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神の使徒

広樹が目覚めると、既に夕方だった。

しかし、倒れていた場所とは異なり部屋の中だった。

見た感じ、薬品などが置かれていたため保健室と推測した。

広樹がぼーっとしていると、何やら足音が聞こえてきた。

ゆったりとした、殺気を放つ足音だった。

広樹は近くにあった箒を手に持ち、構えて見せた。

扉が開く。広樹はかなりの冷や汗をかいていた。

しかし、その足音の主がジェネリアだと分かると広樹は肩の力を抜き、地面に座り込んだ。

「良かった。無事に元気に,,,なったのかな?」

広樹はへなへなと立ち上がり、笑顔で言った。

「大丈夫ですよ。ご迷惑をおかけしてすみません。

それでは、帰ります。さようなら。」

広樹は来るときに背負っていたバックを背負い保健室の扉を開けて廊下に出た。

そんな広樹をジェネリアは追いかけた。

「私もちょうど仕事が終わったから一緒に帰らない?」

もちろん、広樹に断る理由はなかったため承諾するとジェネリアはおもちゃを買ってもらった子供のように喜んだ。

「じゃ、帰ろ!」

ジェネリアは広樹の手を引き、走って校門を出た。

彼女に手を引かれるまま、広樹は空を見上げた。

空にはもう一番星が輝いていた。まるで、広樹を穏やかに見つめるように。

広樹はその星をしばらくまじまじと見ていたが、ジェネリアに話しかけられたため

彼女に視線を合わせた。

「まずは初日お疲れ様。なかなか活躍したそうじゃん。

校長先生も驚いてたよ。」

広樹はそう言われ、深くため息をついた。

広樹は橋の上で立ち止まる。ジェネリアが何か言おうとしたが、先に口を開いた。

「なぜ、伯爵は私をここに通わせてくれたのでしょうか?」

冷たい風が吹く。ジェネリアはマフラーをしっかりと巻いて、広樹に話した。

「,,,多分、いつか教えてくれるよ。」

それだけを残し、ジェネリアはもう一度広樹の隣に来た。


どのくらいたっただろうか。彼らはすでに屋敷の前に立っていた。

「おかえりなさいませ。」

声がする方を振り返ってみると、そこには昨日のメイドがいた。

いかにもメイドらしい立ち振る舞いをしながら、彼女は口を開いた。

「レーヌ様。ご主人様がお呼びです。

ジェネリア様は先にお風呂にお入りください。」

二人は顔を見合わせ、ひとまず彼女の言うとおりにした。

長い廊下を歩く音が屋敷に響く。広樹はメイドに尋ねる。

「そういえば、あなたのお名前は?まだうかがっていないと思いますが。」

メイドは足を止めて、広樹の方を振り返る。

「私はメルと申します。以後お見知りおきを。」

そういうと、メルはまた歩き出した。

広樹は若干不愛想だと思いつつも特に気にしないことにした。

広樹はチャールズの部屋の前につくと、メルから注意を受けた。

「主人は今、今後の重要な戦略を練っている最中です。

くれぐれも主人の気を害さないように。」

そういうと、メルはチャールズの部屋の扉をノックした。

中から返事が聞こえる。

メルは扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。

「ご主人様。レーヌ様を連れてまいりました。」

チャールズはにっこり笑って立ち上がる。

「そうか。君ももう疲れただろう。今日はゆっくり休むといい。」

メルはお辞儀をする。

「それでは、失礼します。」

そういうと、メルは扉に手をかけて退室した。

メルが出て行ったあと、しばらくの沈黙が続いた。

チャールズがゆっくりと椅子に座り、何かを探し始めた。

広樹はこの空気に耐えられなくなり、口を恐る恐る開いた。

「どのような用事で私をお呼びになられたのですか?」

チャールズが話し始める。

「君、チェスはできるかな?」

(チェス,,,チェスか。駒の動かし方くらいなら知っているし、まぁやってみるか。)

