謎
ジェームズの家に招き入れられた広樹は、自分の部屋を紹介されたあと、街の図書館に行って
自分の身に何が起こったのか調べることにした。
幸い、今日はジェームズの店は定休日であったため、時間を気にせず調べることができた。
「さて…いろんな本があるが、こういうのは民族の伝説の本や神話みたいなものを調べたほうがいいのかな?」
そう考えて、広樹は足早に神話があるところに行った。
そこには、必死に本を取ろうとする高校生くらいの長くて赤髪の少女がいた。広樹は、背を伸ばして彼女が欲しているであろう本を取った。
「ありがとう!」
「どういたしまして。これはなんという本なんですか?」
「これ?これはね、この島の伝説が乗っている本なんだよ。」少女は笑顔で言った。。
広樹は少し考えながら、「伝説…ですか。」と言った。
広樹は前の世界に未練がある。大切な友人や彼女を残してこちらの世界に来てしまったことをとても悔やんでいた。だから必死にもとの世界に帰る方法を探していたのだ。
「すみません、その本、少し見せていただけないでしょうか?」と少女に聞いた。
少女は少し不服そうな顔をしたが、「仕方ないなー。」と言った後、本を広樹に渡した。
「その変わり、キミの名前を聞いていいかな?」
少女の唐突な問いかけに、少し驚いたものの、広樹は冷静さを保って考えた。
(さっきジェームズさんには普通に本名を話してしまったが、珍しい名前という理由で何をされるかわからない。他にも私が別世界から来たというのも隠したほうがいいな。)そう考えて不安に思った広樹は、広樹の好物のマドレーヌからとって
「私はレーヌといいます。」と言った。
「レーヌ…ね。」少女を騙してしまった罪悪感はあったものの、
それを顔に出さず「あなたの名前は?」と聞いた。
「私はエリス。エリス・ドールよ。」エリスは少し目をそらす。
広樹は少し不思議に思いつつ、「エリスさんですか。よろしくお願いします。」と返した。
「エリスでいいよ。」と少し笑いながら言う。
広樹は「わかりました。」と言い、椅子に座ってその本を読むことにした。
(この本に私の様な前例が書かれているなら、帰るための手掛かりがあるかもしれない。)
そう考えて調べてみたものの、そのような記述は一切なく半ば諦めていたとき、エリスが話しかけてきた。
「どうしたの?とても暗い顔をしていたけど…」
「少し気になった話があったのですよ。私は昔の話が好きで、おばあさまに教えられた話について詳しく調べていたのです。」(また嘘をついてしまった。)そんな罪悪感を感じている間もなく、エリスが質問してきた。
「なるほどねー…なんで昔の話が好きなの?」
(まずい。)そう思った広樹は咄嗟に思いついた言い訳を話した。
「私は昔の話には魅力があると思っています。」
「そうだよね!魅力があるよね!」と乗り出して同調してきたエリスを見て、広樹は安心した。
広樹は話題をそらすために、「ちなみに、なぜエリスは伝記に興味を持ったのですか?」と聞いた。
「んー…。」と考えるエリス。
(よかった。たぶんエリスは多分好奇心が旺盛なんだろう。質問を投げかければ私に質問されることはないだろう。)考えているうちに、エリスは答えを思いついたようだ。
「なんか好きになってた!」
(まぁ、好きになった理由なんて思い出せないものだ。)と思いつつ、自分もなぜこんなにいろいろなものに興味を持ったのかと考えた。
「そうですか、おや、そろそろ夕方です。私は家に帰らなければ。」といい、立ち上がった。
「じゃあね、レーヌ!」そう言って、エリスは手を振ってきた。
広樹はほほえみながら、手を振り返した。
(そういえば、同い年くらいの人がここで話しかけてくれたのは初めてだな。)
と、広樹は少し笑顔で家に帰った。
家に帰った後、夕食の時間に夫妻と様々なことを話した。
「ということで、私はこの国ではレーヌと名乗ることにしました。よろしくお願いします。」
「そうかい。じゃあこれからよろしく、レーヌ。」
「レーヌ君ね。よろしく。」
広樹は思い出したように、「そういえば、エリスという少女をご存知ですか?」と言った。
「エリス…知らないなぁ。苗字はわかるかい?」
「ドール、と言ってましたね。夕方まで図書館にいたので、この街だとは思うのですが…」
「んー…わからないなぁ。メリー、聞いたことあるかい?」
メリーは深く考えたあと、「ないわねー…。」と言った。
それを聞いて、ジェームスは少し暗い顔をした。
(どういうことだ?この街の生まれではないのか?それとも偽名なのか?)いろいろ考えながら、広樹は夕食を終え、風呂に入ることにした。
風呂に入りながら、広樹は本当に元の世界に変えれるのか不安に思い、少し泣いてしまった。
(なんで…なんで私はこの世界に来てしまったんだ?今の世界はいい世界だが…ちくしょう。)
そう思いながら風呂から出て、部屋に入った後、倒れ込むように寝てしまった。