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05 異変

 深夜、ネリッサは女官部屋へ戻った。ここは王太子妃付きの侍女が使う部屋だ。部屋には既に何人かの娘がいた。皆、もう寝る支度をしている。彼女達の中には、今日は休みをもらって舞踏会で踊っていた者もいた。


「ああ、楽しかったわ」


 誰かが言った。数人が羨ましそうに話を聞いている。その部屋の隅で、ネリッサはそっとペンダントを外した。七つ星の飾りがついている。


「ねえ、ネリッサ。あなたもクロヴィル家令嬢として出席すれば良かったのに。王太子妃様からも招待状は届いていたのでしょう?」


 一番仲の良い同僚が言う。慌ててペンダントをテーブルの引き出しに隠し、彼女はそうねと作り笑いをした。


「でも、やっぱり私はアメリア様のお世話をする仕事があるし」


「もう、硬いなあ!そんなんじゃいき遅れるわよ」


 適当に話を受け流し、彼女はさっさと寝てしまった。

 だが、これが彼女の運命を変えるとでも言おうか。誰よりも早く寝てしまったのがいけなかった。朝起きてみて、彼女は悲鳴を押し殺した。

 夜、確かに引き出しに入れたペンダントが失くなっていたのだ。幸いにもまだ誰も起きていない。急いでロキスタのもとへ行った。

 疲れて眠っているところを起こされ、ロキスタは目の下に隈をつくったまま髪をとかし始めた。


「女中部屋は夜、鍵を掛けているのですよね」


 彼の問いに、ネリッサは頷いた。

 その部屋にいた誰かがやったということだろう。


「これであなたはヘッセンの約束の人という証拠を失ったわけだ。こちらでも探ってはみますが、少ししか手助けはできませんよ。次は命を盗られないように気をつけることですね」


 それだけ言うと、ロキスタは部屋から出ろと命じた。ネリッサは従うほかない。

 彼女が退出した後、ロキスタは椅子に腰掛け天井を見上げて考えた。

 何とも面倒くさいことになったものだ。ヘッセンに約束の人を教えても、肝心の七つ星のペンダントを持っていないのでは話にならない。彼は絶対に信じないだろう。

 アメリア付きの侍女の顔を思い浮かべながら、ロキスタは頭を叩かれたような衝撃を覚えた。一人、新しく入ってきた者がいた。その話を聞いていた時は愚かさに腹が立ち、厳重に王太子妃に抗議したのを覚えている。マリアンヌ=ロギーユ。ロギーユ家男爵令嬢だ。ロギーユ家といえば、前のリュデリッツ家反乱に加担したために家を降格させられた。そんな家柄出身の者を登用して何かあれば遅いと言ったが、アメリアはおとなしいマリアンヌをひどく気に入っていたのだ。結局あの進言は受け入れてもらえなかった。それどころか、あなたは人それ自身を見ていないとお叱りまで受けた。

 だが、つい疑ってしまう。マリアンヌがヘッセンの約束の人を演じたとして、ロギーユ家は何を企んでいる?巷には良くない噂も飛び交っている。

 我ながら冷酷だ。ロキスタは己を笑った。



 それから数日が経った。だが、ペンダントに関しては何の収穫も得られていない。そんなある日、王宮は朝から騒がしかった。

 かつて第二王位継承者ダレスと彼の腹心の部下であるヤールが治めていた灰色の土地。そこでついに反乱が起こったという。人々の関心は、一気にそちらへ移った。


「殿下!親征なさいますか!?」


「兵はいつでも動かせます!」


「他国からの干渉は……」


「ご決断を!」


 怒鳴るように話す臣下達を蔑みの目で見て、王太子オーラブはため息をついた。そして椅子から立ち上がる。冷たい目に、今まで騒いでいた人々は押し黙った。


「父王陛下に話をして来る。外務大臣を呼べ。ロキスタもだ」


 それだけ言うと彼はまっすぐ歩いて行った。殿下、という呼びかけにも応じない。足早に廊下を歩いていると、ロキスタが小走りにやって来た。オーラブの隣に並び、歩調を合わせる。


「遂に起こってしまいましたね」


 少々緊張した様子でロキスタが言う。とは言っても、ロキスタにだって分かっていたことなのだが。

 オーラブは立ち止まった。そしてロキスタに向き直る。


「やっと、だ。俺はこの機会を待っていた。反乱軍とは戦うつもりだ。これから父王陛下に話す。戦ってどうなるかは分からないが、独立させるにしろ鎮圧するにしろ未来は決まる」


「分かっているのですか、ご自分のおっしゃっていることが。反乱軍に勝てばよいですが、負ければ確実に戦争になりますよ。あなたは腐ってもこの国の王太子、次期王位継承者なのですから」


 オーラブは眉を寄せ、険しい表情をしている。ロキスタは極めて冷静に努めた。

 自分まで取り乱してはならない。兵を動かすのならなおさらだ。兵士の士気の象徴ともなるオーラブに何かあれば、この戦いは負ける。そうならないために、王太子を支え、落ち着かせることができるのは自分だけだ。

 王太子が口を開いた。分かっているさ、と聞こえた。声が少し震えているのは気のせいか。


「そのためにお前が必要だ。どうなっても俺について来てくれるか?」


 まっすぐな視線に、ロキスタがくすりと笑う。彼は跪いた。白に近い金髪がさらりと揺れた。


「今更聞きますか。もちろん死んでもついて行きます」


 安心したのか、強ばったオーラブの顔が少し弛んだ。再び一歩踏み出す。


「行くぞ。ダレスと俺の、格の違いを見せてやる」


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