アヤカシでも鵺でもなく・・
人と変わらぬ外見で人間社会に混じり、尚も引き継がれる習性。
役目を背負って、其れは夜な夜な活動を粛然と繰り返す。
アヤカシは能力の減退を知りながら、人間の世界に何を望んだのか……。
黒煙の交じる炎の翼を背に、私が視るのは吉凶。
告げるのは不吉のみ。
道は一つではないかもしれない。
だって周りに、アヤカシが役目を担って存在するから。
始まりの夢。視る事を望んだ“彼”の未来。
それは呆気なく、記憶から奪い去られてしまった。
一翔との出逢い。
同じ学校に彼を見つけ、増えるのは疑問だけ。
こんな身近で偏るかのように思えるほど、この世界には沢山のアヤカシが居るのだろうか。
何も答えが得られないまま、私は常に守られてきた。
「告美、あんたには神仕えを選んで欲しい。」
遠慮気味な言葉。
感情を汲み取るかのような光莉の表情は、私を心配してくれているのが分かる。
つまり一翔は神仕えではない。
獏は悪夢を喰うアヤカシ。でもジンマは?
言葉を選びながら、何と言って良いのか迷ってタイミングを失った。
光莉は視線を空にあげ、ため息を吐く。
「紋葉はアホじゃ。綺麗なもんに惹かれて、何も見えてないんやけんな。」
大鷹くんは私に想いを抱いてくれていた。
『俺の目は常にお前を見ていると言うのに』
彼が見ていたのは、私のアヤカシの姿だろうか。
何にしても、好意を認識できずに冗談だと思っていた。
『告美はあかんよ。いくらあんたが好きじゃって言うても、あげんけんな』
光莉の冗談だと思っていたから。
それに。
『私は空馬さんじゃない人に想いを寄せている』
当時の私は。
そんな私を見守り、光莉は先を視ていたのに。
『そっかぁ、 教えてくれてありがとうな。……ほなけど……うぅん、何でもない。私、応援しとるわ頑張りな』
理解してくれる友人に舞い上がり、私は何を告げただろうか。
『きっと、それが私の初恋だから。実らない恋に焦がれ、切なさと甘さを記憶に生きていきたい』
相手は違うけれど、その気持ちは変わらない。
「思う様にいかんな。多分、あの時の力の暴走は“神”であるが故……だったんかもしれん。紋葉にはホンマ悪い事したわ。」
視線を戻し、光莉は苦笑する。
あの時の言葉が本音だとすれば。
『引き継ぐ能力の減退は止めてくれんと困るけん、どないかならんやろか』
恐怖心の植え込まれてしまった大鷹くんを見ながら、私は二人のやり取りを微笑ましく思ってしまった。
『こんな時代まで、俺は御免だ!』
彼の本音。
「ホンマに、告美が私の配下やったらと思とったんやけんどな。ほうでもないわ。結局、手を出すことは出来んかったやろな。」
光莉は、何を思い出しているのだろうか。
「うぅん。光莉は助けに来てくれたよね。ありがとう。それに、いつも私の手を引いて導いてくれた。」
これからも……
仲良くして欲しいなんて、言って良いのかな。
「それにしても化け猫、遅いなぁ。」
父の神域は解け、普通の屋上に戻ったのだけど。
変化を解いた猫塚先生は、鵺姿の母と小さな白狐の父を伴って、校舎の中に入って行った。
無言で移動したから、私は置いてきぼり感で、普通に会話する光莉に合せていたのだけど。
「光莉、この学校はアヤカシの管轄って言っていたよね?」
それが関係するのだと思って、尋ねた。
「知らんかったん?……ほうか、奴の配下やったけんなぁ。庇護欲は否定せんけど、これから面倒じゃ。」
大きなため息。
「なんか、ごめんね。」
私は知らずに、父の保護の下に居た。
これから何が起こるのか。
「えぇんよ。『私には視えない混沌とする未来。役目に囚われず、 私があなたを救いたいと願う様に。あなたも生きることを願って欲しい』だから……。惹かれたのは当然なんよ、告美。」
『惹かれたのは当然』それは。
問おうとした瞬間、ドアが開いて猫塚先生が登場。
「あの腐れ老害、頭薄いくせに固いわ。」
髪をかき上げ、苛立ち露わに毒を吐く。
「告美。この学校の建物の下、地下にはアヤカシの登録所みたいなモンがあるんよ。」
アヤカシの登録?母や父は、配下の登録になるのかな。
頭が固いって……死んだ母が存在する事自体、難しい問題だよね。
「ほうか、あかんかったんやな?……ほな、沈めよか。」
光莉の首の黒い輪が、色濃くなって足元に少しの水が生じた。
「落ち着きなさいよ。鵺と白狐の件は、私たちの配下って事で了承は得た。ただ。」
猫塚先生は、大きなため息。
「やっぱり、空馬先輩の件やな。」
声は低くて怒りが見えるけれど、光莉の首の輪は通常の色に戻って、水が消えていく。
「ヒカギリ、今後の相談もあるから鵺は連れて行く。あなたの配下だから白狐は置いて行くけれど、油断して噛みつかれないでよね。元、“神”で私たちより力もあるのだから。」
「化け猫が、いらん心配せんでもえぇわ。はよ行きな。」
漂う緊張感。
狐姿の父は私の足元に走り寄る。どう対応していいのか、私は戸惑った。
「……鏡のアヤカシは、良い奴だよ。」
ただそう言って、狐の姿が青白い炎に包まれ、燃え尽きるように姿を消した。
死を連想して心臓に悪い。
鏡のアヤカシ。姫鏡くんが、良い奴?
父は彼を知っていたのかな。それなのに攻撃して、矛盾しているような?
それとも、私を守ろうとした行為で判断したのだろうか。
分からない。
大鷹くんも屈狸くんだって、同じように光莉や猫塚先生と共に闘ってくれたのだから。
神仕えである鵺の私は、何らかの神仕えを探して理に従うべき。
だけど。父が『鏡のアヤカシ』である姫鏡くんについて触れるのは、その事と関係するのかな。
光莉は私の想いを知っていて。
父は神落ちして母を選んでおきながら。
違う、一緒にしては駄目だ。
父は未来を覆すと言った。
私の直面する問題は死。それでも。理に反しても、視た未来が覆るなら私だって。
結局、一翔は私の視た萌しに係わることを選んだ。
私の視た未来、悪夢を奪ったあなたは知っていたのに。
『未来は少しばかり変わったのかもしれない。俺が喰った悪夢とは違っていたから』
姫鏡くんに近づくなと言ったのは、それが一翔と係わる事に繋がるからだと告げた。
『もう後戻りは出来ない』
理に反しても貫く。私の想い。
それはアヤカシでも鵺でもなく・・




