水に濡れた服が透けるように・・
どうしていいのか、ただ見つめあったまま一翔と無言の一時。
そこへ突如に降り懸かる轟音と大量の水……
また誰か、アヤカシの力なのかと頭を過るけれど不安は生じない。
むしろ気が抜けて、簡単に変化は解けてしまった。
つまり、それって…………
制服姿に大量の雨が注がれるわけで、ずぶ濡れの透け透け……
ですか!?
…………。
…………。
一翔は濡れた髪をかき上げ、ため息を吐いた。
あれ、何か胸元がモヤモヤするぞ?
何だろうか、胃もたれに近いんだけど位置が違うって言うか。
ムカムカ?イライラ?けれど、何が原因なのか分からない。
私もため息が漏れる。
「告美、この姿では教室に戻れない。今朝の話には丁度いいかな、おいで。」
一翔は制服の上着を脱いで、私の肩に乗せてから覆うように着せた。
「濡れているけど、隠すにはいいだろ。我慢してくれ。」
彼は私の前に立って、優しい視線を注ぐ。
表情は切なさの伴うような、何と言い表していいのか惑う。
心揺さぶられ、逃げ出したいような衝動。
彼は私の顔に手を近づけてくる。
「風邪、ひくなよ?」
近づく手が、ゆっくりと頬に触れるかどうかの距離で止まり、悲しい笑顔。
思わず感情が同調したのか、泣きたくなった。
「……もう、後戻りは出来ないからね。」
涙が溢れて零れ落ちる。
あぁ、以前に萌した未来が、今日この時の事だなんて。
あの時は一翔の触れている感覚はなかった。
今、彼の手は確かに私の頬に触れている。
そして彼の温もりが伝わり、込み上げるのは嬉しいような幸せに近い感情。
一翔は遠慮気味に、ゆっくりと撫でるように指を移動させ、優しく私の涙を拭い続ける。
申し訳ないような苦笑と潤んだ目。
「移動しよう、俺の家が近いから……服も乾かすといい。」
言葉も出ず、ただ頷いた。
そんな私の手を引いて、彼は歩き始める。
徒歩5分ほど。
学校から見える一番高層な建物。
詳しくは知らないけど、ちょっと、いや……確実に高級マンションだよね。
居住者を識別する認証システムに、広いホール……エレベータも一般的ではなく、高級感をアピールするようなデザイン。
自分が小さく感じて、濡れた体が別の意味で冷たくなるのが分かる。
場違い!!
さっきまで私の感情やら何やら汲み取っていたはずの一翔は、私の様子に首を傾げた。
察していただけませんかね??この金持ちには、この感覚は分からないのかな……うぅ。
私の小物感が半端なく、余計に身を小さくさせる。
「告美?」
あ、気付いてくれたんだ。
嬉しくて顔を上げ、言葉を待つ。
「寒いのか?」
…………違う。
私のテンションが落ちたのを見て、思考停止の一翔。
「何だか心が寒い。」
自分の表情が、更に冷めているんじゃないかと思うほど、言葉が感情と同調したものになってしまった。
「あ、着いたから下りて。」
彼の後を付いて行き、ドアの前で頭が真っ白になる。
一翔は鍵を開け、玄関に入って濡れた靴を脱ぐ。
「風呂、入れてくる。」
フロ?
お風呂……。
濡れたから、寒いし温もりたいよね。
……それを、私に言うってことは……あれれ?私、ん?おやぁ??
思考は少しずつ回復。
「上がって。俺も濡れているし、気にしないよ。リビングで待っていて、バスタオルを取って来るから。」
…………。
促されるまま、借りてきた猫のように棒立ちで思考はグルグル。
「入れ始めて間もないから、時間が……」
リビングに入って来た一翔の手には、バスタオル。
自分の表情など、全く分からない。だけど、私の顔を見た一翔は微妙な反応で口を閉ざした。
そっとバスタオルを差し出し、視線をさ迷わせる。
「……あの、ご家族は?」
間が持たなくて、周りを見ながら訊いてみた。
「俺、独り暮らし。」
……え、一人でここに?家族は一緒に住んでいない。
……て、事は二人だけ。
あぁ、会話を気にせずに出来るよね。あれ?一翔の家族のアヤカシ割合って、どれくらいなの。
私の家とは違うよね。それって訊いていいの?
やはり、今まで人と係わってこなかったから、対応に迷う。
「告美、とにかく水気を拭いて。風邪をひくよ?」
バスタオルを受けとり、肩にかけて髪の水けを拭う様に撫でながら、視線はうつむいたまま。
「一翔、私は自分についても分かっていない。そして他のアヤカシの事も。それを訊いていいのかさえ。」
一翔が近づいたのか、自分に影が掛かり目を上げる。
「訊けばいい。他の人にも。答えたくない質問には、答えないだろうけど。」
一翔の表情は沈んでいるように見える。
「それに……もう後戻りは出来ないって言ったよね?」
それは、今後の状況が何も変わらないって事?
一翔の奪った萌しは、未来が変わったと言っていたけれど。
私は今まで、複数の未来を見たことは無い。
変わった未来、萌した内容。
「欠如した夢、変わってしまう前の未来には何が?」
“彼”を好きになって当然だと言われた。私の理想を重ねたからだと。
その未来は変わってしまった。一体、何故?
「告美、お風呂に入って温もれ。それから話をしないと、風邪をひくぞ。」
それは私に限った事じゃない。一翔も同じ。
彼の視線は私の全てを見透かしている……
水に濡れた服が透けるように…………




