表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
吉凶は夢に萌す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/108

見ているのは現実・・


身支度を済ませて玄関を出ると、門には光莉が立っていた。


「おはよう、どうしたの?」


私は挨拶をしながら早足で近づく。


それなのに光莉は無表情。

彼女の首の黒い輪が色濃くなっていくのが見えた。


『学校はあるアヤカシの配下となった。結界が張り巡っている。』


いつもと異なる声色。


学校がアヤカシの配下になっている?

学校がどうなっているのか見た訳ではないし、力のある光莉がここに来た理由も分からない。

一体どういうことなのだろうか。


『一緒に来て欲しい。』


「私は何が出来るのかな?」


光莉は質問には答えず、私の手を引いて歩き始めた。

少し早い歩調。


黙って付いて行くと学校が近づき、敷地の周辺を覆う暗雲と冷たい風に戸惑う。

しかし周りの人達は、この異様さを気に留めることなく、いつもと変わらない日常のように通り過ぎていく。


「光莉、私は怖い。何が起きているのか教えて欲しい。」


足を止めて、光莉の手を引き戻した。

彼女は、ゆっくりと私の方に振り返る。


「私にもわからん。何があったんか、これから何があるんか。」


あ、いつもの光莉だ。

首元の輪はくっきりと浮き出て、漂うアヤカシの力は変わらないけれど、声は普通に戻っている。

でも、彼女でさえ何が起きているか把握できていないなら、危険なんじゃないのかな。


「行こか、力の発信源は分かるけんな。」


光莉は不安そうな私に首を傾げて、不機嫌に続ける。


「多分、紋葉もそこにおるわ。」


「大鷹くんが?」


光莉は、ずっと私の表情を観察して反応を待っている。


確か大鷹くんが私を、どこかに連れて行こうとしたことがあった。

そして、それを止めたのが光莉。私を裏切ったのだと大鷹くんが言った。


「思い出した。数日で、色んな事があり過ぎて。ごめんなさい。」


私にとっては夢も、現実と同じ。

他のアヤカシに誘発された自分の力。


光莉は無言で方向を変え、また私の手を引いた。

今度も踏み止まることなく付いて行く。


辿り着いた先は、校内。一度も利用したことのない保健室。

立ち止まって背を見せていた光莉は、すっと身を引いて、私に入るようにと促した。


「ごめんな。異なる神域に入れんことないんやけど。今は、ここで告美を待つことしか出来んのんよ。」



光莉の表情は読めないけれど、空気が張り詰めるほどの緊張が伝わる。

私を家まで迎えに来て、ここまで導いてくれた光莉。


『入れんことない』と、ここで待っていてくれるのなら、信頼して行くべきだ。

気になるのは『神域』と言う事。


中にいるのは、光莉と同じ“神と言われる”アヤカシ。

大鷹くんを配下におけるほどの力。


「私は行くよ。光莉、待っていてくれるかな。」


「待っとる。危険を察知したら、必ず助けに行くけんな。」


光莉の首の輪は色濃くなって、部屋の中にいるアヤカシの気配を相殺するような空気が漂う。

いつだったか、光莉が言った。


『“彼”も告美を配下に置けんのだけは覚えておいて欲しいんよ』


では、私を配下に置けるのは一体?



目の前のドアは簡単に開いた。中は普通の保健室と変わりはない。

もっと違う世界とか、不思議な空間になっているのかと思っていたのに。


歩を進め、自分の後ろでドアを閉めた。


「いらっしゃい。あなたが、『彼』の心を射止めた鵺なのね。」


彼って一体、誰の事を言っているんだろうか。


白衣を着ているけれど、中は肌蹴た露出の多い服。

この人、本当に養護教諭なのかな。



思わず息を呑んだ。

視線を逸らし、体が硬直する。


目に入ったのは、ベッドの上にいる上半身裸の大鷹くん。

下半身は布団で隠れているから分からないけれど、見てはいけない気がした。


「くすくすくす。まだ、私の自己紹介もしていないのに。見つけちゃったんだ~。反応が初々しい。私にはない可愛いさに、妬けちゃうわね。」


怖い。考えたくないことが頭に浮かんで、必死で塗り消そうとするけど上手くいかない。

目を閉じて、息詰まるような苦しみに、両手が胸元に移動して身を縮める。


「目を開けて、ちゃんと見なさい。これが配下。あなたのお友達も、私と変わらない事をしてるじゃない。」


光莉も同じ?

確かに力を使った。だけど、それは。


目を開け、身を起こして彼女を睨みつける。


「誰も否定しないわ。私たちはアヤカシ。自分の役目にしたがって、生きるのみ。」


私の言葉に、和らいだような苦笑。


そして、今までとは異なるほどの大きな力。まるで自分の中に潜む力が、引きずられるような感覚。

徐々に変化していく姿に、寒気が生じた。


ネコ耳と尻尾が二本。手には柄の長い鎌。


「私の名は猫塚ねこづか 現人あきと。ご覧の通り、猫又よ。最近、学校の中が騒がしいから、久々に興味が湧いちゃった。」


猫又だと名乗れば、どんなアヤカシなのか分かるものなのだろうか。

猫って、確か長生きすると力を持つとか聞いたことがあるような。でも、手にしている鎌はまるで。


「役目上、私の事を死神と呼ぶ人もいるわ。」


私の入り込んだ神域が、死の力に起因するのだとすれば。

光莉が侵入するのも可能。ヒカギリ。噛んだ相手の命を、その日限りにしてきたアヤカシ。

そして、目の前に居るのは。


「ふふ。私を殺すと七代まで祟るから、気を付けてね。」


猫又。死神。

そんなアヤカシが。


「私に、何の用事ですか?」


何の情報もなく、孤独に取り残されたようだ。


「あなたが言ったのよ?『私たちはアヤカシ。自分の役目にしたがって生きるのみ』と。あなたは鵺。神仕えでしょ?」


神仕え?

そんな立場になるのだろうか。吉凶を萌し、不吉を告げる鵺。


「やっぱり、何も知らないのね。」


大鷹くんからは、何も聞いていないのかな。

私は知らないことが多すぎる。そうだよね、問題の無い方がおかしい。


だけど今、このアヤカシから教えてもらうつもりはない。

彼女は何らかの役目を担って、私を呼び寄せたのだとすれば。


あれ、私の役目は……吉凶を夢に萌すことなく、幾日が過ぎた?

まさか、まだ力のコントロールが出来ていないの?


「気を付けなさい。あなたから死臭が微かにする。」


大きな鎌が暗黒の渦を生じさせ、私の周りを微かに漂う。

寒気と死への恐怖。


私が見ているのは現実・・






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