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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
吉凶は夢に萌す

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同じ道を辿るかもしれない・・


自分の手中にある球体。

それは一翔が歪ませたような柔らかさなど、全くなかった。

冷たくて、私には何も伝えて来ない。


「告美。移動ばっかりで悪いんやけど。人の目につくけん、ここは離れなあかん。」


手にある悪夢を見つめていたからか、光莉たちには私が落ち込んでいる様に見えたのかな。

そうだよね、本来なら。


「うん。これから、どうすればいい?」


家を失った。これからの未来が見えない。

私の視る夢が奪われ続けているとすれば、それは不吉を意味する。


光莉は苦笑して、私に手を差し伸べた。


「行こか。足掻いてみるんも、えぇかもしれん。猫又。あんたは、どうするん?」


私の手を引きながら、猫塚先生に視線を向けた光莉。

先生は。


「あら。私の神域に、ご招待してもいいのよ?」


どこまでも意地悪なんだね。

思わず笑みが漏れた。


「あほか。あんたの陰気くさいんがうつるわ。」


「くすす。残念。心配しなくても、紋葉は帰ったから居ないわよ?」


私の思考までお見通しなんだろうか。

二人って、以前から面識があったのかな。


「紋葉は、告美を裏切ったと罪悪感に浸っとったわ。あんた、ホンマに残酷な女やな。」


今は猫塚先生と接しても、自分が害を受けるような印象などない。

彼の言う裏切りとは。


「浸ればいいわ。逃がしはしないけど。数少ないアヤカシに、自分の好みを見つけて。そうね、紋葉の好意を抱く告美が神仕えでなかったなら。どうしたかしら。」


彼女の視線は、今までにない鋭さで真っ直ぐに私を貫く。

大鷹くんの言葉を、冗談だと思ってきたけれど。それは。


「あいつはアホじゃ。自分の目を過信して、肝心な事を見過ごした。それに比べて、空馬先輩は複雑やなぁ。告美が引き寄せたんか、守っている力がそうさせたんか知らんけど。……そうこう言うとる間に着いてしもたな。」


結局、学校の方に戻って来てしまった。


“彼”を初めて見た場所。

屈狸くずりくんと、初めて会った場所でもある。


「さてと。どこまで通じるかは分からんわ。相手が神落ちなら、どこに居っても一緒やろし。」


面倒臭そうな表情で、ため息を吐きながら。光莉は繋いでいた手を離し、その場に屈む。

地面に両手の平をかざしながら、何か呪文の様な聞き取れない言葉。

手のかざした辺りから一気に水が広がり、後を追うように草が生えていく。


そして見慣れた一軒家が出現した。自分が住んでいた家。


「中に入ろか。」


立ち尽くす私を置いて、光莉と猫塚先生は家に入って行く。

彼女たちには理解できる状況だろうけど。本当に置いてきぼり感、半端ない。


自分の家のはずなのに。

ドアを開けて入り、おいでと促す光莉に違和感はないし。

流れに身を任せていては駄目だと、何度も思いながら。


私は。

足を一歩踏み出し、家に向かって進む。




家の中。


曖昧な記憶をつなぐように、それぞれの部屋が昔を物語る。

台所に立つ母の姿。リビングでくつろぐ父の姿。幼き日の幸せな日々。


涙が込み上げる。

ここも、あそこも幻影だったかもしれない。だけど。


「私の家だ。暮した日々は、幸せで一杯だったのに。どうしても思い出が霞む。」


壊れたのは、母を喪ってからだろうか。

父は。


「ヒカギリ、座って話す?説明の仕方によっては、外の方が良かったんじゃないの?」


「うるさいなぁ。今、考えとるところじゃ。ぼけぇ。」


……ふっ。

思わず笑ってしまう。


私とは異なるアヤカシ。

次元が違うからか、私は当事者のはずなのに仲間外れな気がする。


「告美、何がおかしん?」


「ごめ。ふふっ。何も知らな過ぎて、付いて行けなくて。」


知ろうとすればするほど、疑問が増えていく。

そんな状況で、情けなさを覆すような空気。


彼女たちの力を見たからか、信頼からくるのか、穏やかさが包んでくれるなんて。


「告美、とりあえず座ろ。話は長いし、どう説明してえぇんかも手探りやしな。」


椅子に座り、くつろぐ3人。


私は天井を見て驚く。

筒抜け。屋根はなく、自分の部屋があるはずの部分が。


「心配せんでもえぇ。階段を登れば、天井はないけど部屋はある。」


おやぁ?前の家は、ちゃんと天井があったはずなのに。


「それだけ、あなたの父親は力を落とさずに来たって事よ。だから神落ちなの。」


力を落とさずに。減退をせずに神落ちしたって。それは。

私は言葉が出ず、二人の説明を待つ。


鳥生とりゅう すぐる。白狐じゃ。私は、ある社の眷属けんぞくやと思ったんやけど。」


「狐のアヤカシは、最上位を“神”とする言伝えもあるくらいよ。それに本来、つぐみが受け継ぐはずだった力は父方のはず。それなのに母親の能力を表す鳥生とりゅうの氏姓なんて。」


確かに皆、名字にはアヤカシの能力に関する字が。

あれ?空馬って獏と関係あるのかな。

童話などでは、獏が空を飛んでいるイラストを見た気もする。獏は馬なのかな。


何故か、父に関する危機感も無く一翔の事ばかり。

私は一体、何を気にして。


「私らが減退したと言っても力は歴然。白狐は対峙する力を持っとったけんな。」


父が神仕え等ではないのは明らか。だとすれば。母との結婚も、私が産まれたのも。

アヤカシの理に反する。


父の役目は何?存在意義は。

しかも減退ではなく、力を保つような事をするなんて。


「そんなに母を好きだったのかな。」


アヤカシは減退を選んで、この人間社会に溶け込むことを願って来た。だけど。

役目を担い、それを果たして、減退に相応しいアヤカシを見つけて……理に反するなら、想いは。


大鷹くんは“神仕え”の私を好きになってくれたけど、その想いは。純粋だったはず。

配下にする事を、アヤカシの役目ゆえに否定しないと言ったけれど。

彼にとって心変わりは、私への裏切りだった。


私は。

頭に浮かぶのは一翔の事。あなたを信頼した私の心は。

父の気持ちに、毒されているのかもしれない。


一翔は悪夢を喰らう獏。神仕えでないなら。

私の気持ちが、“彼”に重ねたような淡い恋ではないなら。


「光莉は、父を……。父はどうなるの?」


幸せな過去の記憶さえ、塗り替えられてしまう。

それでも私は、同じ道を辿るかもしれない・・




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