炎の戦士ぽこぽん
俺だってリアル優先。ガチ勢とまではいかないけれど。このゲームに課金がないから出来る事。
アジュールのように、ゲーム素人でさえ誘導の簡易なクエストを積み重ねれば。
【難攻不落】の城に挑戦できる。
その特典のモフモフ選択マスコットは常態化して。
強制的なクエスト。拒否権のないモフモフ選択。違和感があったのは俺だけだろうか。
俺はウサギを選んだ。
AIで会話を学ぶと聞いたが。大手ギルドに成長し、プレイヤーがいるのに今更、ウサギと会話もない。
アシストは受ける。だが信用していない。
アジュールのアカウントが消えた。
二周目が新たにレベル0からスタート。属性は引き継がれるけれど、それはどこまで。
「ぽこぽん、ボスが倒せない。ヘルプを頼む。最近、育成チームがそろってないんだ。」
ギルド内の数名がゲームボス討伐目的に移行して、外部チャットで会議を重ね。
装備強化に重点が切り替わった。
人選で覚悟を決めた者を集め。【難攻不落】に挑むのだ。
俺は、それに加わらない。
抜けた戦力の穴埋めで、声がかかることも増え。俺の役割を再確認する。
俺はファクトのギルマスだから。
「わかった。」
パーティーに加わり、転送で向かう。
到着すると。明らかに回復が間に合っていない。
回復職が不遇で希少なのもあり、不在のパーティーで火力が足りないと耐性も落ちる悪循環。
ある程度、攻撃と回復アイテム使用の指示を出しながら。ボスのゲージを削っていく。
回復が追い付き。全体の攻撃が増えたところで、俺は詠唱に移る。
剣を地面に突き刺し。広がる魔法陣。属性の赤。
炎が縁取り、剣に集中して螺旋状に絡まる。
詠唱が終わり、剣を地面から抜いて構え。ボスに向かって振り下ろす。
螺旋状に絡んだ炎が、青白い龍の形になって襲う。
攻撃が敵に当たると、そこから斜め下に傷が拡がり。大ダメージを与えた。爪痕のような傷。
最終的には赤い炎が全体を包みこんで。討伐成功。
「すげぇ。」
「さすがマスター」
「ぽこぽん様ぁーかっけー」
育成中のモフモフ不在メンバー。大げさに喜んでくれる。
「ギルマス~。最近、みんな忙しいんですか?」
当然の疑問だろう。課金もなく、作りこまれたゲーム。新規者も定期的に増え。
ゲームを初めて間もなければ、二周目など耳に入るはずもなく。外部チャットで情報が流れる程度。
「そうだな。これはゲームだ。楽しめ。分からない事があれば、遠慮なく聞いてくれ。」
「ぽこぽんさん、さっきのは奥義ですか?」
「お、奥義を知ってるとは。誰から聞いたんだ。」
「忘れました。ふへ。」
「なんだよ、それ。まぁ、さっきのは奥義じゃない。定期的なイベントで、一部しか手に入らないから奥義なんだけどね。」
『中継者 技を伝えよ』
そうだ。占いを聞いた時。奥義が頭に浮かんだ。
きっと誰かに寄託する。同じ属性、炎の戦士に。
「ついでだ、レベル上げの狩りに行くか。」
「はい!」
パーティー転送して、ボイスチャットでゲームの話や日常の会話をしながら。
まったりゲーム。懐かしいような気分。
アプデを繰り返し、新たな町やシナリオが増え。
ギルドに所属し、ギルマスだからといって積極出来でもなく。育成も率先するメンバーに任せ。
改めて、この楽しさを味わう。
これはゲーム。オンライン。画面の向こう側では俺の知らないリアルが存在し。
そしてこのゲームで出会い。本来なら知り合うことも出来ない場所の人。
遠く離れた人が身近で。年齢差を気にせず。時に性別を偽った奴も存在する。
途中で何も言わずに消えていき、時に思い出したかのように戻り。強制などない。
【難攻不落】の城に挑み、消える覚悟。アジュールのように奪われるくらいなら。
今回の討伐、失敗すれば他の大手も人数が減少する。多分、ラスボスの耐久も上がるだろう。
奥義。各属性に数名。
考えもしなかった。きっと俺にも挑戦状が届くだろう。
この愛らしい姿をしたモフモフを背に、抱えている限り。
「おい、アジュールが検索から消えたぞ。」
この数日、ログインもなく。監視しているグループもいたようで。注目度が高いから噂もすぐに入る。
検索から消えた。それは、運営が二周目の権利を与えた猶予期間が過ぎたのか。
それともログインがあって、検索からも外されたのか。
どちらにしても。アジュールに対して、俺が出来ることはないのかもしれない。




