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マルカ・ルーテル

エクセン領に帰還した広樹たちを待っていたのは衝撃的な知らせだった。

なんと、チャールズがジェネリアに爵位を譲ると宣言したのだ。

「誠ですか、お父様?

まだお父様も元気ですし、わざわざ譲る意味はないでしょう。」

ジェネリアが椅子から乗り出していった。

広樹もそれに続く。

「そうです。伯爵の考えもわかりますが、急ぐ意味はございません。」

しかし、チャールズは頑なに譲らない。

「いいや。もう決めた。

私はあっちの森で余生を過ごしたいのだ。」

広樹は、ジェネリアが伯爵となることに対しては歓迎していた。

しかし、ジェネリアは女性だ。

この時代、女性が継ぐなどありえないことだった。

そうなれば貴族たちからの反対は必至だ。

広樹はそのことを伝えたが、チャールズは

「君がいれば大丈夫だ。」と取り合わなかった。

いくら広樹でも貴族たちをすべて敵に回すとなると

勝てる可能性がなくなる。

しかも、今の宰相は大貴族で伯爵位を虎視眈々と狙っているマルカ・ルーテルだ。

このことに付け込み、伯爵位を奪われる可能性もある。

そうなれば、ジェネリアの身が危なくなる。

広樹はこの件に関しては、少し汚い手を使う必要があると考えていた。


広樹はジェネリアと夜、散歩に出たときにある戦略を伝えようとした。

そのためには、ジェネリアが何を望んでいるか知らなければならない。

広樹は、切り株に腰かけてジェネリアに問う。

「ジェネリア様は、位を継ぎたくないのですか?

私個人としては、良い話だと思います。」

ジェネリアがため息をつき、俯いて言った。

「もし,,,もしね。私が継ぐとなる場合、

みんな反対するわ。そうなると、国内分裂が起きてしまうわ。

だから、男の人に任せなければいけない気がするの。」

広樹はコクコクと頷き、ジェネリアに優しい声でもう一度質問した。

「あなたの本心がそれなら、私は仰せの通りにいたしましょう。

しかし、あなたは嘘をついているように見えます。

それはあなたの本心でしょうか?」

「どういうこと?」

ジェネリアが視線を上にあげ、広樹の方を見た。

「本当は自分が継ぎたいのでは?

あなたは自身の意思をさっき教えてくださいませんでしたね。

本当のところはどうなんですか?

