新しい人生×懐かしい夢=新たな目標
遅くなりました。第1部の開始となります。
ある所に、一人の少年がいた。
少年は産まれながら"弱者"の烙印を押されていた。
そして、少年がいた場所では"強さ"こそ全てであった。
当然、少年は理不尽に疎まれ、奪われ、踏みにじられ続けていた。
ある時、少年は疑問に思った。
どうしてこんな理不尽が許される?
弱いからだと周りの者達は嗤った。
『強さこそが正義』、弱き者は強き者の糧、それ以外に生きる価値無し。それこそが世界の掟、世界の理、と
だから、少年は決意した。硬く硬く決意した。
それが世界の掟、理だと言うのなら。強くなってやる。そして・・・・・・
こんな理不尽を押し付ける世界を
自分が全部全部ぶち壊してやる。
あの驚愕の目覚めから5年・・・・・・・
こんにちは! ボク、ジェイド=ノーア。5さい!
スキなものは、おとーさん、おかーさん。それとゼリー!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・止めよう。・・・・自分でやってて気持ち悪くなってきた。
と、とにかく。あれから瞬く間に5年が過ぎた。
本当にあっという間だった。何故ならば・・・・・
その5年間の殆どを寝て過ごしたのだから。
いやいや、ふざけている訳じゃない。あれから何度も、俺は起きては直ぐに眠りに落ちる、というサイクルを繰り返し続けた。
何故こんな事になったのか?
これはあくまで俺の主観に基づく考えなのだが、
俺の記憶や人格が赤ん坊の脳では処理しきれないのではないか?
と、俺は考えた。
魔術学では、記憶や人格は魂に付随するものと言われている。
しかし、肉体が魂の入れ物である以上その影響は逃れられない。
おそらく、小児の未熟な脳では大人の思考を行うのはかなりの負担になるのではないだろうか?
それ故に脳がリミッターを掛けて強制的に睡眠を取らせようとした。
実際、あの時の感覚は、眠りに落ちるというよりも気絶するといったほうが正しい気がする。
そんなせいか、『流石に寝過ぎではないか?』と両親に心配され病院に連れていかれた事もあった。(当然、異常など無かった)
しかし、それも半年程前までの話。
おそらく、脳が適応してきたのだろう。今ではもう、突然眠くなるということは無くなった。
それでも、長時間難しい事を考えたりすると強い眠気に襲われたりするが、日常生活に支障が出るほどではない。
現在、俺は床に座り本を読んでいた。その周囲にはいくつもの本が置かれており、その殆どは父ハンスが俺に買ってきてくれた『絵本』だ。
もっとも、今俺が読んでいるのはその絵本では無く、父ハンスの書いた『論文』だ。
我が父は考古学者と言う職業らしく世界の歴史や出来事を調べているらしい。
そんな職業柄なのか、はたまた唯の読書家なのか。父の部屋には沢山の本と論文が溢れており、俺はそんな物の一つを読んでいるわけだ。
父や母からは父の真似をして遊んでいると思われているようだが。
「今はエルフリート歴1825年。"あの日"からほぼ400年間大きな戦争は起きてはいない・・・・・か」
調べていたのはズバリ"この世界の歴史"だ。
あの日からどれだけ時間が流れたのか?世界はどの様な歴史を送りどの様な状況にあるのか?それが知りたかった。
これまで調べて判ったのは、
今俺がいる所は『ユーシア大陸』と呼ばれる大陸の辺境にある『イバーノ』と呼ばれる町であること。
ここは魔王ジェノサイドが死んだ時代から約400年後の世界であること
当時の戦争は現在『黄昏の200年』と呼ばれていること
かつて光と闇の種族に分けられていた括りは今はもう無いこと
そして、黄昏の200年以降世界を脅かす用な大規模な戦争は起きてはいないこと
等の事が判った。
これ等の事が真実だとすれば約400年世界は概ね平和であった、と言うことだ。
勿論、小規模な争いや戦は合ったようだが・・・・どれも大事には到っていない。
「本当に頑張ったんだな、アイツら」
そう言いながら俺は一つの本を手に取った。その本の題は
『暁の勇者達』
黄昏の200年を終わらせた勇者とそのパーティーの事について書かれている本だ。内容は勇者達があの戦争でどの様な活躍をしたか。そして、その後どうなったかが書かれていた。
この本によると、あの後彼女達はそれぞれ戦後復興に尽力し今の世界の礎を築いたのだと言う。
あの時の誓いを彼女達は立派に守ったのだ。
「『新な平和な世界』。それを実際に視ることができるとはな・・・・」
彼女達が創る世界。死んでしまう俺には視ることは出来ないと思っていた。
しかし、今それは叶っている。それも全ては
「生まれ変わり・・・・・・転生・・・ね」
そう呟きながら部屋に置いてある姿見を視る。
そこに写っているのは当然魔王などでは無く、何の力も持たない唯の子供だ。
「とはいえ、実感湧かないな・・・・やっぱり」
そう。この期に及んでもまだ、俺は自分に起きた事に実感を持てずにいた。
魔術の世界において、"転生"という現象はすでに解明されている。
なのでそれ自体に対しては納得できるのだが・・・
「何故俺は俺でいられる?」
それがどうしても判らない。
簡単に言うと、『転生』とは魂というエネルギーの循環現象だ。
死した魂は魂の回廊を通り根源に一度吸収される。そして時を経て根源より新な魂として排出され、また魂の回廊を通りこの世界の新な命となる。これが『転生』の一連の流れ
本来魂の回廊を死した魂が通り抜ける際、魂に付随する余分な物である『記憶』や『人格』等は削ぎ落とされてしまう。そうやって純粋なエネルギーにしなければ根源に吸収されないからだ。
つまり、転生において前世の記憶や人格が残っているなどあり得ないのだが
「そのあり得ない事が起きてんだよなぁー」
有史以来、不老不死を望む者達の中には、この『転生』に目を付けた者達もいた。例え死んで生まれ変わっても記憶や人格を保持出来ればそれは不死と変わらないからだ。もっとも・・・
それが出来た者は俺が知る限り歴史上一人も存在しない
