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父なるセーヌ

…どれくらい戦っただろうか。

気付けば広樹は、教会の建物のそばでぐったりとしていた。

「ったく…焦らせやがって…。」

広樹はそういうと、肩に刺さった矢を抜いた。


矢が刺さった場所から、ドクドク血があふれてくる。

広樹は明けてきた空を拝み、手を差し出して見せた。

陽は広樹に応えるかのように昇り、ル・ソレイユと死体の山を照りつけた。

優しいそよ風が広樹の頬を撫で、広樹はゆっくりと立ち上がる。

その瞬間、広樹は態勢を崩して地面に倒れた。


目を覚ました広樹はホップの元へ行き、

そこでため息をついた。

「これで御終いかい?

いいや。そんなことはないさ。」

そういうと広樹は剣を杖にして立ち上がる。


剣は折れ、広樹は少しよろめくも立って見せた。

その時の彼の目は、若いころの熱意を取り戻したようであったという。

「俺は絶対に、この国を守って見せる。」

9月6日の朝、足元にナスタチウムが一本独り立ちしていた。


広樹は折れた剣を持って中央に戻った。

既に西側の守りについていた部隊は全滅したが、

どうやらランブイエを制圧した部隊がこちらに来て助けに来たという。

広樹は中央で少し治療を受けることにした。


「…ったく、ル・ソレイユに共和国以外の勢力が立ち入るなど、

あの神聖帝国の一件以来だろう。」

広樹はシテ島というル・ソレイユの中心にある救護所で拳を握り締める。

そしてテントの中から出て、セーヌ川の流れに心を寄せることにした。


「美しい…なんと美しいんだろう。」

広樹が絶句するほど、セーヌ川は美しかった。

小鳥たちが水辺で遊び、木々が優雅に踊る。

悠々とセーヌは流れ、彼はル・ソレイユと対照的に傷1つなかった。


オアシスとは、このようなものを指すのだろう。

傷ついた街の中を流れる川は、まさにオアシスであった。

「この街も復活するのだろう。いつか必ず、きっと。」

広樹は笑顔になり、この昼下がりの景色を楽しんだ。


「総督。組織を全て制圧いたしました。

これで目標は達成されましたな。」

「あぁ。そうだな。」

広樹は何時にもまして素っ気なく返事をした。

別にカヴァリエを嫌っているわけではなく、

ただ、広樹はこの景色に見惚れていただけなのである。

総督に就任してからというもの、

広樹にはゆっくりする時間があまりとれなかったのである。


「というか、総督。

今は安静にしておいた方がよろしいのでは?」

「いいや。もう大丈夫だ。

矢を受けた如きで死ぬほど俺は軟じゃない。」


しばし回想


「おらぁ!」

広樹は自ら前線へ進んでいった。

敵は100ほどおり、中々訓練されている敵である。

広樹は怯えず突っ込み、敵陣へ突進していった。


「なんだあの兵は!」

敵の1人が腰を抜かす。

歩兵が主体の戦場で、広樹は単身で馬に乗って突っ込んできたのだ。

広樹は剣と槍を持っていたが、今回は槍を振りかざして敵の中央へ走っていった。

「将を射んとする者はまず馬を射よ!」

その掛け声で、彼らは馬へ矢を放った。


馬鎧で何とか敵の攻撃を凌いでいた広樹は、

負けじと彼も槍で彼らを幾度となく突き刺した。

馬鎧は広樹が歩兵相手に殲滅されないよう、つまり

騎兵単体でも戦えるように親衛隊全体に配備している装備であった。

「貴様ら!我を誰と心得る!

現総督にして、世界の覇者、レーヌ・アルフレッドなるぞ!」


広樹はそういうと、笑みを浮かべて更に敵陣奥深くへ走り去った。

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