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⑪無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
恋愛模様

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不協和音


私は、苦悶の一日が終わるのを願った。

今日は後、タクマに会ってメモを受け取るだけ。これからの事は、まだ考えない……。


放課後、部活や帰宅に散り始める皆に紛れ、教室を出た。向かうのは音楽第一教室。

タクマと対面し、メモを受け取って……

きっと、何らかの説明があると思う。せめてアジュールについて知りたい。

白鉄で統一された装備と、腰まである銀髪の女戦士……きっとタクマの大切な人。

私が胸を痛め、出合ったことのないネット上の彼に惹かれているのだと気付いたのは、遅かったのか早かったのか。


使用が制限された特別教室は、部活の利用も少なく、その方へ向かうのは私だけになった。

静かな廊下と、防音の重々しいドア。

ここに、タクマがいるのかな。

心音が早くなり、不安と期待の様な焦りが胸を締め付ける。

ドアはカギが開いているのに、人はいない。

少しの安堵の後、また小さな不安が波のように心を揺らす。

教室に入り、窓際まで歩いて行く。

静かな教室……窓の外は、裏門から自転車で下校している人たちが沢山。

目に映る無音の風景。


「未來?」

声に反応して振り返り、心臓が跳ねる。

「……晴、どうして?」

口元を押さえ、血の気が引くのを感じた。戸惑いと動揺……

私の様子に、晴は苦笑して視線を逸らし教室を見渡す。

「俺は、未來と話がしたくて……後をつける形になってしまったんだけどね、帰る方向と違うから……どこに行くのか気になって。」

ごめん。と、謝りながら晴が私に向けた視線は鋭く光る。

今までに見たことが無い眼に、恐怖なのか震えが生じた。

少しの距離と、感情のずれが生み出す男女の違い。今までの幼馴染としての認識と、初恋の相手への無防備さも忘れ、緊張の一時。


もう修復できないまでに心は変わってしまった。晴への想いは残っていない。


窓際にいる私に、近づいた晴が手を伸ばして触れようとするので咄嗟に払い除けた。

触れて欲しくないと、強い感情が怒りのように激しく燃える。

睨んだ私が信じられないのか、戸惑い、状況が把握できないような反応を返す。

晴は払われた手を握り締め、視線を一度逸らして戻し、歩を進めて私を抱きしめる。

男性の強い力。


「……っ、放して……」

私の体に伝わる晴の熱。

必死で抵抗をするけど、晴の力は強くて逃げられない。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……~っ、我慢が出来ない。

「私に、触らないで!」


私の声に、晴の体が反応した。

視線を向けると、抱きしめていた両手が下がり、悲しそうな表情で訴える。

晴から視線を逸らし、避けて距離をとる。


私は、タクマとの最後になる接触の道を閉ざすことになるのを覚悟で、その教室を出た。


目から涙が溢れて零れ、流れ続ける。

全速力で走って、息苦しさに足を止め、壁に寄り掛かって声を殺す。

「……っ。ふっ……ケホッ……ッ……うっ……ぅ……」

歯を食いしばるのに、走った息苦しさと、涙につられた声が入り雑ざる。

目に手の甲を当て、涙を拭いながら、霞む視界に周りも見えず、家に帰ることを望んだ。

震える手で壁を押し、不安定な足取りを感じながら……

帰りたい。

こんな無様な姿を、これ以上晒したくないと……

見ないで欲しい。


違う……違う、違う……違うの。

そうじゃない……


晴、私に触らないで。

あなたの手は…………汚い……


音が雑ざる

……雑音のように、心をかき乱す…………不協和音



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