それが理だから・・
朝、目覚めると天井のない自分の部屋にいた。
今度は自分で無意識に歩いて来たってことは無いと思うから、周りに迷惑を掛けてしまったな。
神域か。
父の力が強いなら、受け継ぐはずの能力は白狐だったはず。
一翔は母親の獏と、ジンマ……父親の能力、両方を持っていると言ったのは、どういう事なんだろうか。
そんな事が可能なのかな。
何らかの事情があるけど、私には言いたくないみたいだし。
一翔の雰囲気が変わるのと無関係じゃないよね。二重人格に近いのかな。
駄目だ。理から外れたことは、父の配下でなくても理解できない。
夢ではなく、現実で彼に会って話さないと。母から託された悪夢を知る事は出来ない。
きっと私達の母は今の状況を萌し、残してくれたのだろうから。
いつものように制服に着替え、台所へと向かう。
すると、そこには昨日のメンバーに加え、鏡のアヤカシも居た。
姫鏡 暎磨。
光莉と猫塚先生、屈狸くんと“彼”の視線を受け、少しの戸惑い。
「おはようございます。」
寝坊した感じがするけれど、朝の挨拶だし。
「おはよう。」
全員から返事。
何というか、威圧的だった姫鏡くんは印象が異なる。
「告美、ここに座んな。」
光莉に椅子を勧められ、集まる視線を受けながら座る。
少しの沈黙が重い。
「映磨が協力してくれるので、鳥生さんが変化した姿を二人で再現できます。」
囮作戦の決行ですか。
それは父を誘き寄せる為。だけど、肝心の悪夢は。
「光莉、猫塚先生。一翔が夢に現れ、これは彼の母が作ったものだと。」
二人は曖昧だけど、私とは違う方法で未来を見ている。
「その中身なら、俺でも知る事が出来るよ。」
彼は立ち上がり、私の前に置いた悪夢の詰まった球体に手を伸ばす。
咄嗟に、取られないよう両手で球体を覆った。
「あの、ごめんなさい。」
まだ信用していないのもある。
だって、彼は前に自分を“僕”と呼んでいた。それなのに。
「ふっ……。くすくすくす。俺は、ここに来たばかりだけど。誰からも詳しい説明を受けていない。」
説明を受けていないのに、アヤカシの集まるこの状況に馴染んでいる。
この手に在る中身を知る事も出来ると。
「君は、俺の力を見たよね。」
彼は鏡のアヤカシ。
私が理想を重ねたのだと言っていた。
普通の鏡のように映すだけではない。神事に係わってきたなら。
「圧倒的な力を受けて、恐怖に震えたわ。」
鵺、本来の姿を引き出した能力。
それはアヤカシとしての、彼の役目。
私は球体から手を離し、顔を上げる。
「教えて欲しい。この悪夢が、私たちに何を告げるのか。」
一翔は中身を知っているのかもしれない。
知らないとしても、予測できる何か。そうでなければ逃げているのかな。
「俺はね、この状況が来ることを知っていた。君を護ろうとした空馬先輩が、俺に君の見た不吉を告げたんだよ。だから未来は変わっただろ?」
『未来は少しばかり変わったのかもしれない。俺が喰った悪夢とは違っていた』
確かに一翔は、そう言っていた。
未来を変えることが出来るのは、先を知っている者だけ。
『先を視るお前が怖い』
その言葉が頭を過るのは。目の前にいる姫鏡くんに対する恐れに、近い感情なのかもしれない。
姫鏡くんも一翔も、私の記憶から消えた悪夢を知っている。
『計算が狂ったから少しの間、身を引こうかな。』
何らかの計算があって、一翔は身を引いた。
私と接触しておきながら、母達から託された悪夢を告げる事もせず。
「君は今の状況に集中すべきじゃないかな。俺に重ねた『理想』は、白狐だったんだよ。俺の力が暴走するくらい、“僕”は恐怖を味わった。神落ちを目の当たりにして、彼の考えに嫌悪で吐き気がする。」
私の理想が……父。
愛情は家族としてのものだと、思いたかった。父の思考は、神落ちの時点で狂っている。
「私が視た吉凶の萌し。それは私にとって悪夢。」
「俺にすれば不吉だよ。方法は異なるけれど、君は役目を果たした。だから未来は変わったんだよ。けれど。」
そうだ、この状況になることを姫鏡くんが知っていたのなら。
まだ悪夢は続いている。
「告げるより、視た方が早いよね。天山 光莉さん、一面の水を用意して欲しい。そこに映すから。」
光莉は黙って頷いた。
机上の中央部から水が湧き、徐々に広がっていく。
それが球体に触れると、白と灰色のマーブリングが溶けて全面に浸透。じわじわと青白い炎が立ち上り、黒煙を含んでいく。
この悪夢には、アヤカシ達の力が集結した。
そして映し出されるのは過去。
母が未来を萌したのは、父についての吉凶。私が視たのと同様、彼女にとっての悪夢。
それに引き寄せられた一翔の母、獏は一翔と同じように鵺から不吉の萌しを奪った。
母は役目を果たすために奪還を試み、未来を知った獏は中身を封じたまま残すように提案する。
獏は萌しを口で告げる約束で、自分の能力を継いだ息子の萌しを依頼した。
どこか親近感を抱いたのか、それに応じ……
映像は途切れた。
「俺が見せられるのは、ここまでだよ。獏では悪夢の元凶、白狐の行動しか分からなかっただろうね。」
球体は母を通して、周りの感情を記憶していた。
それを映し出した水面。
鏡のアヤカシ、姫鏡くんの能力との出逢いも偶然だったのかな。
「白狐が、神落ちしてまで手に入れたかった理由までは分からないけれどね。」
言葉にならない感情。複雑な思い。
父を止めなければならない。
そして解決した暁には、一翔の抱える問題を……
彼の吉凶を私が萌す。
「向こうに動きがあったみたいよ。紋葉が、白狐を見つけたわ。」
猫塚先生は、私に苦笑を見せる。
彼女の役目ゆえ、“死神”として父を捕らえて裁く。
「私たちの存在意義を覆すわけにはいかない。」
それが理だから・・




