アジュールの恋
妹の病室に残されたパソコン。
『新しい属性を引き継ぎ、ゲームを再開しますか?』
噂の二周目。
個人提供で課金システムのないオンラインゲーム『ラピスラズリ』。
俺は迷わずスタートボタンを押した。
前の属性は風。俺は残りの火・水・雷・回復から、雷を選択する。
俺の名前。吹丘 雷杏。馴染みがあるだけで理由はない。
「兄さん、このゲームをするの?」
「いや、するのはお前だ。俺は調べたいことがある。」
噂の二周目。
始まりの町に到着する。雷属性の町アレスタ。避雷器。
町の上空は稲妻が走り。雷鳴が轟く。雨は降らない。町に雷が落ちることもない。
聞いた通り、画像の良さとリアルな音。
周りのプレイヤーは二周目のアジュールを気にも留めず。チャット機能に反応もない。
アバターの検索をして。チャットを送ろうとすると、この機能は使えませんとの表示。
これは運営の対策か。二周目のペナルティだろうか。
「タクマ、このパソコンを持って帰れ。クエストと狩りを繰り返すんだ。大丈夫、ミイロが出来たくらいだから。ゲームに慣れたお前には問題はないよ。」
俺の言動に戸惑いながら。歳の離れた弟、多久磨は黙って頷き。
ゲームをログアウトして、パソコンを鞄に入れた。
「兄さん、姉さんの急変はこれが原因なの?」
「そうだ。」
タクマは俺を見上げ、真っすぐ見つめたまま。
「分かった。協力するから、絶対に俺を外さないで。」
「外すつもりなら、お前にゲームを任せない。」
唇を噛みしめ。我慢の限界なのか、タクマの目から涙が零れた。
俺はタクマを抱き寄せる。
「このゲームを、作った奴を。俺は許さない。」
タクマなら短期間で、ある程度まで仕上げるだろう。
沈黙の二周目。出来れば奥義を手に入れたいところだが。
属性二つ。それを駆使するのもタクマなら。
俺はタクマを車にのせ、家まで送り届けた。
一息つく。そして。携帯を取り出し。
「ちょっと顔かせや。」
呼び出したのは、学生の頃からの友人。
「なんだ。忙しいんだ。帰るぞ。」
来た早々、本当に気まぐれな奴だ。
そんな事は後でいい。まずは。
いつも通りの笑顔で。不自然ではないように距離を詰め。
腹に一撃。
待ち合わせ場所が、俺達二人が周りから見えなければ、顔に一発入れるんだけどな。
「な、なんだ。なんで殴る。」
「うるせえ。はぁ……妹が死んだ。」
「……ミイロちゃんが。」
俺の妹、海色はコイツの事が好きだった。
そしてコイツ、楽水も。
二人の想いは知っていたけど、俺は許さなかった。
お互いの気持ちを知らないまま。まさかゲームで出会っていたなんて。
楽水は頭が良い。察しもいい。ただ中身が幼稚すぎる。
純粋だと言えば聞こえはいいが。
「まさか。」
「アジュールはミイロだ。」
残酷な事を告げている自覚はある。
それでも腹を殴ったくらいじゃ治まらない怒りもある。コイツからの怒りも当然だろう。
「お前が、許さないとか言うから。」
激情型。お前の言っている事は正しい。確かにそうだけど。
自分が何を発言して、どう行動しているか。そこを顧みない。
「当たり前だろ。ミイロとやりたいなんて言うやつに、兄として許せるわけがない。俺に言うな、黙って告れ!」
そう。やりたいなんて、男なら当然思うわけで。
それを素直に俺に言いやがる。
下手すれば。学生のミイロに好きとか言うのをすっ飛ばして、コイツは自分の願望を言いそうだった。
惚れたミイロが告白もなく、ただ求めに応じそうで。それも危惧して。
これは俺が悪いのか?何かできたのだろうけど。
あぁ、もうミイロが死んでしまってからでは遅い。
そうだよな。中身を好きになったんだ。
どこで、どんな姿だろうが。出会えば好きになるだろう。
サピオセクシャル。
面白い言葉の言い回しや、知的な会話。相手の知性・所作や発言に魅力を感じる。
たとえ、頭の中は欲望が満ちていても。
俺からしても、コイツは面白い。
頭が良いのは前提で、極力言葉を使わない。どこか自分の言葉が伝わらないと思って自信がなく。
だから直情的になるのだろうか。
俺の言葉も増やさなくていい。感情も察するから。けれど、肝心なところが鈍感で恋に疎い。
おかしいなあ。成績もよくて、学生時代はサッカー部。優勝経験もあると聞いた。
ジャニーズ系ではないけれど。顔は濃い系。整ってはいる。肌も綺麗で。モテたはずだぞ。
まぁ、やりたいとか下ネタがなぁ。残念な要素。損をしている。
今だって何も説明しなくても、コイツの頭の中で情報が整理されている。
地面に座り込んで落ち込んでいるコイツを見ていると、俺も複雑だ。
病院の特別な個室。父親が設置した監視カメラ。
『リアルで会いたい』
無理だな。もう長くないのを分かっていたアイツが、お前と会うなど望みはしないさ。
会わなくてよかった。
ミイロの初恋、あきらめて好きになったのもお前なんて。
残酷すぎる。




