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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
吉凶は夢に萌す

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先を視る事・・


校舎の屋上に辿り着き、光莉は私の方に向き直って手を離した。


「人との共存の形が変化するきっかけは電気だった。星の輝きも霞むほどの光が地上を支配する。アヤカシは衰退を余儀なくされた。人の照らし出す世界に、アヤカシは生存の道を探って。ある決定を下す。」


大鷹くんが言っていた。天狗の鼻は一番に衰退したのだと。

人と区別の出来る異形。


私は黙って光莉の言葉に耳を傾ける。


「人との子を成していく事も提案されたけれど、先駆けの他国では『狩り』が報告されて見送られた。この国でも実例がないわけじゃない。ただ。力の弱小化が先決。目立つ力は『狩られる』から。人から“神”とされるアヤカシは力を持たないアヤカシを相手として見つけるか、そのまま孤独に死を選ぶのみ。」


死を。

そんな。


過去のアヤカシ達が下した決断に、私は否定するような言葉が出そうになる。

光莉は苦笑し、首を振った。


ぐっと飲み込み、自分勝手な悲しみが胸を苦しくさせる。


アヤカシの存在意義。それが何を意味するのか。

この地球。過去に過ぎ去った存在。それが今、自分たちに降り懸かる定め。


「足掻く事は出来る。だからこそ。」


光莉は方向を変え、私に後姿を見せた。

泣いているのだろうか。


切なさに、胸が苦しい。


後ろからでも分かる彼女の視線。

それは空にではなく、未来を見つめているように真っ直ぐ向けられたまま。


「“神”と言われる由縁も、人の命を左右する力が衰退すれば、信じ仰ぐ事も徐々に消える。告美、あんたが『軽蔑』せえへんて言うてくれて、私は救われたような気がした。多分、彼女もきっと。」


“死神”と言われる彼女は、死ではなく大鷹くんを選んだ。

配下に置いてでも手に入れたいとの願い。


私には。


「大鷹くんは『地上タイプ』は駄目だと、私に言ったのは何だったのかな。大鷹くんには翼。猫又って『地上タイプ』じゃないかと思うんだけど。」


あの神域で見たのは、本来の姿ではないのかな。

死神なら、一翔みたいな黒い翼があるのだろうか。


「それに一翔は。」


光莉は振り返らず、ため息を吐いた。

今、一翔の話題は出すべきじゃなかったかな。タイミングを間違えたのかもしれない。


彼は問えばいいと言った。

ただ答えたくない事には、返事はない可能性があると。


「空馬先輩に係わる事もそうやけど、一番の難題は後回しにしたいんじょ。私自身、どこから話せばええんか、まだ迷っとる。」


一番の難題?


一翔の事。大鷹くんの言った事の違和感。それらに関する事。

それより気になるのは、光莉が私に視線を向けずに見ているもの。


「あなたは何を視ているの?私は最近、役目も果たさずに吉凶を視ていない。」


気付くのが遅いくらいだ。

数日で巻き起こる事で私が忘れていたとしても、アヤカシとしての役目は消えたりしない。



「自分でもビックリしたんやけど。今日ほど、衰退を憎んだこと無いわ。」


声は怒りを表すような低音。

そして、ゆっくりと振り返る。


「視えんかった存在に、あんたを護れるかも分からん恐怖を味わうとはな。」


かつては“神”と呼ばれるほどの力。

衰退が生み出した恐れ。それは。


「光莉、私があなたを巻き込んだのなら。」


ちゃう!」


一人は苦じゃない。

寂しさはあるけれど、自分が大切な人を“また”巻き込んでしまうくらいなら。


……また……?


それは。いつ?誰を。


「告美、あんたは本当ほんまに色んなモンに好かれるなぁ。大事な友達やけん、私も好きなんじょ。ほなけん、切り離さんといて欲しいんよ。頼むわ。」


込み上げる涙は、言い表せないほどの歓び。


「うん、嬉しい。光莉、これからも友達でいて。お願い。」


駆け寄って抱きしめ、涙が零れ続ける。


何も知ってはいない。増えていく疑問。だけど、これだけは変わらない。

信頼できる私の友達。自分の心が下した信用。


きっと一翔への想いも変わらない。

心に積もったのは淡い気持ち。恋心。


そう、“彼”に映した父への思いとは異なるもの。


「ほな行こか。一番の難題。全ての根源が目覚める場所に。」


根源の目覚め?

難題は後回しじゃなかったのかな。


「光莉、どこに向かうの?」


「告美が知っているはずの場所でもあり、ある意味で神域に近い所。私が視る事の出来なかった、後悔の。」


小さくなる声を聞き逃し、私が知っている場所を予測する。

歩いているのは、いつもの通学路。自分の家のある方向。


わざわざ光莉が屋上に私を連れて行き、ずっと見つめていた方角。

視ていたのは。


「告美。役目は消えない。そんなら、あんたの夢を……吉凶を喰ったアヤカシがおる。それが誰なんか、知らんはずないやろ。」


一翔が。


気づきもしなかった。

何故?理由があるとすれば。


それが私にとっての悪夢。


『死臭がする』


自分の家。

難題。根源。目覚める。


「鵺。告美の母が神仕えやったら、あんたの父も同じ。何らかの神仕えなんじょ。」


父が?嘘だ。

必死で否定しようとするけれど、曖昧な記憶と掻き消される思考。


「猫又が告げた『死臭』。あんたの父親は、母親と同様に死んどるんとちゃう?思い出せれんのやったら。今、私が記憶を引きずり出すわ。」


鵺。母は先を視ていたはずだ。

きっと今、起きていることも知っていたのだろう。


同じ鵺の私の役目は、先を視る事・・





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