そんな多くの者達の"夢"とも言える状況に俺はいるわけで
・・・・実感が湧かないのも仕方ない事だろう。
「それに、他にも色々」
例えば、名前
俺の今生の名前『ジェイド=ノーア』。ファミリーネームこそ無かったが、前世の俺の名前と同じ名
それからもう一つ・・・・
「この眼も・・・・同じとは」
姿見に写るその姿は記憶の中にあるガキだった頃の姿とは似ても似つかない。
それなのに、金色に光る瞳は以前と全く変わらない。
そして、この瞳が意味する事は一つしかない・・・・・。
「幾らなんでも出来すぎだろ」
まるで誰かに御膳立てられているようなこの状況、むしろ全ては死の間際に俺が見ている"夢"と言われたほうがまだ納得がいく。
「ジェイドーーー。ゴハンよーーー!。」
姿見を視ながら自問していると母ジェミニの声が
「はーい!。今いくー」
年相応の返事をし周囲の本を片付ける。そして絵本を抱え台所へ
クンクン。お!、この匂いは・・・・
台所から香ばしい香りが漂ってくる。食欲を刺激するこの匂いはおそらく
「ほら、ジェイド。パイが焼けたからお昼ゴハンにしましょ」
母が持つ大皿には俺の予想通り大きなミートパイが乗っていた。
母ジェミニが作るこのミートパイは絶品だ。
サクサクのパイ生地、中の挽き肉は香辛料でしっかり味付けしており旨味たっぷりだ。
「じゃあ、お皿ならべるね」
働かざる者喰うべからず。その言葉通りなにもせずこのパイを食べるのは失礼にあたる。そう考えて俺は皿を並べはじめる。
「ありがとう、でも気をつけて。お皿を落として怪我しないようにね?」
「うん。気をつけるよ」
そんなやり取りをしながら昼食の準備を終え、俺達はテーブルにつく。
『いただきます』
この地域の風習(両手を合わせ食物に感謝する)を済ませ、大皿からパイを切り分け小皿に写してもらう。
小皿に乗ったパイをフォークで切り分け口に運ぶ。
「・・・・!」
「どう、ジェイド。お母さんが作ったパイ、美味しい?」
「っ!・・・・っっ!!」
コクコクと頷きながらパイを口にしていく。
バターの風味タップリでサクサクの生地。噛めば噛む程溢れ出る肉汁と旨味。それでいて隠し味のハーブが効いていて決してクドく無い。
やはり、このミートパイは絶品だ。
「おかわり!!」
直ぐに食べ終えて次を欲してしまう。それ程にこのミートパイは魅力的であった。
「ハイハイ、慌てなくてもまだまだいっぱい有るから・・・」
俺のそんな様子にニコニコしながらパイを切り分ける母。
そんな風に見られると流石に恥ずかしくなるが、子供の体になったからか好みの食物については、我慢が出来ず年相応に意地汚くなってしまう。
「そ、そう言えばおとーさんは?」
恥ずかしくなった俺はそれを誤魔化す為、此処にはいない父ハンスについてたずねる。
「お父さんはお仕事よ。今日は近くの遺跡を調べるって言ってたから、戻ってくるのは夕方頃かしら」
父ハンスは仕事柄フィールドワークによく赴く。遺跡や跡地等に赴きそこから出る発掘品の調査研究などを行っているらしい。
それ故に家を空ける事が度々あった。
「そっかぁ~。お昼ゴハンちゃんと食べてるかな?」
「ウフフ、大丈夫よ。お父さん用のベーグルサンドもちゃんと渡したから。今頃食べているんじゃない?」
ベーグルサンドか。あれもまたウマイんだ。
ふっくら焼けたベーグルに厚めに焼いたベーコン。新鮮なレタスとトマト。
それらを纏める母特製のカラシマヨネーズ。
いかん。想像したら食べたくなってきた。
「そうね。それじゃ~明日の朝はベーグルサンドにしましょうか」
どうやら顔に出ていたようだ。母はクスクスと笑いながらそう提案してくる。
くそ、本当に恥ずい。この体になってから本当に色々と制御が効かない。
顔が耳まで熱く感じる。おそらく赤くなっているのだろう。
そんな俺を見て更に母はクスクスと笑うのであった。
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「つまりだな。あの遺跡は約1900年以上前、つまりエルフリート歴以前の遺跡といわれているんだ。つまりは『創世記』の時代さ。でも、これまでそれを証明する証拠が全く無かった為眉唾な話とされていたんだ。でもでも!今回見つかった地下への扉はそれを証明するものになるかもしれないんだ!!どうしてかと言うとあの辺りの地層はかなり古い地層で1800年以上前のものであるわけでそれはつまり・・・・」
「ハンス。そんなに難しい話をしてもジェイドは判らないわよ・・・・」
夜。帰ってきた父ハンスはずっとこの調子で興奮しっぱなしだった。
何でも今日行った遺跡で未開拓の、それも地下への扉が見つかったらしくこれは歴史的大発見だというのだ。
それ故、その場に居合わせることが出来たのがよほど嬉しかったらしい。
「おっと、ゴメン。ゴメン。つい興奮して・・・。ゴメンな、ジェイド。つまらない話だったよな・・・・」
そんなふうに謝罪してくる父であったが、
「ぜーんぜん。おとーさんのおはなしおもしろいからボク好きだよ」
これは本当の事だ。
父の話す遥か過去の歴史や文化。現存する書物や伝承、出土する物品からの考察など。父の話はとても興味深く、聞いていて退屈しない。
「そ、そうかぁ~。面白いのかっ!。ア、アハハ!、ほらほら、ジェミニ!流石は僕の子供だよ!」
「ハイハイ」
俺を指差し大喜びする父に母は苦笑で応える。
「ち、ちなみに、ジェイドはお父さんのお話で何が一番好きかなぁ!?」
「ン~。『たそがれの200ねん』のおはなし」
『黄昏の200年』、つまりは過去の俺が生きていた時代の話などは特に面白い。
実際にその時代を生きた身からすると、失笑してしまう程的外れな事もあれば、思わず唸ってしまう程核心をついた考察等もありなかなか興味深い。
「『黄昏の200年』か!、あの時代は子供のファンも多いし納得だね。と、なると・・」
「ハイハイ!、ストップ!!」
更に話を進めようとした父を母が止めテーブルに並ぶ夕飯を指さす。