「えぇ、ぜひとも。」

そういうと、広樹はチャールズの前にすでに用意されていた椅子に腰かける。

チャールズと広樹は駒を準備しながら、いろいろなことを話した。

「今日はどうだった?リチャードは元気そうだったか?」

「はい。とても刺激的な一日になりました、校長先生は元気でした。」

「そうか。」

チャールズは少し口角を上げた。ちょうど準備が終わったようで、二人とも目線を合わせた。

「じゃあ、君からどうぞ。」

「わかりました。」

そういうと、広樹は駒を動かし始めた。

「なるほど、大胆な手だ。」

そういうと、チャールズは駒を動かした。

しばらく一進一退の攻防が続いていたが、徐々に広樹が劣勢となった。

「君の手は確かに戦術としては素晴らしいな。」

そういうと、チャールズは広樹のキングの前に駒を置いた。

「チェックメイト、だ。」

そういうとチャールズはにっこり笑った。

その笑顔は、娘そっくりだった。

「君の戦術はとても良かった。さすが戦術家の卵だ。

しかし、戦略としてはまだまだ未完成だった。

戦いは戦術も重要だが、それ以上に戦略が重要だ。

楽しかった、またやろう。」

広樹はまだ彼の目に何かがあるように気がした。

チャールズもその様子に気づいたようだった。

しかし、二人の口からは何も発せられなかった。

広樹はお辞儀をして、黙って部屋を後にした。


広樹が自分の部屋に戻った後、机の上に一枚の手紙が置かれていることに気が付いた。

差出人は不明で、広樹は恐る恐るその紙を開いてみた。

そこには、震えた字でこう書かれてあった。

「一人で山の上まで来い。さもなくばあの女の命はない。」

広樹はあの女というのがエリスのことだと即座に理解した。

しかし、この手紙が広樹を誘い出す罠だとも考えられたため、広樹はどうしようかと考えた。

(できれば一人くらい連れていきたいが、チャールズさんたちに迷惑を

かけてはいけない。さて、どうしようか。)