仮にあなたが継ぎたいのなら私は総力をあなたの為に捧げます。

私の中では、軍事より内政の方が得意だと思ってます。」

ジェネリアは。ついに泣き出した。

「どうしたのですか、ジェネリア様?!」

流石の広樹でも焦る。

「レーヌ,,,私は伯爵になりたいの,,,,,,

でもね,,,そんなこと宰相が許すはずがないわ。

どうしたらいいの,,,,,,?」

広樹は、優しく答えた。

「そんなことですか。

私にお任せください。あいつを暗殺すればよいんですよ。」

ジェネリアは、泣きながら広樹に尋ねた。

「暗殺,,,?」

広樹は答える。

「私は暗殺は嫌いなのですが、目的を達成するための致し方ない手段でもあると思っています。

しかし、何の罪もない人を暗殺するなど、私には到底できません。

なので、理由をでっちあげて殺します。」

ジェネリアは首を横に振る。

「いいえ。そんなことをしては、あなたの名誉に傷がつくわ。

そのような行い、神が許してくださるはずもない。」

広樹は、ジェネリアの肩に手を置き言った。

「そんなことですか。

大丈夫です。神なんていませんし、ましてや名誉なんてございません。

私が宰相一人殺しただけで、私の罪は変わりません。

これまで少なくとも100人は殺してきてますからね。

命に違いなんてありません。私は人を殺した、ただそれだけです。」

広樹の淡々とした態度に、ジェネリアは戦慄する。

彼は、そもそもかなりのリアリストで、

手段のためなら何事でも行うタイプの人間だった。

そんな彼に対し、ジェネリアは恐怖感を覚えた。

広樹は続ける。

「まぁ、あなたが嫌というならやめます。

ただ、チャンスをものにできない君主は、いつか痛い目を見ますよ。」

ジェネリアは、最終的には広樹の提案に納得した。

「わかったわ。あなたに任せます。

ただし、失敗しても責任はとれないわよ。」

広樹は頷く。

「もちろんです。

あなた様のご迷惑にならないようにいたします。」

そういうと、広樹はジェネリアに手を差し出す。

ジェネリアは広樹の手を借りて立ち上がった。


次の日、広樹は久しぶりにドルベーに帰った。

話によると、エリスは既にドルベーに戻ったらしい。

広樹は、心を躍らせながらかの地へ戻った。

協力者に会うために。

ドルベーまでは3時間程度しかかからなかった。

広樹はまず、ジェームズたちと顔を合わせることにした。

彼が肉屋を探していると、ジェームズと偶然会った。

「久しぶりだね、ヒロキ!

元気だったか?」

そういうと、ジェームズは広樹を抱きしめた。

広樹はそれにこたえる。

二人がしばらく抱き合って、久しぶりの再会を喜んでいた。

ジェームズは広樹を離す。

「今まで何をしてたんだい?

伯爵に招待された後、何をしていたんだ?」

広樹は笑って答える。

「『レーヌ』として戦いに出向いておりました。

ある時には数倍の敵を追い払い、またある時には敵の国王を殺害しました。」

ジェームズは広樹に言う。

「お疲れ様。エリスは今うちで働いているよ。

うちに寄ってくかい?色々話がしたいんだ。」

広樹は笑顔でうなずく。

「えぇ、もちろん。お邪魔します。」


広樹はジェームスの家に行き、そこで少し休憩した。

エリスは、広樹が考えていたメニューを売っていた。

広樹がいなくなってからジェームズが試行錯誤して、ようやく作ることができたそうだ。

「ある漁師が犬に似ているからってホットドックと名付けてね。

だからあいつはホットドックっていう名称で売ることにしたんだ。」

広樹はあの商品が無事に売れていることを知り、安堵した。

広樹としては何か彼に恩返しをしないといけないと思っていたのである。

だから、この商品が売れたことは広樹にとって大変喜ばしいことだったのである。

広樹は満足げに言った。

「そうですか。それはよかったです。

そうだ、こっちからエリスのとこへ行きますよ。

あんまり長居しちゃ悪いですし。エリスはどこです?」

ジェームズは海岸の方を指さす。

「あっちの港かな。

大通りを通っていったから、そこを通れば行違わないと思うよ。」

広樹はジェームズに頭を下げた。

「どうもありがとうございました。

また、顔を見せに来ます。さようなら。」

そういうと、広樹はカバンを背負って店を後にした。

ジェームズは、広樹が見えなくなるまで手を振っていた。

広樹も同様に、手を振り返した。


港に着くと、エリスが商売をしていた。

「ちょっと待ってねー。もうできるから。」

頑張っているときに邪魔しちゃ悪いな、と広樹は近くの椅子に腰かけ、

エリスの様子を見ていた。

数分後、エリスはどうやら在庫がなくなったようで店に戻った。

その帰り道に広樹は彼女に声をかけた。

「エリス、ちょっといいか?」

エリスは、勢いよく振り向き、驚いた。

「うわぁ!びっくりさせないでよ!」

エリスは顔を膨らませ、不満げな声を出した。

「ごめん。少し、協力してほしいことがあってね。」

「何それ。私ができることなら何でもするわよ。」

そう得意げに言うエリスは、どこか頼もしく見えた。

広樹は少しクスッとして言った。

「そうか。じゃあ、12月くらいまでいいか?

かなりかかるから、ジェームズさんには伝えておいて。」

「なんでそんな長いの?

