訓練と『暁の架け橋』
仕事の影響で投稿が遅れました。
内容も少し短いです。
「いってきますー!」
朝、何時ものように家を出た俺は、まず手首や足首そして膝等を軽く動かす。
そしてどこも問題ないと確認すると、その場から走り出した。
目指すは近所の公園!
家を出て左側の道を少し行った所にある公園を目指し俺は、右側の道を走り出す。
最初に言っておくが、俺は寝ぼけているわけでも方向音痴というわけでもない。目指すのは公園だが直接向かう訳ではないだけだ。
そのまま暫く走り続け、住宅地を抜けて商業区へと出る。
「あら、おはようジェイドくん。今日も頑張ってるわね!」
「おはようございます。ノンノさん!」
母ジェミニが、いつも食材を買っている食料品店の女店主であるノンノさんが挨拶をしてきたのでこちらも挨拶を返す。
箒を片手に持っているところを見ると、どうやら店の前を掃除をしているようだ。
「おはよう。今日も走ってるねぇ!」
「はい、おはようございます!」
「終わったら汗を吹かなきゃ駄目よ!」
「判ってる!でも、ありがとうございます!!」
「水分も取るんだぞ!!」
「バックに入ってるよ!」
ノンノさんを始め、自分の店の前を掃除していた商業区の人達が、声を掛けてくるのももう何時もの事だ。
その声に返事をしながら俺は商業区の大通りを走り抜ける。
更に別の住宅地を抜け、目の前に迫るは300メート(約300メートル)程の長く傾斜のキツめの坂道。
「よし!」
一度止まり、呼吸を整えると俺は全力で坂道を駆け上がる。
「ハァ! ハァ! ハァ!」
100メート程までは大丈夫だったがそこからが苦しくなり呼吸も荒くなってくる。
150・・・170・・・・・・・200・・・・・・・・・・・・・240、
「ハァーっ!ハァーっ!ハァーっ!」
ここまで来ると最初のスピードはかなり落ち、呼吸も激しく荒れる。
それでも歩みは止めない。
260・・・・270・・・・280・・・・285・・・・・290・・・・・・295、
「300!! 着いたぁー!!!」
坂道を上りきり、俺は反射的に両膝に手を付こうとして・・・直前で止め後ろ腰に手を当て空を仰ぐ。
「ハァーっ!ハァーっ!」
そのままゆっくりと歩きながら呼吸を整える。
激しい運動をした時、急に身体を止めるのは身体に悪い。
昔、何処かの修行馬鹿サムライに教えてもらった事を行いながら俺は"ある場"所を目指し歩いていく。
着いたのは坂道の上にある高台。そこにあるベンチであった。
「スゥーーーハァーーー」
一度深く深呼吸をすると、俺はベンチへと腰かける。そして背中に背負ったバックをおろし中からタオルと水筒を取り出すと、まずは顔や身体から噴き出す汗を拭き取る。
「ゴクッゴクッ」
拭き終わると母ジェミニが作ってくれた『ハーブ水』を入れた水筒に直接口をつけて流し込む様に飲む。
爽やかな風味があるそれは、渇いた喉を、熱くなった身体を優しく潤してくれる。
ようやく一息つけたな。そんな風に思っていると
カーーーーン!カーーーーン!カーーーーン!
