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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
吉凶は夢に萌す

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水に濡れた服が透けるように・・


どうしていいのか、ただ見つめあったまま一翔と無言の一時。


そこへ突如に降り懸かる轟音と大量の水……

また誰か、アヤカシの力なのかと頭を過るけれど不安は生じない。


むしろ気が抜けて、簡単に変化は解けてしまった。

つまり、それって…………


制服姿に大量の雨が注がれるわけで、ずぶ濡れの透け透け……

ですか!?



…………。

…………。


一翔は濡れた髪をかき上げ、ため息を吐いた。

あれ、何か胸元がモヤモヤするぞ?


何だろうか、胃もたれに近いんだけど位置が違うって言うか。

ムカムカ?イライラ?けれど、何が原因なのか分からない。


私もため息が漏れる。


「告美、この姿では教室に戻れない。今朝の話には丁度いいかな、おいで。」



一翔は制服の上着を脱いで、私の肩に乗せてから覆うように着せた。


「濡れているけど、隠すにはいいだろ。我慢してくれ。」


彼は私の前に立って、優しい視線を注ぐ。

表情は切なさの伴うような、何と言い表していいのか惑う。


心揺さぶられ、逃げ出したいような衝動。

彼は私の顔に手を近づけてくる。


「風邪、ひくなよ?」


近づく手が、ゆっくりと頬に触れるかどうかの距離で止まり、悲しい笑顔。

思わず感情が同調したのか、泣きたくなった。


「……もう、後戻りは出来ないからね。」


涙が溢れて零れ落ちる。


あぁ、以前に萌した未来が、今日この時の事だなんて。

あの時は一翔の触れている感覚はなかった。


今、彼の手は確かに私の頬に触れている。

そして彼の温もりが伝わり、込み上げるのは嬉しいような幸せに近い感情。


一翔は遠慮気味に、ゆっくりと撫でるように指を移動させ、優しく私の涙を拭い続ける。

申し訳ないような苦笑と潤んだ目。


「移動しよう、俺の家が近いから……服も乾かすといい。」


言葉も出ず、ただ頷いた。

そんな私の手を引いて、彼は歩き始める。



徒歩5分ほど。

学校から見える一番高層な建物。


詳しくは知らないけど、ちょっと、いや……確実に高級マンションだよね。

居住者を識別する認証システムに、広いホール……エレベータも一般的ではなく、高級感をアピールするようなデザイン。


自分が小さく感じて、濡れた体が別の意味で冷たくなるのが分かる。

場違い!!


さっきまで私の感情やら何やら汲み取っていたはずの一翔は、私の様子に首を傾げた。


察していただけませんかね??この金持ちには、この感覚は分からないのかな……うぅ。

私の小物感が半端なく、余計に身を小さくさせる。


「告美?」


あ、気付いてくれたんだ。

嬉しくて顔を上げ、言葉を待つ。


「寒いのか?」


…………違う。

私のテンションが落ちたのを見て、思考停止の一翔。


「何だか心が寒い。」


自分の表情が、更に冷めているんじゃないかと思うほど、言葉が感情と同調したものになってしまった。


「あ、着いたから下りて。」


彼の後を付いて行き、ドアの前で頭が真っ白になる。

一翔は鍵を開け、玄関に入って濡れた靴を脱ぐ。


「風呂、入れてくる。」


フロ?

お風呂……。



濡れたから、寒いし温もりたいよね。

……それを、私に言うってことは……あれれ?私、ん?おやぁ??


思考は少しずつ回復。


「上がって。俺も濡れているし、気にしないよ。リビングで待っていて、バスタオルを取って来るから。」


…………。


促されるまま、借りてきた猫のように棒立ちで思考はグルグル。


「入れ始めて間もないから、時間が……」


リビングに入って来た一翔の手には、バスタオル。


自分の表情など、全く分からない。だけど、私の顔を見た一翔は微妙な反応で口を閉ざした。

そっとバスタオルを差し出し、視線をさ迷わせる。


「……あの、ご家族は?」


間が持たなくて、周りを見ながら訊いてみた。


「俺、独り暮らし。」


……え、一人でここに?家族は一緒に住んでいない。

……て、事は二人だけ。


あぁ、会話を気にせずに出来るよね。あれ?一翔の家族のアヤカシ割合って、どれくらいなの。

私の家とは違うよね。それって訊いていいの?


やはり、今まで人と係わってこなかったから、対応に迷う。


「告美、とにかく水気を拭いて。風邪をひくよ?」


バスタオルを受けとり、肩にかけて髪の水けを拭う様に撫でながら、視線はうつむいたまま。


「一翔、私は自分についても分かっていない。そして他のアヤカシの事も。それを訊いていいのかさえ。」


一翔が近づいたのか、自分に影が掛かり目を上げる。


「訊けばいい。他の人にも。答えたくない質問には、答えないだろうけど。」


一翔の表情は沈んでいるように見える。


「それに……もう後戻りは出来ないって言ったよね?」


それは、今後の状況が何も変わらないって事?

一翔の奪った萌しは、未来が変わったと言っていたけれど。


私は今まで、複数の未来を見たことは無い。

変わった未来、萌した内容。


「欠如した夢、変わってしまう前の未来には何が?」


“彼”を好きになって当然だと言われた。私の理想を重ねたからだと。

その未来さきは変わってしまった。一体、何故?


「告美、お風呂に入って温もれ。それから話をしないと、風邪をひくぞ。」


それは私に限った事じゃない。一翔も同じ。

彼の視線は私の全てを見透かしている……


水に濡れた服が透けるように…………





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