確執
「では経済計画を立てるぞ。
今回の計画で重視するのは軍需品ではなくあくまで民需品だ。
大量の製品を作って輸出し、他国の経済を我が国に隷属させる。
更に彼らの経済を完全に破壊し、共和国による新たな体制を作り上げる。
その時に過去の王族に立憲王政…いや。
国王政治不介入を誓わせ、完全に神聖帝国を解体する。
名前は…ゲルマニア共和国でいいか。」
そう広樹は怪しく笑う。
野望に満ち溢れた彼の目は、とても邪悪なものであった。
如何なる偉大な人間でも自分の考えに気づかない。
学者であろうが、神聖帝国だろうが、そして和也だろうが。
広樹はそんな確信があり、自信があった。
「ちょっと待ってよ。何でそこまでするの!?
どうせまた脅して言うこと聞かせるつもりなんでしょ!?」
そうエリスが口を挟む。
「黙れ。」
「………。」
「敗者はただ、勝者に属するのみ。
私は13年間。戦場でよくこのことを知った。
あの破壊される街、殺される子供をもう見たくないんだ。」
「だから出来る限り穏健な形で統合したい。この世代で民族間の恨みを全て消し去る。
それは教育や民主主義によってなるものだと私は信じているのだ。」
確かに今の閣僚に広樹の思想に賛同する者はいない。
長い戦いの中、共和国を絶対的な覇者とした広樹はもう戦いを望んでいなかった。
広樹は戦いや政治で1つ学んだことがあった。人々の幸せについてである。
人々の望みは豊かになることである。
それは人間の欲望としては当たり前のことであるが、
中には倫理観の外れた欲望を持っている者もいる。
欲望は多少倫理の外ものであるが、
人を殺すなどあってはいけないような欲望もあるのだ。
だから叶えられる限り叶えるべきであると広樹は考えていた。
そうすれば人々は1つになり、共和国を夢と語り継いでいく。
世界が仮に戦火に見舞われようと、共和国は何時までも人々の夢となる。
「ならば我々勝者が恵みを与え、
従属する敗北者を我々の同胞として迎え入れるのだ!」
広樹は天を仰ぎ、狂った笑みを浮かべて言う。
和也は広樹のことを睨みつける。
この男は本気で世界統一を目論んでいるのか、と。
冬が来たかのように冷たい風が会議室の中を冷やす。
一枚の枯葉が室内に入り、広樹はそれを足で踏みつけ、
ぐりぐりと床に押し付けた。
「はぁ…いくら何でも不可能だろ。
大体共和国のこれ以上の拡大政策は危険だ。
お前はスキタイ帝国とかの例を知らんのか…。」
和也がだるそうに立ち上がりながら言う。
「スキタイ帝国とは違う。
私は共和国の分権化を目指しているし、民主主義なら統一が可能だと信じている。」
「じゃあ人口の多数を誇るガリア人に、
多民族が押さえつけられる可能性も考えたか?
民族問題ってのはお前が思うより簡単じゃないんだ。」
「民族問題を解決した国家もあったろう!
あの国だって多数の民族がいたが、
夢の実現に向けて全ての国民が団結していたじゃないか!
共和国は多民族国家である!誰かが迫害されることなどありえないと私は思っている!」
「確かに今は聞かねーけどよ!!!!!!!!」
「ゲルマニア人やラテニア人が二等国民のように扱われる可能性だってある。
よくよく考えるんだな。」
和也は広樹の手を握り、頭を下げて会議室を走って出て行った。




