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黒十字

広樹が屋敷に戻ると、既に夜は明けて美しい日が昇っていた。

広樹はその太陽を見ながら、今後の作戦を練っていた。

(さて、これからどうしようか。

とりあえず俺を神の使徒とか言う狂人軍団なら何か知っているだろう。

なら、まずは奴らの言っていることを理解しないとな。)

広樹がそう決心すると、太陽は広樹を照らしながらどんどん昇って行った。

広樹が屋敷の前につくと、素振りをしているジェネリアを見た。

邪魔してはいけないと思い広樹はこっそりと帰ろうとするが、

ジェネリアに気づかれた。

「レーヌ?なぜここに?」

そう問われて少し焦る広樹。

そんな広樹を見ながら、ジェネリアはさらに言った。

「すごい傷だな,,,とりあえず、手当てをしよう。

こっちに来い。」

ジェネリアに言われたとおりにジェネリアの方に行くと、

ジェネリアは持っていたタオルを巻いてそのあと救急箱らしきものを持ってきた。

「少し待ってろ。こう見えても包帯を巻くのはうまいんだ。」

丁寧に広樹の腕や腹に包帯を巻いていくジェネリアに、広樹はなぜか懐かしさを感じた。

(なぜここまで懐かしさを感じるのだろう。

誰かに包帯を巻いてもらったことなどあっただろうか。)

浮かんだ来た疑問を抑え、広樹はジェネリアに感謝を述べる。

「ありがとうございます。」

「なぁに。これくらいは。」

ジェネリアは包帯を最後にキュッと結ぶと広樹の足を叩いた。

「何があったのかは知らないが、とりあえずお疲れ様。

そろそろ朝食だな。君は今日の用意をするといい。」

(本当に訓練中とかは別人だよな,,,)

そう思いながら、広樹は立ち上がって屋敷の中に入った。


広樹は部屋にあった桶で顔を洗うと、一階の大食堂に降りた。

そこにはすでにジェネリアとチャールズがいた。

「おかえり。その様子だとどうやら何かあったようだな。」

「えぇ、ひと悶着ありましたが私は無事です。

あ、こちらお借りしていた剣です。ありがとうございました。」

そういうと、広樹は剣をチャールズに手渡し

自分の席に着いた。

机の上には魚のスープとパン、イチジクが並べられてあった。

流石港町、といったところか。

鮭がふんだんに使われているスープは

広樹の空腹を刺激した。

広樹は手を合わせるとまずはスープから食べ始めた。

スープには胡椒をはじめとする様々な香辛料が使われていた。

(確か、この時代の香辛料は貴重なんだよな。

流石貴族、といったところか。)

広樹は次にパンを食べ始めた。

それは現代のパンとは少し異なり固かった。

しかし、頬かな甘みがありスープとよく合った。

食事がゆっくり進んでいる間、チャールズが広樹に質問をした。

「そういえば、何があったのか聞いていないな。

教えてくれないか?領内で何かあったと知ればそれなりの対応をする必要が出てくるからな。」

広樹は口の中にあったパンを飲み込み、口を開いた。

「実は、よくわからない奴らから手紙が来たのです。」

「手紙?!」

そういうとジェネリアは立ち上がった。

その場にいた一同がジェネリアの方を見た。

ジェネリアは顔を赤くして話し始める。

「すみません。実はその話を聞いたことがありまして,,,」

「いつ?どこで聞いたか教えてくれないか?」

チャールズがジェネリアを問いただす。

ジェネリアはゆっくりと話し出した。

「じ,,,実は,,,昨日聞いたばかりであまりわからないんです,,,」

「そうか,,,わかった。この件についてはまた後で聞くとしよう。

じゃあ、私はこの後仕事があるから。」

そういうと、チャールズは食堂から出て行った。

広樹がジェネリアに対してイチジクをかじりながら聞く。

「どのように聞いたか教えてくれませんか?