遠くから鐘の音が聴こえてきた。
「8時の鐘か・・・・」
聴こえてきたのは教会が時間を知らせる鐘の音。あの鐘の回数が知らせるのは間違いなく8時だ。
確か、近所の住宅地を走っている最中に7時の鐘が聴こえていた。つまり、家からここまで来るのに1時間と少し掛かった訳だ。
「まあ、少しはマシになったかな?」
家からここまで、約5カート(約5キロメートル)。初めてここに来た時は確か2時間以上掛かったはずだ。その時に比べればそれなりに身体を動かせる様になったという頃だろう。
最も目先の目標である、『往復で一時間を切る』という目標には程遠いがな。
そんな事を考えながら、ふと視線を後ろに向ける。
高台から道を挟んで反対側。広い敷地が鉄製の大きな門と柵に覆われている。その奥に、我が家十数建分はあるだろうと思われる大きな建物がある。
『地方軍・イバー支部本部』
この町の治安を一手に引き受けている場所だ。
しかし、俺の視線はその建物ではなく建物の入り口付近に立つ2体の大きな鋼の人形に注がれていた。
「『魔機兵』・・・」無意識にそう呟いてしまう。
『魔機兵』、それは遥か昔。"創世記"に造られた人形兵器。
かつて創造神が自分の手足替わりに造ったとされる『人形』を元に、当時の者達がそれを摸倣して造り上げた鋼の巨兵。
そして、『黄昏の200年』が起きる原因となったもの。
「『ソルジャー』が2体・・・今はあれだけで良いんだなぁ」
アレは、この町の治安維持の切り札だという。
しかし、昔ならこの『イバーの町』規模を防衛するとなると、せめてあと『ソルジャー』1体、『ウィザード』2体ほどが必要だったんだが、平和になったということか。
因みに、『ソルジャー』や『ウィザード』と言うのは『魔機兵』の"タイプ"で、魔機兵には様々なタイプが存在する。
各々に物理攻撃が得意だったり、魔術が得意だったりと性能や得意分野が異なるのだ。
『ソルジャー』の特徴を挙げると、
操作性が良く初めて乗る者でも動かしやすい。
とくに際立ったものはないが、全体的に能力が平均値である。
追加兵装が豊富なためどんなことでもある程度対応出来る。
と、いった感じだ。
「まぁ、『玉』が取り付けてなければただの大きな置物だけどな」
玉とは魔機兵の核であり、召喚器であり、操縦空間でもある魔道具だ。
平常時は直径5セート(約5cm)程の小さな水晶球だが、召喚時には直径1メート(約1メートル)程の大きさになり魔機兵と一つになる。
その中は異空間になっており、操縦者はその中で魔機兵を動かすのだ。
現在、あの2体からは玉が外されている。何でもいざという時以外動かせない様に厳重に保管しているのだとか。
そんな事、昔なら考えられない事だ。これもまた今が平和であるということの証明だろうか。
「さて、休憩はこのくらいにして・・・」
タオルや水筒をバックに戻し背中に背負う。俺はそのまま立ち上がると来た道を見る。
戻りは下り坂、一見楽に見えるがその実足腰に掛かる負担は上り以上だ。勢いに任せて調子に乗ると足首や膝を痛めてしまう。
それらに注意しながら俺は本来の目的地に向かって走り出すのだった。
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「よーし。準備運動終わり。これからが本番だ」
あれからまた一時間程かけて近所の公園にたどり着いた俺は、休憩を済ませベンチで一人呟きながら周りを見渡す。
この公園は意外に広く子供が遊ぶ遊具広場を始め、子供だけではなく大人も使える多目的広場、それらを囲む様に散歩やランニング用の歩道まである。
俺は遊具広場に近い歩道にあるベンチに座っていたが、誰もこちらを視ていないのを確認するとそのままベンチの後ろの森の中へと入っていく。
公園のすぐ隣にある森は本来立ち入り禁止なのだが、まあ、そこはそれ。
そのまま真っ直ぐ進むと、
「よし。あのままだな。此処なら良さそうだ」
入った場所から実に20メート(約20メートル)も行かない所に、突然木々が開けた小さな空間が現れる。
ここは近所の子供達(今は自分もそうだが《笑》)とボール遊びをしている時に偶然見つけた場所だ。
公園からたいして離れていないのにもかかわらず、周辺の木々がこの空き地を覆い隠している為公園側からは此方が見えないのだ。
「これからやる事、他人に視られたくないもんな」
