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プロローグ

超絶見切り発車です。書き溜めもなく、不定期更新になりますがよろしくお願いします。

 とある高校、とある教室の、その一角。



 朝のホームルームの始まりを告げる鐘が鳴るまではまだ幾ばくかの時間が残されていたが、教室には既に大半の生徒が揃っていた。

 友達と談笑をする者、一人で読書に勤しむ者、机に突っ伏して僅かでも睡眠をとろうと必死な者。三者三様である。

 だが、皆が思い思いに過ごしているこの朝の時間において、唯一共通するものがある。


 それは、視線の在処。


 彼らは友と話しながら、スマートフォンを眺めながら、音楽を聴きながら。机に突っ伏している者でさえ腕の隙間からコソコソと、教室の一角に視線をやっていた。

 彼らの視線の先にあるもの。それはなんてことはない。女の子が四人、一つの机を囲んで談笑をしている光景である。そう、それだけならばなんてことはない光景だ。

 では、何故彼女たちは教室中から視線を集めているのか。


 理由は二つある。

 一つは、少女たちの美貌である。

 四人の少女はそれぞれがまったく異なったベクトルに振り切れた外見をしているものの、全員が全員、とても端正な顔立ちをしていた。


 綺麗に切り揃えられた艶のある長い黒髪に白のカチューシャをつけた、清楚という言葉がよく似合う美少女。

 窓から降り注ぐ朝日を反射し煌びやかに輝く金色の髪と、澄んだサファイアを彷彿とさせる碧眼を併せ持つ美少女。

 明るい栗色の髪を短めに切り揃え、日に焼けた顔や脚からは健康的な美しさを醸し出している、快活そうな印象の美少女。

 他の三人よりも頭一つ分大きな身長と、制服の上からでも分かる豊満な肉体が魅力的な、ポニーテールの美少女。


 彼女らはクラスどころか、学校の中でも1、2を争うような美少女である。そんな美少女が四人も集まっているのだ。男子はおろか、女子でさえも目を引かれてしまうのは道理というものだろう。

 では、何故そんな学校のアイドルたちが一つの教室の、一つの机の周りに集まっているのか。


 それこそが、彼女たちが視線を集めているもう一つの理由である。いや、彼女たちともう一人の男子が、といった方が正確であろう。

 そう、彼女たちが取り巻く机には、一人の男子生徒が座っていた。


 決して容姿が整っていないとは言わないが、彼を囲む四人に比べれば数段見劣りしてしまうような顔立ち。彼女たちの顔面偏差値を上の上とするならば、彼はせいぜい中の中程度。写真撮影で奇跡の一枚を撮れたとしても中の上。上の下には届かない。

 とりたてて顔が良いわけでも、かといって不細工というわけでもない、街中を探せばよくいそうな平凡顔。


 彼は名を、朱神 晃(あかがみ あきら)という。


 抜群に頭が良いというわけではない。運動神経は悪くないものの、帰宅部であり、運動に関して特に目立った成績を残しているというわけでもない。取柄と言えば料理が得意であるという一点のみ、というのは本人談だ。

 そんな平々凡々な彼が、朝っぱらから美少女たちに囲まれ、さらには彼女たちと親し気に会話をしているのだ。羨望や嫉妬の眼差しを向けられるのは、当然のことであると言えるだろう。


 クラスメイトたちがそちらに耳を傾けるまでもなく、和気あいあいと話している彼女らの会話は自然と耳に入ってくる。


「ねぇ、あーくん。今日はちゃんと宿題やってきた?」

「あぁ、結華。今日こそはちゃんとやってきたぜ。数学の宿題だよな?」

「…あーくん、今日の宿題は古典だよ?やっぱり朝迎えに行った時に確認すればよかったね」

「えっ…」


「そんなことよりアキラ。アナタ、生徒会に入る覚悟は決まったのかしら?」

「いや会長?俺は入れませんって前から言ってるじゃないですか」

「もう、何が不満なのかしら?アキラにはワタクシの雑用兼椅子係という名誉を与えてあげようというのに」

「それが不満なんですよ!」


「ねぇねぇ晃、晃!そんなパツキンババアなんて放っといて、あたしと陸上でいい汗かこうよ!」

「ちょ、夏花!会長が凄い目でこっち睨んでるから!それに俺が入っても足手まといになるだけだろ」

「そんなことないよ!晃なら絶対いいタイム出せるし!そ、それにあたしも晃が一緒だとその…楽しいっていうか…」

「え?最後の方なんて言ったんだ?」


「あのあの、晃、さん。も、もしよろしければその、演劇部のこともご一考してくださると、その、嬉しい、です」

「うーん、小夜。入部はともかく、なんかあったらまた手伝うからさ。必要な時は遠慮なく言ってくれよな」

「あ、ありがとう、ございましゅ!じゃ、なくて!ございます!」

「お、おぅ。こりゃまた演劇練習付き合う必要あるかもな、ハハ。」


 会話内容からお察しの通り、朱神晃は彼女たちから少なからず好意を向けられている。学校1、2を争うような美少女たちから、だ。

 そして彼は、この美少女たちのうちの誰かと恋愛関係に発展しているわけではない。他に付き合っているという女の子がいるわけでもない。彼は、純然たるハーレムを形成している、ということである。ここまで言えばもう分るだろう。


 朱神晃は、ラブコメの主人公だ。


 彼を主人公足らしめているのは、彼の女の子に対する優しさや、気遣い。ご都合主義的な間の良さ。諸々である。

 女の子が困っているタイミングで颯爽と現れ、手助けをする。意外と男らしいところを垣間見せる。時にはラッキースケベ的展開で女の子と急接近する。

 そういったラブコメの主人公然とした行動を実際に現実でとることができるのが、朱神晃という人間なのである。

 では、朱神晃は私欲からそういった行動を取っているのか。ハーレム大好き人間なのか。スケコマシなのか。


 その答えは、NOである。

 彼は美少女に囲まれたい、美少女を侍らせたいという、男子高校生ならば誰もが垂涎ものの現状を望んでいたわけではない。

 では彼は、漫画に出てくるラブコメの主人公のごとく100%善意からそのような行動をとっていたのか。


 その答えも、NOである。

 彼は一見して、善意のみで行動しているかのように見えるだろう。実際、彼が善意をもって行動することもないことはない。

 だが、彼の行動原理が決して純粋な善意のみで構成されているわけではない。

 

 では彼は、いったい何を考えているのだろうか。

 何を思って、美少女ハーレムを形成しているのだろうか。



 朝の教室、四人の美少女に囲まれ、彼女たちに笑顔を振りまきながら、彼は内心独り言ちる。






――あぁ、こいつら本当にウザい。もうラブコメの主人公辞めたい。


 と。




 これは、とあるラブコメの主人公が、嫌々主人公となり続ける物語の一ページである。



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