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⑪無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
無音の世界へ

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アジュールの恋


妹の病室に残されたパソコン。

『新しい属性を引き継ぎ、ゲームを再開しますか?』

噂の二周目。


個人提供で課金システムのないオンラインゲーム『ラピスラズリ』。

俺は迷わずスタートボタンを押した。

前の属性は風。俺は残りの火・水・雷・回復から、雷を選択する。

俺の名前。吹丘すおか 雷杏らいあん。馴染みがあるだけで理由はない。

「兄さん、このゲームをするの?」

「いや、するのはお前だ。俺は調べたいことがある。」


噂の二周目。

始まりの町に到着する。雷属性の町アレスタ。避雷器。

町の上空は稲妻が走り。雷鳴が轟く。雨は降らない。町に雷が落ちることもない。

聞いた通り、画像の良さとリアルな音。

周りのプレイヤーは二周目のアジュールを気にも留めず。チャット機能に反応もない。

アバターの検索をして。チャットを送ろうとすると、この機能は使えませんとの表示。

これは運営の対策か。二周目のペナルティだろうか。

「タクマ、このパソコンを持って帰れ。クエストと狩りを繰り返すんだ。大丈夫、ミイロが出来たくらいだから。ゲームに慣れたお前には問題はないよ。」

俺の言動に戸惑いながら。歳の離れた弟、多久磨たくまは黙って頷き。

ゲームをログアウトして、パソコンを鞄に入れた。

「兄さん、姉さんの急変はこれが原因なの?」

「そうだ。」

タクマは俺を見上げ、真っすぐ見つめたまま。

「分かった。協力するから、絶対に俺を外さないで。」

「外すつもりなら、お前にゲームを任せない。」

唇を噛みしめ。我慢の限界なのか、タクマの目から涙が零れた。

俺はタクマを抱き寄せる。

「このゲームを、作った奴を。俺は許さない。」

タクマなら短期間で、ある程度まで仕上げるだろう。

沈黙の二周目。出来れば奥義を手に入れたいところだが。

属性二つ。それを駆使するのもタクマなら。


俺はタクマを車にのせ、家まで送り届けた。

一息つく。そして。携帯を取り出し。

「ちょっと顔かせや。」

呼び出したのは、学生の頃からの友人。

「なんだ。忙しいんだ。帰るぞ。」

来た早々、本当に気まぐれな奴だ。

そんな事は後でいい。まずは。

いつも通りの笑顔で。不自然ではないように距離を詰め。

腹に一撃。

待ち合わせ場所が、俺達二人が周りから見えなければ、顔に一発入れるんだけどな。

「な、なんだ。なんで殴る。」

「うるせえ。はぁ……妹が死んだ。」

「……ミイロちゃんが。」

俺の妹、海色みいろはコイツの事が好きだった。

そしてコイツ、楽水ささなも。

二人の想いは知っていたけど、俺は許さなかった。

お互いの気持ちを知らないまま。まさかゲームで出会っていたなんて。

楽水ささなは頭が良い。察しもいい。ただ中身が幼稚すぎる。

純粋だと言えば聞こえはいいが。

「まさか。」

「アジュールはミイロだ。」

残酷な事を告げている自覚はある。

それでも腹を殴ったくらいじゃ治まらない怒りもある。コイツからの怒りも当然だろう。

「お前が、許さないとか言うから。」

激情型。お前の言っている事は正しい。確かにそうだけど。

自分が何を発言して、どう行動しているか。そこを顧みない。

「当たり前だろ。ミイロとやりたいなんて言うやつに、兄として許せるわけがない。俺に言うな、黙って告れ!」

そう。やりたいなんて、男なら当然思うわけで。

それを素直に俺に言いやがる。

下手すれば。学生のミイロに好きとか言うのをすっ飛ばして、コイツは自分の願望を言いそうだった。

惚れたミイロが告白もなく、ただ求めに応じそうで。それも危惧して。

これは俺が悪いのか?何かできたのだろうけど。

あぁ、もうミイロが死んでしまってからでは遅い。

そうだよな。中身を好きになったんだ。

どこで、どんな姿だろうが。出会えば好きになるだろう。


サピオセクシャル。

面白い言葉の言い回しや、知的な会話。相手の知性・所作や発言に魅力を感じる。

たとえ、頭の中は欲望が満ちていても。

俺からしても、コイツは面白い。

頭が良いのは前提で、極力言葉を使わない。どこか自分の言葉が伝わらないと思って自信がなく。

だから直情的になるのだろうか。

俺の言葉も増やさなくていい。感情も察するから。けれど、肝心なところが鈍感で恋に疎い。

おかしいなあ。成績もよくて、学生時代はサッカー部。優勝経験もあると聞いた。

ジャニーズ系ではないけれど。顔は濃い系。整ってはいる。肌も綺麗で。モテたはずだぞ。

まぁ、やりたいとか下ネタがなぁ。残念な要素。損をしている。

今だって何も説明しなくても、コイツの頭の中で情報が整理されている。


地面に座り込んで落ち込んでいるコイツを見ていると、俺も複雑だ。

病院の特別な個室。父親が設置した監視カメラ。


『リアルで会いたい』


無理だな。もう長くないのを分かっていたアイツが、お前と会うなど望みはしないさ。

会わなくてよかった。

ミイロの初恋、あきらめて好きになったのもお前なんて。

残酷すぎる。






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