「お話はそれくらいにして、夕飯にしましょう?早く食べないとせっかく作った夕食が冷めちゃうわ」
「・・・む、それはいけないね。ジェミニの作った夕飯を冷まして台無しにするなんて許されないことだ」
まったくもってその通り
父の言葉に俺も頷き三人でテーブルについて手を合わせる。
『いただきます』
「でも、知らなかったわ。ジェイドがそんなに歴史に興味があるなんて」
夕飯後、食後のデザートを食べていると母がそんな話をしてきた。
「ん・・そうなの?」
「ええ。でも考えてみれば、よくお父さんの本や論文を使って遊んでいるし。大きくなったらお父さんみたいになりたいの?」
「そうなのかい!?ジェイド!!」
母の質問に眼を輝かせてこちらを見る父。
だが、期待しているところ大変申し訳ないが・・・・・
「ん~ん。ちがう・・・かな?」
確かに興味がないわけじゃない。が、特別なりたいとは思っているわけでもないのだ。
「あら、そうなの?じゃあ他になりたいものがあるのかしら?」
母は「違うのか・・・」と肩を落とす父を横目にそうたずねてくる。
しかし・・・・・
「・・・・・・・わかんない」
なりたいものとは"将来就きたい仕事"のことだろう。だがそう言われても今一つピンとこない。
「うーん。じゃあ、ジェイドのやりたい事は?こんなことをしたい!、みたいな事ある?」
「やりたいこと・・・・」
以前の俺だったら悩むことは無かった。(他人に言えたかは別だが)
そのために己の人生の全てを賭けた。
そして、最終的にそれを成す事をが出来た。
オマケに見ること諦めていたその後まで見れた。
だからもう、やりたい事なんて・・・・
「あらあらー、ジェイドにはまだ難しかったかもね。でも、慌てなくても大丈夫よ。これから幾らでも時間は有るんだから」
「そうだぞ。ジェイドのしたい事なら父さん何でも応援するからな」
黙って考え込んでしまった俺を心配し、そんな風に声をかけてくれる両親。
そんな両親に悪いとは想いつつも、結局ベットで眠りに落ちるまで考え込んでしまう俺であった。
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「すまん。もう一度言ってくれないか?」
「で・す・か・ら!世界が平和になったら、ジェイドさんは何がしたいですか?」
暗い森の中、今日の野宿の準備をしている時だった。
仲間である彼女、リリアーノがそう俺に尋ねてきた。
話を聞いていなかったと思っているのかその頬は膨らんでいた。
・・・・コイツは
俺は作業をしていた手を止めて半眼で言う。
「お前な、・・・・・今の世界情勢を判っててそれを言ってるんだよな?」
今現在、世界のあちらこちらで『光の種族』と『闇の種族』の戦乱が起きている。魔機兵まで使ったそれは、毎日何千、何万の死傷者を出しているのだ。戦火は広がり続け、昨日あった街が今日無くなっていることなど珍しくもない。
当然、平和への兆しなど見えてはいない。
「そんな下らない話をしているなら、明日からの作戦を確認し直しておいてくれよ。今度の所は相当危険な所なんだから・・・・」
いつものように能天気な彼女に苦言を呈しようとすると
「ハイハイ、お説教はそこまで~」
突然、背中に大きく柔らかな感触と甘い香りが・・・・・
「って、おい、ティファール!!。急にくっ付くな!!!」
後ろに顔を向ければそこには不自然に顔を赤くしたハイエルフが。
「と言うかお前!酔っているだろ!!」
「ゼーンぜん。酔ってなーいヨ。まだ一本目だし」
「飲んではいるんじゃねぇか!?」
こ、コイツ。野宿の準備もせずいきなり飲み始めやがって!!!
「まーまー、お姉さんのことは置いといて・・・。私は良いと思う。リリーちゃんが言ったみたいな事を考えるのも。お姉さんは好きだなぁー」
そう言いながらティファールはリリアーノに微笑みかける。
「こんな時代だもの。少しは明るい話題を出さなきゃ、やってられないもんね?」
「は、ハイ。それは、そうなんですけどぉ・・・・・・むぅ」
彼女の言葉にリリアーノは頷くが、直ぐにジト目になると頬を先程以上に膨らましこちらに近付いてくる。
「ティファ姉さん!ジェイドさんから離れて下さぁい~!!」
そしてそのままティファールを引張りだした。
「ぶーぶー。いいじゃないのよォ。べーつーにーぃ」
ティファールはそのまま腕を俺の首に回し離されないようにしがみつく・・・て、おい。そのまま引っ張っられたら!
「ちょ、ちょっと待ッ・・!?グェ!!く、首がぁ・・・」
当然、俺は首を絞められる形になってしまう。
「ンーっ!は~な~れ~て~く~だ~さ~い~」
「い~や~で~すぅ~」
リリアーノが必死に引っ張るも、ふざけたティファールは離そうとしない。
「お、おま・・えら・・・!いい・・かげんに・・・」
しろ!と、叫ぼうとティファールの腕を掴もうとすると
「・・・・・何をしているんだ。お前たちは」
「・・・・・ひっぱりっこ?」
呆れた顔で森から出てきた二人、ナガレとマルメロにそう言われてしまった。
「まったく。私達に仕事をさせておきながら自分達は遊び呆けているとは!」
「サボりはダメ」
焚き火用の木の枝を探しに行っていた二人は俺達を正座させ説教をし始めていた。
つーか、何で俺まで・・・・
俺はちゃんと野宿の準備をしていて、巻き込まれただけだというのに・・・・
「ジェイド!貴様も貴様だ!!貴様ならもっと早くティファ姉さまを振りほどけただろうに」
「いや、だからそうしようとしていたんだよ・・・」
「ふん。どうせ、ティファ姉さまの胸の感触でも堪能して鼻の下を伸ばしていたのだろう?この不埒者」
トンでもない事を言ってくるナガレ
「いやいや、まてまてェ!?何でそうなる!」
流石にこれには黙ってはいられず声を荒げる。
それじゃあ俺がスケベ野郎みたいじゃないか!・・・・・いや、確かにエルフにしては規格外の夢見心地な感触ではあったが・・・って、そうじゃない。
「やっぱり・・・・」
おい、リリアーノ?やっぱりて何だ、やっぱりって!!
