チート(アズライト)
アジュール二周目。今度は挑戦状を受け取り、【難攻不落】に挑む。
その映像は公開され、話題になるだろう。
タクマはパソコンを操作しながら。俺と楽水にアジュールのステータスを見せている最中だった。
運営からの案内が届く。
「悪趣味だね、本当に。カプリチオの奥義発動で、話題を呼んだからか。中身が女だと思っているからか。どちらにしても。アジュールに雷の奥義クエストまでプレゼントとは。」
挑む日時の催促にもとれる。なんとも不愉快な。
「勝てないと分かっているからな。」
「兄さん、このモフも頂戴ね。」
「あぁ、だけど。いや、お前の考えは纏まってから聞こう。楽水、お前はこれでいいのか?」
アジュールの二度目の死。それは。
「なにがだ。」
お前にとって、アジュールは特別ではないのかと。思うのだけど。
感情の読めない無言。
「これからアジュールがまた殺されるのを、お前は見て何も感じないのか?」
「別に。もうミイロは死んだ。それにアジュールは蘇る。だろ?」
そう。このゲームに三週目などない。
吸収されるアジュールのデータを守り、別のアバターとして存在させる。
倒す方法が分かったかもしれないと、タクマは言う。
けれど、それにはヒロインの存在が必要なのだと。ゲームに慣れていない存在。
カプリチオの奥義でダメージを与えられたのは、付随する防御があったから。
ソロでも対抗できる時間稼ぎ。防御は必須。
でも二周目のアジュールの戦いには、補助職が不在。そして手に入れた奥義は防御のない単体攻撃。
『アジュールは二度死ぬ』
「カプリチオの時のような隙など出来ないだろ。奥義を発動できたところで勝ち目はない。」
アジュールの二周目に勝ち目はない。
それでも弟の目は真剣で。カプリチオが挑んだ時を思い出す。
「いや、あいつが見せ場は必ず作るよ。奥義をわざわざ与えたのだから。アジュールに勝ち目がないから、なおさら。ふふ。カプリチオと同等の盛り上がりを約束するよ。俺の属性は風と雷、二つあるのだから。楽しみにしてて。」
負けると分かっていても。この工程が、【難攻不落】を覆す道筋。
ヒロインの準備は順調かと聞かれれば。タクマの考えは纏まらず。中身のある話。
ヒロインに選んだのは、タクマの初恋。
アジュールとカプリチオに重ね。このゲームの結末を、よりロマンチックにしたいと語る。
父の猶予に、末っ子の純愛。ミイロの想い。
ゲーム。たかが。
それでも復讐を誓った故。
それぞれの想いを未来に繋ぎ。できるだけ引き延ばした挑戦の日時。
公開なのだけれど。それは限定されたもの。
古株。古参。二周目に至る吸収を知る層。
それはぽこぽんによると、新参に吸収や二周目を教えてはならないと。口止めする制約付き。
今後、アジュールやカプリチオの噂を耳にするものはいないだろう。
秘匿されていく。
運営の奥義配布、奥義クエストが盛り上がり。特別ではなくなった奥義の寄託。
薄れていく。存在が消されてしまう。吸収とは別の方法で。
設定した日時。招待状が届き。
それを開くと。見覚えのある闘技場。そして空から舞い降りる紺碧色のドラゴン。
『ラピスラズリ』。【難攻不落の城】それは。
アジュールは風と雷の魔法を使って、善戦する。それはカプリチオの戦いを模倣したもの。
奥義の見せ場。不自然もなく。少しのダメージに、ラスボスのドラゴンは態勢を崩し。
タクマは雷の奥義を発動する。ミイロは風属性の奥義を持っていなかった。
アジュールは剣を構えて詠唱を唱え、足元に拡がる魔法陣。雷属性の緑色。
剣の切っ先を向ける。そこから闇が生じて、周辺を包む。
魔法陣の外枠から、薄緑色の光が円柱状に上空へと一瞬で。消える。すると空には雷雲が生じ。
光を放った後の魔法陣。中央からは白煙のような光が、剣の切っ先から束まで螺旋状に絡む。
それを振り上げると。雷鳴の轟。閃光。掲げた剣は雷を帯びて。
アジュールは更に魔法を発動させる。
見せ場を作り、油断していたドラゴン『ラピスラズリ』。
人影と閃光の飛び交う画面。ドラゴンは対応できず、全ての攻撃を身に受ける。
腕は貫かれ、尻尾は切断。羽は折れ曲がり。叫び声のような奇声。黒煙の炎を口から吐き出し。
「奥義の火力は微妙だったけれど、画像や効果音は最高品質だね。」
「さっきの追加の魔法はなんだ。」
感情の薄い楽水は前のめりに。
満足そうな笑顔でタクマは答える。
「風のバフ。速度上昇だよ。属性が二つあるのを最大限に生かした電光石火。これは、アジュールだからこそ。そろそろ魔力切れ。記憶に刻んだ。二週目アジュールの役目は終わり。兄さん、アバターの再編をお願い。アバターは男。名前はアズライトで。」
二周目カプリチオは不遇職で、チャット機能の確認で使ったきりログインの形跡がなく。
俺のアバターぽこぽんも、すっかりゲームから遠退いて。
久々に外部チャットで連絡が来たと思えば。
『奥義をよこせ』と短文で。
ほんと、いちいちカプリチオだなぁと。ため息。
ゲーム内の約束した場所に待ち合わせ。そこに現れたアズライトの装備に言葉を失う。
紺碧色。それはこの世界でラスボスのドラゴンだけに許された色。
察する。余計な事は言わない。
外部チャットで、俺はヒントは与えた。
俺の役目は、奥義を通して今日終わる。
炎の奥義。寄託魔法。当然なのか、それは成功する。
しかし。パーティーを組んで行った寄託魔法。ボイスがオンの状態。
「おい!俺が言ったことを忘れたのか。」
「いえ、これでいいんです。」
中身は幼い声の少年。
やはりアジュールは死んだんだな。
『中継者となり言葉( で )技を伝えよ』
奥義の寄託に成功したら、すぐに受諾するな。その受諾の時間が長引くほど威力は増す。
俺は意図的ではなく、偶発的にそうなって理解した。
そう。大規模な攻略前、寄託魔法が失敗の続く中。
必ず寄託できると知っていたのは、俺が受託したから。
増幅された奥義。それを通常の寄託で。『これでいい』とは。
俺の役目を終え。
【難攻不落】は近い将来、寄託魔法で討伐されるのだ。