何か重要な手掛かりになるかもしれないので。」

「ごめんなさい。そのことしか聞いてないの。

レーヌこそ何かあったの?」

広樹は昨日見た惨事を言うか迷った。

あんな気持ち悪い話をジェネリアに、しかも食事中に言うべきではないと思ったからである。

しかし、あまり知らないのにあの反応は不自然であると広樹は感じた。

となると、最初から彼女がこの要件を知っていてわざと報告していなかった

可能性もありうる。

広樹はジェネリアに対して最大の警戒をする必要があると思った。

何か知っている気がしたからである。そう広樹の勘が言っているのだ。

「いえ、今はやめておきます。では、私はこれで。」

そういうと広樹は足早に退室した。

自身の部屋の前につくと、メルが扉のそばの壁に寄りかかっていた。

「あなた、ジェネリア様に何か文句でも?」

広樹の扉を開ける手が止まる。

彼女の言葉は広樹の心に突き刺さった。

広樹は彼女の方を振り向き苦笑いをする。

「いいえ、何も。」

そういうと、広樹はドアを恐る恐る開けた。

ヒュン、と広樹の横を何かが掠めた。

広樹が音のした方を見てみると、そこにはナイフが突き刺さっていた。

「,,,なんのつもりですか?」

「いいえ。あのお方に対して疑念を持ったら容赦しないという警告よ。」

そういうと、メルは玄関の方へ去っていった。


広樹はとりあえず学校に行くことにした。

昨日はとても短く感じたはずの学校までの道が、今日はとても長く感じた。

広樹はふとチャールズの言葉を思い出す。

(戦略としては未完成,,,か。

まるで俺の思考を読むかのような口ぶりだったな。)

そんなことを考えている間、広樹は今後どうやって望みをかなえるか考えていた。

(まず、仮にエリスがガリアにいるとしたら

ガリアに行くことは必須だな。

多分、何時ぞやのなんちゃら騎士団のもとにいるだろう。

その場合、軍を率いて侵攻しなければならないな。

まぁ、いずれガリアとも戦うだろう。ともかく、ここで学ばなければ。)

彼はエリスを救うためにいろいろな策をめぐらせていた。

しかし、なぜあの騎士団がエリスをさらったのかということが

どうも彼の腑に落ちなかった。

彼はふとジェームスのことを思い出した。

(そういえば、彼は元気だろうか。

少し落ち着いたら彼のもとに出向こう。)

広樹はそんなことを考えてすこし微笑んだ。

学校につく。広樹は教室に向けて走った。


広樹が階段を上り、教室につくと悲鳴が聞こえてきた。

広樹が勢いよく扉を開けると、そこには黒い十字を付け、

甲冑で身を覆った大男が立っていた。

そして、その大男の前には同じく黒い十字を付けた若い女が立っていた。

「おまえは誰だ!?」広樹が睨みつけながら問う。

大男は広樹にゆっくりと近づいた。

徐々に後ずさりしていく広樹。

そんな広樹に大男はとあるものを渡した。

それは、大男が身に着けているものと同じ黒十字だった。

「これはなんだ?」

「知らなくていい。とにかく、これを付けて放課後教会に来るんだ。」

そういうと、若い女と大男は去っていった。

広樹はそれを呆然と見ながら、ただただ立ち尽くしていた。


授業が終わり、帰宅しようとすると広樹は黒い十字のことを思い出した。

広樹は教会に行くかどうか迷った。

広樹としてはそこで何が行われているのか興味はあったが、

行くことに危険性も感じていた。

広樹は数分悩んで、とりあえず行ってみることにした。

教会は思ったより近くにあり、学校からもすぐに目に付くところにあった。

教会は何も物音がせず、夕方の薄暗さもありかなり不気味だった。

広樹は少したじろいだが、意を決して行くことにした。

門を開けると、そこにはさっきの大男が立っていた。

大男は広樹に話しかける。

「来たか。では、始めるとしよう。」

(始める?何を?)

広樹が混乱していると、そこにさっきの女がやってきた。

「実はね、私たちは地球から来たの。

あなたも地球から来たんでしょう?」

「えぇ。あなたの言う通りです。」

広樹がうなずくと、女は少し誇らしげな顔をした。

「だから言ったでしょう?

