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宇宙からの観測者

作者: おとうふ

「これは大変だ、エンジンが壊れてしまったようだ!近くの星に不時着するぞ!」



地球の代表の宇宙飛行士N氏は、友好関係を結べる星を探し、ロケットに乗っていた。といっても、他の優秀な地球の代表はたくさんいて、落ちこぼれのN氏の担当区域はあまり成果が見込めないものだった。


「あ〜あ、昔から勉強もスポーツも十人並み。うっかりもので、女の子にもモテない。そんな僕が一発逆転するためにも、ここでどかんと地球に似ている友好的な星が見つからないかな〜。まあそんな可能性の高い地域は、エリートの宇宙飛行士様がが飛び回ってるんだけどな〜。やる気なくすよなぁ〜」

そう言うと僕はうつらうつらと居眠りをしてしまった。


どかん!!!


寝返りをうった拍子にどこか押してはいけないボタンを押してしまったらしい。


「うわあ!こんな宇宙の果ての銀河の端っこでトラブルに見舞われるなんて、僕はなんて不幸なんだ。とにかく近くの星に降りて、それから助けを呼ぼう」




ううぅ…ここはどこだ…着陸のショックで気を失っていたようだが、なんとか一命はとりとめたようだぞ。

辺りを見渡すと緑が生い茂っている。どこか遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。

「うわあ、気味の悪い森だな。急いでロケットを修理しなくちゃ。骨が折れる作業になりそうだぞ。この線をつないで、このレジを締めてああでもないこうでもない…」


少し休憩でもしようとぼくは目に付いた川の水をすくって飲む。


「ふう、美味しい水だな。それに空気も綺麗だ………なんだここは、まるで地球じゃないか!いや、地球よりもいい星だ!」


「あなたここで何しているの」


「うわあぁびっくりした!僕は宇宙飛行士でロケットが故障して不時着したんだ。だけどもしかしたらここが目的の星なのかもしれない」

ショートカットのよく似合う女の子はメグと名乗った。少しおてんばそうに笑う口元とくりっとした目元がチャーミングで、愛らしく見える顔に似合わずすらっと伸びた手足が魅力的だった。控えめに言ってとびきりの美人だったので、僕はとても“友好的に”なれそうだと思った。


「ふうん、大変そうね。服もボロボロだし、とりあえずうちに来なさいよ。シャワーを浴びるといいわ。」


メグの家はとても大きくて立派できっとお金持ちなことが容易に想像できた。メグの父親は、ロケットの修理が終わるまでこの家に暮らして良いといい、できるかぎりロケットの部品の調達に尽力すると約束してくれた。なんでもこの星の人たちの先祖は元々地球人らしく、ぼくのひいひいひいひいひいおじいちゃんのころにぼくのように不時着してしまったら子孫がメグたちのようだ。地球への憧れが今も続いているらしい。


メグにこの星を案内してもらってわかったことがある。ここの住民はとても謙虚だ。


ぼくがメグの父親にすごくお金持ちだ、それに素敵な家だと褒めれば、

「いやいや、そんなことを褒められても恥ずかしいよ」と謙遜する。


暗算で3桁の掛け算をスラスラと唱え、数式をどんどんと解く博士は

「いやいや、こんなの趣味みたいなものだからね。」


ぼくの背くらいの高さを軽く飛び越え、あっという間に子供の風船をとってあげた若者も

「いやいや、できることをしただけですよ、やめてください。」


ぼくの3倍はある力こぶの持ち主も、1000人の部下を持つ社長も、一度聞いただけでどんな曲も再現できるギター奏者も、何回見てもタネがわからないマジシャンも、ぼくがすごいと褒めるとみんなが口を揃えて「こんなことは些細なことだ」と恥ずかしがる。

なんて良い星なんだ。地球よりも緑が豊かで、地球人よりもずうっと控えめな人たちだ。ぼくはこの星の人間になろうと決めた。地球よりも住みやすい星で、なんて言ったってメグがいる。地球で落ちこぼれのぼくだけど、この星なら胸を張って生きていていいんだ。ぼくはメグに告白することにした。


お花屋さんで1輪のバラを買い、一張羅を準備した。ドキドキして眠れず、徹夜で告白の言葉を考えやはりこれだと決めたときには、地球と同じように東の空がぼうっと銀色になっていた。おかげでその日はだいぶ寝坊してしまい、メグたちに白い目で見られてしまった。


ぼくはメグを、ぼくたちが出会ったあの森に連れて行き、思いの丈をぶつけた。

「メグ、ぼくは君のことが好きなんだ。初めて会ったときから、ずっと。異星人のぼくに優しくしてくれて、それにとってもかわいくて大好きだ」


うつむいているぼくにメグの鈴のような澄んだ声が届く。


「優しくしたから好きになったの?私がかわいいから好きになったの?」


やばい!と、ちらとメグの方を見ると、メグは心底不思議なものを見るようだった。


「あんた、地球人なのよね?わたしたちよりずうっと地球人なのよね?なのになんで優しいとかかわいいとかそんなこと言うのよ。そうよ、前から人の変なところに目をつけていたわよね。なんでなのかしら。わたしたちは小さい頃から、ひいひいひいひいひいおじいちゃんが残してくれた地球を定点カメラを見てきたわ。そこは狭いけど、いつの時代も白い指導者がある大事なことを教えていたわ。その人に会うためにたくさんの人が訪れ、いつも従者が何人もついていたわ。大金持ちも、とびきりの美人も、みんなその人には頭があがらないの。だから、それが一番正しいってことなんだと教えられたわ。」


白い指導者??大統領か、貴族の仲間だろうか。それともカルト宗教かなにか…いやでもそんなに長く続いてる宗教があるなんて聞いたことないぞ。

メグがぼくの手を引いた。

「見せてあげるわよ!ちょうどここらへんだからついてきて!」


森の中に急に現れたのは不恰好な塔だった。昔は地球の映像を見るためにここに多くの人が集まっていたのだが、現在はテレビのようなもので映像を受信し、家でも見られるようになったのだという。わざわざこんなところに見に来る物好きは少ないらしい。


「ほら、ちょうど始まったわ。見てごらんなさいよ。これが地球の指導者の映像でしょ」



そこにはある病院の一室で健康診断が行われていた。白衣を着た医者が、背の高い若者に話しかけていた。

「うんうん、数値は異常ないですね。よしと。おやおや、あなた朝食を抜いているんですか?だめですよそれは。きちんと朝食を食べなくては。パワーの源ですからね。なにより大事なことは朝ごはんを食べることです。それが一番大切なのですよ。」


この星では朝ごはんをきちんと食べることが、あらゆる価値観より優先されるようだ。

いろいろな価値観があるけれど、それは自分の心の中にあったのか、それとも誰かに教えられたものなのか。そしてそれは正しいものなのか。

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