プロローグ
少年の目の前には、3人の男の無惨な姿があった。
いずれも骨は原型を留めぬほどに折れ曲がり、血が辺り一面に広がっている。
「ゴフッ…このクソガキ、何を……」
そう言って1人の男が息を止めた。残りの2人は既に事切れていた。
「なんてこと…私は化け物を産んでしまったの…?」
少年の背後で母親が呟く。相当ショックだったのだろうか、床に崩れ落ちてそれ以上の言葉を発しようとしない。
ーーどうしてこんなことになった?ーー
きっかけはフィクションでよくある話。少年の父親は稼ぎをギャンブルに注ぎ込み、一家はいつも借金で何とか生活を続けていた。
少年の母親は優しくて気立ての良い人だった。少年のことを常に思い、どんなに貧しくとも生活が苦しいことを少年に悟られぬよう気をつけていた。
そんな生活が続いたある日の夕方ーー
「おらっ!いい加減に借金を返してもらおうか!」
借金取りと思われる3人組のヤクザが、玄関のドアをやたらめったら叩く音が家中に響いた。
そのとき既に父親は、行方知れずの存在となっていたーー事前に借金取りが来ることを知っていたかのように。
母親は優しく少年を抱き締めて
「大丈夫、怖く無いからね…」と囁いた。
ーーやがて借金取りはドアをこじ開けて、 とうとう少年達のいる部屋まで押しかけてきた。周りを取り囲まれて逃げ場がない。
「さぁ、もう逃げられねぇぜ?払えるもんは全てオレ達に払ってもらおうか!」
「どうせ無一文なんだろ?じゃあ何をすればいいか分かるよなぁ、奥さん?」
「あんたにゃ沢山稼いでもらわねぇとなぁ?あのクズ男の嫁たぁ思えねぇぐらい美人だから、高く売れるだろうよ…アッヒャヒャヒャヒャ!」
男達の罵声に対して母親は無言を貫く。少年を抱くその手は震え、心臓も激しく鼓動している。
「あくまでだんまりを決め込むか…手荒なマネはしたくはねぇが、力尽くでも付いてきてもらうぜ!」
3人の男達が強引に母親の体を羽交締めにする。少年はただただ見ていることしかできない。
「いやっ!離して!止めて下さい!」
母親は必死に抵抗するが、女の力では男の力に勝る訳がない。
「……おい、お前ら。お母さんに何をしている!」
突然少年が呟いた。その瞳は朱に染まっている。
「なんだこのガキ?黙って見てると思ってりゃ突然怒りだして…ガキの分際で生意気なんだよ!」
ある男が少年を殴ろうと近づいた瞬間
「吹き飛べ!」
「グェッ!」
少年の怒号とともに、男は吹き飛び壁に勢いよく衝突した。
「おいお前!オレの仲間に何しやがる!」
「お仕置きが必要みたいだなぁ!」
「止めてよね…ぼくには勝てないんだから…」
すかさず残りの2人がが少年に襲いかかる。しかしその拳は少年に擦りもせず、先程のような結果となる。
「お前ら全員、ぼくが殺してあげる…」
男達の体が宙を舞い、壁に何度も打ち付けられ、どんどん形が歪んでくる。
ーーそして冒頭へと戻るーー
母親は目の前で起きた出来事を理解することができなかった。なぜ私の息子があのような不思議な力を扱えるのか分からなかった。
「もう邪魔者はいなくなったよ、お母さん…」
少年が母親に近づいていく。あと少しで手に届く、その瞬間ーー
「あなたは私の息子じゃない、息子の姿をした化け物よ!」
母親はそう言い放って、家から出て行った…