表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/266

ブリトン共和国

「では、話し合いましょう。

私があなたを応援するのにお願いしたいことは一つ。

民衆のために議会を作ってほしいということです。」

広樹が言う。

民衆の意見を取り入れ、うまいようにプロパガンダを行う。

そうして、ホーストンの体制を崩壊させる。

これが広樹の目標だった。

しかし、ホーストンだって負けてはいられない。

「そうですか。

しかし、無知な民衆に政治を任せてもよいのでしょうか?」

「というと?」

広樹は彼を睨んだ。

実は、広樹もその言葉が来ることは予想していた。

この時代背景からして、民衆の権力はかなり低い。

流石にこうくるか、と広樹は思った。

しかし、広樹としても引くわけにはいかない。

ホーストンは言った。

「あなたの考え方は尊重しますが、現実的には不可能だと思っております。

彼らは教育を受けていない。簡単に流されてしまうでしょう。」

広樹が机に手をおいて言った。

「確かに、それはそうです。

しかし、あなたは民衆が自分の利益すら考えられないとお思いで?

そう思っているなら、それは間違いです。」

ホーストンの眉が一瞬動いた。

広樹はそれを見て、何か嫌な予感を感じた。

(普通、自身が協力してもらう相手にこのような態度をとるか?

もし私の発言に何かあったとしても、協力相手だぞ。よほど気が小さいのかな?

取り敢えず、こいつはかなり危険だ。

宰相になってできること,,,影響力の増大か。

ただ、今ですら伯爵の側近だ。それをして何になる,,,?)

「まぁ、あなたの危惧も理解できます。

しかし、ここは私に乗っておくべきです。

仮に受け入れたなら、これを理由に民衆に宣伝できます。

貴族支持も重要ですが、民衆からの支持も重要ですよ。」

広樹は念を押した。

ホーストンの表情が一気に明るくなる。

「確かに、そうですね。了解しました。

それで、今後の宣伝はどうします?」

広樹は、この男に不信感を持った。

(自分の利益しか追及していないな。こいつ、叩けば埃が出そうだな。

明日から少し調査してみるか。)

「そうですね。とりあえず、先ほど言った戦略にいたしましょう。

具体的な内容はまた今度。この後伯爵とお話しなければならないので。」

「了解しました。では。」

そういって、ホーストンは部屋を出て行った。


伯爵の部屋に行く前に、広樹は少しドアの前に立って考え込んでいた。

(宰相になる人間には、ろくな奴がいない。

そう思っていいだろう。

しかし、あいつの目的は分からない。

貴族権力の増長なら、他の一門と手を組めばよい。

それに気づかぬほど愚かな奴には見えないが,,,

まさか、かのルーテル一門と同じことをしようとしているのか?

ならば貴族と協力しない理由も説明がつくし、宰相になろうとしているのもわかる。

とにかく、情報収集がしたい。誰か、適任者はいるか?)

そう考え込んでいるうちに、メルがやってきた。

「あら、領民から追い出されてきたの?」

相変わらず口が達者な女だ、と思う。

しかし、ここは協力してもらおうと、広樹は考えた。

「違う。君と取引がしたい。

ホーストンが君のご主人様たちに危害を及ぼすかもしれないと思ってね。

まぁ聞いてくれよ。」

メルは広樹の方を向く。

いつになく真剣な顔だった。

「是非、聞かせてもらうわ。」

広樹は心の中で笑う。

「そうだな。ホーストンという男、君たちが思っているより危険だ。

かのルーテル一門と変わらないと思っている。

あいつは宰相になることにしか興味はない。

でも、貴族の権力、おっと。お前は貴族の出だったな。

それを増やすだけならメルシア一門に協力すればいい。

それをしないってことは、あいつが王にでもなりたいんじゃないかと思っているんだ。」

メルは、広樹をキッと睨む。

広樹は少したじろいだ。

「ご主人様の目を疑っているの?

安心しなさい。あんな男にあの方は負けないわ。」

広樹は首を振る。

「そうだといいのだが、そうもいかないんだ。

君に依頼がある。

あの男の素性を調べるのを手伝ってほしい。

もちろん、ただでとは言わない。」

メルは広樹を小馬鹿にしたように笑う。

「そう。あなたの探偵ごっこに付き合っている暇はないのよ。」

そういって、メルは行ってしまった。

広樹が呆然と立ち尽くしているところに、チャールズがやってきた。

「やぁ、レーヌ君。君に頼みがあるんだ。」


広樹はチャールズの部屋に案内され、とある重大なことを話された。

「君に、ホーストンを殺すことを命じる。

君の目的は分かっている。民衆の議会を設立することだろう?

