オマケ:配下は甘い・・
朝日を浴びて目覚め、目に入るのは広いベッドと見た事のない部屋。
体を起こして布団が肌蹴、自分の裸が露わ。慌てて布団を胸元に当てながら、部屋を見渡した。
一翔の配下になったということは、ここは彼の家。
昨日の夜の事は……
嘘だ。そんな急展開。
「告美、起きたのか?」
ドアが開いて、笑顔の爽やかな一翔。
夢じゃなかった!
「……おはよう、ございます。」
私の曖昧な挨拶に、口もとを緩ませる。
そんな表情を可愛いと思うなんて。
「今日は休むか、学校。」
制服姿で、学校の支度を済ませた状態の彼に、私は戸惑いながら視線を逸らす。
裸で身動きも取れず、昨日の事も恥ずかしくて、どうしていいのか分からない。
あの場で、配下にする宣言をしたから皆には知られているわけで。
「何、そんなに無理をさせたかな。何なら、もっと俺の力を喰う?」
何故か制服のボタンを外しながら、色気を増して迫ってくる。
「ヤダ!」
拒絶とは違う、照れ隠しに近いハズだったのに。
「おかしいなぁ。配下に、拒否権はないよ?」
眼が真剣で、伝わるのは凍えるような緊迫。
「違う、から。その。恥ずかしいから、少し部屋から出てよ。服を着たいんだけど。」
視線をさ迷わせ、脱いだ服を探すけど見つからない。
「あぁ、洗ったから無いよ。白狐の神域って消えたけど、服とかどうなったのかな。」
私の恥じる姿を楽しむように、体を隠した布団を捲り、ベッドに上がる。
「何してるの?学校に行くんだよね?あ、生徒会の時間じゃない?遅れるよ?」
今までにないくらい舌が回る。
「ん?くすくすくす……時間の操作は無理だけどね、学校を支配するくらいには力があるんだ。」
それは笑えない冗談ですか?
私に被さり、甘えるように頬をすり寄せる。
「好きだよ、告美。……覚えてないだろ、昨日の夜の事。」
所々、意識が飛んだ気がするけど。
何を指して言っているのかな。
「仲間を見つけて、それが自分好みの同類だったなんて。ふふ。そりゃ喰うっきゃないよね。」
予告通り、食べられてしまったわけですか。
「あれ?告美、寝る時にノーブラ派だから抵抗はないだろ。」
あの時は、上着を着ていたはずですよ。
そうよ、あなたは寝ている私の胸に触れても平気だった。
「……寝ていた私に、何もしてないよね?」
「寝る前にしたから、その後はいろいろ我慢したよ。……ん?それは起きている今、して欲しいって事?」
しまった。我慢するとか、そんな言葉も気になるけど。
裸の今、こんな朝日を受けた明るい場所で身を晒すなんて無理!
「冗談だよ、告美。ねぇ、告美……こっち見て。」
視線を向けると、銀色の髪に白い翼を広げた姿の別人。
「俺は神馬。獏の能力も共に引継いだアヤカシ。鵺、告美を配下に置いた。」
「私は鵺、吉凶の萌しを視て不吉を告げるアヤカシ。今後、神馬の配下に身を置く。」
…………
出逢った記憶。彼の想い。それが流れ込んでくるような感覚。
目を閉じ、睡魔に誘われて落ちていく。
一翔は獏として私の悪夢、一翔のお母さんが鵺に託した悪夢に引き寄せられて来た夜。
私の夢に現れたのが獏、現実で私が殴ったのはジンマ。
本来、獏は仮の姿で感覚などない。夜明けに本体に引き戻されると、言っていたけれど。
そこに居たのは神馬で、本体だったのね。
減退などしてこなかったし、あなたは強い能力に目覚めたばかりで、痛みを感じた事にも無頓着。
私はあなたに萌しを邪魔され、現実の体にまで触れたから、夢魔の類だと思ったけれど。
あの時から、少しずつ未来は動いていたのかもしれない。
別人のように振る舞う一翔に違和感を抱き、女生徒に囲まれている時のあなたに近づく事を恐れて。
悲しみの表情で夢を返せないと告げられ、読み取れない表情で突き放されて。
苦笑に混じる感情が何かを知りたくて、目が離せなくなった。
彼の抱える闇の心奥深くに触れたようで、何かが埋まる。
惹かれて心乱された。
あなたに覚悟を見せろと言われ、私が夢で口づけたのは、萌しより望んだものがあったから。
それなのに、夢で体温を感じるなんて。
確かに、私が視た悪夢が未来を変えた。
あなたが必死になったから、私の心が素直に反応しただけなのよ。
