復興の一日
広樹は午後に親衛隊を呼び出し、早速自分の計画を説明した。
「来たか。今日集まってもらったのは他でもない。
ノラミア帝国内における反戦感情の扇動と、
自由主義者による反乱を起こしてほしい。
あくまで宗教に則った革命を主張するとやりやすいだろう。」
広樹のこの提案に、
今まで無茶を受け入れて実行してきた親衛隊も流石に反対した。
「無理がありますよ…
相手は宗教国家です。そんな国で反乱を起こすなど…」
「やれ。これは総督命令だ。
失敗してもいい。とにかく相手に揺さぶりをかけるのだ。」
広樹の恐ろしい眼光に、親衛隊員は何も言えなくなった。
黒い制服を身に纏った男たちは、敬礼をするとすぐに退室していった。
広樹は彼らを座ったまま見送ると、すぐに軍事省まで歩いて行った。
「やぁ。来たぞ。シャルル。」
シャルルは昨日、ブリトン島から帰還し、今は軍事省で治安維持の手伝いをしていた。
「レーヌ様。治安維持計画の細かいところが出来ました。
それで最終的に第10軍、第13軍が浮いて、
これらをノラミア帝国討伐に向けるとの提案があるのですが…」
そう資料を見ながら彼は髪を掻く。
「なるほどな。じゃあエルヴィンを総司令官として送ってやれ。
戦車はハインツに任せよう。」
ハインツというのは第13軍の師団長で、軽戦車部隊を率いていた。
彼は内戦中、たった1師団で敵の戦車部隊を壊滅させたという偉業を達成したのだ。
敵と自軍の間に戦車の性能差があったものの、
それでも4倍の敵を壊滅させた彼の実力は認められるものであった。
「賛成です。彼らなら確実に敵軍を打ち破ってくれるだろうと思います。
しかし問題は補給ですな。
戦車の在庫は今、全くございませんし、
弓や弾薬類も使い果たしています。どうすれば…。」
「しばらくは神聖帝国、ラテニアの物を借りよう。
幸い旧式化した戦車や弾薬を送っているはずだ。
少しは役に立つだろう。」
広樹は彼の話を聞いて、軍事工場の復興が第一優先だと感じた。
今は戦争中であり、この戦いに勝てれば賠償金をせしめて、
自国経済を復興できると踏んでいたからだ。
「国内経済は不安定だが、軍事を優先して回すからな。
その他の復興は少し後回しになると思う。
しかし必ず、この国を取り戻して見せるからな。」
広樹は会議の後にそう宣言すると、いったん自宅へ戻った。
自宅と言っても復興省と兼用の場所で、
来週にはルイもジェネリアも戻ってくる。
まだ埃っぽいから、少しずつ清掃をしようとしていた。
実はこの館に宮殿にあった貴重な文化財を移動させており、
この地下室に大量の文化財があった。
広樹はまだ地下室は良いだろうと、
地下室以外の部屋の掃除を使用人たちと行った。
2時間もやれば大方綺麗になり、広樹は久しぶりにゆっくり夕食を取ることにした。
とは言っても内戦後なので物資は不足しているのだが。
まず、広樹はカレーで取れた魚のマリネを味わった。
美味い。非常に美味い。
恐らく使っている魚はニシンであろう。
飲んでいる蜂蜜酒とよく合い、魚の生臭さも酢漬けにしたことで取れていた。
そして主菜がやって来た。
基本的に当時の共和国…というかガリアでは前菜で野菜が出たら魚、
魚が出たら肉といった決まりがあり、なので今日の主菜は予想通り肉であった。
「なるほど。今日は鴨か。」
野生の鴨はかなり臭みが強く、食用には向かなかったが、
塩漬けにしてそれをローストすることでその問題を回避していた。
やはり、塩辛いものはワインや蜂蜜酒によく合う。
広樹は改めて共和国料理のおいしさを理解した。
サラダとパンを食べ終え、食後に少しワインを味わっていると、
どうやら扉の方から大きな足音が聞こえてきた。
その足音はどんどん近づいてきて、勢いよく扉が開けられた。
「…ラテニア軍が、トリエスタにおいて大敗!
敵軍被害1000、自軍被害20000と予想されます!」
「…なんだって?」




