広樹の考え方
「なるほど…流石、天才ですな。
レーヌ様はこちらの時代でも賛否あるとはいえ、
基本的に偉大な人物という評価でありますから。」
「歴史とはそういうものです。
見る人が違えば、評価も違うものですよ。」
広樹はそうすました顔で言った。
一応未来で自分のことが評価されているということは、
そこまで大きなミスは侵していないと確信できたので安心していた。
もしミスをしているならそれが後々評価に響いているだろうし、
政治的なリーダーとして偉大であるとの評価はされていないと感じたからだ。
「それにしても…お二人ともあまり評価を気にされていないようですな。」
ビスマルスが目を丸くして言う。
確かに常人なら評価が気になって仕方ない所だろう。
しかし広樹は常人ではないのである。
…とはいっても、常人じゃないというのはそういうことではない。
彼は非常に臆病で、自分の未来について聞くのが怖かったのだ。
もし失敗したと言われても何の対策も出来ない。
ビスマルスがいくら歴史を知っていようと、細かなところで歴史が変わってくるものなのだ。
その変わった歴史をビスマルスは知る由もない。
だから聞いても意味がないし、不安になるだけなら聞かないでおこうと広樹は判断したのだ。
「まぁ聞いたって…」
「確かに。聞いても何もできませんからね。」
どうやら、ナポレオーネも同じような考えであったらしい。
あれこれ話しているうちに、時間は過ぎていったようだ。
突如発生した霧の奥からフリージアがやってきて、広樹たちに告げる。
「そろそろ時間です。皆さま、おかえりください。」
「待て。君は何者だね。」
「早く!」
フリージアは何時にも増して強い声で刺す。
まるで滝の流れが突然止まったように、しんと音が消えた。
「…では、皆様のさらなるご活躍を願っております。」
ビスマルスはこちらに敬礼をして、霧の奥へと消えて行った。
「…レーヌ様。このことを必ず何かの役に立てます。
ではさようなら。」
そうお辞儀をして、彼もまた霧の奥へ消えて行く。
「…じゃあな。フリージア。」
広樹は霧の奥へと走り出し、フリージアから見えなくなった所で彼女に叫ぶ。
「ありがとなー!楽しかったぞ!」
「…ふふっ、楽しかった、か。」
彼女は意味ありげに笑うと、3人分の椅子を片付け始めた。
鳥の鳴き声が病室に響く。
広樹はその声で起き上がり、一輪の花を見つめた。
ピンクの美しい花は、ジェネリアの可憐さを表しているように見えた。
中々気持ち悪い発想だな、と思いながら、そばに置いてある紙を手に取る。
そこには何と、エリスからの手紙があった。
手紙によると彼女は和也と婚約し、
政局が落ち着いたら結婚式を挙げると書いてあった。
「…そうか。中々喜ばしいな。
余りあいつも結婚相手見えなかったが、エリスとなら安心だろう。」
広樹はそういうと手紙をまた元の場所に置き、外に出ることにした。
「やぁ、おはよう。」
広樹は親衛隊の兵士たちに声をかける。
彼らはここを警備している兵たちで、
所属は武装親衛隊じゃなくて親衛隊護衛部隊であった。
「「総督。おはようございます。」」
敬礼して答える彼らに、広樹は笑顔を見せる。
「いつもありがとうな。
君たちにもいつか報酬を増やさねばな。」
親衛隊の報酬は今そこまで高くなく、家族4人を養うので精一杯という状況であった。
しかし、この部隊はエリートだ。
エリートの年収がそこまで高くないというのは、
親衛隊の入隊希望者を下げてしまう可能性がある。
常に親衛隊は精強で、整った数を持っている必要があると考えていた広樹はこのことを余りよく思っていなかった。




