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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
子烏の片鱗

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①カラス

一族が治める小さな山。辺境の地に、家族を増やしていく家系。

本家と分家の力は削られ、すでに均衡を崩した現在。繁栄を築いた烏の力が、崩壊を導く……残った最期は…………


烏よ なぜ啼くのか

烏は山に 御守七つと 子があるからよ

可愛 我が子を思い 烏は啼くの 可愛 我が子が 可哀相だと 啼くんだよ

山の古巣へ 行って見て御覧 仇の眼をした 七つの烏だよ

君への想いを深め、“すべて”を喪ってもいいと思ったんだ。だから、お願い……泣かないで……

『 カラスよ なぜ ナクのか 』




それは、急な転校生が運んだウワサ……自分の家系に臨む結末を、周りは知っていたんだ。

俺の結末……彼女が、俺のすべてを奪う。最後の烏。

手を出すなんて、考えもしなかった。その行為さえ理解せずに、ただ望んだのは愛情…………


烏よ、山の古巣に何故、戻る?それは、本当に仇なのか?

ニシの空、沈む太陽……それは明日への軌跡。ヒガシから上る太陽……それは、希望のはずなんだ。

俺は、ずっと……そう信じてきた。

夕暮れに鳴く烏。この村は烏を崇める神社がある。祀り、怒りを鎮めるのだと……

幼心に疑問を抱いたが、大人は口を重く閉ざし、答えてはくれなかった。


あずま 白鷺しらぎ

俺の人生の終わりを告げるカラスを知ったのは、高校2年……

西嶌にししま 烏立うりゅうが転校してきた日。

ざわめく教室に、集中する視線。彼女と俺を交互に見つめるクラスの反応に、俺は、ただ戸惑うばかりだった。

耳に入った言葉が、記憶に刻まれる。

『烏……仇と御守が災いを招く……』

自己紹介は小さな声。教室は静まる。その声を聞き取ろうと。

しわがれてはいないが、独特な声色。寒気を感じるような冷たさを印象に残す。

彼女の制服は、烏のように真っ黒。襟の部分に、目を引く黄色の線。

リボンもなく飾り気のない、この学校の指定ではない制服が、彼女の存在を一層際立たせた。

HRが終わり、担任の先生は教室から、逃げるように出て行った。

増えた席……彼女の居場所に近づく者はいない。ただ遠巻きに、小さな会話が小さな集団で、同じ話題。

俺は自分の席を立ち、彼女に近づいた。

「はじめまして、俺……」

「死ぬわよ?」

自己紹介の途中、小さな声なのに耳に入った言葉。教室は一瞬、静まり返る。

青ざめるクラスメイトの数人が後退り、それに連なるように……叫び声と共に教室から、全員が出て行った。

状況を理解できない俺を、彼女は静観した視線で、ため息交じりに答える。

「私は烏。私に関わると、すべてを失うわよ。」

「……御守を持っているの?」

彼女は視線を逸らし、俺の質問に答えなかった。

どうすればいいのか立ち尽くしていると……

「白鷺、近づくな!来いよ。知りたい事は、俺が教えてやるから。」

声のする方に目を向ければ、教室の入り口に、面倒臭そうな表情の幼馴染。

同じ血縁の北巣 愛鷹 (きたす あしたか)。

その後ろに女子生徒が数人。きっと、この状況を伝えに行ったのだろう。

「西嶌、ごめん。また話をしよう?」

視線を戻して話しかけたが、目が合うことも、返事もなかった。

どう接していいのか迷いながら、俺は、愛鷹の方へ小走り。俺が近づいたのを見て、愛鷹は後姿。

「付いて来いよ!」

愛鷹は速めに歩き、適当な場所を探しているようだった。

「愛鷹。俺は、彼女に近づいてはいけないのか?」

返事は無く、空いた教室を見つけて入る。

会話を聞かれると不味いのかな?

愛鷹は、教室の奥に足を進め、窓際にある机に座った。

「……ちっ、片鱗が俺らの代に現れるなんてな。しかも、俺か……お前の、どちらか。」

片鱗?

「白鷺。お前は、どこまで“烏”を知っている?」

どこまで?不思議な顔をした俺に、愛鷹は笑う。

「くっ……くくっ。はっ!笑えねぇ。マジかよ?本家は、お家を手放すのに慣れちまったのか?冗談じゃ、ねぇ!たかが女一人に、何代もの不運。狂った男共の末裔……」

何を言っているのか、全く分からない。

ただ、自分と血族の衰退は知っている。それは、時代がもたらしたとばかり……不運を招いたのは“烏”?