「・・・・・・・ジェイドはムッツリ」
「おい!誰だ!?マルに変な言葉を教えたのは!!!」
するとティファールが片目をつむり舌を出して自分で軽く頭をこずく。
「てへぺろ(ハート)」
おまえかァーーーーーーーー!!!
純粋なこの子になんて事教えてやがる!?
「とにかく!俺はそんなことしていないし、考えてもいない。勝手に決めつけるな!」
「どうだか・・・」
断固否定するも相変わらず半眼で睨んでくるナガレ。
絶対信じて無い。
畜生、何でこいつはいつもいつも俺ばかりに厳しいんだ。
そんな不条理に苦しんでいると
『たっだいまーーーーー!!夕メシ獲ってきたぞーーーーー!!!』
空から大声が響き、俺達は視線を上げる。
そこには7メート(約7メートル)はある龍が、こちらに降りてくるところだった。
何も知らない者がこの光景をみたら腰を抜かすか、それとも戦闘態勢をとられるか。
「・・・・・・あのバカ」
『はぁーぁ・・・』
『アハハ・・・・・・』
事情を知っている俺達は驚く事はなかったが、その龍が両足で掴んでいる物を見て各々頭を抱えた。
『よっとぉ!』
大地に降りた龍はソレを放すと全身から光を放ち
「さーて、メシだ。メシだ。夕飯だ~♪」
光が収まるとそこには、頭から角、背中に翼、殿部の付け根から太めの尻尾を生やす少女が立っていた。
俺達パーティーの最後の一人、ファーフニルがそこにいた。
「ン?皆してどうしたんだ?変な顔して」
俺達の顔を見て不思議そうな顔をするソイツに俺は頭を抱えながら
「ファーフニル、ひとつ聞かせろ。・・・・・ソレは一体何だ?」
ソイツが運んできた物を指差しそう尋ねる。
「そんなの、食材に決まってンだろ。なにいってんだ?オマエ」
「・・・・・・その馬鹿デカイ猪がか?」
ファーフニルが運んできた物、それは龍形態の奴より多少小振りな巨大猪だった。確か『ビック・グレードボア』と言ったか。
「6人分だぞ。これくらい無きゃ足んないだろ?そんなことも判らないのかバカジェイド」
「・・・・・・・馬鹿はお前だ」
6人分?、どう考えても桁が一つ、いや二つは違うだろう。
そもそもコイツはこの辺りの魔物ではなく、国境を越え更に行った場所を生息地にしている筈だ。
わざわざそこまで行って来たのか?コイツは
「アハハ、フニルちゃん、多分自分の基準で考えちゃったんだろうね・・・・・・」
乾いた笑い声を発するティファール。
確かにこの超大食いが6人程いたとすればこれぐらいは必要か。
「・・・・皆、すまん。この馬鹿一人に食材調達を任せた俺の責任だ。」
「おい!?どういう意味だよ!!」
仲間に謝罪する俺に文句を言ってくる馬鹿。
お前は少し黙ってろ。
「いや、本来は私がファーフニルと食材調達をするはずだった。責任なら私に・・・」
「それなら、ナガレに手伝いを頼んだ私の責任」
「いやいや、どー考えても何もしなかったお姉さんのせいだよ」
「あ、あの!それなら私も・・・」
次々と責任は自分にあると謝罪してくるメンバー。
「な、何だよ。皆して!?」
理由が判らず戸惑うファフニール
そんな彼女達を見ながらこの大量の食材をどうするか、俺は更に頭を抱えるのであった。
「なるほど、世界が平和になったら・・・・か」
今夜の夕飯である"ボタン鍋"といわれる汁物(ジパンの郷土料理らしい)を食べつつナガレは頷いた。
「はい、ナガレさん・・・と言うか皆さんは何かしたい事はありますか?」
リリアーノは先程俺に尋ねた質問を仲間達にも尋ねていた。
「・・・・お前、何でそんなことをそんなに聞きたがるんだよ?」
しつこく聞いてくるリリアーノに俺は呆れた顔をする。
何だってコイツはそんなにも聞きたがるのか。
「だって、せっかくの機会ですから」
リリアーノはフニャっと笑うと直ぐ真面目な顔をして俺達を見渡した。
「それに、最近不穏な話ばかりでしたし。これから向かう所も大変な場所なんですよね?」
今回、俺達が向かっているのは、先日『光の種族』の一派が『闇の種族』に追い詰められ"禁術"を使い、挙げ句暴走させた場所である。
「まさか、"禁術"を使うなんて・・・・」
禁術とは、あまりにも扱いが難しく、尚且つ使った結果が酷いものになるため、国同士で使うのを禁止している魔術の事だ。
もっとも、ここ最近ではこの禁止令も意味を無くして久しいが、
「追い詰められていたとはいえ・・・・随分めんどくさい事をしてくれたわね」
「しかも、そのあとが大変」
ティファールやマルメロの言う通り、ここからがこの話の面倒なところだ。
暴走した"禁術"は未だに暴走している。そして、その影響で周辺の土地は酷い事になっており、生身で近付く事も出来ない。しかも周辺の魔物が"禁術"の影響で変異を起こし非常に強く狂暴になっているという。
つまり俺達の今回の目的は『禁術の完全な破壊』と『変異した魔物達の討伐』だ。
「まったく、なんでアタシ達がこんな面倒なことしなきゃいけねーんだよ」
「文句を言うな・・・・・・と、言いたいところだが今回ばかりはな。国の魔導騎士団や魔機兵軍団の管轄だろうに」
文句を言うファーフニルを注意するナガレも、さすがに複雑そうな顔である。
彼女の言う通り。普通ここまで大事になればそれはその国が対処すべき案件だ。間違っても、1パーティーに任せるものではない。
「国としては"こんなことに魔導騎士団や魔機兵軍団を使う余裕は無い"んだそうだ」
「そんな!?付近の街や村の人達に沢山の被害が出ているのに!!」
国のお偉いさんから聞いた事を伝えると想像していた通りリリアーノは非難の声をあげる。彼女の言いっていることはもっともだ。だが、
「他国との戦争を優先したい連中としては、主戦力である魔導騎士団や虎ノ子の魔機兵軍団をこんなところで浪費したく無い。って事だろうな」