断っておくが、俺は別に犯罪紛いの事をしようとしている訳じゃない。
ただ、今からやることは現在だと普通あと数年後に行う事らしい。
絶対というわけでは無いらしいが、それでも他の者に知られると色々面倒な事になりそう。
なので此処のように他人から視られないような場所が必要だったのだ。
「始めるか・・・」
10メート(約10メートル)程の空き地の中心に立つと俺は目を瞑り、意識を身体の内へと向ける。
心臓の少し手前の辺り、そこに小さな灯りが灯るのをイメージする。
小さな、それこそ吹けば消えてしまいそうな小さな灯り。
それは徐々に大きくなり、今の俺の拳程度なる。そのようなイメージをしていると不意に胸の辺りが本当に温かくなるのを感じる。
「・・・・次」
大きくなった灯りが、まるで水の様に細い管を通しヘソのやや下辺りに流れるのをイメージ。胸の灯りはそのままにお腹に溜まる灯りは増えていく。
ある程度溜まると今度はお腹周辺も温かくなる。
「次」
今度はお腹に溜まった灯りが上下にある管を通して上と下に延びていくのをイメージ。上に延びた灯りは途中で3又に分かれ頭、右腕、左腕へと延びていく。当然、下に延びたものは2又に分かれ右足、左足に。
そして、ある程度まで延びると今度はあちこちから枝分かれを始め、まるで葉の葉脈の様に全身へと拡がる。この段階になると身体全体が温かくなる。
「次だ」
全身の灯りはそのまま、今度は意識を身体の外側へと向ける。
この状態に成ったからか、自分の周囲の状況が変化していることに気付く。
自分の周囲の大気に身体に拡がっている灯りと似たような灯りが、霧の様に辺りに漂っているのを認識できるようになるのだ。
俺はそのまま小さく深呼吸をする。
「スーハァー。スーハァー」
すると霧の様な灯りが身体に、厳密には身体中に拡がる灯りの管に吸い込まれていく。
霧を取り込んだ灯りの管はそれまで以上にその光が強くなる。
俺はそれを繰り返す事で灯りをどんどん強くしていく。
そしてある程度繰り返すと、それ以上灯りを強くすることが出来なくなった。
「最後だ」
目を開けた俺は身体中の灯りが右人指し指に集まるのをイメージ。
灯りが指に集束するとこれまで以上の熱さを感じるが、それを無視して指先に意識を集中そして、
『大いなる火の欠片を此処に』
力ある言葉を口にする。
その瞬間、指先に小さな魔法陣が現れ紅く染まる。
『火よ、有れ!』
俺の言葉と同時に指先の魔法陣から小さな火が現れる。
小さな、子供の小指程度の火。
それは俺が魔術によって作り出した炎であった。
「よしッ!成功だ!!」
生まれ変わってからの初めての魔術成功に思わず逆の手を握りしめて声を出してしまう。
もっともコレ自体は魔力を扱えるなら誰でもできる、単なる『魔力の性質変化』なので魔術と言って良いのか疑問なところだが・・・
まあ今重要なのは、結果ではなく其処に至るまでの過程だ。
「『魔力通路』は問題なく機能してるな。時間を掛けて彫った甲斐があったぜ」
自分の全身に見えない管が通っているのを改めて確認する。
『魔力通路』、それは文字通り魔力が通る道の事だ。先程、最初に『核』から取り出した魔力は、その者の意思で身体のいたる場所に自由に移動させる事ができる。しかしそのままではそのスピード、魔力伝達速度はハッキリ言って遅く役に立たない。実戦ではいかに速く魔力を練り魔術を行使するのかが重要だからだ。その為魔力をスムーズに身体に流す『道』を作ってやる必要がある。何度も何度も同じ場所に魔力を流し魔力が流れやすい場所を彫ってやるのだ。さながら砂の上に水を流し少しずつ砂を削って川を作るように。
こうして道を作る事で、魔力の伝達速度は魔力通路の無い時の10倍~20倍となる。
そしてもう一つ、魔力通路にはとても重要な役割がある。
「よーし。次だ」
俺はもう一度目を閉じて先程と同じ様に意識を身体の内に向ける。
心臓の手前の核から魔力を取り出しヘソの下辺りの『丹田』に貯めるまでは先程と同じ。だが、ここからが違ってくる。
お腹辺りから渦を書く様に広がる光の管、すなわち魔力通路を通った魔力が途中で上へと伸びて、そのまま頭の先まで伸びると降り曲がり一度胴体まで降りてくる。
「次は右手」
胴体まで降りた魔力は今度は右手の方に伸びていく。そして、掌の辺りで折り返しまた胴体まで戻ってくる。
「右足」
そこから今度は右足に向かって同じ様に
