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最初の世界へ A

「あ~、もしもし」

ハスキーな声が気だるげに聞こえる。これが真人が言っていたユイという人物だろう。

「私のこと覚えてるかい?」

「……? いえ」

「――まあ、いいか。悪いねわざわざ真人クンから離れてもらって」

携帯を受け取った時、第一声が「真人クンには聞かれないように」だった。

「少し相談事があってね。君に救って欲しいんだ」

「……おれが?」

「ああ。真人クンも私も、そして君もね」

「あの言ってる意味が良く――」

「たけど、シエラちゃんは救えない」

そうユイさんは言った。

「やってくれるかい?」

おれはユイさんの計画を知り、それを呑んだ。シエラちゃんを切り捨てるということすらも。


おれは真人よりも前の時代に世界に降り、修行を行う。暴走したシエラちゃんを止める程の。何十年もの時を重ねて。

月日は流れ――真人はシエラちゃんが来るよりも先に、決着を着ける。そうなればシエラは間違いなく真人を殺す。おれは見計らってその現場へと入っていく。

そして――次段階に進む。


「落ち着いたかの?」

老人が手を伸ばしてくる。まだ体が熱いが体は動かせる。一時期は全く動かなかったはずなのに。怪我一つ無かった。この老人が何をどうしたのか、全くわからない。

腕を振りかぶるが、あっさりと老人に止められる。

「そなたも気づいておろう?何故君の彼がここに居るのか?」

「――それは」

「見よ。あの銀色の銃を」

老人が指差したのは、彼の傍に落ちている銃だ。吸血鬼ハンターがよく使うと言われている、あの。

「真人……君が殺めたあの男は君を救おうとしたんじゃよ」

「そんな――違う、嘘。だって……」

今までの全ては幻だったということなのか。私が掴んだはずの幸せはありもしなかったということか。そんなの、あまりにも辛すぎる。

そして私を助けようとした人を、自分の過ちで、この手で。

受け入れようもない苦しみが胸を締め上げる。

「また君は絶望の淵に立とうとしてる」

老人の口調が変わる。真っ直ぐな眼差しが私を見つめる。

「そういう君を真人は救おうとしてた。でも――もう彼は居ない。だから逃げないで欲しい。今度こそ自分で立ち向かって欲しい。――それが真人が望んでいることだよ」

「――少し、一人にさせて」

「……わかった」

私は自分の目を自分の腕で抑えた。何も――見えなくなっちゃえばいいのに。


自分の頭がようやく冷えてきて、老人の話を聞いた。私が本当は死んでいたこと。天界を抜け出して私と旅をしたこと。私が捕まって、別世界の私を真人君が救おうとしてくれていたこと。――私がその真人君を殺してしまったこと。

全部が全部飲み込めたことじゃないし、理解したわけじゃないけど。老人はありのままを話してくれた。信用は、する。

「どうして真人君はそこまでしてくれたんだろう」

「ああー、それ昔も聞かれた。君――ではないけど。――見に行ってみる?」

「え?」

「この鍵を使えば、真人に会うことができる」

その鍵は真人君が持っていたものだ。

「行ったことのある世界と時間がここには保存されている。シエラちゃんと真人の旅が見られる――行く?」

「――行かせて」

老人は頷いた。

「僕もそれがいいと思う」

部屋の一部が白み出す。それは扉の形となった。

「それじゃあ、行こう」

私は物怖じしながらも、その先へと進んでいった。


それはまるで夢のようだった。私が見る悪夢ではなく、幻想のような夢。

見たこともない技術に囲まれた街、仮面をずっとつけた住人、空を泳ぐ龍。巡っていく世界の全てが鮮やかに映った。

そしてその世界を征く真人君と私も、輝いて見えるようだった。

旅を見守り続けてしばらくして、星が夜空を瞬く世界に来た時、大きな出来事が起こった。


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