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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
花嫁の標本~宇宙人の侵略~

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取説


ずっとキスの事を考えているのだけは分かる。

茫然と見つめる私に、父が声をかけてきた。

「そうだ、朱莉沙。家が決まったから荷物も送っているよ?」

私に追い打ちをかけるような父のセリフ。

視線を向けると、腹が立つほどのニヤけた微笑み。

ずっと、そんな顔で私たちを見ていたのだろうか?

「家?荷物?」

当然、とぼけたつもりはない。

会話の流れを読めば、そうなんだろうけど認めたくはない。

現実逃避くらい、許してほしい。

それなのに追撃の容赦ない言葉。

「新居だよ♪結婚したんだ。子作りを、ここでは……ねぇ?くすす……」

駄目だ。何かが、行き止まりの崖っぷち。

嫌な汗が流れる。

「さて、朱莉沙?次に行っても良いよね?俺の花嫁……愛情を育てよう?キスで、俺にも愛情を頂戴。愛情が増えると、君からもキスをくれるんだよね?」

何?何か、色気?甘い囁き?

私に詰め寄り、期待のような眼差し。

私を崖に突き落す気なの?

戻れない後一歩で、逃げ場を……逃げきゃ、私も……

「い、一週間待って!そう、待って欲しいの。私にも、その……準備と言うか。心の……」

視線をさ迷わせ、何とか言いくるめないと。

言葉を探し、逃げ道を探す。

「何を待つの?キス?一緒に住むこと?子作り?」

さら距離を詰め、上から圧力をかけるような視線。

恥ずかしげもなく、私の言っていることが信じられないかのような質問攻め。

「全部!」

「却下!俺の花嫁、標本に拒否権なんかない。じゃあ教授、約束通り頂いていくね?」

全拒否の私に、自分の異論をぶつけ。

奴が私の手を握ったと同時。体が浮いたような感覚が一瞬。

不思議な違和感に目を閉じた。


「朱莉沙……目を開けて、愛の巣に着いたよ?さ、次のステップにいこう……」

握る手が熱く、力の入っているのが分かる。

こいつも、なにか必死な気がする……?

目を開けて、声のする方に視線を向けた。

視界に入るのは、さっきまでいた家ではなく。見覚えのない部屋。

「……どこ、ここ?」

「だから愛の巣だよ。教授が準備してくれたんだ。俺達の結婚祝いに。ね、キスをしよう?」

結婚祝いに。愛の巣。

新居に荷物は送ったよって言っていたな~、確か。ふふふ。

いよいよ逃げ場を失った?

胸がドキドキする。これは。

嘘だ。キスで、愛情なんか育つものか!

これは吊り橋効果に違いない。

きっと……動転して、思考回路がショートしているに違いない。

「ねぇ?逃げないってことは、良い?」

逃げていない?違う。足が動かない。

怖い?違う……

首を必死で振った。

頬に、優しく手が添えられる。

【ビクッ】

「……嫌?」

傷ついたような悲しそうな表情。

ずるい。こんな混乱に、悪意などないような優しさ。温もり。

「嫌なら、逃げて。」

顎を支えるように、指が私の顔を上に向け。

真剣な視線を注がれる。

気づかなかったけれど。講義の時にしていた眼鏡、普段はしていないのかな。

それでわからなかったのか、近くだから分かるのか。

目が紺色に近い黒。引き込まれるような瞳。

目が逸らせず。近づく顔。唇が掠るように触れ……

違う、駄目だ。愛情じゃない……

軽く重ねるようなキス。視線を受けたまま。

切れ長なのに鋭さはなく。目をだんだん細め。

顔の角度を変え、深く求めるようなキスに変わって。

私はゆっくり目を閉じた。


記憶に刻まれた何か。

彼の話した知識。尊敬のような一時。

惹かれる要素があった。

皆を引き込む魅力的な容姿に、声……

それに甘さが加わって愛を囁く。

落ちる……そんな感覚。

キスを受け入れたのは愛情?増えている?


「…んっ…んん?ん~~~~~~!」

自分の舌に、絡む生ぬるく柔らかい何か!

抵抗をして、解放された時には。

また身体に刻まれる記憶。

「次のステップは……はぁ……興奮する。このまま欲望に促されて、君を求めても良いかな?」

「ダメ!まだ無理!うわぁ~~ん!」

両手を掴まれ、逃げ道のない愛の巣。

心惹かれ、突き刺さるような視線を逸らすことも出来ず。

甘い声で、愛情が欲しいと私に求めて。

「俺の花嫁、愛情を頂戴?君は標本……大事にするから、俺の子を産んでよ♪ね?」


私は花嫁の標本……






つなぎ短編:『トリセツ』

登場人物:朱莉沙ありさ孝彬たかなり



何度か、してしまったキス……

受け入れている自分が怖い。

理解できない。

一緒に住むしかない状況で、彼は私にそれ以上は触れない。

ただ侵食するようにキスを落とす。

逃げられない崖へと突き落すように……

見つめる視線は、鋭く逸らすことができない。

何故……ドキドキするの?