「左足、左手」
当然、左足、左手も同様に。
左手から戻ってきた魔力は最後に丹田へと戻りここまでの魔力通路が一つに繋がる。この時重要なのは頭や四肢から戻ってきた魔力通路がある7ヶ所をちゃんと通っているか確認する事だ。
「ここから・・・」
そして俺は今度は魔力を一つに繋がった魔力通路に流し循環させ始める。
最初はゆっくりと、そこから徐々に速くしていく。そうすると魔力に変化が現れ始める。循環する魔力が7ヶ所にあるポイント『チャクラ』を通る度、管の光が増す。即ち魔力が増えていくのだ。
それを繰り返し増えなくなるまで続けると、先程の様に指先に魔力を集め
『火よ。有れ!』
呪文のあとにそう唱える。
はたして俺の指先には先程と同じ小さな炎が・・・・・
「よーしよし。『マナ吸着式増幅法』も『チャクラ循環式増幅法』もどちらも上手く機能してるな。どちらの魔力通路も問題無し、っと」
魔力通路のもう一つの役割。それは『魔力増幅』だ。
実のところ自らの核から取り出せる魔力だけでまともな魔術を行使できる種族は殆どいない。その為自らの魔力を魔術を行使できる段階まで、魔力通路を使った増幅法で増幅しなければならないのだ。
しかし、魔力通路を身体に彫るのに約1年か・・・・・
「やっぱり、才能無いな。俺」
本来、魔力通路は年齢が低い程作りやすい。まだ身体が成長段階にあるためか、大人よりも身体に彫りやすいのだ。逆に大人(もしくはそれに近い身体)では彫るのにかなりの時間がかかる。
今の時代、魔術を学び始めるのがだいたい7歳位で、魔力通路を作るのに掛かる平均が約半年と言うことだ。
因みに今の俺は6歳で魔力通路を彫り始めたのは5歳位の頃・・・・
繰り返すが魔力通路は年齢が低い程作りやすい。(もっとも精神の成長もある程度必要になるため7歳という年齢は妥当なところ)
他人より2年程速く行っているにもかかわらず、その倍程の時間がかかっている辺り俺の才能についてはお察しと言うものだろう。
例えそれが種族的なものだったり、他人の倍彫らなければならないからだとしても
・・・・・まあ、今更な事だな。
「兎に角、"火"は上手くいった。次は"水"、その後は"土"と"風"だな」
とりあえず、昼飯時までに『四大属性』の状態変化までは出来るようにしないとな!
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そもそも、俺が毎日の訓練を始めたのには理由がある。
それは約一年前、母に俺の目標を告げた日に遡る。
「なるほど。ジェイドは世界中の色々な所を見て回りたいと・・・」
その日の夜、仕事から帰ってきた父ハンスは朝の話を聞いて腕を組んだ。
「う~ん。なかなか難しいねソレは」
少し悩んだ末に、腕を解くと父は困った表情でそう答えた。
「どうして?」
「『境界壁』、···ジェイドにも判りやすく言うと、『国と国を分ける魔術の壁』のせいかな」
それは知っている。現代では国と国の境界線上、もしくは特定の区間との境界では魔導具を使い魔術的な壁が作られているという。その為勝手に境界間を行き来することはできず、それをするためにはちゃんとした許可と資格が必要との事。そして決められた関所を通らなければならないらしい。(因みに正当な理由もなく無理矢理この壁を突破した者は、もれなく国家間規模の犯罪者扱いとなる。)
何でも200年ほど前に世界の国同士の間で決められた決まりらしいが····
「どうしてそれがむずかしいの?」
確かに勝手に行き来することはできないだろうが、そこまで難しい事なのか?
「う~ん」と唸りながら父は頭を掻く。
「『境界壁』を通るには色々な許可が要るんだけど、ただ問題なのは資格の方かな···」
「しかく?」
「そう、資格。最もただ外国に旅行しに行くだけならそう難しい事じゃないけど、ジェイドが言ってるのはそういう事じゃないだろう?」
父の言葉に俺は頷く。そういった面も確かに有るかもしれないが、ソレがメインと言うわけじゃない。俺は"今の世界"を、アイツらが礎を築いたこの世界を見て回りたいのだから
「そうなると、"国家間移動"、"長期滞在"の許可と資格は勿論。"立入禁止区域侵入"の資格も必要になるだろうし場合によっては"危険区域侵入"の資格なんかも必要になるかも···」
「そ、そんなにあるの?」
なんか、思った以上に必要な資格が沢山あるんですけど?