協力しよう。ただ、私にも協力してほしい。

それは、全貴族の排除だ。」

広樹は動揺した。

まさか、伯爵に広樹の考えていることがわかるなど思いもしなかったためである。

広樹の額に汗が流れる。

「,,,そうですか。

わかりました、受けましょう。

しかし、宰相が連続で暗殺されたとなると流石に怪しまれます。

なので、今殺します。

今殺せば敵対しているメルシア一門も簡単に滅ぼせるのではないでしょうか。」

チャールズは悪魔のように笑う。

「君はどうして、ここまで暗殺が好きなのかな?」

広樹が不敵な笑みを浮かべて言う。

「それは、いつか分かりますよ。

暗殺の日は、一番効果的なのは会議の当日です。

シナリオとしては私が殺して、メルシア一門の奴にそれを擦り付けます。

そこで、伯爵にはメルシア一門の奴と二人きりになる時間をとってもらいたいです。

私が入ってくるので、そのタイミングで彼を捕縛し、血をつけます。

そうしてそいつを会議に出し、殺害の容疑をかぶせ、メルシア一門が宰相になれないようにするのです。

そしたら、後はホーストン一族とメルシア一門の対立を操り、お互いを崩壊させます。

そうして貴族を滅ぼし、ブリトンを統一します。」

チャールズは顔をしかめて言う。

「しかし、メルシア一門がどこかとつながっている可能性も否定できないぞ。

ガリアかセル人か知らないが、そうなったらどうする?」

広樹はフッと笑う。

伯爵の心配も理解できる。

しかし、いくらどんな国と繋がっていても勝算はあった。

「大丈夫です。大事には及びません。」

チャールズはグラスをおいて言う。

「そうだ、君に私の目的を話していなかったな。

私は、ジェネリアに安定した座についてほしいんだ。

そのためには、君の協力が欠かせないんだ。」

広樹が一瞬考え込む。

(安定した座、か。

そうなると俺も不穏分子になるだろうな。

最終的に使いつぶされて殺されるってのは避けたい。)

「そうですか。お任せください。

あなた様に取り立てられた御恩、お返しいたします。」

そういって、広樹は部屋を出て行った。

そして、広樹は一旦カレーに帰ることにした。

ジェネリアにそのことを告げる。

するとジェネリアは広樹に口添えをした。

「そうだ、アントンがホーストン一族について調べてるみたいよ。

今のところ聞いている情報は特にないけれど、帰る前に行ってきたら?」

「ありがとうございます。」

そういって彼女に感謝を伝え、広樹は去っていった。


アントンの屋敷は噂には聞いていたが、とても大きかった。

見張りの兵士に、レーヌが来たとアントンに伝えてくれという。

どうやら見張りの兵士もレーヌという男を知っていたようで、すんなりと入れてもらえた。

アントンの部屋に着いた。

彼は笑顔で広樹を迎えてくれたが、顔には疲れの色が見える。

広樹は彼に尋ねた。

「お疲れ様です。

わざわざ私の為にここまでしてくださり、誠に感激です。

では、集まった情報を教えていただけますか?」

そういうと、アントンは肩を回しながら言う。

「はい。まず、ホーストン家の歴史から。

彼の一族は概ねラテニア帝国にまでさかのぼることができます。

ラテニア帝国の皇帝の末裔で、エクセン伯の血筋より長いといえるでしょう。

また、彼らは伝統的にガリア人とのつながりが強いです。

これは彼らの領地の住民構成からもわかるでしょう。

また、ガリアと帝国の境界付近のブルゴニア地域の支配者です。

そして、彼の家の家訓にはラテニア帝国の再興を求めるものがあります。」

広樹は驚愕する。

「ラテニア帝国の再興?

