の戦略を立てる。
このままでは権力が集中してしまうことを広樹は予想していた。
しかし、今チャールズが譲位したとして次はジェネリアだ。
正直ジェネリアを操るのは簡単だ。
なので、とりあえずの心配はないと判断して、しばらく寝ることにした。
早朝、クレシアが出てきたところを広樹は確保し、そのまま会場に連れ出した。
広樹はそのまま説明する。
「彼は私兵隊を使い対立候補を殺しました。
証拠は、ここにあります。」
そういって、広樹が切り抜き、いかにも彼が計画したように見せた文書を提示した。
聴衆はどよめき、会場は騒然となった。
「いいがかりだ!」
そういってクレシアは抵抗する。
しかし、広樹は脇目も振らずチャールズやその他有力者に資料を見せた。
彼らはしばらくひそひそと話しあっていた。
最終的に出た彼らの結論は、死刑だった。
こうして広樹は外でクレシアを殺し、彼の私兵部隊を全て処刑した。
最後の締めに、チャールズが宣言した。
「ここまで不祥事が出たらもうこの職を廃止するしかない。
宰相職は、今日を持って廃止します。」
そういって、彼は退場した。
そこにいる人々も全員解散した。
こうして、宰相職は廃止になり、広樹と伯爵の目的は果たされた。
広樹は勝利を祝う暇もなく、直ぐにカレーに戻った。
次の会議が5日後に始まるからである。
この会議で広樹は工業政策の成功を共和党や自由党に見せつけ、
政府への支持を厚くしようとした。
そして、新しい憲法の草案も発表することにした。
広樹はまず、それの文書を書くことにした。
そうしてしばらく執務室に籠っていると、和也が部屋に入ってきた。
「どうした。要件は?」
そういって広樹はペンをとめた。
和也は大量にある文書を机においてフッと息を吐いてから言う。
「これが一カ月の成果だ。」
そういって、広樹は文書を目に通した。
どうやら計画は大成功したらしく、広樹は火薬と電気を手に入れることに成功した。
また、入国者も500人に増えているとも書いてあった。
「そうか、成功したんだな。
わかった。会議の資料として使わせてもらう。ありがとう。」
そういって広樹は感謝を伝えた後、和也は出て行った。
会議当日、広樹は最初に憲法の改正案を発表した。
「では、新たな憲法を最初から読み上げます。
前文
我らカレー(これよりカレー区と称す)は、民衆のための政治を行い、
世界の永久の発展と平和のため、ここに存続する。
第1条の1 カレー区の政府
政府は、ブリトンから派遣された役人を総督とし、
総督を中心とする団体を政府とする。
2 政府の役割
政府はカレー区の政治を行う
政治は総督が司り、議員は政策に対し言論する。
また過半数が政策に反対した場合、総督はその政策を取りやめなければならない。
政府は、議会に対し解散を命令できる。
投票を行った10日後まで、その議会は存続する。
10日後には新しい議会に交代する。
また、判決官長を指名することができ、
その他判決官を伯爵の名で任命することができる。
3 専門省庁について
専門省庁は、必要に応じて憲法で成立する。
省庁は以下である。
教育省
科学省
軍事省
財政省
国土省
衛生省
保安庁
尚、専門省庁の長は総督が選出し、議会の過半数の賛成によって辞めさせられる。
第2条 議会
人民議会の設置を行う。
人民議会は、カレー区全体を選挙区として35人からなる。
この議会はカレー区内の法律案(以下規則)、予算案について話し合う。
過半数の賛成によってこの案は可決する。
また、政府に対し政府の解散要求を行うことができる。
そして、法を犯した判決官の判決を行うことができる。
第3条 判決所
判決所は規則、憲法に基づき全ての争いを解決する。
判決所は50人の判決官によってなりたち、彼らは高等教育を受けたもののみとする。
判決会は7人で構成される。
判決所では政府、議会に対し憲法違反忠告を行うことができ、
議会、政府はそれに従わなければならない。
ただ、この2つはそれに対し再議を求めることができる。
2回目の再議は25人の会合とし、これと一回目の判決が異なった場合、
3回目の会合を行う。
3回目は全ての判決官が参加し、この決定は覆せない。
また、判決官は人民の争いの解決も担当し、
これは3回とも7人の判決官が担当する。
第4条 教育
教育は国家繁栄の最大の近道であり、国家が取り組まなければならない事業である。
そのため、国家は村ごとに学校を作り基礎教育を行う。
基礎教育の内容は、毎年政府の直属の教育省が議会に提案し、行う。
また、基礎教育は7歳になる年の元旦から11歳になる年の大晦日までの4年間とし、必修科目として
英語、計算法、社会科、基礎軍事教練、フランス語基礎と2教科を行う。
中等教育所は、カレー区内に3つ設置し、
高等教育所はカレー市内に1つ設置する。
第5条 軍事
軍事力の増大は危険だが、常日頃から訓練された軍を持ち、国の安全を守る必要がある。