ソレ全部の資格を取る必要あるの?あ、はい。あるんですね····
「他にも色々有るよ、だから難しいのさ」
でも、と父は口にする。
「ひとつだけ、それらの資格を省く事ができる職業があるにはある」
「え、なに。どんなしょくぎょう!?」
そんな便利な職業があるなら最初から言ってよ。
「····冒険者さ。『冒険者ギルド』に所属する冒険者、それも"上級冒険者"に限りそういった各資格が免除されるんだ」
『冒険者』、かつての俺が死んだ後に生まれた職業で、元々は傭兵業から派生した職業らしい。なんでも傭兵業とは違い戦闘や護衛だけではなく、様々な依頼をこなす何でも屋、とのこと。
ここだけ聞くと大したこと無い職業に聞こえるが、その元締めである『冒険者ギルド』は世界各所に支部が存在し、各国に対して強い影響力を持っている。そして"上級冒険者"と呼ばれる者達は高い実力を持ち、その実力は王国や帝国の上級魔導騎士クラスの者もいるのだとか。
「彼等は国や上級貴族から依頼を受ける事もあるからね。そういった依頼は急ぎ、国から国に移動する必要があったり、禁止区や危険区での採取や討伐だったりするから····」
なるほど、だからそれらの資格が免除されていると。そういう事なら話は早い。
「じゃあ、その"じょうきゅうぼうけんしゃ"になればいいんだ!」
進むべき方向性が見えたことで俺も気合いが入る。·····だが、
「あ~、え~っと。それはちょっと止めた方が良いと····お母さんは思うな~ねぇ?」
「そう···だね。お父さんもそれはどうかと····うん」
おや、両親の反応があまりよろしくない?
「もしかして、ダメなの?ぼうけんしゃ」
「え~っと。別に冒険者が駄目という訳じゃ無いんだけど。」
「上級冒険者となると·····その、ジェイドには」
「うん。少~し難しいと思うの」
冒険者自体は年齢が15歳以上になれば冒険者ギルドで登録し成ることができるとの事。しかし、
「上級冒険者に成るには沢山の実績と相応の実力が必要に成る。だから···」
「ええ。ジェイドには····」
あ、なるほど····
ここまで言われてようやくピンと来た。
そういえば、自分がどういう存在なのかすっかり忘れていたな。
「それってやっぱり、ボクが『たそがれのこどもたち』だからむりってこと?」
それは本当になにげない、それこそ夕飯の献立を聞く位の気軽さで聞いた事だった。
『っつ!?、ジェイド!!!!』
しかし、両親の反応は俺の予想以上で、
「駄目でしょ!!そんな言葉使ったら!!!」
「何処で憶えて来たんだい!!そんな言葉!?」
「あ?え~と?ん~とぉ~?」
普段滅多な事では怒らない二人の真剣な怒り顔に、思わず驚き口ごもってしまう。
「あ~、あ~。お、おとーさんがへやでおしごとのホンをよんでて、そのときくちにだしてたからー」
まさか、前世の記憶が有るから既に知っていた、とは言えず。
結局それらしい言い訳を考えて説明する。
「ハンス!仕事なのは分かるけど、本を読む時は口に出して読まないで、って何時もあれ程!!」
「あれ?、これって僕のせい?」
すまん、父よ。咄嗟の言い訳とは言え矛先をそちらに向けてしまったかもしれない。
それにしても、どうして両親はここまで怒っているんだ?
「と、兎に角!そんな言葉は使っちゃ駄目だ。それは酷い差別用語なんだから」
ガミガミと怒る母から意識を剃らし、俺の両肩を掴み真剣な表情で語り掻けてくる父
しかし、差別用語ときたかぁ·····
まあ、400年前も似たようなもんだったが····
『黄昏の子供達』、ソレはある特殊な種族を示す言葉だ。
この世界では、異種族同士で子を成すとその子供は父方か母方、どちらかの種族となる。
分かりやすく言えば、ヒューマンとエルフ、この二つの種族の間で子を成した場合、子供はヒューマンかエルフどちらかになるということだ。
この事は全ての種族間にいえる。
だが、ごく稀にではあるが例外が存在する。それは『光の種族』と『闇の種族』の間で子を成した場合だ。
その場合、かなりの低確率で両種族の特徴を持つ子供が産まれるのだ。
そして、産まれた子供にはある共通の特徴がある。
瞳の色がどちらの両親とも違い、黄金色になるのだ。
光の種族でも闇の種族でも無い。
黄金色の目を持つ違う種族、それ故『黄昏の子供達』
