情報を収集してみたものの・・
彼の後姿も見えなくなったというのに、その場に立ち尽くしたまま。
視線を落として手の平を見つめ、ぎゅっと握りしめる。それを胸元に近づけて目を閉じた。
安易な涙を流したのを一翔に晒して情けない。
私の役目、吉凶を萌して不吉を告げる。
『本当に返して欲しいのか?』
一翔は夢の内容を知っている。
それはやはり……
取り返さなければならない。一刻も早く。
夢は不吉な未来を萌したのだから。
“彼”に告げなければ。
会いたい。きっと、それが最後の接点になるだろうから。
「ね、そんなにあいつが好きだったの?」
急な声に心臓が跳ね、目を見開いて声の主から咄嗟に避ける。
明らかに不機嫌な表情を見せ、開いた距離を詰め寄って睨む。
大鷹 紋葉。彼もアヤカシの一人。
「大鷹くん。一体、いつから見ていたの?」
後退して詰められた距離を広げ、手で静止を促す。
何を考えているのか読めず、近づかれるのが怖い。
「ん?おかしなことを言うね。俺の目は常にお前を見ていると言うのに。」
……ストーカーみたいなセリフ。
「目が良いんだね。」
その目がアヤカシを見分けるのだろうか。
見知らぬ大鷹くんが話しかけてきたときは驚いたけど、今日ほどではないかな。
「で?」
でって何かな。
あぁ、あいつが好きなのかって……それは、どっちなの?
彼の問いに黙っていると、大鷹くんは大きなため息を吐いた。
「あいつ、基本的には地上タイプだよ。やめとけ、俺がいる。」
…………は?
一瞬、何を言っているのか分からず思考停止。
そんな私の背後から、白い手が伸びて抱き寄せられてしまった。
背の低さで、後ろに倒れそうになる。
「紋葉、告美はあかんよ。いくらあんたが好きじゃって言うても、あげんけんな。」
光莉なの?
足を曲げて体勢を維持して、顔を後ろに向けて声を確認する。
「うっせ。黙れ、日本語を喋れ。」
大鷹くんと知り合いなのかな。
それにしては、方言も違うし険悪な雰囲気。
「阿波弁は日本語やけん、黙らんわ。」
光莉は珍しく表情を露わに、声も普段より大きくて思わず笑ってしまう。
「光莉、ちょっとこの体勢は辛いから離してくれないかな。」
光莉はキョトンとした顔を見せ、手を離す。
「しんどかった?ごめんなぁ。……紋葉が悪いんじょ、謝んな。」
私に謝って心配したかと思えば、怒りの矛先を大鷹くんに向けて睨む。
「何で、俺が謝るんだよ。」
視線を逸らして知らん顔の大鷹くんに、光は詰め寄って行く。
「はがいたらしい。」
「はぁ?歯が痛いらしいって、何だよソレ。」
滅多に見られない怒った光莉も可愛い。
「光莉、大鷹くんと知り合いなの?」
私の質問に、大鷹くんと光莉は顔を合わせてから同時で私に視線を向けた。
「ちゃう。ほんな事より、告美は副会長を好きなん?」
副会長?
……好き……え、一翔って生徒会の人なの?
「光莉、二人の雰囲気は只事ではなかったからな。訊き出せ。」
「命令すんな、ぼけぇ。」
周りを見て来なかった。
光莉と出会い、自分の他にもアヤカシが身近にいるのだと知って……
そうだ。仲が良くなることを避けてきた。だって、私が告げるのは不吉な未来だから。
出来るだけ人と係わらず、無関心で生きてきた。
その結果が、この有様。
「……光莉。私は、空馬さんを恋愛対象と見ていない。私の役目を分かって。」
言える筈がない。
私たちアヤカシの存在理由。その役目を全うできず、誰かに頼る様な事を口にしてしまうなど。
「紋葉は邪魔やけん、どっか行ってや。」
光莉の表情はいつも通りに見えた。
「分かったから押すなよ。誤って噛まれたら一生の恥だ。」
「アンタなんか噛めへんわ。」
言い争うような二人が、羨ましく見えてしまった。
いつの間にか自分が人との係わりを避けて成長を止め、今は無知な状態が明らかになった。
今からでも間に合うだろうか。
大鷹くんの眼は、私を見透かすようだった。
光莉に急かされて私から視線を逸らし、後姿を見せる。
それで安堵してしまう自分に、ため息。
「光莉、空馬さんは生徒会の人なの?」
少しでも情報を得なければ。
私の質問に、光莉の眼も見透かす様に見つめる。
不安が煽る感情の波。
心音が早くなるようで、視線を逸らしたくて目を伏せ気味にする。
「告美、私たちはアヤカシやろ。みんな同じやけんな。」
優しい声に、思わず泣きそうになる。
何故かな、係わりが増えると涙もろくなるのは。
目線をしっかりと合わせた私に光莉は微笑む。
「空馬 一翔。生徒会の副会長。人気者。そしてアヤカシ。……朝、私にはホンマに何も見えんかったんよ。嘘やない。けんど、告美の役目が……うぅ~ん、どないしょうかなぁ。どこまで言うてええんか分からんわ。私にも役目があるんよ。人から、山とか水の“神”や言われる所以がなぁ。」
光莉の役目。私の役目について語るのを躊躇するように、彼女も何らかの役目を担って言葉を控え、全うすることを願っている。
「いいよ、光莉。ありがとう。あなたに出逢えて良かった。例え、私がいつかあなたに不吉を伝え……あなたからの拒絶を受けたとしても、後悔はない。」
「アホやな、ほんな事せえへんわ。さっ、教室に戻るじょ。」
光莉は無表情に近いながら、どこか親しみを感じる口元だけの笑み。
私は情報を収集しようと試み、様々な未来の可能性を感じた。
道は一つではないかもしれない。だって、周りにアヤカシが役目を担って存在するから。
きっと、不吉が“彼”に望んでも私は……
一翔は夢を『返すわけにはいかない』と言った。
それは一体…………