「そんな、そんなのって・・・・・」と顔を落とすリリアーノ。
正直な話、その周辺一帯の人々は国から見捨てられたのだ。国の上層部の勝手な思惑によって・・・・・
ここでも、弱者は強者の理不尽に踊らされているのか・・・・・。何処までこの世界はクソッたれなんだ。
「でも!!!」
世界の理不尽に憤っていると突然リリアーノが立ち上がった。そして、俺達を見回す。
「私達なら、その人達を助ける事が出来る。・・・そうですよね?」
立ち上がった彼女の眼。そこには強い決意と俺達仲間への確かな信頼があった。
やれやれ。コイツ、何時もは"のほほん"としているくせにこういう時には頼もしくなりやがる。
「当たり前だ。お偉いさん達は『出来るわけ無い』って笑っていたがな・・」
「ならば、その認識。改めて貰わなければな」
俺とナガレが不敵に笑う。
「そうね。連中の鼻をあかしてやりましょう」
ティファールは何時ものように微笑むが目だけは笑っていない。
「頑張る」
マルメロは両手を胸の前で握りしめ
「アタシに任せな!どんなモノだろうとぶっ飛ばしてやるよ!!」
ファーフニルが拳を鳴らす
「はい!皆さんよろしくお願いします!!」
リリアーノは俺達に笑いかけると拳を前方に突きだした。
その意図に俺達も頷き、拳を突きだして互いに軽く打ち合わせる。
不思議だ。明日からの事は魔機兵持ちの俺達でさえ危険な場所だと言うのに・・・・・
失敗する未来が想像出来ない。
根拠も何もない。ただ、その確信だけがあった。それはきっと、他の奴も一緒だろう。
いつか、そう。いつか彼女達となら・・・・・
クゥーーーーッ
そんな思いに耽っている中、小さな音が辺りに響いた。
『・・・・・・・・・・・』
その音の発生源は
「う、あ。あの、あのあの!コレは違くて・・・・その」
顔を真っ赤にしたリリアーノが自分の腹を押さえて狼狽している。
つまりはそうゆうことで
『・・・・・・・・・・ぷっ!』
そのまま顔を見回した俺達は思わず吹き出してしまい、辺りに笑い声が響き渡る。
まったくコイツは。少し見直すと直ぐにこうなる。
先程までの場の空気はリリアーノの腹の虫に完全に破壊されてしまった。
「クスクス。お代わりならまだまだ有るから。遠慮せず沢山食べてね。リリーちゃん?」
「はい・・いただきますぅ・・・・・・」
笑いながら鍋の中身を器に盛るティファールに、顔を赤くしてお願いするリリアーノ。
因みに、彼女の言う通り。メインの食材である肉は有り余っており、保存食に加工した分を除いても半分は確実に残り、残りは森の魔物の餌になる事が確定している。
「そ、それはそうと。先程の質問の答えだが・・」
まだ幾らか笑っていたナガレがフォローするように話を戻した。
「やはり、世界が平和になろうとも、私のやりたい事はこの旅を始める前と変わらん。"我が流派の再建"、それと"我が流派を世界に知らしめ、広める事"だ。」
ナガレの言葉に「なるほど」と頷くリリアーノ。
そういえば、ナガレが俺達のパーティーに入ったのは、そんな理由だったな。世界を渡り歩く俺達に付いていけば自分の目的に近づける筈とかなんとか。
「あとは、そうだな・・・・・」
ファーフニルの方に視線を向けるとニヤリと笑い
「剣士の端くれとして、何処ぞの誰かのように世界最強の剣士でも目指すか」
その言葉を受け「最強はアタシだ!」とファーフニルが鼻息を荒くするが「それはどうだろうな?」と珍しく挑発するような物言いをするナガレ。
そんな中、
「・・・・・私は、恩返しをしたい」
『恩返し?』
呟くマルメロの言葉に俺達は首を傾げた。
「そう。世界が本当に平和になったのなら、私は私がお世話になった人達に恩返しがしたい。私が今、此処に居られるのは皆とその人達のおかげだから」
「マル、お前・・・」
この子のこれまでの生い立ちは、俺達の中でもかなり特殊だ。それ故にそれが本当に彼女の望む事なのか心配になってしまう。
「大丈夫」
俺の考えていることに気付いたのだろう。マルメロはこちらを向くと静かに微笑む。
「これは私の意思。誰かに強制されたわけでも、罪の意識に捕らわれているわけでもない。私が自分で考えて自分で望んだ事」
「・・・そう、か」
初めて会った時の彼女を考えると、本当に随分変わったものだと思う。
「マルちゃんは偉いね」
リリアーノはそう言うとマルメロの頭を優しく撫でる。
マルメロは目を瞑りそれを静かに受け入れていた。
「アタシは当然、一族最強の長に成ることだ!」
次は自分の番だとファーフニルが立ち上がりそう叫ぶ。
・・・・・うん。予想していた。と言うか、何時も言っている事だろ。それは。そもそもコイツが俺達に付いて来る事になったそのきっかけも"武者修行"とか言っていたし。
「い、何時も叫んでいますもんね・・・」
ほら、リリアーノも苦笑してる。きっと他の奴らも同じ様に思っていた筈だ。
「それだけじゃないぞ!そのあとは北の奴らの長と戦って、アタシが龍族最強に成るんだ!そんでもって北と南を一つにする!!」
おや、これは初めて聞くな。
「それは北と南、二つの『ドラゴンズピーク』を一つにまとめ上げる長に成るってこと?」
この世界には、北部と南部に龍族の住む山脈『ドラゴンズピーク』が各々存在する。彼等はお互いをライバル視しており、そのせいもあって現在北は『光の種族』に南は『闇の種族』にそれぞれ属し力を貸している。
ファーフニルはティファールの言葉に強く頷く。
「そうだ!!そうすればもう、龍同士で争う事も無くなるしな!」
う~ん、なんか意外だ。コイツそんな事考えてたのか。普段は何にも考えない戦闘狂の癖に。
「うーん。お姉さんはねぇー」
それまで話を聴いていたティファールが頬に手をあてながらため息を吐く。