『あいつには近づくな。頼むから。もう、俺と係わりたくなどないだろう?』
そうね。私が姫鏡くんに近づいて好意を抱くなら、萌しの通り命を落としていただろうから。
そうならないで欲しいと、あなたは願ってくれた。
『もう、後戻りは出来ないからね』
追いかけるのを止めなくて良かった。
『君には感覚があるんだね。残念ながら俺にはないんだ。これは仮の姿だって言っただろ』
嘘つき。
羽が黒く染まっても、あなたは臆病。
『バレちゃったか。それならしょうがない。計算が狂ったから少しの間、身を引こうかな』
自分から背にある真っ黒な翼を見せておいて、私に何を伝えたかったのか。
自分の事を知って欲しいのに、近づく私を突き放すような矛盾した言葉と行動。
愛しさが増していく。
『恐れは未来に対して生じるもの。そうだ、先を視るお前が怖い』
私の萌しを知って、あなたは恐れた。
どんなに強い力を持っていたとしても、不安は消えない。
『俺の気持ちを本当に知っているのかな』
『知らないわ。だから、教えて欲しい。嘘じゃない。感覚も言葉もすれ違うけれど、間違ってはいないと思える。幸せと、満たされるような心は一翔が教えてくれたから。信頼は変わらない。私の全てを見透かすような視線に、気恥ずかしさが抜けないとしても』
あなたの配下に留まって、私の全てを捧げるわ。
アヤカシは減退してまで、この人間社会に溶け込むことを願って来た。
役目を担い、夜な夜な活動を粛然と繰り返す。
減退に相応しいアヤカシを見つけて……減退を選んだ“この国”。
残った数少ないアヤカシ。古来より人間の心が思い描き、恐怖が生み出してきたのに。
現代では、いともたやすく消していく。不安定な理でアヤカシは生きているのだから。
未来だって覆せるなら。
悪を善に塗り替え、理に反しても甘い配下で幸せに・・
(オマケ:猫塚先生と)
「もう、あいつら消えればいいのに。言い加減、あんなアヤカシ共を知っている人間もそろそろ寿命で……そうよね、私が幾ら減退したからって死神の人気はあるわけだし。逆に利用してやろうかしら。」
人間に左右されるような理では駄目だと、最近の猫塚先生は過激派になりつつある。
減退を選んだ古の理に反するのは、簡単じゃないよね。
父と一翔の件でお世話になったし、母は配下に置いてもらっているのに。
「気にしなくてもいいわ。神域にいるだけで存続できるのだから。」
「先生、大鷹くんを配下にしたのは寿命が関係しているんですか?」
先生は遠くを見るような視線で微笑む。
「確かに私が配下に出来るのは、命に関する弱者だけど。寿命に係わらず紋葉に好意を抱いたのだと、そう思ってよ。」
アヤカシの存在意義や理に反しても、猫塚先生と大鷹くんの関係は変わらない。
想いは同じ。純粋なのだと、少し切なくなった…
(オマケ:光莉&屈狸くん+白狐)
「まぁ、需要と供給じゃ。しゃあないわ。私等は頼られてナンボやけんな。」
かと言って毎回、屈狸くんを噛むのもどうなのかな。
「僕は、光莉さんの気持ちが本当なら良いですよ。」
毒されてきたのかな。
彼も前は、なぜ噛むのかと言っていたのに。
「配下に置けるいうんは、気持ちが無いと無理やけん。他は神域に留めるとか……。そう言えば白狐、あんたの栄養は人間と同じなん?稲荷寿司やっけ。」
父は獣姿で伸びをしてから、本棚に駆け上って座る。
「見下ろすとか、立場が違うやろ。」
不機嫌な光莉に、満足そうな笑みを見せた。
「稲荷寿司が狐の主食とか、冗談だよね。肉食だよ、僕は。くくくっ……ネズミを喰らうからね、狸でも案外。」
光莉の怒りが、こっちにまで伝わるようなピリピリした空気。
お母さんと離れているのが、少し不満なのかもしれない。
「ふん。はがいたらしい。化け猫のところにでも行きなだ。」
了承を得たと思ったのか、父は青白い火の玉になってから消えた。
「告美、白狐が言うんも一理ある。『神仕えは、数が減るけれど能力の減退はない。寧ろ、力を蓄えた宝庫』。それでも配下に置けるんは、限られとる。空馬先輩と、仲良うしぃなぁ。」
『“彼”も告美を配下に置けんのだけは覚えておいて欲しいんよ』
そうだね、私は一翔の配下で生きていく。
出来るならアヤカシの未来を、不吉を覆すため……
吉凶は夢に萌す…………




