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無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
奏でる曲
2/20

恋を失い


久利くり 未來みらい


クリスマスの夕暮れ。

ずっと幼い頃から共に過ごし、その日も同じだと思った。特別な想いを告げても、変わらないのだと信じていたのが崩れる。

予定を聞いた私に、幼馴染は答えた。『夕方、学校で待ち合わせの約束がある』と。

嫌な予感がした。胸騒ぎに、じっとしていることが出来ず、向かった学校。


私の姿を見つけ、幼馴染は微笑んだ。

「未來、これを受け取って欲しい。ごめんね、ありがとう。」

手に渡された物は、ラッピングもされていない。彼の中で、私の幼さを物語るような、雪だるまのヌイグルミ。

胸に抱きしめ、私は笑顔を向けた。いつもと同じように笑えただろうか。

彼は背を向け、私ではない女の子の方に向かう。


言葉も出ずに後姿を見つめ、思考と同じ、白い雪が視界を塞いだ。地面に落ちては、溶けて消えていく。涙を零し、霞んだ視界。

遠くだから分からない?私が泣いているのに、振り返ったあなたは笑顔で手を振って、また背を向けた。彼女と並んで歩いて行く後姿。

『ただの幼馴染。小さな時から一緒に居た友達。』私は恋を失った。


せめて想いを伝える事が出来ていれば、闇に呑まれることもなかっただろうか。

手から落ちたヌイグルミを拾うこともせず、涙も拭わずに、その場を去った。

何も見ていない。“あなた”と目が合った?知らないわ。無音を生み出した?心は穏やかではない。思考はグチャグチャで、言葉が出なかった。

私を捕らえたのは、あなた……


部屋に閉じこもり、暗闇に身を小さくして丸くなった。涙が溢れては零れる。

どれほど泣いたのか、泣き疲れて眠っていた。母だろうか、体には毛布が掛かって、部屋は暖房が利いている。

きっと、私の想いは筒抜けだったのだろう。自分の幼さが恥ずかしくて情けなくて、言葉にならないほど胸が痛む。苦しみと後悔が奏でる心音。


日は過ぎるのに、自分の時間は止まったまま。

周りは色めき、雑音と化す。

入ってくる情報は、自分の失恋に闇色を加えていった。落ちていく感覚。

幼馴染が隣に居ない。私の隣にいた相月あいづき はるは、木口きくち 一香いちかと並んで歩く。

私は視線を逸らし、周りの気遣いに胸を痛めた。募るのは羞恥心。


気分が悪くなり、保健室へと向かった。足取りは重いのに、歩行の感覚が曖昧で、道のりは遠い。

保健室の扉に手をかけると、中から音楽が聞こえた。

そっと開いて、誘われるように入る。

高音のバイオリンが、身体に響く。パソコンには、癒される草原の画像。揺れる草や花。その音が、バイオリンと曲を奏でるように重なる。


見つけたのは、音のある世界。

それを“あなた”が私に提供したのに、“あなた”は私に無音を求める。

私の逃げ場で、“あなた”は私を追い詰める。無音の世界に囚われ、無意識で生み出した私を捕らえても、得られるはずはない。だから、解放して欲しい。

『君は、俺のヒロインだよ。』

私は気づかずに、心が無音を奏でる……



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