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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
花嫁の標本~宇宙人の侵略~

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幸せ


一緒に食事をして会話する。

朱莉沙が洗い物をしている間に、お風呂に行く。

俺が出てテレビに夢中になっている間に、朱莉沙がお風呂に行ったのだろう。

湯上りの朱莉沙が、俺の隣に座って。

一緒にテレビを見始めた。

少し触れる程度の距離。

共に過ごし、共有する情報。異なる考え方や反応。

少しずつ増える何か。それが愛情なのか、まだ分からない。

夜も更け、眠気に襲われる。

「孝彬、眠いの?」

視界がぼやけるように、ウトウト。

朱莉沙に寄り掛かり、温もりが伝わる。

これは俺の体温?それとも朱莉沙?

二人の温もりが重なったんだろうか。

「ほら、しっかり立って。歩ける?ここで寝ると、風邪をひいちゃうわよ。」

思考は、ほとんど停止の状態で。

歩みを続けるが不安定。

「孝彬、もう少し」

足が絡んで、ベッドに倒れた。

「重い、ちょ……孝彬」

おぼろげな視界に、頬を染めた朱莉沙の表情。

その視覚情報を最後に、睡魔に襲われた。

腕には温かい、柔らかな感触。

「朱莉沙……」


夢心地の至福の時間。夢うつつ。

甘い香りと、温もりを味わう。

自分の身体に密着し、時に動いている?

そっと目を開けると、目を閉じて寝ている朱莉沙の横顔が見えた。

明け方の薄らとした光が、二人を優しく包む。

腕に抱きしめた朱莉沙が無防備な寝顔で、俺の胸元に頬をすり寄せた。

ドキドキが一気に押し寄せる。

息が出来ないほどの圧迫。

揺れる髪が甘い匂いを漂わせ、布団の中からは温もりと、聞こえる朱莉沙の息遣い。

堪らない。自分の手にあるのに、満足できない。

もっと……求めているのが何なのか分からない。

それが理解できないのに、欲求が熱を発する。

体温が熱くなり、布団を押し退けて体を傾けた。

朱莉沙の体も少し動いたので、視線を向ける。

【ドクン】

心臓が一瞬、止まったのかと思った。

朱莉沙のパジャマの上着から、白い肌が見える。

目は釘付けになって、手が勝手に移動した。

誘われるまま。そっと、白い部分に触れる。

「ん。や……」

寝返をした朱莉沙の可愛い仕草に、俺は固まって動けなくなった。

そのままの位置を保った手は、朱莉沙のお腹の上。

柔らかさと温もりだけじゃない。

スベスベの肌が、指や手のひらに伝えた感触が残ったまま。

【ゾクリッ】

身体を走る不思議な感覚。

はぁ……息苦しい。

息が詰まる。上手く吸えない。

「朱莉沙、起きて。ね?俺、どうしたらいい?このまま、君が意識のないまま触れてもいいのかな?キスしたい。きっと、今なら愛情を注げると思うんだ。」

返事は無く、安心したように。

ベッドで隣に寝ている朱莉沙は、眠ったまま微笑んだ。

【きゅん】

心臓が掴まれたように、息苦しさが襲う。

寝ている彼女に、愛情を注いだとしても。

彼女の認識しない愛情は、どこへ行くのだろう?

お互いが理解できないのでは、愛情は育たない。

きっと、すれ違った想いの原因……

朱莉沙の肌に触れた手を移動させる。

温もりと柔らかさの感覚を覚えたのは、一瞬で。

寂しさと、残念に思う感情が悲しくさせる。

それを補うように、両手で朱莉沙の頬を撫で。

「ん。……孝彬?」

起きるのかな?

触れるのが、俺なのだとわかるほど。朱莉沙の中では当然のことなのかな。

それが嬉しくて、急かすような想いに戸惑う。

「朱莉沙、起きて。ね?キスをしよう。俺の愛情受けてよ。感じて。伝えきらない想いを、受けて欲しい。」

額や頬にキスを落とし、朱莉沙を起こすように囁く。

「ふふ。くすぐったい。」

俺の手に、重なるように両手が優しく包む。

そっと、夢うつつなのか。朱莉沙の目が、ゆっくりと開いていく。

俺の視線を受け、笑顔を向けた。

そっと重ねるように、軽いキスを唇に落とす。

唇から離れ、見つめる俺に。朱莉沙は見開いた目。

え?

「……っ!」

状況を把握するように、挙動不審な動き。

顔を真っ赤に、俺から離れて布団を被った。

「ごめん!違う、これは違うのっ……昨日、孝彬が寝ちゃって。私も、そのまま!」

可愛い。愛しさに狂いそうになる。

慌てる朱莉沙を、布団ごと抱きしめた。

「朱莉沙。俺、キスをしたいんだ。ね?時間を頂戴。俺以外の事を、忘れてよ。お願い。」

抱き寄せた朱莉沙は、動きを止めて。

俺に体をあずけるようにもたれた。

「うん。一緒に時間を過ごそう。布団を退けるわ。あなたの顔が見えないから。」

ベッドの上に、座った状態で向かい合い。

まるで、それは。

「朱莉沙、触れてもいい?」

「えぇ。触れて……私は、あなたの花嫁。」

愛情を与え、愛情を受ける幸せ……

距離を更に縮め、朱莉沙に近づく。

手を伸ばせば簡単に届く距離。

それでも、遠く感じるのは心だろうか。

朱莉沙の頬に触れる。

柔らかい。

俺の手に、朱莉沙はそっと手を重ねた。

目を閉じ。俺の体温を味わうようにすり寄せる。

「ずるいよ。」

口から思わず漏れた言葉。

それに対して朱莉沙は目を開け、クスクスと笑った。

視線の合っていない笑顔。

「ね、朱莉沙。俺に微笑んでよ。」

「え、ごめん。何?」

視線が合った時には、さっきの笑顔ではない。

観察しているのに。大切なモノを逃しているような気分になる。

「もう一度、さっきと同じように笑って。」

俺の我儘に、彼女は困った顔をした。

「違うってば、俺が欲しいのは。」

「うん、笑顔でしょ。無理ね、同じ笑顔なんて。」

ショックが隠せない。

「何で?」

「何で?うぅ~~ん。自分では、どんな風に笑ったのか記憶にないわ。いつか、同じ笑顔を見られるかもしれない。それよりも、良い笑顔をあなたに向けるかもしれない。いつか、未来を共にするなら。」

「いつか必ず、俺に見せて欲しい。」

「くすっ。あなたは、私に求めるの?」

彼女の手が俺から離れ、俺の手は彼女の頬から離れた。

自然に流れるように、彼女は俺の体に身を寄せる。

甘い香り温かな体温。

「俺、何か間違えた?」

「どうかしら。私にも分からないけど、この状況はダメ?」

朱莉沙を抱き寄せる。

細くも柔らかな身体。手に入った標本。

「俺も、朱莉沙に何かをしてあげられる?」

「ふふ。そうね、私に笑顔を。笑って。」

「なるほど。ふふっ。くすくす……笑顔は難しいね。」

俺が笑うのを下から見つめ、朱莉沙は微笑んだ。

さっきの笑顔と違うけど、愛しさを超えた感情を。

それは、俺に与えたんだ……





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