軍隊は軍事省の直轄とし、規模は常に変動する。
陸軍は平時は200人、非常事態時は2000人とする。
しかし、本国の軍隊は含まれず、現地人の軍隊の規模である。
非常事態については後に記載する。
第6条 権利
全ての人民は、人として尊重される。
人々は平等であり、家柄、性、思想によって差別されない。
また、すべての人々は教育を受ける権利を持ち、義務を負う。
人々は税金を納めなければならず、この税は法律で定めることとする。
人々は判決所の決定なしに拘束されず、監禁されない。
人々は財産を勝手に奪われることはなく、また表現を規制されることはない。
しかし、この権利を悪用してはならず、常に公共の福祉の為にこれを行使する。
第7条 憲法
この憲法はこの国の最高法であり、守らなくてはならない。
しかし、議会の過半数の賛成を得てから、人民の3/4の賛成でこの法は変更される。
他の法と矛盾がないかは、判決所が判断する。
第8条 地方自治
各村、市は各々が独立した組織である。
この組織は法の範囲内で、各々が議会を制定し、政府を設置する。
ただ、区職(省庁の職員、区議員、政府議会構成員)のものは自治議会、自治政府に参加することはできない。
また、国家から離脱することも許されない。
第9条 本国との関係性
カレーは本国であるエクセン伯の臣下である。
しかし、一定の自治権は侵すことができない。
その自治権を定義するのは憲法であり、これは尊重されるべき決まりである。
第10条 国家の存亡が危ぶまれる非常事態における国家の対応
戦争が起こった場合、議会の過半数の賛成で非常事態対応に移行する。
その中にある戦時状態では憲法を停止し、非常事態法のみが効力を持つ。
非常事態法では、全ての権力を政府に集中させることができる。
第11条 犯罪者の抑留について
犯罪者の抑留において、判決所が出す許可状が必須となる。
保安庁の依頼によって判決所は提出することになる。
第12条 会期について
会期は基本的に1か月に1回とする。
しかし、日にちは2日以上10日以内とする。
第13条 政府の責務
政府は常に人民の為に政策を行い、
憲法と規則と判決所の命令以外に政策を縛られてはいけない。
第14条 貨幣について
政府は銅の貨幣を発行するが、
政府が認めた銅の貨幣以外を公的な取引に使ってはいけない。
また、金銀の類はこれより一切公的な取引に使えず、
政府の貨幣以外を公的な取引に使ってはいけない。
尚、公的な取引というのは銀行や政府、販売業者との売買のことであり
私的な取引についてはこの限りでない。」
そういうと議会で第10条に対する議論が活発となった。
今回から議長は全く外部の人間が担当し、広樹は以前よりゆっくりすることができた。
「非常事態においても憲法は尊重されるべきです。
これは民衆の意見を無視した明らかな独裁制だと思います。」
広樹が発言する。
「非常事態では強力な政府が必要だと思います。
逆に強力な政府がなくなればより急進的な勢力が政権を奪ってしまうかもしれません。
特に戦争の場合、戦争に反対する勢力が力を持てば、カレーは滅びてしまう。
そうなると我々が築き上げてきた自由が存在しなくなります。
だから、多少強引でも仕方ないと考えております。」
その共和党の議員が発言する。
「それは戦争を行うことがあるという発言でよろしいですか?!」
広樹がまた発言する。
「そうではありません。
皆さまは賢いので、仕掛けられた戦争に対し弱腰になることはないでしょう。
しかし、そうでないものもいます。
あなたは今戦争を仕掛けることに反対するものを戦争に反対する勢力と誤認されたかもしれませんが、
それは誤りです。
私が意味したのは防衛戦争に反対する勢力,,,すなわち売国奴のことです。
いえ、こちらの表記不足でしょうね。
では、防衛戦争と改めますか。」
他の議員が発言する。
「わかりました。
しかし、ここの条文には防衛戦争時のみ非常事態宣言が行われると明言してください。」
「そうですね。ではそうしましょうか。」
そういって、第10条は改訂された。
広樹は次に経済政策の成功をアピールした。
「経済政策は目に見えて成功しています。
失業者の数は一気に減少し、彼らが働いてできた利益を売ることで経済を復活させました。
また、カレーの潤沢な資源を基に造船所などをさらに拡張し、軍需品を大量に生産しました。
来期は資金を基に更に工場を作り、家を安く建てて、移民の受け入れを奨励しようと思います。」
広樹は今のところ成功していたため、どの議員も口出ししなかった。
経済政策においては広樹は敵なしだった。
そうしてその日の会議は終わり、和也は広樹を労った。
「お疲れ。昨日まで外出してたのに大変だな。
久しぶりに一緒に飯でも食うか。」
「そうだな。では、食堂へ行くとしよう。」
そういって、二人は食堂へ歩き出した。
広樹が食堂の扉を開けるとき、エリスと出会った。
「お疲れ様、レーヌ!