いったい何をするのよ。」

エリスは怪訝そうに広樹を見つめる。

広樹は頭をかきながら言った。

「まぁ、そんなに難しいことでもないんだ。

メイドとして宰相殿のおもてなしをしてほしい。」

エリスは少し考えた後、大きくうなずいた。

「まぁ、いいわよ。

命の恩人の頼みだもの。それで、もう出発するの?」

「準備が整ってから行こうか。

じゃ、少しここで待ってるから。」

「わかった。」

エリスは、ジェームズの家に向かって走っていった。

どうやら、エリスはジェームズと一緒に住んでいるらしい。

そんなことで少し安心しつつ、広樹は自分の望みを再度確認した。

(とりあえず、ジェネリアを公爵にしたいな。

そして、国内を統一してからガリアに攻め込む。

それが終われば、俺はもう必要ない。

元の世界に帰る方法を探すだけだ。

しかし、誰に頼めば戻れるのだろうか。)

広樹はため息をつく。

冬の風が、広樹の頬を撫でる。

枯葉が舞っていて、冬の訪れを広樹に知らせているようだった。

広樹は一つ、妙案を思い付いた。

史実で考えるなら、このままいけばこの国が世界の覇者となる。

ならば、自身は歴史をそのまま戻すのが賢いのではないだろうか。

広樹はそんな疑問を抱いたが、これがおかしいことはすぐに気づいた。

そもそも、ガリアと敵対関係となっている時点で大幅に史実と違う。

いうなれば架空の歴史、この歴史を広樹は知らない。

だから、この世界でなんとか世界を征服する道筋を建てなければいけないと推測した。


「あっ,,,がっ,,,,,,」

突然、広樹の頭に激痛が走った。

広樹は頭を抱え、地面で転げまわった。

すぐに激痛はやんだが、広樹は自身の記憶に違和感を覚えた。

しかし、その違和感もなくなりいつもの広樹に戻った。

(なんだったんだ,,,

とりあえず、この先はもう知っている。

神聖帝国がガリアと交戦状態になって、ガリアが勝利する,,,その戦いは長く続くんだな。

なら、今のうちに国を統合しよう。)

広樹はそう決心した。


広樹が体についた土を払っているとエリスが走ってきた。

「おまたせ、そうだ、これ。」

そういうと、エリスは広樹にカバンを手渡した。

「ありがとう。」

そういうと、広樹はカバンを抱きしめた。

それは、ここに来るときに一緒に持っていたカバンである。

中を見ると、じゃがいもとスマホがあった。

じゃがいもは既に芽が生えていて、食べれそうになかった。

スマホも無事で、しっかりと起動した。

広樹はスマホの画面を閉じ、それをカバンにしまった。

それを背負って、広樹は出発した。


屋敷に着くと、メルが門を開けてくれた。

メルはいつものように冷たいまなざしで広樹に言った。

「ご主人様が渡したいものがあるって言ってたわよ。

ぐずぐずしてないで行ってきなさい。」

広樹は言われた通りチャールズの部屋の前に立った。

部屋をノックしたら、ジェネリアが部屋を開けてくれた。

「おかえり、さぁ、入って入って。」

言われるがままに部屋に入り、用意された椅子に座った。

チャールズが長い箱を持ってきて机に置いた。

「さて、中を見てくれ。」

広樹は蓋を開けて中を見る。

中にも布があり、とても物々しい雰囲気を醸しだしていた。

その布を取ると、1メートルはあろうかという大きな剣があった。

その剣を手に取る。

「それは君の相棒だ。好きに使うといい。

もちろん、ルーテルを暗殺するときにでも、な。」

広樹の背筋が凍る。

(まずい、ばれた。)

しかし、チャールズの次に出る言葉は意外なものだった。

「頑張ってくれたまえ。私もあいつのことは嫌いでね。」

広樹は胸をなでおろした。

「お父様も前々からマルカ一族を滅ぼそうとしていたのよ。

あいつらはまるで領民から金をむしり取る悪徳商人だっておじいさまが言ってたわ。

『チャンスをものにできない君主は痛い目を見る』のでしょう?