まぁいいわ。私たちの目的はただ一つ。

元の世界に帰る方法を探すこと。この世界は危険よ。」

広樹はこのことを聞いて胸がいっぱいになった。

ようやく、元の世界に帰る方法を探し当てる仲間が見つかったのだから。

しかし、この世界は危険という言葉がどうも引っかかる。

確かに治安は荒れているが、そんなものがちっぽけに感じるような言い方だった。

「その目的には同意しますが、あなたの言う危険とは?

あまり危険ではないように感じるのですが。」

女はため息をついて、広樹に語り掛けた。

「そこから説明した方がよさそうね。

一言で言うなら、この世界は全てプログラムされているわ。

それも一人の人間によって、ね。」

広樹は彼女が何を言っているか理解できなかった。

「ええと、つまり?」

「この世界は,,,」

そういうと女は立ち上がっていった。

「間違いなく何かの陰謀によって動かされているわ。

その陰謀に私たちは利用されている。」

広樹は彼女のやけに緊迫した表情に嘘があるようには思えなかった。

大男が広樹に話し始める。

「ちなみに、俺は1915年から来た。彼女は2031年。君は?」

「私は2030年から。」

「本当に?!」

女は広樹に駆け寄り、肩を激しく揺さぶった。

広樹が女を引きはがすと、女は広樹から離れた。

「ごめんなさい。実は、あなたが来た時代の一年後、世界大戦が起きるのよ。

この大戦は核ミサイルによってすぐに終わったわ。

この大戦でブリトン共和国が勝利するんだけど、ブリトン政府はこの戦争に満足いかなかったみたい。

だから、時間超越装置、つまりタイムマシンね。これを開発したの。」

広樹の頭の中が混乱する。

確かにタイムマシンというのは開発されてもおかしくない。

しかし、あの狡猾で常に予想外のことをする政府がそのようなことをするだろうか?

ブリトン政府がそのような重大事項を発表するはずがない。

だから広樹は彼女らの言っていることを疑った。

だが、彼女らが核ミサイルだの世界大戦だのという

この時代にはない言葉を知っていた。

だからとりあえず彼女らは未来人であると結論付けた。

「わかりました。疑問は残りますが、とりあえず信じましょう。」

広樹がそういうと、彼女らの顔が明るくなった。

「信じてもらえてうれしいよ。

ところで、まだ私たちの目的について話していなかったね。

私たちはあえて彼らに操られることにする。

そのためには、彼らの望むことを行う。

多分、政府としては世界のやり直しを望んでいる。

この世界の歴史を塗り替え、初めからブリトン人が世界を征服することを望んでいる。

そのためには国の強国化が必要だ。

そこで、だ。私たちの手で共和国を建国し、ナポレーノのように暴れて見せようではないか。」

そういう大男の目は、兜でよく見えなかったがギラギラしていたのは見えた。

(ナポレーノか。彼のように一度世界帝国を築いたものの末路を知らないのか。

ラテニア帝国もそうだ。

しかし、この国を滅ぼすのも面白いかもしれない。

この結果が最善であるように見せかける。

残念ながらあのブリトン政府は嫌いでね。)

ここで、広樹はとあることに気づく。

それは、ここが地球であるかのような口ぶりで語っていたことだ。

「少し気になったことがあります。なぜ、ここが地球であるかのような話し方をしたのですか?

ここが仮に作られた世界だとしたら、地球ではないのではないでしょうか?」

二人が顔を見合わせる。

しばらく二人で話し合っていたが、話し合った後大男が広樹に話しかけた。

「まぁ確かにそうなんだが,,,一応わかりやすいだろ?」

広樹は彼のこの発言に少し違和感を持った。

普通、呼称というのは事前に決まっているものだ。

しかし、彼らはそれを名付けた理由を知っているであろうにも関わらず、

彼らは広樹に教えなかった。

単に忘れているだけという可能性もあるが、

それでも広樹は強烈な違和感を感じた。

広樹は考えながら、窓の外を見た。

気付けば、もう陽は落ちていた。

教会の中は蝋燭が灯っており広樹はこのことに気づかなかった。

「それでは、そろそろ帰ります。

また今度、ここに来ます。」

「わかった。それじゃあ。」

そう約束を交わすと、広樹は門を開けて家に帰った。



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