そうなると、いずれ神聖帝国とぶつかると?」

アントンは頷く。

「そうなりますね。

西ラテニア帝国の支配領域に皇帝は一人という原則が壊れますからね。

そうなると、おのずと友好関係にあるガリア王国と共に神聖帝国と激突するでしょう。

しかし、これは有利に働くかもしれません。」

広樹ははっとした。

そう。広樹は神聖帝国と友好関係にある。

その場合、広樹はこれを大義名分として神聖帝国と共にホーストン家を排除することができる。

そして、神聖帝国とブルゴニアを分割する。

そうすれば広樹はブルゴニア北部のシャンパーニュ地方を割譲し、

今よりも経済的に強くなれるだろう。

しかし、これを行ってしまうと神聖帝国の影響力が増してしまう。

広樹は悩んだ。

「そういえば、追加でガリアの陸軍の詳細を把握できました。

歩兵が50000、騎兵が5000とのことです。

また、全土に散らばるように要塞があり、パ・リーヌには堅牢な要塞があります。

海軍は概ね大型船20隻、小型船が300隻ほどかと。」

広樹はカレーの軍事力を思い出す。

カレーは陸軍2000、海軍は大型船10隻、小型船100隻くらいである。

神聖帝国は陸軍10万、しかし予備兵力を合わせると15万人ほどといわれている。

彼の国はほぼ完全と言える徴兵システムを兼ね備えている。

海軍は大型船250隻と、明らかな差があった。

また、小型船の数は1000を超えるともいわれており、大海軍を有している。

ブリトン軍は陸軍20000、大型船30隻、小型船400隻と

海軍はガリアよりかは強いが、帝国には明らかに劣っていた。

広樹はともかく陸軍を整備するべきだと考えている。

しかし、予算、人口。全てにおいて不可能だった。

広樹はこのままではまずい、とアントンの報告を聞きながら感じた。

「ありがとうございました。

また、何かあったら私に使いを送ってくださればいつでも応じますので。」

アントンが立ち上がる。

「いえいえ、統治、頑張ってくださいね。」

そういって、彼は広樹を港まで見送った。


船に乗り、広樹はいろいろなことを考える。

ガリアの陸軍を抑える手立ては、現在の広樹にはない。

しいて言うならばブリトン島に籠るくらいだろう。

そうなると広樹はカレーを失わなければならない。

あの美しい、宝石のような地を失いたくはなかった。

カレーの明かりがぼんやりと見えてくる。

広樹は肩を落とした。


カレーの城に帰ると、既に陽は昇っていた。

広樹は神聖帝国の城塞に目をやった。

美しい。そして荘厳だった。

広樹が窓から眺めていると、和也が起きてきた。

「お、広樹。おかえり。

そうだ、今の町の状況を報告する。

かなりの人数の議員立候補者が集まっている。

そして、経済政策を行い始めた。

まぁ今のところ効果はないが、な。

憲法にあるすべての省も作っておいた。

軍事はお前がやりたがると思って、手を付けてないぞ。」

広樹は微笑む。

「そうか、ありがとう。

俺はまた後で軍事省に行ってくる。」

そういって、広樹はしばらく自室に待機することにした。


しばらく時がたち、広樹は軍事省に行くことにした。

そこでは既に何人かのブリトン人将軍による会議が行われていた。

彼らは広樹が入って来るや否や、次々に文句を言った。

「なぜ、ガリア人を徴兵するのですか?

彼らは伯爵やあなたを裏切るかもしれないのですよ?」

と、その一人が言った。他の将軍も賛同する。

しかし、広樹は彼らをなだめた。

「落ち着け。俺としては彼らも利用できると考えている。

君たち、憲法は見たかい?」

「えぇ、見ました。」

彼らのうちの一人が言う。

広樹は微笑み、外を見た。

「この空と海を見よ。

この世界には、人種によって違う物などない。

この世界に存在する人間というのは、全て『人間』という種類なのだ。

そこに『ブリトン人』も『ガリア人』もないのだ。

無論、海賊だって『人間』なのだ。

そうこの広い世界と友人が教えてくれた。

まぁ、何が言いたいかというとだな。

ガリア人だろうが誰であろうが、人々は自由を渇望している。

私は自由の守護者であると自身を印象付けた。

我が軍は国のためではない。自由の為に戦うのだ。

もちろん、自由を守るというのはこの国を守ることでもある。

軍は自由を守る。この国は自由の国だ。

ほら、こうなると我が国を守る軍隊の人種など関係ないであろう?」

広樹は将軍たちに語り掛けた。

将軍たちは顔を見合わせ、自身の考え方を恥じた。

広樹は続ける。

「君たちの愛国心、自由を愛する心は伝わった。

君たちを責めるつもりはない。さて、話し合おうではないか。」

そういって、広樹は椅子に座った。

将軍の一人が立ち上がって話を進めた。

「では、今の計画をお話いたします。

まず、我々としては早めに軍事学校を設立したいです。

ここで次の世代の将軍を育てたいと考えております。

そして、陸軍を規定数まで拡大したいです。

そのために徴兵を行いたいのですが、依然として徴兵効率は悪いのです。

また、作戦の立案能力を高める方法も話し合っていたのですが,,,」

そういって、彼は首を横に振る。

「何か、良い意見を頂戴したいと思っているのですが、どうでしょうか?」

広樹は少し考える。

徴兵のことは既に考え付いていた。

しかし、今広樹はそのことを考えてはいなかった。

彼はプロシア王国風の軍隊を作り上げたかった。

あの軍隊は歴史上類を見ないほど精強で、無敗と言っても過言でないほどだった。

しかし、それを行うのは簡単ではなかった。

なぜならこの時代では通信システムがなく、参謀本部制度がないからだ。

この時代の作戦というのは、一つの軍がバラバラに動いていて統率が取れなかった。

そのため、現場指揮官の判断で動いているのだが、広樹はそのシステムを嫌悪していた。

しかし参謀本部制度を導入すれば、作戦効率が悪くなる恐れがあった。

なので、二つの板挟みになっていた。

確かに作戦を事前に立てておくのも悪くはないだろうが、

柔軟な対応ができなくなる恐れがあった。

広樹は一つだけ、いい案を思い付いた。

「そうだ。駅伝制を用いよう。」

広樹はいろいろな征服王朝で用いられてきた制度である駅伝制を使おうとした。

こうすれば情報の伝達がスムーズに行われるし、位置の把握がしやすいからだ。

「情報伝達係を各部隊に20人設置する。

彼らの分の馬を用意し、情報を参謀本部に伝えよう。

そうして、伝わった情報を基に参謀本部が作戦の基本を決定するぞ。

徴兵に関しては、とりあえず各地区で目標人数を決めて、それに従って行おう。」

将軍は広樹の意見に納得し、彼の軍事的才能を認めた。

そして、広樹は執務室へ戻っていき、今後の権力掌握について考えることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