技を伝えよ
討伐が失敗し。ゲームは続く。
大規模な攻略が話題になって、新規も増え。ゲームの賑わいは新たな風のように。
ゲーム上位者が減り。ギルドの編成も大きく影響を受け。
対抗ギルド、大手だったところが合併や移籍を繰り返し。メンバーの入れ替え。新規参入。
目まぐるしい変化。
育成の重要性が増え、新たな奥義の獲得イベントが開催され。慌ただしく日々は過ぎていった。
俺の奥義寄託も忘れ去られていく。
そしてついに。二周目アジュールの情報が耳に入る。
雷属性。銀色の装備で統一し、長髪の女戦士。背後には、前回と同じモフモフのタヌキを連れていたと。
会話を試みようとしたけれど、やはりチャットは送れなかったようだ。
向こうからの連絡もない。
まさかレベルを上げているとは。
二周目に戻ってきたのはカプリチオのいる世界に身を置くため。だよな?
同じ属性なら、まだ出会うチャンスはあったのでは?
まさか自分の復讐など。
病名は分からないけれど、入院生活の中でこのゲームをしていたと。
泣いて長くないというくらいだ。
ギルドも、カプリチオとリアルで会うこともあきらめていた彼女が。何故。
カプリチオは気分でブラックリスト使うからな。
あれだけ好き勝手言いたい放題だった俺からの連絡など望んでいないだろうし。
せめて外部チャットでアジュールと会話できれば良かったのに。
対抗ギルドにも同じ情報が回ったのだろう。
個人あてのチャットにメッセージが届き。確認すると、カプリチオからだった。
「今日、酒場で飲んで占いをする。町に招待してくれ」
なんとも素っ気ない。ギルドに炎の戦士は居るだろうに。
アジュールの話をしないのも不自然。けれど、俺にわざわざ連絡してきたんだ。
ここで不機嫌を発動されたら面倒だ。こちらからは触れずにいよう。
「分かった。今から送るけど。まずは俺をフレンドに登録しとけ。」
送ろうとしたけどエラーが出た。やっぱり俺をフレンド登録すらしてなかったなあいつ。
メッセージが来たからブラックリストには入っていなかった。いや、解除しただけか?
「した。送れ」
いちいち腹が立つなぁ、ほんと。こんな奴に惚れる女なんか、リアルにいるのか?
だから優しく相手していたアジュールに夢中になったのかもしれない。
招待状を送り。パーティーを組んで、速攻で炎の町に到着したカプリチオ。
「ちっ。まだ夜じゃねーのか。」
ボイスで暴言。不機嫌全開。
「誰かさんが俺をフレンドに登録していないからな。ブラックリストに簡単に入れるような奴だし。」
「人のせいにするのは良くない。人を悪く言うのも良くない。」
正論だけど。ほんとイラつく。
「アジュールの噂は聞いたか。」
「あぁ。チャットは使えない。」
ん?なんか引っかかる違和感。
「何を期待して占いを?」
「ぽこぽん、俺は占いの後。結果が何であれ、【難攻不落】の城に挑む。」
「待て、アジュールの二周目はお前がゲームに居るからだぞ。それなのに。」
「いや、これでいいんだ。」
何がいいんだ。
けれど、境遇を想像すると分からなくはない。俺は。
「忘れろ。もうアジュールはいない。」
違和感がなんなのか。頭が混乱してくる。
冷静な自分と、感情的な自分。言いたいことと、言いたくない言葉。
「ぽこぽん、ありがとうな。」
そこでボイスが途切れ。
パーティーが解除されて。酒場に向かう後ろ姿。
どんな結果が出たのか俺は知らない。
何故、招待を俺に頼んだのか。
次の日。カプリチオは【難攻不落】の城に挑み。
俺は闘技場で見ていた。
奥義は寄託しているのに。それでも善戦し。圧倒的な力を前に。
多分、最期の攻撃。
水色の魔法陣が拡がり。水滴のようなものが空中にキラキラと散りばめられ。
ラスボスのドラゴンからの攻撃は続くけれど、それが防壁のようにダメージを吸収する。
カプリチオは詠唱を続け、剣を地面に突き刺した。すると波紋が生じて沈んでいき。
沈み切ったところを中心に水の王冠が浮かんだ一瞬。
水飛沫が生じる。剣と代わって水の矢が一本、魔法陣から召喚された。
散布された霧状のものが集まり、弓を形成し。カプリチオはそれぞれを手に。
防御の緩んだ隙間からのダメージを受けながらも。弓を引いて真っすぐに構え。
迫り来るドラゴンに矢を放つ。
それはドラゴンの左目に刺さって大ダメージを与え。今までにない奇声のような叫びをあげた。
黒煙を含んだ炎を空に吐き出し。ダメージのない右目が、鋭く睨んでカプリチオを捉え。
振りかざした腕。引き裂く爪の鋭さ。血しぶきが鮮明に。
カプリチオは死んだ。
そしてゲームから消えた。
カプリチオは奥義を寄託し、イベントで別の奥義を獲得していた。1アカウントに付き奥義所持は1つ。取得の回数制限はない。それが狙った通りなのかはわからない。ただ、前の奥義は範囲攻撃。総ダメージは膨大だけど、無数の矢で降り注ぐ分、幾らかは外れる。大量に湧いた雑魚相手なら有効。ボス相手なら、今回の奥義が正解だろう。防御を伴い、一点集中攻撃。それでも勝てなかった。【難攻不落】。大規模な討伐での属性ごとの奥義。そして今回の奥義を見て確信する。あぁ、俺が伝えるのは。奥義を通して。『中継者となり言葉( で )技を伝えよ』