作戦決行は明後日の夜、宴会の時。それまでに準備するわよ。」

自信満々に言うジェネリアに、広樹は頼もしさを覚えた。

広樹は立ち上がって剣を振る。

風を切る音。その音に、広樹は新鮮さと美しさを感じた。

屋敷を照らす夜の月。森で鳴く夜の梟。

この屋敷の全員が、明後日の夜が運命を変えると確信した。


明くる日、広樹は会場の下見に行った。

会場はとても広く、そこでルーテルの後継者も本人も暗殺しようと考えた。

しかし、彼らがそのように無警戒であるはずがない。

そこで広樹は、隣の部屋におびき出そうと考えた。

無論、宴会の邪魔をしたくはなかったからというのもある。

それ以上に、広樹は自らの手で彼らを殺したかった。

伯爵たちにこれで恩を売れると考えたためである。

あまりにも醜く、人間の欲を出した考えであった。

広樹は一先ず、ジェネリアがいる部屋だと言って彼らを呼ぼうとした。

広樹のシナリオはこうである。

まず、エリスに酒を注がせる。

もちろん、ルーテルたちにである。

そして、酔ったところに広樹がジェネリアのもとへ案内する。

次の宰相選出についての話と偽って、である。

そして、しばらくそれらしく話したら広樹が二人を殺す。

広樹はこの作戦が成功することを信じていた。


そして翌日、風の寒い朝だった。

広樹は一先ず、朝食を食べた。

パンとスープを急いで食べた後、広樹は会場となる森の館に剣を握り締めながら向かった。

広樹が他の使用人たちと会場を準備していると、ルーテルと息子がやってきた。

「ご苦労、皆の衆。」

それだけ言い残すと、二人は控室に行った。

(偉そうなやつだ。ああいうのが国の癌というのだな。)

広樹は不快感を募らせていると、なんとリープが来た。

「おお、レーヌ殿。またお会いしましたな。

今日の宴、楽しみましょうぞ。」

リープもそう言い残し、用意するすべての人間に挨拶をして控えの部屋に行った。

広樹は彼に感激した。

広樹は彼の後ろ姿を見送った。


準備が終わり、宴会が始まった。

広樹は剣を自身の部屋に置いてくると、しばらく参加するとした。

「皆飲んでいるな、エリス。」

エリスはルーテルに酒を注ぎながら言う。

「そうね。あなたも少し飲んだら?」

「いや、いいさ。」

そういうと、広樹はチャールズに話しかけた。

「では、そろそろ決行します。」

チャールズは大きく頷き、広樹の目を見た。

広樹もおおきく頷き、エリスに合図をして出て行った。


広樹とジェネリアが部屋で待機していると、ルーテルたちが入ってきた。

「来たか。座れ。」

二人は椅子に腰かける。来て早々、ルーテルはジェネリアに言った。

「さて、なぜここに呼んだのですか?

ようやく、我が息子との婚姻を受け入れていただけるのですか?」

広樹は少しムっとした。

しかし、しばらくはおとなしく待っていることにした。

ルーテルは続ける。

「まぁ、いいえというなら実力を見せるしかありませんね。

あなたは集められたとて5000、我々は1万を超える軍を扱えます。

さて、それでもですかな?」

ルーテルの声に、広樹は気味悪さを覚えた。

広樹が一瞬で剣を抜き、構える。

広樹は遂にルーテルの首筋に向かって剣を振り下ろした。

ルーテルが悲鳴を上げる。しかし、遅かった。

広樹が最後首を跳ねる。

ルーテルの息子は、壁際に逃れた。

しかし、ジェネリアが一突きで殺した。

こうして、二人は殺された。


宴会が終わり、広樹は今後のことを外に出ながら考えた。

そして、少しの兵を引き連れて奴らの屋敷に向かおうと考えた。

広樹はチャールズにそのことを頼むと、ひとまず寝ることにした。

少し書いてみてこれは広樹が狂うルートかなって感じました。

あ、割かし成り行きに任せています。

まぁ、少しは調整するつもりですが。

バットエンドかもしれないし、ハッピーエンドかもしれませんね。

何はともあれ、両方の何となくの結末は考えてますのでご安心を。

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