広樹は妙に冷静だった。広樹もよくわからなかったが、とりあえず報告だけして

山に向かうことにした。

こぶしを握り、覚悟を決めると広樹はもう一度チャールズの部屋の扉を叩いた。

声がしたが広樹は報告に来ただけなので、とりあえず用件だけ言うことにした。

「今からそこの山の向こうに行ってまいります。

夜が更けるころには戻ってくるでしょう。あと、剣をお借りしてもよろしいですか?」

しばらくの沈黙が続く。

「,,,わかった。くれぐれも気を付けるようにな。」

広樹は肩を落とし、長い廊下を歩いて外に出た。


部屋の剣を抜いて防寒具を着ると、広樹は急いで外に出た。

広樹はエリスを取り戻せるかもしれないという期待と、

もしかしたら嘘かもしれないという不安が葛藤していた。

そんなことを考えながら山の中に入る。

広樹は周りを把握すると、山の中を一気に走り抜けた。

しばらく走って、山の森の中からもうすぐ抜けようかというところで少し休憩することにした。

休憩中、広樹は木々の葉の隙間から星空を見た。

美しい星々。穏やかな森林。広樹はここで寝てしまいそうだった。

しかし、広樹の中の不安がそれを許さなかった。

広樹は眠りにつこうとするたびに、緊張や不安が襲ってきた。


30分くらいたっただろうか。

広樹は体の疲れがある程度解消されたため一気に行くことにした。

山の上に走り抜けていくとき、広樹は手が少し震えていることに気づいた。

しかし、すべてを忘れて走り抜けた。

広樹が山頂につくと、とある教会があった。

古びた教会は今にも崩れそうで、かなり苔が生えていた。

広樹は取り合えず中をのぞいてみることにした。

教会の周りを調べてみたところ、一つ、小さな穴が開いていることに気づいた。

しかし、身長が低い広樹には少し高い位置にあった。

周りを見渡してみても、台みたいなものはない。

仕方なく、広樹は教会の扉から中の音を聞いてみることにした。

中から、広樹は女性の呻き声に近いものを聞いた。

まだエリスがいると決まったわけではないが、とりあえず広樹は中に入ることにした。

中にはたくさんの死体があり、呻き声はほぼ死にかけの死体が発していた。

広樹はその様子を見てじりじりと下がって剣を構えた。

「おいおい嘘だろ,,,」

広樹の顔が引きつっていたとき、一人の男の笑い声が聞こえた。

「素晴らしい,,,素晴らしい!あなたはやはり神の使徒だ!」

広樹は少したじろいだが、すぐに対抗して声を出した。

「俺をここに呼んだのは貴様か?なぜだ?」

「それは,,,」

そういうと、その男は広樹の後ろに回り、剣を振った。

広樹はそのことを察知し、剣を躱した。

「ほう,,,なかなかやるようだ。やはりあなたが神の使徒かもしれない。」

「どういうことだ!」

広樹が声を発したのもつかの間、男は広樹の頭を狙って剣を振り落とした。

広樹は剣でそれを受け止めると、男はニヤリと笑って剣をしまう。

そして、男が話し始めた。

「申し遅れました。私はフリージア統ブリトン総括、

ヴェルハイム・フォン・ジークフリートです。

此度はあなたに試練を受けてもらいに来ました。」

「試練?」広樹がヴェルハイムを睨みつける。

「えぇ、といっても簡単なものですよ。」

そういうと、ヴェルハイムはランプに火をともした。

「あなたにはこの世界を滅ぼしていただきます。

いいえ、こういうと難しく聞こえますね、

あなたには人類滅亡の発端となってほしいのです。」

広樹はわけがわからなかった。

いきなり人類滅亡など言われても、広樹はそんなことできるわけが無いと思った。

ヴェルハイムはまだ話す。

「神の使徒の行動は、いずれ我らを滅ぼす。

私はそれが望みです。

神聖書にも書かれています。

『我らを滅ぼすもの、即ち我らが救いなり。』とね。」

「ふざけるな!」

広樹は剣を振りかぶってヴェルハイムの頭をめがけて振り下ろした。

ヴェルハイムは咄嗟に剣を抜き、広樹の攻撃を受け止めた。

広樹はそのまま力任せに斬ろうとしたが、ヴェルハイムが微かにほほ笑んだので

少し攻撃の手を緩めてしまった。

その一瞬、ヴェルハイムは広樹の腹を狙って剣を刺した。

広樹はすぐに下がったが、少し剣が腹に刺さった。

少しずつ流れ出る血。

広樹はその生暖かさを感じながら、ヴェルハイムの攻撃を防いだ。

「これで,,,終わりですか。あっけないですね。

あなたは使徒ではないのかもしれません。」

そういうと、ヴェルハイムは広樹の首に剣を突き付けた。

広樹は命の終わりを覚悟した。

広樹が目をつぶると、ヒュン という風を切る音が聞こえた。

目を開けると、ヴェルハイムの右腕に弓矢が刺さっていた。

広樹は後ろを向く。そこにはゼボンがいた。

広樹は戦っていることを忘れ、ゼボンのもとに駆け寄った。

「ゼボンさん、ありがとうございます。

しかし、どうしてここに?」

「,,,,,,」

ゼボンは静かにヴェルハイムを睨む。

まるで、親の仇を見るかのように。

「やはり,,,あなたが神の使徒なのですね。」

そういうと、ヴェルハイムはそのまま持っている剣で自身の首を引き裂き、

悍ましい声を上げながら死んでいった。

広樹はその首をゼボンに渡された袋に入れると、下山した。


途中の山小屋でゼボンと別れると、広樹は様々なことを考えた。

(なぜ俺が呼び出されたのだろう。

しかも、命を狙おうとしたのだろうか。俺何かした覚えないんだけどなぁ。)

取り敢えず、広樹はこの疑問は神聖書というものを見ればわかるのではないかと

推測し、ひとまず屋敷に戻ることにした。

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