「"やりたい事"、と言うよりも"やらなきゃならない事"はあるわねー」
「?、ティファ姉さん。やらなきゃならない事って何ですか?」
ティファールのその様子にリリアーノは首をかしげる。
「ほら、私こう見えてもアレだから。正直面倒ではあるんだけど国に帰ってウチのことをやらないと。今はお姉ばかりに面倒押しつけてる訳だし。そのくらいはね?」
あえて濁した言葉で語るティファール。
リリアーノもそれを聞き「あー。そういう事ですか」と頷く。
正直、事情を知っていなければ何の事?となるだろう。
彼女は本来ならこんな所にいて良い人物では無い。その事実を俺達が知ったのはつい最近だ。
「ティファ姉、お姫様だ・・・ムグッ」
「はーい。それ以上は言わないでねぇー。・・・・何処で誰が聴いてるか分からないから」
ファーフニルの口を素早く両手で塞ぐティファール。
今馬鹿が口を滑らせかけたが、つまりはそういう事である。
彼女が本来の居場所を飛び出し、俺達と共にいるのはそれなりの訳が有る。
ハイエルフの姫の一人が、こんな所にいるなんて誰も信じ無いだろうが、万が一の事もあるためこの話題は俺達の中では禁止である。
「まあ、面倒だけどさ。お姉の仕事の手伝いくらいは私も出来るし。それでお姉の負担が減るならソレが私のしたいことでもあるから」
ティファールは苦笑しながら、遠くを視るような眼をしてそう語る。
何時もはふざけてばかりの癖に、大事な処では真面目なんだよな。このお姫様は
「そ、それじゃあ。リリーちゃんはどうなのかな?皆にこんなこと聞く位だし、何かやりたい事あるんでしょ?」
そしてその場の空気に照れたのか、話の矛先をずらす為リリアーノに問いかける。
「わ、私ですか。私は・・・・」
彼女は顔を赤くし指を重ね合わせて呟く。
「もし出来れば『シスター』をお手伝いをしたいなって・・・・」
彼女の言うシスターという人物に俺は覚えがあった。
「その『シスター』って、お前がいた"孤児院"の?」
「ハイ!そうです。私の親代わりの方です。」
彼女、リリアーノは戦災孤児だ。
赤ん坊だった彼女を孤児院の『シスター』が見つけ保護。自分の経営する孤児院に引きっとったらしい。
「それって、その人に恩返しがしたいってこと?」
「私と同じ?」
仲間の言葉にリリアーノは慌てて首を横にふる。
「そんな、立派なものじゃないです。確かに少しは恩返しになれば良いと思いますけど・・・」
「じゃあ・・・」と首を傾げる俺達にリリアーノは指をモジモジさせて
「その・・・孤児院の子らに勉強とか色々教えたいな・・・・・って」
「子供達に?」
ティファールの問いに小さく頷く。
「はい。私、これまでの事で皆さんや大勢の人達から色んな事を教えて貰いました。勉学を初め、魔術や武術なんかも。・・・・・だから今度は私があの子等ににそれらを教えられたらって」
リリアーノは祈るように語る。
「きっとそれが、この先の未来を担う子供達の力になると思うから」
『・・・・・・・・』
彼女の言葉に俺達は黙り込んでしまう。
コイツがそこまで考えているなんてな・・・・・意外、という訳では無いが素直に驚いた。
もともと、リリアーノが人にモノを教えるのが好きなのは知っていたが、ここまで考えているとは。
「さ、さぁ!!最後はジェイドさんですよ!」
俺達の感心した様な視線や沈黙に堪えられなくなったのか。先程のティファールと同じ様に俺へと話の矛先を移すリリアーノ
だが・・・・・
「ん~~。参ったな」
正直なところ、俺は困っていた。
と言うのも、『平和になった世界』とやらでしたいことが思い浮かばないからだ。
生涯を賭けてでも成し遂げたい事はある。
だが、"ソレ"は『平和になった世界』では理由はどうあれ既に叶ってしまっている事になる。
他にやりたい事と言われても・・・・・
「・・・・・すまん。悪いがやっぱり思いつかない。俺は正直『今』だけで一杯一杯だからな」
と答えるのが精一杯であった。
適当な嘘っぱちを挙げる事も出来たが、彼女達が本音で語ってくれたのだ。その様な不誠実な事はしたくなかった。
「・・・そうですか。少し残念です。ジェイドさんの話も聞きたかったんですが」
「悪いな」
「いえ、気にしないでくだ・・」そうリリアーノが納得してくれようとした矢先、
「つま~んなぁ~い!!!!」
ティファールの不満に満ちた声が響いた。
「ジェイ坊ぉ~!!。流石にソレは空気読めてないよぉ~」
彼女のブーイングに「そうだ!そうだ!男らしくないぞー」と周りまで騒ぎだす。
いや、んな事言われても
「み、皆さん。これは別に強制という訳では・・・」
「そうだけどぉー。そ~う~だ~け~どぉ~」
リリアーノが宥めようとするがティファール達は納得出来ないようである。
何で話のきっかけであるリリアーノが納得してるのにコイツらが納得しないんだよ。
そんな中、「あっ!」とティファールが声をあげ、こちらを見てニヤリと笑う。
何かヤナ予感が・・・・
「ねぇ~ジェイ坊。それはジェイ坊には特に未来の予定は無い、って事だよね?」
「・・・まあ、そうなるな」
「それはつまり特にやることは無いからヒマって事だよね?」
「・・・・・・・・そうだな」
言い方が気になるが、間違ってはいないだろう。
「じゃあ、ジェイ坊のその後の予定をこちらで決めても問題ない訳だ♪」
その言葉に何故か『はっ!?』とする仲間達
・・・・・いやいや。どゆこと?
「ジェイ坊~~~。お姉さん、お願いがあるんだけどなぁ~?」
すると、急にティファールが俺の腕に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと待てッ。あんまくっつくな!?」
う、腕が!腕が大きくて柔らかいモノに埋ってるぅ!?