「良いかい?確かに昔はジェイドみたいな子の事をそう呼んでいたみたいだけど、今はそんなことをしたら凄く怒られるんだぞ」
「そうよ。昔のソレは相手を酷く馬鹿にした意味だったのよ」
確かに『黄昏の子供達』という名は当時において差別と嘲笑の象徴だった。何故かと言うとそれには大きく二つの理由がある。
一つめは彼等が持つ両種族の特徴(身体的、種族固有の能力等)が純粋な種族に比べ中途半端だったこと。
そして何より二つめ、彼等は魔術適性が他の種族に比べ酷く劣っていたからだ。
一つの魔術があったとしよう。これを他の種族が1の労力で扱ったとする。
その時、黄昏の子供達は5の労力を使わなければ同じ様にこの魔術を扱え無い。
400年前は魔術適性の高さがその者の人生を決定付ける、と言ってもよかった。
何せ常に戦いの世の中だ。魔術師は勿論のこと戦士職の者ですら肉体強化や感覚上昇の魔術を使わなければ話にならなかった。
只でさえ、光と闇の種族は血で血を洗う戦いの真っ最中だ。
そんな世界で敵との間に産まれた種族、しかも生まれつき魔術適性が酷く劣っている彼等がどんな扱いを受けるか。想像は容易いだろう。
曰く、『出来損ないの種族』『穢れた種族』『不幸の象徴』『産まれつきの弱者』
·······それが黄昏の子供達の別の呼び名だ。
尤も、かつて物心ついた時から言われ、蔑まれ続けていた俺としては、最早怒りを通り越し、聞き飽きてどうでも良い物になってしまっているのだが。
「今はね?ジェイドみたいな子の事を『暁の架け橋』って言うのよ」
「ドーンブリッチ?」
「そうよ。400年前、『暁の勇者達』が魔王を倒した後に世界中に広めた言葉なのよ」
『彼等は確かに戦う力を持たず弱いだろう。しかしソレは光と闇の種族が共に手を取り合えば、もう戦う必要が無いという証。彼等は決して蔑まれる存在では無い。"出来損ない"でも"穢れた存在"でも無い。彼等の存在は"平和の象徴"なのだ。彼等の眼は終わりの黄昏ではなく始まりの暁。そして光と闇の架け橋』
「即ち、暁の架け橋。とね?」
アイツら······
『私、ジェイドさんの眼好きですよ。朝昇るお日様みたいな色で』
遠い昔、そんなことを言っていた奴がいた気がする。
「········」
考えてみれば、生まれ変わってからまだ一度もその様な視線や態度をとられた覚えがない。当然『黄昏の子供達』の名も聞いた覚えがない。
不思議に思っていたがあれはこうゆうことだったのか。
「ジェイド?聞いてる?」
はッ!? いかん。つい物思いに耽ってしまった。
「う、うん。もちろん、きいてるよ。わかった。もういわないようにきをつける」
「そうしなさい。ましてや自分を貶めるような物言いは絶対にしないこと」
「気をつけてね?」
念をおす二人に頷きながら俺は、話を戻すために「ようするに···」と問いかける。
「ボクは『た··、ちがう。『ドーンブリッチ』だからつよくなれない。だからじょうきゅうぼうけんしゃになるのはムリってことだよね?」
俺の問に両親は眉を潜めるも、頭を縦にふる。
「確かにそれはある。だけどね、別に無理をして上級冒険者を目指す必要はないと思うんだ」
「ええ、他のお仕事だって決してジェイドが望む事が出来ない訳じゃないんだから···」
その後、両親は似たような事ができる職業を幾つか教えてくれた。
国の役人や貿易商人、父のような考古学者(特に父はこの職業を推してきた)等々。
だが、そのどれもが上級冒険者に比べると制約や条件が厳しく一人気ままに世界を旅するというのには向いていなかった。
やはり、俺の目的を叶えるなら冒険者ギルドで上級冒険者になるのが一番手っ取り早い。
しかし、両親は俺には無理だと思っている。
だから、
「それじゃあ····」
俺は両親に一つの条件を提示することにした。
ところで、前世の俺も『黄昏の子供達』もとい『暁の架け橋』だったんだが····
そんな強くなれない筈の俺は、どうやって『魔王』なんて呼ばれる強さを身につけたんだと思う?
追及設定
『光の種族』ヒューマン、エルフ、翼人、妖精
『闇の種族』魔族、獣人、ドワーフ、魚人
光の種族は『マナ吸着式増幅法』を得意とし、
闇の種族は『チャクラ循環式増幅法』を得意とする。
なお、龍と精霊は例外で、両方の陣営に力を貸すか、完全ノータッチを貫く。
因みに、ジェイドは今世も前世もヒューマンと魔族の『暁の架け橋』
ハンスが魔族、ジェミニがヒューマン