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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
吉凶は夢に萌す

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情報を収集してみたものの・・


彼の後姿も見えなくなったというのに、その場に立ち尽くしたまま。

視線を落として手の平を見つめ、ぎゅっと握りしめる。それを胸元に近づけて目を閉じた。


安易な涙を流したのを一翔に晒して情けない。

私の役目、吉凶を萌して不吉を告げる。


『本当に返して欲しいのか?』


一翔は夢の内容を知っている。

それはやはり……


取り返さなければならない。一刻も早く。

夢は不吉な未来を萌したのだから。


“彼”に告げなければ。

会いたい。きっと、それが最後の接点になるだろうから。



「ね、そんなにあいつが好きだったの?」


急な声に心臓が跳ね、目を見開いて声の主から咄嗟に避ける。


明らかに不機嫌な表情を見せ、開いた距離を詰め寄って睨む。

大鷹おおたか 紋葉いさは。彼もアヤカシの一人。


「大鷹くん。一体、いつから見ていたの?」


後退して詰められた距離を広げ、手で静止を促す。

何を考えているのか読めず、近づかれるのが怖い。


「ん?おかしなことを言うね。俺の目は常にお前を見ていると言うのに。」


……ストーカーみたいなセリフ。


「目が良いんだね。」


その目がアヤカシを見分けるのだろうか。

見知らぬ大鷹くんが話しかけてきたときは驚いたけど、今日ほどではないかな。


「で?」


でって何かな。

あぁ、あいつが好きなのかって……それは、どっちなの?


彼の問いに黙っていると、大鷹くんは大きなため息を吐いた。


「あいつ、基本的には地上タイプだよ。やめとけ、俺がいる。」


…………は?

一瞬、何を言っているのか分からず思考停止。


そんな私の背後から、白い手が伸びて抱き寄せられてしまった。

背の低さで、後ろに倒れそうになる。


紋葉いさは、告美はあかんよ。いくらあんたが好きじゃって言うても、あげんけんな。」


光莉なの?

足を曲げて体勢を維持して、顔を後ろに向けて声を確認する。


「うっせ。黙れ、日本語を喋れ。」


大鷹くんと知り合いなのかな。

それにしては、方言も違うし険悪な雰囲気。


「阿波弁は日本語やけん、黙らんわ。」


光莉は珍しく表情を露わに、声も普段より大きくて思わず笑ってしまう。


「光莉、ちょっとこの体勢は辛いから離してくれないかな。」


光莉はキョトンとした顔を見せ、手を離す。


「しんどかった?ごめんなぁ。……紋葉が悪いんじょ、謝んな。」


私に謝って心配したかと思えば、怒りの矛先を大鷹くんに向けて睨む。


「何で、俺が謝るんだよ。」


視線を逸らして知らん顔の大鷹くんに、光は詰め寄って行く。


「はがいたらしい。」


「はぁ?歯が痛いらしいって、何だよソレ。」


滅多に見られない怒った光莉も可愛い。


「光莉、大鷹くんと知り合いなの?」


私の質問に、大鷹くんと光莉は顔を合わせてから同時で私に視線を向けた。


「ちゃう。ほんな事より、告美は副会長を好きなん?」


副会長?

……好き……え、一翔って生徒会の人なの?


「光莉、二人の雰囲気は只事ではなかったからな。訊き出せ。」


「命令すんな、ぼけぇ。」




周りを見て来なかった。


光莉と出会い、自分の他にもアヤカシが身近にいるのだと知って……

そうだ。仲が良くなることを避けてきた。だって、私が告げるのは不吉な未来だから。


出来るだけ人と係わらず、無関心で生きてきた。

その結果が、この有様。


「……光莉。私は、空馬さんを恋愛対象と見ていない。私の役目を分かって。」


言える筈がない。

私たちアヤカシの存在理由。その役目を全うできず、誰かに頼る様な事を口にしてしまうなど。


「紋葉は邪魔やけん、どっか行ってや。」


光莉の表情はいつも通りに見えた。


「分かったから押すなよ。誤って噛まれたら一生の恥だ。」


「アンタなんか噛めへんわ。」


言い争うような二人が、羨ましく見えてしまった。


いつの間にか自分が人との係わりを避けて成長を止め、今は無知な状態が明らかになった。

今からでも間に合うだろうか。


大鷹くんの眼は、私を見透かすようだった。

光莉に急かされて私から視線を逸らし、後姿を見せる。


それで安堵してしまう自分に、ため息。


「光莉、空馬さんは生徒会の人なの?」


少しでも情報を得なければ。

私の質問に、光莉の眼も見透かす様に見つめる。


不安が煽る感情の波。

心音が早くなるようで、視線を逸らしたくて目を伏せ気味にする。


「告美、私たちはアヤカシやろ。みんな同じやけんな。」


優しい声に、思わず泣きそうになる。

何故かな、係わりが増えると涙もろくなるのは。


目線をしっかりと合わせた私に光莉は微笑む。


空馬からうま 一翔かずと。生徒会の副会長。人気者。そしてアヤカシ。……朝、私にはホンマに何も見えんかったんよ。嘘やない。けんど、告美の役目が……うぅ~ん、どないしょうかなぁ。どこまで言うてええんか分からんわ。私にも役目があるんよ。人から、山とか水の“神”や言われる所以がなぁ。」


光莉の役目。私の役目について語るのを躊躇するように、彼女も何らかの役目を担って言葉を控え、全うすることを願っている。


「いいよ、光莉。ありがとう。あなたに出逢えて良かった。例え、私がいつかあなたに不吉を伝え……あなたからの拒絶を受けたとしても、後悔はない。」


「アホやな、ほんな事せえへんわ。さっ、教室に戻るじょ。」


光莉は無表情に近いながら、どこか親しみを感じる口元だけの笑み。

私は情報を収集しようと試み、様々な未来の可能性を感じた。


道は一つではないかもしれない。だって、周りにアヤカシが役目を担って存在するから。

きっと、不吉が“彼”に望んでも私は……


一翔は夢を『返すわけにはいかない』と言った。

それは一体…………




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