幕間 悪夢の日々
私は幸せだった。
夢を見る。今はもう叶うことの無いその夢を。
幼い頃のこと。
「そろそろ誕生日だよなあ」
父が微笑んでいる。
「そうねぇ。どんなケーキがいいかしら?」
母が微笑んでいる。
そして、私も笑っていた。
幸せだったから。もうすぐ誕生日を迎えるからじゃなく。日々をこの二人と過ごせるから。 大好きな、何よりも大好きな、家族と共に生きていれるから。
それだけで充分だった。もうそれ以上は、願ったことはない。多少はお菓子やおもちゃをねだったかもしれないけれど。この二人とずっと一緒にいたい。その願いを越すものは何も 無かった。
でも、何故、奪っていくのだろう。
父の死に顔は優しかった。
母の死に顔は優しかった。
父も母も最期にこう言った。
『愛してる』。
私も、愛してる。だから置いていかないでよ。独りにしないでよ。
父と母の姿が遠ざかっていく。走っても、叫んでも、永遠の距離が間を埋めていた。手を伸ばす。何も掴めない。
そうして目が覚める。涙が頬を伝っていた。耳に二人の声がいつまでも残る。
私は幸せだった。とても、幸せだったのだ。
だから私は願う。再び会えるなら、もう一度会えるなら。「殺して」と。