「全く知らないんじゃ、話にならねぇ。話が長すぎて、付いて来れねぇ~ぜ?」

何も理解できていない俺の様子に、どうするのか選択を促す。

「それでも、聞きたい!」

俺の願いに対して、愛鷹は、ため息。

「白鷺、俺達の名前には鳥の名前が、必ず入っている。それが何故なのか、知っているか?」

質問が増えていく。

「……風習だからだと聞いた。」

「そうだな。白鷺、気付いたか?血族に“西”は、無かったんじゃない……そばに居なかっただけなんだ。古巣に、帰って来たんだよ。災いと共に……」

西嶌烏立。ニシにカラス。

俺の名字が“東”。愛鷹は“北”巣。……もう一人の幼なじみで血縁“南”嶋 鷲実 (なしま すみ)。

東西南北。血族。

「愛鷹。西嶌は、同じ血族なんだよね。何故、災いを招く必要が?」

この地から離れ、それでも同じ血を流す……同じ家系が何故……

「祭りが近いな。白鷺、他の土地では神事に述べられるのは祝詞なんだ。しかし、この土地は忌詞。不吉な預言。幼い時から何度も耳にし、その度に俺は悪夢を見た。」



『烏よ なぜ啼くのか 烏は山に 御守七つと 子があるからよ 可愛 我が子を思い 烏は啼くの 可愛 我が子が 可哀相だと 啼くんだよ 山の古巣へ 行って見て御覧 仇の眼をした 七つの烏だよ』



結局、愛鷹からの情報は保留になった。自宅から連絡が入り、今すぐに帰って来いと……急を要する緊急事態。

烏……か。毎年、年に一度だけ神社への道が開かれる。祭りのとき以外は、そこを管理する者だけが通行を許される道。

隔離された秘境の地。幾つもの曰く付き。怖いもの見たさに、好奇心の子供が行方知れず……

近づいてはいけない。……神域……禁忌の社。禁断の道。

『悪夢をみた』

あぁ。俺も、記憶に残らないのに、恐ろしく怖い夢に怯えた。

起きて夢だったことに安堵しながら、震えが治まらず……冷たくなった体に身を抱き寄せた。何度も何度も、繰り返してみる夢。

それは決まって、祭りの時期だった。それが……烏?


家に着き、周りから急かされるように父の元へと、部屋に通された。

「ただいま。」

「お帰り。座りなさい……」

父は珍しく、言葉を濁らせる。

いつも厳しくて、真っ直ぐに俺を見つめた。言いたい事だけを、常に用意された言葉を受けてきたんだ。

他人のように感じることが嫌だったのに、それが一人の女の子に覆される……

「白鷺、烏が古巣に戻った。西嶌家の女。この地を災いに導く。多分、最後の烏……」

愛鷹と話をしていなければ、全く分からない言葉だ。

父も、どの様に伝えれば良いのか分からないのだろう。大きなため息を吐き、首を振る。

表情に厳しさは無く、悲しみと辛さと……複雑な笑み。

「白鷺、古い文献を受け取りなさい。」

父から、一冊のボロボロになった巻物を渡される。開くと、崩れてしまうような脆さ。

「それは、家系を記した巻物。俺達は、その片鱗……。烏が古巣に戻り、何度も災いを……この地、東・北・南の家系にもたらした。すでに六つ。それは、その度に烏を手に入れた故の災い。頼む……手に入れることを、望まないでくれ。」

西嶌を手に入れる?それを、俺が望む……と?

「時代は変わった。すべてを喪っても、手に入れたい者など無いはずだ。白鷺……言伝えでは、『烏と出逢った日、悪夢をみる。流れた血に、刻まれた記憶が呼び起こされる。』と。そんな記憶を知って尚……お前は、災いを望むのだろうか……」

父は、静かに立ち上がり部屋を出て行く。

見たことのない涙を流しながら…………

『それでも……尚……』

手には巻物。今まで築いてきた家系。その片鱗の俺が……それを喪っても、望む“からす”。

今夜、あの悪夢をみる。記憶に残り、理解できなかった恐怖を味わう。

過去に何があったのか……俺に、これから臨む事。




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