言葉の中継者
「どうも」
お、カプリチオから返事が来た。
ボイスに切り替え。
「少し、時間いいか?」
「あぁ。」
カプリチオもボイス。
どこか不機嫌な声。これ、まさか俺に嫉妬してるのか?
どうしようもないな。分からないこともないが。
「俺に連絡がきたってことは、お前もアジュールのリアル連絡先を知らないって事か?」
「しらん。」
あからさまな反応。
これから伝えることを聞いたら、さすがに変わるんだろうけど。
どの順で話すか。こんな機嫌が悪いなら、会話を途中で切られる可能性もある。
まずはこれだよな。
「アジュールが消える前、リアルの命が長くないと言っていた。」
「は?」
情報処理能力は高そうだな。頭は良いんだろうけど。
「二周目に戻ってくるかは分からない。戻ってくるとしたら、お前に会いにくるんだと思え。アジュールは、お前が好きなんだよ。」
なのに、お前はギルドを優先した。
責めるつもりはない。俺はギルマスだから、サブマスのお前の立場が理解できる。けれど。
「アジュールが俺に話したのは、お前の態度で傷ついたからだ。俺にも誰にも言うつもりがなかったのに。だからギルドもずっと入らなかった。言わないで欲しいと頼まれたけど。この会話を聞いた運営が、アジュールを消した。二周目に戻ったとして、お前にあいつの気持ちは伝わらないだろう。俺が伝えられるのはここまでだ。」
「待て……違う。反応が可愛くて。意地悪したくなった。俺はギルドを優先したりしない。ずっと先約があると断って、アジュールと……俺は。」
こいつの気持ちは理解できる。
俺だって、こいつのために泣いているアジュールに惹かれた。護ってやりたいと。
いや、もう俺が出来るのは。
「お前がギルドに誘わなければ。」
頭にカッと血が上る。
「は?今、何て言った?」
「お前がギルドに誘わなければ、あいつは俺と」
「黙れ、お前がアジュールを追い詰めたんだ。可愛い反応見たさに意地悪をして。楽しんだ結果が、あいつを追い詰めて。入るはずのなかったギルドに加入するほどだぞ。本当なら。残りの時間、お前と一緒にゲームする事を望んだのに。それが!お前はどうした?無視しただろ。」
感情的に言葉を吐き出した俺に。
応酬するのかと思えば。
「何も聞きたくなくて、ブラリに入れた。」
返って来たのは小さな声で。
ブラリ。ブラックリスト。
アジュールからの言葉は、ブラックリストの設定に従い運営によって遮断される。
きっとアジュールの本音や願いも含まれていただろう。それが伝わらずに消えた。
「バカなのか……。」
思わず声に出たけれど。あきれて言葉が続かない。
「俺は、リアルで会いたいって言った。」
それがカプリチオの言い訳なのか。だとしても。
いちいち腹が立つ。
「だからなんだ?気持ちが伝わったとでも?相手は女の子だぞ。リアルで会えるような安心できる情報を与えたのか?ふん。アジュールを信用してないのはお前だ。俺は断言できるぞ。お前の連絡先をアジュールが知っていれば、俺に連絡も返さず、彼女からの接触を待っただろうからな。」
何がリアルで会いたいだ。ふざけんな。
病院でゲームをしていると言っていた。
断られて、いじけて八つ当たりでもしたんだろ。
「拒絶したのはお前だ。俺は中継者。アジュールの最後の言葉をお前に伝えて役目は終わった。後は勝手にしろ。」
俺は会話を強制的に終わらせた。
分かる。理解できる。痛いほどに。
だけど、俺に言うな。言ったところで何も変わらない。顔も名前も、住んでいる場所も知らない。
これはゲーム。オンラインなんだ。オフラインになれば絶たれる。
リアルじゃない。顔が見えないから、言葉を増やす。なのに。
何故、カプリチオは簡単に自分から断つことができた?
それだけ、アジュールの気持ちを知った上で、甘えたんだ。
試したんだ。どれだけ自分を許してくれるのか。どれだけ好きなのか。
会いたいと願い。自分の願望だけを優先して。
リアルじゃないからこそ。これがゲームだから。
共にゲームをして過ごす時間。リアルで感じるストレスもなく。ただ純粋にゲームを楽しみ。
積み重なる想い。
顔も名前も知らない相手。表情が見えないからすれ違う。
まして。ブラックリストなど。
カプリチオ、俺はお前を許さないからな。




