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時は巡る

「締め切り明日までだってさ」

「はいはい原作担当は楽でいいですね」

渚がソファーに腰掛けてくつろいでいる。僕を手伝うでもなく、本なんか読んだりして。

対して僕は原稿用紙に噛みつき、最後の仕上げを進めていく。アシスタントもこれない今日はこれが山場だった。

都会の片隅の一室。僕たちは二人組の漫画家として日々生きている。渚が脚本、僕が漫画で。渚は天才肌でどんどん作品を思いつくわけだが、凡人である僕はそうもいかない。渚の奇想天外な話に振り回されながら、腱鞘炎にならないかと心配になっているところだ。

今は名の通っていない漫画家だが、夢を掴むため一生懸命生き抜いている。そう、生き抜いているのだ。

玄関のチャイム音。

「お、編集さんかな」

「怖いことを言わないでくれ!」

渚が嫌な笑顔を浮かべて玄関の方へ。

「ああ、君か。上がって」

「は、はい」

やって来たのは年端もいかない少女。結、だった。

「もう、昔のことなんか気にしないでくれていいのに」

「そ、そんなわけにもいきません!命の恩人ですよ!それはもう神様を崇める気持ちで……!」

「いやいや、やめてくれよな」

「神様原稿のお恵みを!」

「お前はマジでやめろ」

こんな感じで楽しくやっている。彼女の気持ちは少々重たいが悪い心地はしない。でもそれを思い出す度に――連なって彼女のことを思い出してしまう。

一体、何だったというのだろうか。彼女の正体も、あの時の気持ちも、未だにわからないのだ。


「――それじゃ、私はこの辺で」

「うん、気をつけて」

結を送り出すと、再び渚は本を読み出す。余程気になるものなのだろうか。

「それどうしたんだ?」

「え?うん、いやさ、目についちゃってね。何か妙に懐かしいっていうか」

「ふうん?」

「――よし、決めた!」

渚がソファーから立ち上がる。

「この作品を二次創作する!」

「……はあ?」

「こんな暗い話はおれたちが明るくしてやる!この子に笑顔をあげるんだ!」

「この子?」

「シエラちゃんさ!」

そう言って渚はイラストを見せた。それはどこか見覚えがあるようで――。

「――乗った」

「お?一目惚れかな?」

「……まあそんなとこだよ。僕たちの頭の中だけだけど。彼女を、シエラを幸せにしてあげよう」


信じられないほどの悲しみに暮れたとしても、悪夢が僕を唆したとしても、僕は笑って人並みに泣いて、生き抜いてみせよう。

刻んだ時と巡った世界が、この胸の内にあるかぎり――。


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