ル・ソレイユ解放
「放て!」
広樹は何度もその言葉を発し続けていたが、
その内、少し涙ぐんだ声になってきてしまった。
当然と言えば当然であろう。
自分で作った街を、自分で壊すことになってしまったのだから。
連日繰り返される砲撃と、コミューンの指導者たちによる焦土化によって、
民衆のデモは更に激しさを増していき、親衛隊の支援の下、
暴動へと陥ったのだ。
「そうか…仕方ない。軍隊で抑えろ。」
ベレーはそう命令するほかなかった。
使者が司令官の元へ行き、ベレーからの伝言を伝えた。
「司令官、ベレー様は『軍隊で抑えろ』、と。」
「軍隊で抑えろと。
わかった。では攻撃を行おう。」
この時の司令官であるギュンターという男は、この命令を誤った方向に解釈してしまった。
ベレーはあくまで抑えるのみで、自身が演説を行って、
聴衆を安静にさせようと思っていた。
そしてこの地を無血開城して自身はここで捕まるつもりだった。
しかしギュンターはこの謝った判断を遂行してしまい、
兵士は一番過激な7人を殺してしまった。
「総督、ご命令は果たしました。」
そうベレーは報告され、少し安堵して穏やかな表情になる。
「そうか。では俺が出向くとしよう。」
「護衛は…」
「必要ないよ。市民に安心してもらいたいんだ。」
ベレーが出たときには、市民と軍の乱戦に陥っていた。
「おい…これはどういうことだ!
早くギュンターを呼ぶんだ!」
そう怒鳴り、彼はギュンターをここに連れてこさせる。
その間にも、混乱は収まりを見せなかった。
遂に、市民の一部がベレーの前に立ちはだかった。
「おい、お前がコミューンの親玉だな。」
「あぁそうだ。話し合おうじゃないか。」
彼はそう言ったが、市民は聞く耳を持たなかった。
「死ね。」
無慈悲にも斧が落とされ、ベレーは悲鳴を上げた。
ベレーが倒されたことにより、それを傍観していた党員たちは声を上げた。
「おい、今だぞ!次は俺たち無政府主義派が政権を握るんだ!」
ル・ソレイユの戦いでは、主に4つの派閥が争っていた。
軍と全体組合主義の連合、ソレル派、
そして市民の支持する自由主義、無政府主義の四勢力であった。
ソレル派と無政府主義は一時的な協力体制に移行してたため、
事実上3勢力間での争いとなっていた。
ル・ソレイユの街の真ん中で戦車戦を繰り広げ、
街の至る所で乱闘を起こしていた。
親衛隊もこの乱闘で一杯一杯であり、
広樹がそのことを知る余地はなかった。
作戦開始日の3日前の4月26日、事態は大きな変化を迎えた。
「軍隊の諸君!
我々は本来の目的を思い出す必要がある!
レーヌ様は我々に国民を守るという義務を課された!
彼に忠実である者は、市民側に味方せよ!」
勿論この演説は親衛隊が行ったものであったが、
それでも軍、特に旧軍からいるもので、コミューン政権において
軽視されてきた軍人たちは彼に賛同した。
「我々はレーヌ様の部下だ!
決して悪しきコミューンの部下ではない!」
この言葉をきっかけとして、大量の軍人が裏切り、
徐々に市民軍有利な態勢となっていった。
宮殿でまずは無政府主義者の幹部たちが公開処刑され、
ル・ソレイユにおける無政府主義は終わりを告げた。
「…貴様ら、コミューンを裏切った罰は重いぞ!」
ベレー亡き後、ル・ソレイユを名目上取り仕切っていた
ギュンターも即刻処刑台に吊るされることになった。
その様子をみていた党員たちは逃亡し、とうとうル・ソレイユにおいて
市民派が勝利したのだ。
広樹は総攻撃に向けて作戦の最終確認を行っていた。
「そうだな。まずは中央を落として敵軍の戦意喪失を狙おう。
その後は第1、第4軍が南。
第2軍は北を制圧し、ル・ソレイユを奪還するぞ。」
将校たちと話し合っている間に、使者から連絡が届けられた。
「レーヌ様…
ル・ソレイユにおける反乱において、親衛隊の指揮する自由主義者の勝利!
親衛隊によって組合主義者は武装解除され、
いつでも市内に入れるとのこと!」
彼のその報告を聞き、将校は歓声を挙げた。
遂に、コミューンから母なる都を取り戻すことができたのだ。




