長い長い内戦
「海軍に手紙を送ったんなら、海岸沿いに行く必要があるよな。
よし、一気にブレストンを落とすぞ。
そこから海岸沿いに行けばいい。それまでは鉄道沿いに行こう。」
広樹はそう言うと、隣に止まっている貨車をさする。
この貨車はd-01と書かれており、一番最初に作られた貨車であることが分かった。
ずっと共に戦っていた戦友との再会に広樹は心を躍らせる。
広樹はフッと笑うと、後ろにいる第一歩兵師団に声をかけた。
「君たちの同期だ。仲よくしたまえよ。」
それだけ言うと、馬に乗って早速ブレストンを目指した。
ブレストンは半島で一番工業化された地域であり、
ビスケー湾とドルベー海峡を繋ぐ海上交通上の要所であった。
ここを取れれば南のヒスパニアとの接触が可能になり、
ビスケー湾岸の安全は確保することが出来る。
広樹は騎兵を用いて途轍もない速さで進み、
僅か5日ほどでブレストンに到着した。
ここは工業化されているとはいえ、カレーとは違って美しい。
カレーは本当の工業地帯という雰囲気だが、
ここは豊かな自然がそのまま残っていた。
「君たちも少し疲れただろう。
ここで休んでから、ノリマント地方へ行くぞ。」
軍は歓声を挙げ、街で少女と戯れたり、花畑で遊んだりと
思い思いに疲れをいやした。
勿論、広樹は兵士の士気を上げるために休んだのもあるが、
それ以上に彼としては海軍提督のエリックと会談するという目的の方が重要であった。
彼らと協力して補給を維持し、何としてもノリマント地方を落としたかったのである。
ここまでノリマント地方に固執する理由は、やはりここが
『赤いカレー』と呼ばれる大都市、シェービアルを抱えているからだ。
この国の重要都市であるにもかかわらず、
数十年前にブリトン島を制圧しかけたという誇りからか、
一切共和国政府に従属する気配を見せなかったのである。
ブリトン島から来たレーヌは、彼らからしたら征服者である。
そんな彼に屈するのは、事実上ブリトンに屈するのと同義だと、
ノリマント人は捉えていたのだ。
しかしそんなつもりはないと、広樹は自身の行動で明らかにしたかった。
宥和的な占領政策を行い、彼らの意識を根底から覆す。
そんな努力を見せつけたくて、広樹はノリマント地方征服を強行した。
「かのギヨームだってここを征服して、ブリトンを征服せよと命じ、
自身も船に乗って戦った。
彼らノルドの夢は潰えたが、彼の夢を継ぐのは、この俺だ。」
広樹は出発前の演説で、配下の兵士たちを勇気づける。
「敵の抵抗は激しいかもしれない。
しかし、我らには圧倒的な練度と性能の高い兵器。
それに優秀な指揮官だってついている。」
おどける広樹に、少し緊張が和らぐ兵士もいる。
こうやって少しジョークを交えて会話して相手を安心させるのは、
広樹のよくやる手法だった。
「全軍、今から我々はノルドの地へ向かう!
恐れるな!進め!」
広樹の演説で、兵士たちは歓喜する。
英雄が自分たちを認め、勇気づけたように聞こえたからだ。
この長く続いた内戦のせいで、広樹の心は無常感で満たされていた。
なぜ自国の地をここまで荒らさなければならないのか。
誰も自分の生まれ育った街を壊したくはないだろう。
広樹だって元の世界に帰れば、よく遊んだ公園や小学校、
正直いい思い出ではなかったが中学校だってある。
しかし何故か、それらのことを思い出すと頭痛がするようになってきた。




