制圧ドクトリン
今回の制圧の作戦ではそのゲルマニアの影響を深く受けている。
一個ずつ丁寧に制圧するその作戦は、
ゲルマニア人の国民性が出ていると言えよう。
「…よし、後はこれを親衛隊の隊長たちに渡すだけだ。」
親衛隊は複数部隊あり、武装親衛隊員は1000人。
その内20人で小隊を組んでいたため、
隊長は50人いることになる。
この紙をル・ソレイユにいる親衛隊員を動員して大量に写本し、
何とか2日で作業を終わらせた。
この教義は共和国軍にすら漏らしてはいけない位の重要なもので、
もし漏らしてしまえば親衛隊の技術という優位が存在しなくなる可能性もあった。
「お疲れ様。
ここで見聞きした内容は決して他言するな。」
広樹はそう釘を刺し、机を叩いた。
そしてとうとう親衛隊員が到着し、
広樹は小隊長以上を招いて作戦を説明した。
大講堂でアイドリックはガベルを叩き、話し始めた。
「今から総督が来られる。
話に耳をしっかり傾けるように。」
そういうと彼は末席に移動する。
そして、悠々とした態度で広樹が入ってきた。
ガベルを鳴らし、広樹は立ったまま話し出した。
「諸君。おはよう。
ではこれより、国家反逆の疑いがある組織に対しての行動の説明を行う。
まず目的から説明しよう。」
「国家安定の基礎は議会、政府の下で動くことだ。
しかしその原則が破壊されて人々が恐怖の下で動くことになっては非常に困る。
何故なら心からその支配組織に従っていないことになるからである。
現に我が国は一切の暴力、恐怖を排除した政治を行っている。」
広樹の覇気のある演説に、その場にいたもの全てに鳥肌が立った。
「しかしそのような政治をよしとしない、
暴力で解決しようとする組織が自由なる国で許されていいのだろうか?
否。断じて否だ。
だからそのような組織を排除する為に、我々はこの技術を身に着けるのだ。
今回の地下組織制圧作戦はそれの訓練である。」
「では教本の1ページを見てほしい。
ここに戦闘教義について詳しく乗っている。
まずは敵のいる建物を破壊し、楽に侵入できるようにする。
その後に窓、玄関などすべての入り口から侵入し、
一階を完全制圧してから二階を制圧する。
基本的に援軍を呼ばれないように盾を持った兵士を玄関に2人配置するのが得策だろう。
階段も制圧までは部隊を置いておくんだ。」
そうやって広樹は詳しくドクトリンを説明し、
最後の挨拶を行った。
「恐怖政治主義者の行動はいつも短絡的だ。
しかし短絡的であるが故、一番恐怖を与えやすい。
彼らの短絡さには常に突発さもついているからである。
ただ、彼らが弱いのは皆も知っている通りだ。
共和国の自由を守るため、我々は前進する。
世界共和国の為に、我々は敗北してはならない!」
世界共和国。
これも広樹の持つ野望の1つだった。
ユーロピアだけの政府では飽き足らず、世界を統べる国家を生み出そうとする
愚かで、醜い野望だった。
「以上!
親衛隊員諸君の勝利を祈る!」
広樹は拍手に包まれながら退出していき、
最後にアイドリックの横で呟いた。
「私も、ナンシーの組織の壊滅をこの目で見届ける。」
そう去り際にぼそっと言うと、彼に明らかに焦りが見られた。
特に広樹は彼のことを疑っておらず、
今のもさらっと呟いただけであったが、
彼が焦ったのを見て少し何があったのかと勘ぐっていた。
「焦りようが異常だな。
何があったのか。軍の参謀本部に調査を依頼しようか。」
広樹は肩を落とし、ため息をついた。