流されたらダメだ、これ以上!!


私は講義が3コマ目なので、それまでの時間、家にポツンと独り。

彼は、朝から高校へ行った。

宇宙人らしいが……年下(?)。

恋愛に慣れていないと、私に不器用に近づいてくる。

それも罠なのかな、感覚が狂う。


机にも、ポツン……分厚い本が置かれている。

存在を示すように、私に何かを訴える。

確か孝彬は、あれを見ながらキスがどうとか……言っていたような??

表紙には、『標本:朱莉沙の取り扱い説明書 著:朱莉沙の父』

……完全にふざけてる!あの、おやじぃ~~??

本を開くと、びっしりと並ぶ文字……事細かに……


「朱莉沙、何を見てるの?」

【びくっ】

体が跳ねる。

気配のない後ろからの声と同時で、抱きしめられた。

【ふぅ~】

首元に かかる風。

「ひゃぁ??」

くすぐったくて、そこから逃れようと抵抗を試みる。

しかしビクともしない。

彼の腕の中、伝わる温もり。

同じ石鹸を使っている私とは違う匂い……ドキドキする!!

「ふふっ……のぞき?それに触れると、信号が送られるようにしてたんだ。ね……俺の事、知りたい証拠だよね?嬉しい。先に進んでも良いってこと、だよね?はぁ……息が苦しい。ねぇ……キス、して?」

耳元で、囁く低い声。

いつもより熱を帯びて私に伝わる。

キス、して?していい?じゃなく??

「む、無理ぃ~~~~!!」




オマケ:『バレンタインとは?』

視点:孝彬たかなり


この星には、色々なイベントがある。

愛を育むには、命を懸ける Or 削ってでも、参加すべきだと……教授の本に書いてある。

地球人は、大変なんだな……

これは、標本との重要ポイント。

上手く行けば、かなり美味しい思いをするらしい。

美味しい??食い物か何かが関係するのか??

よく分からない……標本に依存しよう。


2月14日。

朝、朝食を整えた朱莉沙。まだ、ぎこちないような気がする。

「朱莉沙?」

「なっ何ぃ??」

……おかしいなぁ??

キスの回数は、増えている。拒絶もない。

時に、見つめる視線でキスをするが……

あれ?思い出したら、嬉しい気がする??何だろう……?

この、くすぐったいような……幸せ……

「孝彬?」

【キュンッ】

胸に響く声……

誘われるように、視線を向けた。

「何?」

「何って、自分が先に呼んだんだよ??」

そう言えば、そうだった。

今日は、チョコをくれるはず。

催促すべきなのか?それとも、くれた時に驚いたふり??

黙って、見つめる俺に首を傾げる妻……

まさか、忘れているとか?夫婦には、関係ないイベント??分からない……

「あ、あぁ~~の、これ!言っとくけど、義理だからね?意味なんて、ないからね??夫婦って言っても、……違う 何を言っているんだ?私は……とにかく、遅れそうだから……先に……」

チョコ、俺の……

イベントには、命を削る覚悟で!!!!

【がばっ!!】

「ぎゃぁあああぁああ~~~~????」

床に押し倒した。

「なっ??何、ちょっ……うわぁああぁ~~~ん!!!!まだ、ダメ!んんっ??」

唇を重ね、抵抗する両手を捕らえる。

唇を強く押し当て、そっと目を開け見つめる。

「……んっ……んん……ぁ……」

頬が赤らんで、息のあがる朱莉沙は色っぽい……

「ね?頂いても良い??」

「……ダメ……遅れちゃう……から。」

「俺の事だけを考えて……俺だけを見てよ。朱莉沙……良い?」

「……ダ……メ。」

朱莉沙の抵抗のない手を解放し、俺の自由になった手で胸に触れた。

【びくっ】

「……ぁ……」

「柔らかい……触れても良い?」

「もう、触った……のに。イヤ……」

「嘘だ……だって……ん?あぁ!ここじゃ、ダメだよね。お風呂でイチャイチャが先だ!!」

さっきまでの朱莉沙は、どこへやら。

冷めた視線で、俺を見る。

そして、震えながら目を吊り上げ叫んだ……

「い、いい加減にしなさぁ~~い!!」

顔を手のひらで押し退けられ、腹に一撃をくらった。

……これがイベント。

さすが……地球人……命を削っても、こなさないといけないとは……奥が深い。

また、愛が育まれたんだ。

戦利品のチョコは、甘くて何かが満たされた気がする。

それなのに、物足りない。

教授の嘘つき……美味しい思いをしたけど、がっかり感が多いよ?

「……ね、孝彬?」

「何?」

【チュッ】

……え……?

頬に、朱莉沙からのキス。

「殴って、ごめん……深い意味なんてないからね!!!!」

……美味しい想い……



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