表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
吉凶は夢に萌す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/108

信頼と恋心は揺れて・・


自分を取り巻いていた気配が消え、足が後退する。


「さ、行きなさい。私の今回の役目はここまで。」


彼女の表情を覚えていない。記憶に残らなかった。

告げた言葉が悪意なのか、私の告げてきた不吉と同様の物なのか。


私は保健室から出て、ドアの前にいた光莉に抱き着く。


「おかえり。」


優しい声に、思わず涙ぐんでしまう。


「ただいま。」


光莉は私の手を引いて、教室の方へと向かう。


「告美、私らを軽蔑せんといて欲しい。」


前を歩く光莉の表情は見えない。


軽蔑。

それは猫又の彼女が大鷹くんにした事と、光莉が屈狸くんを噛んだ事に関して。


「しないわ。」


彼女にも同じことを言ったけれど、嘘じゃない。


「ありがとうな。告美、あんたは知るべきことが多すぎる。時間が欲しい。」


足を止め、振り返って私を見上げる光莉の眼は真剣。

色濃くなっていた首の黒い輪が、通常に戻って行く。危機感が薄れるように。


「光莉、彼女は役目で私を呼んだ。そして『死臭がする』と。」


「腐臭を嗅ぎわける能力に長け、葬儀の場で死者を甦らせ、死者の亡骸を奪うと言われた妖怪。俗信やけどな。」


死“神”と言われる由縁。


私の周りに現れたアヤカシ達。

出逢いは必然のように、私を真実へと近づける。


死臭か。

死に面するとしても、私の存在意義は役目を果たす事。


「あなたの敵だと思った者がそうではなく、味方だと思った者も……混沌とする未来は、私にも視えない。役目に囚われず、私があなたを救いたいと願う様に。あなたも生きることを願って欲しい。」


込み上げる感情が記憶にかかることなく、もどかしさと嬉しさに戸惑う。思いと同調して涙が零れた。


「泣かんといて。どうしたらええんか、私にも分からんのんじょ。」


「うん、ごめん。ありがとう。」


涙を拭い、なんとか笑顔を向ける。


「告美!大丈夫だったか?」


後ろからの声に方向を変えようとした私を、光莉が引き留めて間に立ち塞がる。

近づく足を止め、苦笑する一翔。


「あんた、どっから来たん。そっちは保健室やろ?」


確かに、その方向には階段も他に繋がる廊下もなかった。

一体、どこから一翔は。




まさか、あの保健室に居たの?

そんな気配は。


猫又の気配に大鷹くんの存在も分からなかった程だ。

気づかなかったと言えば、そうなのかもしれない。


けれど。

保健室の前に居た光莉が、どこから来たのかを尋ねたのだとすると。


「くくっ……バレちゃったか。それならしょうがない。計算が狂ったから少しの間、身を引こうかな。」


何を言っているのか、理解が追い付かない。

息苦しさに、胸が痛む。


一翔の足元から小さな旋風が生じ、段々と威力を増していく。

彼の背には、真っ黒な翼。


私の黒煙の混じる翼とは違って、まるでそれは。


『味方だと思った者がそうではなく』


光莉の言っていたのは、一翔の事?

そんな。


一翔の翼が大きく広がって羽ばたくと、更に大きな風が舞う。

強い風に目を閉じて、風圧に耐えながら。


「一翔、私はあなたを信頼している。何があっても、役目とは関係なく……」


叫んだ言葉は、どこまで伝わっただろうか。



風が静まり、目を開けると彼は居なかった。

目に入ったのは、両手を広げて私を護る光莉の後姿。


「光莉、彼は。」


「告美は、とんでもないもんに好かれたなぁ。」


不安な私に、光莉は振り返って笑顔を見せる。


そんな表情に、思わずほっとした。何故かは分からない。

もしかすると、死が彼に起因するなら……受け入れる覚悟が、あったのかもしれない。


一翔は風と共に姿を消した。


風と翼。大鷹くんが前に言っていたけど、一翔は『地上タイプ』ではないの?

なら、あの翼は。


『ジンマ』人の夢を奪う“”だと思っていたけれど。悪“”のような漆黒の翼。

彼は私に悪夢を喰らう獏だと言った。だけど、その前に一翔はジンマと名乗っている。

嘘は吐いていない。


私は記憶を遡る。


「ごめん、光莉。授業は……」


「私も一緒に行くわ。気にせんでもええ。単位は先生を噛めば思い通りやけん。」


そうか、その手が。

いやいや、それもどうなのかな。


だけど。このままで良い訳がない。


「光莉、私は一翔を信じたい。」


「うん。」


「彼から、アヤカシについて聞くつもりだった。だけど、そんな余裕もない気がする。教えて、アヤカシの全て。」


光莉は笑顔でうなずいた。


「ええよ。ほな、話せる所に行こか。」


光莉は私に手を差し伸べる。

その手を取って、彼女の導く方へと付いて行く。


心は穏やかじゃないけれど。

いつもと違う一翔に既視感があった。何度か接したことがある。


まだ見ぬ未来、それも自分の生死を左右するようで怖い。

抱いた想いは消えず。


信頼と恋心は揺れて・・




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