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無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
シミュレーション
8/20

ヒーロー


画面は、扉が開く映像を映し、光が螺旋を刻む闇から光へと抜ける。


アバターは画面の中央に立ち、文字が浮かんだ空白のような位置に居る様だ。

会話文が、真上や上方の左右から現れて、自分の周りを通り過ぎて地面に吸い込まれるように消えた。

ここは……

状況が把握できず、文字を読んでいく。電話?メールの内容?


「カコ、ここはチャットサイト。文字の具現化した空間。」

画像が揺れるように霞んだ状態から、雪だるまの形がクッキリと現れてヌイグルミが出現する。

アバターの横に立ち、私を見上げた姿。声は、あの男の子。

スカートの形が、バルーンなのが納得できた。配慮なのだろうか?

「名前は、何かな……?」小さな呟き。

現実の私は、PCの前で椅子に座っている。画像を見ているだけの傍観者で、疑問が口から、小さな声で漏れただけ。

それを、どのように聞き取ったのか……雪だるまは、自己紹介を含めて会話を始める。

「カコ、僕の名前はタクマ。今日、ヒロインになって欲しいんだ。」


“カコ”はアバターの名、私の名、未來みらいの反対。

木口さんの姿で、設定したカコとはイメージが合わないアバター。

彼の求めるのは、一時的なヒロイン。

今日……

その意味するところも、彼の目的も理解できない。

晴が私に渡した何かを受け取るまで、彼の言いなり……囚われのヒロイン。


「カコ、さぁ……この文字を追って。扉が開くと、相手の見えないサイトで、犯罪がある。」

犯罪?相手の見えないチャットサイト。

ヒロイン……闘うのは、私?それとも、この小さな雪だるまタクマのアバターが、闘うのかな。


歩幅の違うアバターが走れば、距離は広がるわけで、タクマの姿は見えなくなる。

あのアバター……走るのかな?飛ぶのかな?それとも登場の時と同様、瞬間移動みたいに現れるのだろうか。


落ちていく会話を避けながら、アバターは、消えずに流れていく文字を追った。

会話の続くユーザー2人。女の子と男の子の、恋人同士のような会話。

犯罪?とても、そんな内容ではない。しかし、気になるのは男の子の会話文字が“直接会いたい”と述べる。

大きく、太文字になったその文字が、スピードを増していく。


大きな空間に、多くのドアが点在する壁。

その一つの小さなドアに、文字は吸い込まれるように消えた。そのドアは3階の高さだろうか、とても届くような位置ではない。

アバターは立ち止まるのかと思った。

カコは腰にあったタンバリンを手に取り、走りながら器用に揺らして、胴に付いたシンバルを奏でる。

器用なアバター。


バイオリンとは違う高音のシンバル音。

音符記号なのか◇(ひし形)が、バネのようにアバターの足元を補佐した。

勢いよくジャンプし、軽やかに……文字と同様ドアをすり抜ける。

開くと思っていたから、アバターが激突するのかと焦った。不思議な世界。


さっきとは違う空間なのだろう。アバターは、抜けたドアの前。

相手の見えないチャットサイト。

アバター2人が並んで会話している……ん?会話の内容は、若い男女だとイメージした。

しかし実際には、いやアバターだから?

カコの前には、中年太りのオジサンと小学生の男の子。

おやぁ?これは、一体、どうした事でしょう。確かに、犯罪の匂いがしますが……これは、アバター?

とてもリアルな容姿をアバターにして、会いたいと告げ、受け入れるような二人の会話とは似つかない場面に遭遇した。

どう反応したらよいのだろうか?


文字が書き込まれたのか、男性の濁声でオジサンアバターの口や動作が連動した。

「私たち二人の会話に、あなた……誰なのよ!」

さっきまでの女性の口調は、この……はぁ?


「私は、サイバー・パトローラー。カコ。」

ドヤ顔で、ポーズを決めたセリフ。

音声で聞こえるのは、私の声に近いが、相手にも聞こえているのだろうか?それとも、二人の書き込みに割り込んだ文字の表示だろうか。

それにサイバー・パトローラーって、何でしょう?

PCの前、傍観するしかない私は自分のアバターを見守る。

「こ、声が、聞こえる……お姉さん、男の人なの?」

小学生の男の子の声で、戸惑いの口調。男の子のアバターの画像が揺れ、霞むようにして消えた。

ログアウトしたのかな。

少し安心したけど、相手の見えないチャットで、あんな画像の相手を見る事ほど恐ろしいものは無い。


画像が切り替わり、対峙するアバターが戦闘モード。

「何だ、この空間。お前か、邪魔をしたのは。獲物を逃したじゃないか、お前の所為だ!」

私のアバターに、怒りの表情で喰いかかる。

PCの前だというのに、画像が怖くて、身が固まって動けない。思わず目を閉じる。

タンバリンのシンバル音が響き、目を開けると、カコは身軽に回転をして距離を広げた。

まるで物語の主人公。

揺らしていたタンバリンを上方に、左手を添えるように移動させた。片面に張った皮を指で打ち、金属円板を鳴らす。

追い迫るオジサンアバターは、音符記号に縛られ、身動きが封じられた。

アバターカコは、更に距離を広げ、タンバリンを振ってシンバルを響かせる。

画像の上部から、黒い影が生じ、押しつぶすように出現した。巨大化した雪だるまのヌイグルミ。

バイオリンの音が曲を奏で、まるでゲームの戦闘終了を告げる様だ。

オジサンアバターは闇に呑まれ、雪だるまのヌイグルミは縮小していく。半分ぐらいの大きさになると、画像が歪んで形が変化し始めた。


光を伴いながら、ゆっくり回転し……現れたのは、同年代の男の子。

タクマのアバター…………



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