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銅像

広樹は赤い破片を払うと、街の中心へと歩き出した。

どうやら復興の象徴として大型の銅像が中央広場に建てられるそうだ。

広樹はそれがどうしても気になって見物することにする。


街中の服屋でシルクハットを買い、広樹はそれを身に着けて出てくる。

ハットを買った理由はただただ変装がしたかったからである。

街中に護衛もなしに国家元首が出るのはまずいと親衛隊から忠告され、

念のためとこのハットを買っていた。


「では除幕式を行います。

この銅像は古代アテナイの平和の女神、エイレーネーの像でございます。

共和国による民主主義と平和に幸あれ!」

そう洒落た服の役人が言うと、幕が下りて中央に大きな銅像が現れた。


彼女は華奢で美しく、右手は剣を持ち上げていた。

左手を腰に当てていて、神々しさを放っている。

「ここに共和国の永遠なる安寧を祈って、国歌を斉唱しましょう!」

民衆から歓声が上がり、国歌が街の中心に響いた。


朝焼けを背景に銅像が一枚の絵に描かれ、

国歌が奏でられている空間で広樹は絵を見つめている。

絵にいる役人が、きょろきょろと観衆を見渡す。

「さて皆様。今日の正午、ここで総督が演説されます。

その時にまたここで会いましょう!」

絵が崩れ落ち、広樹の顔が青ざめていく。

完全に忘れていたのだ。

確かに秘書に言われたような気もするが、全く原稿など考えていなかった。

だから今すぐ家に帰って、原稿を仕上げようと足を勢いよく踏み出した。


足を踏み出した瞬間、広樹の目には石畳が映る。

そして大きな音を立てて転んだ。

しかも、広場の人がいないど真ん中に。


「…総督!いらっしゃったのですか!」

広樹は当然のごとく、役人に見つかってしまった。

頭が真っ白になり、広樹はゆっくりと立ち上がる。

「折角ですから演説を行ってもらいましょう。

では、どうぞ。」


演台に立った瞬間、広樹は頭がふらっとして転びかける。

何とか持ち直すと広樹はそのまま話し出した。

「共和国の根本…建国の精神は2つ。

未来に続く恒久の平和と、永遠の民主主義である。

2つで共和国は成り立っていると言っても過言でない。


この女神だけでなく、世界の神々が共和国に微笑んでいる。

そうでなければこの数年の拡大をどう説明できようか。

神々だけでない。共和国が持つ偉大な思想だって拡大の理由だ。

共和国は支配を望まない。しかし従属も望まない。

我らの理想はただ一つ、一つの国家で世界を統合することだ。」


何とか数分の演説を即興で創り上げ、広樹は大歓声と拍手をもらう。

広樹は演台から下りると、歩いて振り返らずに宮殿に帰っていった。


「ただいま…ったく、中々恥ずかしいことを。

取り敢えずあのバカな役人は更迭だ。」

広樹は靴を脱ぎながら食堂に入る。

食堂内では既にルイとジェネリアが食事をとっていた。

「ご主人様。お帰りなさいませ。お食事の準備をいたします。」

「あぁ。ありがとう。」


広樹はあまり人に何かをやってもらうことが好きではなく、

出迎えも本来使用人の仕事の1つではあったが広樹自身がそれを拒否していた。

何となく気恥ずかしいし、

そこまで自分を偉い人間であると思っていないからである。

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