復興に向けて
広樹は彼の行いにただただ呆然としていて、
彼の最後の言葉を聞いていなかった。
広樹が気づいたときには、もう陽は昇っていた。
ハッとした広樹はすぐに治安維持を命令し、
コミューン党員を逮捕せよと命令した。
「…で、勝手にこんなことをしたと…。」
広樹はエルヴィンの前に正座をしている。
「いやまぁ。勝てそうだったし。いいかなって」
「いいわけないでしょう。」
彼に冷たく言われ、広樹は少し目をそらす。
「大体、貴方はこの国の指導者なんですよ。何で敵に突っ込む真似をするんですか。
もう少し自分の身を案じてください。数千万人の運命を背負っているんですよ。」
広樹はそう説教され、ため息をついた。
「何はともあれ、ボルディアは落ちた。
これでコミューンはほぼ壊滅したといっていいだろう。
来週。ル・ソレイユで国会が開かれる。
ここで数年間の総督非常大権の発令と、国家治安維持法を発布する。
軍を区分けし、従来の警察組織と協力して治安維持に当たってもらう。
ブリトン軍も同じだ。」
広樹はそうエルヴィンに語る。
「そうですか…経済については何か?」
「取り敢えず被害の少ないゲルマニア、ラテニア、ブリトンから支援を受ける。
ブリトンは楽だろう。俺が宰相だから。
その他の国については軍事支援を確約して援助をもらう。
後、傾斜生産方式を採用する。」
「傾斜生産方式っていうのは、ある産業に集中して資金を投下するというものだ。
勿論全体的な復興は行うが、今はまだ戦争中だ。
鉄鋼、軍事関連の工場を早く復興させ、戦争による特需で一気に回復を狙う。」
「こうしちゃいられない。俺はル・ソレイユに戻る。
ブリトン島の官僚に伝達。『ル・ソレイユに戻るように。』と。」
広樹は来た列車に乗り、そのままル・ソレイユへ戻った。
帰り道で広樹はほとんど崩壊した、でも復興へ動き出している街を幾度となく見た。
広樹はその様子に満足して、今後に期待を寄せた。
ル・ソレイユの荒れようは特にひどく、
宮殿すらまるで古代遺跡のような崩れようであった。
広樹はここでは開催できないと、比較的損害の少ない北のコンピエーニュの森の館で会談を行うことにした。
「さて、皆集まってくれたな。
今回の議題はこのガリアの復興についてだ。」
議会の開催前に全閣僚が集まり、話し合いを始めた。
ただでさえ暑いこの館の中が、白熱した議論のせいで更に熱くなった。
「いや、コミューン指導者は皆死刑に処すべきだ!」
和也はそう声高に主張するが、広樹は反対した。
「コミューンの党員は確保した分だけでも少なくとも1000人はいる。
彼らを処刑するのに必要な施設もないし、収容する施設もない。
コミューンに対し寛容な処置を取りたいと思う。」
このようにコミューンに対する処置が全く決まらなかった。
傾斜生産方式を行うことや、一時現行通貨を廃止し、
新たにフランという通貨を採用することは決まったものの、
コミューンに対する政治的処置については意見が分かれた。
「では分かった。重要な人間は死刑にして、
残った奴らは解放ということでいいな?」
「あぁそれならいいと思うぞ。
しかし今、コミューンへの私刑が横行しているらしい。
特にこの前なんか列車にコミューン党員を轢かせたらしいからな。」
広樹はその報告を聞いて戦慄する。
「コミューンへの恨みは恐ろしいものになったな。
まぁいいさ。どうせ後で法律で裁かれる。」
そういう広樹の目は、どこか涼しげだった。
閣僚たちの住処をここにすると、
広樹はここに復興省という省を新たに設立した。
この省の代表は広樹であり、ここが中心となって戦後復興を行うことになった。
広樹は集まった全国の知識人を職員として迎えることにし、
一先ず明日開かれる議会の為に書類を作ることにした。
議会は見た目は損傷なしだったものの、内部に崩落個所が見当たり、
当日外でやることになった。
広樹は議会前の広場で開会の言葉を述べることになり、
迫力ある演説をすることになった。
「共和国は未だ滅びず。幾らでも灰から蘇るのだ。
一時ガリアの自由は地に落ち、世界がコミューンに染まる寸前まで行った。
しかし精強な共和国軍は自由を取り戻し、
各市民も自由の為に立ち上がった。
私にとって最も印象的なのはル・ソレイユの蜂起だ。
もしこれが無ければ運命は狂ってしまっていたであろう。
英雄都市、そして英雄たる市民に栄光あれ!」
そう話した後、早速議論が始まった。
「では総督大権について反対する人はいますか?」
広樹がそういって原稿から目を離して一瞥する。
反対者は誰もおらず、広樹は2年間の大権を発動した。
総督大権というのは憲法で認められている権限で、
議会の全会一致によって発動することが出来た。
憲法に違反することを行った場合はその権限が剥奪され、
尚且つ総督を強制的に辞任させられるが、
超法規的措置を取ることも出来るので非常に強力であると言えるだろう。