「ジェイ坊は特にその後の予定は無いんだよね?それならお姉さんの国に一緒にきて欲しいなぁ~」
「ア、『アバロン』にか?」
「そーそー。それでお姉さんの事色々助けて欲しいの。ダメ?」
いや、ダメと言うより
「『アバロン』に余所者は入れないだろ?」
アバロンはおそらく世界一排他的な国だ。
其所に住む者達は余所者を大変嫌う。
故にアバロンは外から余所者が入ってくるのは勿論、内の者達が出る事も禁じている。
最も、今くっついている奴みたいな例外もあるが・・・
「大丈夫!そこはお姉さんが何とかするから!!ね、ね。良いでしょ!?」
「ま、まあ。そういう事なら・・・・」
ティファールには何だかんだで世話になっているし。それに、本当にアバロンに入れるなら興味がある。
何と言っても国外の者は殆ど入ったことの無い、謎に包まれた土地なのだから。
「ちょっと待て!!いい加減二人とも離れろぉー!!!」
そんな事を考えているとナガレが俺達の間に入り身体を引き離してくる。
「あ~んもぉ~。ナガレちゃんのイケズぅ~」
「イケズぅ~、ではありません!何をやっているのですか貴女は!?」
「え~?姉弟のスキンシップと・・・・・・ジェイ坊の勧誘?」
烈火の如く顔を赤くして怒るナガレだがティファールは何処吹く風だ。
「貴様もだ!!ジェイド。いつまでもニヤけているんじゃない!!」
「ニヤけてなんていねーよ!」
怒りの矛先がこちらにも飛んできたので反論するのだが
「貴様がそうだらしないからその様な事になるのだ!?」
はい、人の話を聞いて無いデスねぇー
「まったく、貴様は何時も何時も・・・・」
「いや、だからな。人の話を・・・」
するとナガレは急に咳払いをすると
「やはり、貴様は一度我が祖国に連れていき、精神修行させなければならんようだな!」
「・・・・・はい?」
急に何いってんだ?このサムライ
「あ、安心するがいい。我が祖国『ジパン』は修行にはピッタリな場所だ。其所で心身共に鍛えれば必ずや貴様も真人間になれる」
いえ、別に真人間になるつもりはないんだけど・・・・
「それにだ!祖国の四季折々の風景や独自の建築物は一見の価値がある。貴様も以前観たがっていただろう?」
「む、それは確かに」
『ジパン』は四季により自然の風景がガラリと変わることで有名だ。
特に、春の"サクラ "、秋の"コウヨウ"というものは特に素晴らしいと聞く。又建物も独自の建築方法を用いており他の国とは全然違うらしい。
以前少し立ち寄った時は、時期が悪く時間もなかったからそういうの観てなかったんだよな。
「そ、その代わり、我が流派の再建を私と共に手伝って貰いたいのだが・・・」(ボソボソ)
「んッ?、何だって?」
何やら顔を赤くし小声で呟いているナガレに聞き直そうとすると、急に腕を引かれた。
「ズルい。そうゆう事ならジェイドは私の国にきて欲しい。それで私を手伝って」
そこには俺の腕を引いてこちらを見つめるマルメロがいた。
「マル?手伝って欲しいって、お前のその"恩返し"って奴をか?と言うか、お前"国"に戻るつもりなのか?」
「そう。私は『アナギア』に拠点を置くつもり。其所から各所を廻るの」
「でもお前・・・」
正直な話。俺の中でアナギアという国の評価は低い。
何故なら以前マルメロをめぐり国とひと騒動起こしたからだ。
それ故に件のマルメロが戻るというのは正直反対だった。
「ジェイドの心配は分かる」
しかしマルメロはゆっくりと首を横にふる。
「あの国にもお世話になった人は大勢いる。其所から逃げたらきっと何も始められない」
「でも、」と言うとマルメロがさらに強く俺の腕を引いた。
「大変なのは確か。だからジェイドに手伝って欲しい」
そう言ってこちらを見つめてくる。
ここまでこの子が言っているのだ。兄貴分の俺としては可愛い妹分を手伝ってやらないのは駄目だろうと思う。
「そう、か。なら・・・」
「イヤイヤ、悪いがそいつは無理だ。何故ならコイツにはアタシの修行に付き合ってもらうんだからな!」
突然、首に腕を回されそのまま後ろに引かれる。
「グえッ!!こ、このバカ。何をしやがる!?」
誰がこんなことをするのかなんて見ずとも分かる。と言うかこんな馬鹿な事をするのは俺達の中ではバカフニルしかいない!
と言うか、首が絞まっているだろうが!
「な!ジェイド。アタシが族長に成るために『ドラゴンズピーク』に来てアタシの修行手伝えよ!!」
ハァ!?、コイツもコイツで何言ってやがる。
「何で俺が!」
「良いだろ別に!どうせ暇なんだから、アタシが最強になる手伝いしろよ!!」
「ふざけんな!そもそもドラゴンズピークに龍族以外が入れるはず無いだろ!?」
龍族の縄張り意識は高い。特に彼等は同族以外が縄張りに入る事を酷く嫌う。ドラゴンズピークは貴重なレアメタルの宝庫として有名だが、ソレ目当てで侵入した者は彼等の怒りを買い、帰ってきたものはいないとされる。
そんな危険な場所に来いと言うのか。このバカは
「でーじょぶだって!アタシが族長になったら『お前に手を出すな』て皆に言うこと効かせっから」
「それ以前はどうするんだよ!?」
「あ?まあ、何とかなるだろ。アタシとオマエなら」
コイツ、やっぱ何も考えてないな?
「そ、それにそうなれば周りの奴らもお前の強さが分かるだろうし。そうすれば皆・・・アタシとの仲も・・・認めて・・・」(ボソボソ)(モジモジ)
急に小声になり何故かモジモジし始めるファフニール。
だから、お前も聞こえる様に言えよ。なに言ってるか分かんねぇだろうが
「おい。リリアーノ!お前からも何とか・・・」
とにかく、今の状況を何とかして貰おうとリリアーノに声をかけるが
「む~。ムゥ~!!」
何やら頬袋一杯に物を詰め込んだ小動物みたいな顔をしていらっしゃる・・・
「皆さん、ズルい!ズ~ル~い~で~すゥ!!ジェイドさん、それならウチの孤児院も手伝って下さ~い!!!」
そのまま俺の腕をとり引っ張ってきた。因みにファーフニルの腕は未だに俺の首に掛かっている。
「ゴホッゴホッ!おい。だから首が!?」
またこれかよ!