こうやって一緒に話すのも久しぶりだね。」
そういって彼女は恥じらいながら言った。
「そうだな。まぁ、久しぶりに一緒に飯でも食べよう。」
3人は食堂に入り、しばらく料理が来るまで話した。
「そういえば、ここに来る前の広樹ってどんな人だったの?」
エリスはそう和也に聞いた。
和也はにやにやしながら話し出した。
「こいつはなぁ。昔っから頭が良くてな。
めっちゃいい学校に行ってそこでもトップだったんだぜ。
でもこいつ気難しいからなぁ。あんま友達がいなかったんだよ。」
「恥ずかしいからやめてくれ。」
広樹がそう制止するも彼は聞かなかった。
「あの頃のこいつはめっちゃ可愛くてなぁ。
13歳になってもなんか背伸びしてる子供みたいだったなぁ。」
「おまえも子供だったろ,,,
そんなことだ。若干誇張は入ってるがな。」
そういった話をしていると、前菜が運ばれてきた。
「レタスのソテーか。
なかなかにおいしそうだ。」
広樹は料理に目をやった。
卵とバターと一緒に炒めた料理で、ここら辺の郷土料理である。
広樹はその優しい味わいがとても好きだった。
一口食べると、バターの甘みと塩の味がまず主張してくる。
そして、キャベツと卵の食感を楽しむのだ。
前菜は食べるものの腹を食事を受け入れるようにするためのものだ。
そういって面で優しい味わいのこのソテーは、前菜としては完ぺきだった。
ソテーを堪能すると、カレーで獲れたタラを使ったフライが出てきた。
フライには野菜が刻まれて酢が加えられたタルタルソースのようなものがのっており、
脂っこいフライとよく合った。
通常、タラは古くなると臭みを出すものだが、それが全くなかった。
恐らく、とても新鮮なものだったのだろう。
一口噛むとタラの風味が口に広がり、そしてソースが後から来た。
舌の中でさっぱりとさせてから噛み始める。
フライのカリっとした食感とソースのシャキシャキとした食感がなんともたまらない。
広樹がフライを味わっている間に、スープとパンが運ばれてきた。
スープには牛肉をコンソメで煮込んだものが出てきて、パンとよく合った。
広樹は食事を堪能して、部屋に戻った。
部屋に戻ったところ、広樹は少し暇に感じたので和也を誘って少し遊びに出かけることにした。
和也は了承し、二人でウェストヨーズへ出かけた。
「綺麗な街だな。
さて、何する?酒場でも行くか?」
広樹は頷く。
「そうだな。金はあるから、行くか。
今日は飲むぞ。」
そういって、二人は酒場に入った。
「なんだお前!」
酒場ではどうやら喧嘩騒ぎになっているらしい。
広樹はめんどくさいなぁと思い、さっさと席に座って酒を飲んだ。
二人はまず一杯と、ビールを飲んだ。
そして、広樹は鴨の塩焼きを注文した。
後ろで聞こえる喧嘩の音を聞きながら、広樹は鴨をかじった。
「そうだ、隣の神聖帝国からの手紙が来ていたぞ。
どうやら皇帝からブランデ・ルブルクに来てほしいと書いてた。」
広樹はビールのジョッキを置く。
「ブランデ・ルブルクか。
なかなか遠いが、何かあったのか。」
広樹は少し疑う。
「多分、十字軍の遠征だろうな。
同じ宗派の国同士、ノラミア帝国へ屈辱を晴らそうとしているのだろう。
そういえば、本国からもつれて来いって言ってたな。
どうする?伯爵に言うか?」
広樹は相槌を打つ。
「そうだな。伯爵にお願いしよう。
十字軍なら俺の腕の見せ所だ。
ノラミア教徒に一度一泡吹かせたいしな。
それに,,,」
「それに?」
和也が広樹の方を見上げる。
「教会に信仰心に篤い人間だと思わせられるしな。」
和也が流石だ、というように肩を叩く。
そうして、二人は夜まで飲み明かした。
城に帰ると、エリスが仁王立ちをしていた。
二人とも夜風にあたってある程度酔いがさめていたため、少し意識があった。
「こんな遅くまで何してたの?!
夜は危険なの!」
そういって広樹たちに説教をする。
「なんでそんな楽しそうな,,,
じゃなくて!危険なことするの?!怖かったんだからね!」
二人は正座をしてずっとうつむいていた。
こうして、二人は長々と説教された。
はい、十字軍編ですよ次から。
早いですね。
ようやく広樹が暴れられるっぽいです。
こういった時代小説みたいな形になると思いますが、どうぞお許しくだしあ。
それでは、また次回。じゃあねっ。




