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⑪無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
恋愛模様

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18/35

騒音のヴァリエーション


自分の部屋に何とか辿り着き、ベッドで泣き崩れ、いつのまにか寝ていた。

意識の遠くで、バイオリンの優しい音に呼ばれるように目を開ける。

身を起こし、PCに近づくと電源が入っていて、『独創サイト』なのか画面中央で光を浴び、バイオリンを弾いているタクマ。

同じ学校の制服。


1曲が終ると違う曲を続けて演奏する。まるで、私の為だけに演奏されるコンサート。

癒されるような音に耳を澄まして、机に響く音を感じる。

出尽くしたと思った涙が、自然と頬を伝う。悲しみとは違う、安堵の伴った無意識のもの。

その涙を拭いながら、笑みがもれ、止まらないのに心は満ちていく。

染み込むような音に、また、私は惹かれるんだ。


彼に会いたい。


急に無音になったので、画面に目を向けた。すると、PCの前に居る私に微笑みを見せるタクマ。

そして演奏開始。それは……愛の歌……


何故、その曲なのか。私は何を望み、何に囚われたのか……

その曲に、不思議と嫌な気分を抱くことなく、自分の想いが不快だという感覚もなく、聞き入る。

貴方について何も知らないのに。


愛の曲は、バイオリンの深い音が想いを増幅させるようで、何とも言えない。

言い表せない感情が、芽生えるような……夢心地。

いっそのこと、この幻想の彼を好きでいれば傷つかないだろうか。

会わないで良かったのかもしれない。

戦士アジュール、タクマの大切な人が誰だったのか、知らないままで。その方が楽でいい。

エンディングは、ヒロインとして演じきった私のもの。それで十分、生きていける。

晴の事は、今は考えない。


闇に逃げようとする私を、光に導くのは貴方なのね……


演奏を終えたタクマは画面に3つのフォルダーを表示した。

『預かったメモ』『アジュールとヒロイン』『無音』


そして、タクマは悲しそうな声で説明を始める。

「未來、君をヒロインに選んだのは、接触が欲しかったから。君は現実で、俺に無音を刻んだ……2度も。偶然と、必然の様なタイミングで運命かと思うほどだよ。何から語ればいいのか、会う約束をしてから、ずっとその事だけが思考を占拠した。何があったのか、あの部屋から相月くんが出て行くのを見た時に理解した。」


入れ違い。

良かった、晴に抱きしめられている所を見られなくて。誤解されたくない。

もう、私の想いは変わったのだから。


「今、俺は後悔している。運命の歯車を狂わせたのは、俺だろうから……」


え?

タクマの言っている意味が分からない。


「この3つのフォルダーを、見るのも見ないのも、未來の決定に委ねるね。ごめん。」


タクマはログアウトしたのか、画像が薄くなって消えた。

画面に浮かんだ3つのフォルダー。


『運命の歯車を狂わせた』

その意味が分からない。きっと、晴のメモが関係している。

嫌な予感がした。

見たくない。自分の区切りのついた想いを覆すような内容が書いてあるのだとしたら……

また、晴を好きになる?

ありえない!あってはいけない……

逃げても良いでしょ?もう、私はヒロインでは……


『君をヒロインに選んだのは、接触が欲しかったから。』


狡い。酷い。委ねられた決定から、逃げたくないと思ってしまう。

私の名は未來、見つめるのは先の事。


私は『預かったメモ』のフォルダーをクリックした。

四つ折りになった紙が、画面に現れる。

それをクリックすると、開く音と共にゆっくりと広がるメモ。


『未來へ。

数日前に、委員会で遅くなった俺を待っていて、

寝てしまった時の事を覚えているかな?

実は俺、起こす前に未來にキスをしたんだ。

ごめん。

知られるのが怖かった。

それを木口に見られていたみたいで、

黙っていてもらう条件で付き合う事になったんだ。』


紙は、スキャンしたのか何度も消した跡がある。

小さなメモに文字を書いては消して、伝えたい事をまとめて収まり切らない、必死さの伝わる物。


キス……

晴への想いがあった時、晴の想いも私にあった事を知る。

湧き上がる感情。葛藤……自分がした事としなかった事が、せめぎあう。

心苦しく、過去の記憶がグルグルと回る。そして、冷めた感情が最後に残っていることに気づく。


私は、机の上に置いていた雪だるまのヌイグルミを手に取って立ち上がる。

ゴミ箱の上に持って行き、手を離した。

カラッポのゴミ箱の底に当たって、軽い衝撃音が聴こえる。


そう、私は過去に晴からのメモの入った雪だるまのヌイグルミを捨てた。記憶から消していた物。

手に戻ったのは、タクマが拾ってくれたから。メモの存在も、タクマが教えてくれた。

そして、肝心の晴が私にメモの確認をしたのは最近の事。


私に知られるのが怖かった?そうね、今なら分かるわ。

好きではない人からのキス。そんな現実を告げられて、私にどうしろと言うの?


『運命の歯車を狂わせた』と言うけれど……

タクマがメモを拾った時点で、終わっていたのよ。

自分が捨てたの、恋を失った悲しみに耐えられなくて、辛くて逃げた。

卑怯者の結末に相応しいんじゃないかな。


もしも……?

そんなのは意味がない。後悔しても、現在は変わらない。


そうね、もしも……もし、私がその場でメモを見ていたら。晴を取り戻せたかもしれない。

メモを見た私は、記憶にないキスに喜び、二人の後を追いかけて走って……想いを告げただろう。

“今”が、変わっていたかもしれない。

悲しみに暮れず、独創サイトにも逃げずに、タクマとの出逢いもヒロインになることも無かった。


現在のヴァリエーションを垣間見て、意味のない音は心にふれず

……ただの騒音…………




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