「ジェイドさん、昔小さかった私に魔術や戦い方を教えてくれましたよね?あの時の様に他の子供達にも教えてあげて欲しいんです!!」
こちらを話を聞かず、腕を引っぱりながらそう叫ぶリリアーノ。
確かに昔、彼女の暮らす『レイド国』を訪れた俺はリリアーノに魔術や戦闘の手解きをしたことがある。
しかしあれは意図したものではなく、偶然そうなっただけであり
俺が他人にモノを教える何て・・・・
「お願いします!私はジェイドさんが良いんです。ジェイドさんじゃなきゃダメなんです!!」
「!?」
そこまで言われると流石に・・・・・照れる。俺の力、というか俺をそこまで認めてくれているのは素直に嬉しい。力を貸して欲しいと言うのなら貸してもかまわないと思うくらいには、しかし、
「わ、分かった。だが・・」
その前に俺の首を何とかしてくれ!
「え~!?それならお姉さんだって、ジェイ坊が良いわ。というよりジェイ坊じゃなきゃヤダ」
「わ、私はべつに。・・・だ、だがお前がその」
「私もジェイドが良い。そう思っている」
「お、オマエ以外が出来るはずないだろ!」
何を考えたのか。他の奴らも俺の身体のあちこちを引っ張り出し始めて
「イテテッ!・・ちょ、ゴホゴホ!!ホントに待て!お前ら!?」
首は絞まるわ身体はあちこち痛いわ、最悪である。
だと言うのにコイツら止める気配がない。
嗚呼もう。こうなったら!!!
「分かった!分かったから!それならもう全部の場所に行ってやるよ!!」
その言葉に彼女達の動きがピタリと止まるがそのまま俺は叫び続ける。
「『アバロン』にも『ジパン』にも『アナギア』にも『ドラゴンズピーク』にも!当然、『レイド国』にも行ってやる!!それでお前ら全員を手伝ってやる。それで良いだろ!!!」
俺の叫びが響き渡る中、彼女達はお互いの顔を見渡すと俺から手を放し
『はぁーーーーーー』と盛大なため息をついたかと思うと
『ジェイド(さん|坊)はこれだから・・・・・・』と同じ様に呟いた。
「え、何?どう言うこと?」
彼女達の反応に動揺するも、彼女達はこちらをジト目で見てくるだけで何も言ってはくれない。
「な、何なんだ・・・・・・・」
そんなふうに困惑していると彼女達は『ま、ジェイド(さん|坊)らしい』と呆れたようにクスクス苦笑してくるのだった。
そして笑いながら
『鈍感な人には教えない』
と舌を出されてしまうのであった。
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「夢か・・・・・・」
射し込む朝日と鳥の声で目を覚ました俺は、ゆっくりベットから身体を起こす。隣にあるダブルベットを見れば、そこで寝ていたはずの両親の姿はもう見えなかった。もう起きているのだろう。
「随分懐かしい夢だったな」
あれはパーティーのメンバーが全員揃って2年ほどたった頃だったか?
まだ、リリアーノが勇者として各国々から認識されていない頃。
パーティーのメンバーもまだ二つ名を持っていなかった頃。
そして、世界がまだ安定していた頃。
そう・・・・あの頃はまだ安定していたのだ。その後の世界を考えれば
「当時は今が最低だと思ってたんだけどな」
しかし現実は残酷で、その後も世界は更に戦火と混乱を広げ多くの者が犠牲になっていった。
それでも、彼女達は未来への希望を捨てず前に進んでいった。
だが、彼女達とは少々毛色の違った俺は「このままでは駄目だ」と考え例の計画を考えそれを実行するための準備を始める事になる。
・・・・いかん、朝から暗くなっていては昨夜の様に両親に心配される。
頭を振り余計な考えを吹き飛ばす。
「しかし、完全に今の今まで忘れてたな」
その後も色々な事があり、あの時の出来事はすっかり頭から抜けていた。
「そういえば、アイツらの国って今はどうなってるんだ?」
あの後、結局俺達は『アバロン』や『ドラゴンズピーク』を訪れる事になるのだが、それはもう過去の話。
"今"それらの場所がどうなっているのかは判らない。
無論、本か何かで調べればある程度判るだろうが・・・・・
「それだけじゃあな・・・・」
何だか味気ない気がするし物足りない。そう・・・・・・・どうせなら。
「直接行ってみるか?」
もう、彼女達を手伝う必要は無いし、そもそも出来ない。それでも
「あの頃の夢を視たのも何かの縁だろうしな」
彼女達が礎となり築いたこの世界を、生まれ変わった俺が視て廻るというのも面白いじゃないか。
何をすれば良いのか判らなかった俺の新たな目的。
せっかくだ、彼女達の国だけじゃなく、他の国も一緒に視て廻るのも良いかもしれない。
「あら、おはよう。ジェイド。昨日は良く眠れた?」
そんな事を考えながら台所に向かうと既に朝食を作っていた母が挨拶をしてくる。
「おはよう。おかーさん。うん。良く眠れたよ」
「そう、なら良かったわ。昨日はずっと悩んでいたみたいだから」
やはり心配をさせてしまったか。申し訳ない事をしたな
「大丈夫だよ。もう、なやんでいないから」
「そうなの?あんなに考え込んだたのに」
昨日の俺はそこまで悩んでいたのか?自分では判らなかったな。もしかしたら、だからあんな夢を視たのかもしれない。
「うん。ねえ、おかーさん。ボクやりたいこと見つけたよ」
「ホントに?何々。お母さんに教えて!」
嬉々として聞いてくる母に俺は笑って答えた。
「ボク、せかいじゅうを見てまわりたい」
本当に遅くなりました。恐らく今後もこのような投稿ペースになるとおもいます。