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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
殺人輪舞の夢を観る

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後半


あれから8年が経った。

高校の同窓会に、居酒屋で集まる。

「英、委員長は?」

3年のクラスなので、彼女と一緒だった。

「夢幻、岸谷さんと続いてるんだ。結婚式はいつ?」

英は、お酒が入って顔が赤い。

「あぁ、来年の春に計画している。で、委員長は?」

「奥、何か動いてる?」

委員長らしい。

英も、父親の会社を継いだばかり。大変そうだ。

「陽香、ここにいて?委員長に、声かけるから。」

陽香ようこは委員長が苦手みたいだ。でも変わらず。俺の心を照らす明るい君に、どれだけ支えられたか。

高校3年間。君の片想いに癒された。

「委員長、大丈夫か?手伝う?」

もともと可愛い顔だったが、多分。仕事の所為?目の輝きが違う。

「どうしたの?気分悪い?」

「いや、大丈夫。大人っぽくなって、ドキッとしたよ。」

ふふっと、委員長が笑う。

「夢幻くん、お父さんの下にいるのよね。じゃ、今日は私の下僕?」

なんて、意地悪そうな顔。

「はい、何なりと!」

敬礼してみせる。

「ウソよ!ちょ、何?みんな、笑わない!!あ、今。笑った人は、割り増しで計算するわよ?」

会計までしてるのか?

委員長は、スタントなしのアクションで評価された女優。

可愛い顔だから、裏方にはなれなかった。今でも、不思議そうに嫌そうな口調で話す。

委員長は、差し入れを警察によく持ってきてくれる。

英は、社長で。会うことが減ったが連絡は取っている。二人は仲が良い方だ。


俺は警察の仕事に慣れ始め、林藤さんの私物を捜したが無かった。

エン。君を忘れることはない。でも、過去になった。今も夢を観る。

現実の中でも、君を殺した犯人を追いかけ。まだ夢の中だ。

別の人を愛した。

陽香。最初、君を抱くときだけは解放された。酷い男だ。

それでもいいと、君は笑う。あの太陽のような笑顔で。愛しさが、エンを消していく。

俺は、君を殺したんだ。エン。


二次会・三次会と、委員長の計画の良さに驚く。

「夢幻、もう帰りたい。」

いつも社交的な彼女が、悲しげな顔で言う。調子が悪いのかもしれない。

「委員長、俺たちここで帰る!また連絡するよ。英も、またな!」

陽香の肩を抱き、タクシーを待つ。

「ごめんね。夢幻、私。」

ん?顔色が良くない。

「体調悪かったのか?俺こそ、ごめん。」

タクシーの中、陽香が俺にもたれ。目を閉じている。

頭を撫で、額にキスをした。気づいてやれない自分が嫌になる。

そして、何故か比べるんだ。エンなら、気づいていたかも。と。

君に癒されたのは本当だ。

でも真実が。まだ無い。

あの海を、何度も捜した。海にいても違和感の無い趣味を理由に。その海に限定していない振りで。


マンションの一室。陽香の部屋。

独り暮らしを始めた俺に、陽香は一緒に住もうと。ずっと言っていた。

でも仕事が忙しい、時間が違って生活が狂うと。何度も、理由をつけて断った。

何度か、陽香の部屋で泊まったことはある。陽香も、俺の部屋で泊まった。そして来年の春。結婚する。

決意をしたわけじゃない。ただ、そんな時期だった。

どんなに君に癒されても。君に愛しさを感じても。何かが俺を止める。

それは。ナニ?エンとの思い出?エンを失った悲しみ?消えない傷?

解決しない事件。頭がおかしくなりそうだ。林藤さん、あなたが自殺だったんじゃないかと。

待てよ?俺なら、まず死ぬ前に会っていく。会ってから、自分の気持ちを分かち。消える。

林藤さん。どうしたら良い?あなたは、誰に殺された?

川口さんにも、何も告げずに。川口さんは、どうして林藤さんを止めなかった?誰かが止めることもできない。証拠が?

「夢幻。ずっと、何を考えてる?」

不安そうな陽香の顔。

陽香の部屋だった。自分の考えに夢中だった。こんなことが日常茶飯事。

「陽香、結婚は。延」

「嫌!お願い。あなたの心に、あの子がいるのは知ってる。それでも良い。少しの愛情が、私にあるのは事実だから。あんな形で、愛する人を喪ったのだから。」

急に口を閉ざし。涙が床に零れ落ちる。

「陽香?」

多分、たまっていた気持が溢れたんだろう。

「ごめんな。」

俺は、泣いている陽香を残し。その部屋を出た。


「はぁ。」

ため息が、寒さで白く見える。

温かい空気が、寒い空気に触れ。白く見えるのは一瞬。同じ温度になれば、見えなくなる。

俺は、気持ちを誤魔化しているんだろうか?

エンなら。もし、エンが生きていれば。

エンより愛しさを感じる。君の温もり。匂い。惹きつける笑顔。癒されている。

本当に?癒されている?じゃあ、今。何故。



夜明け。

【携帯の着信音】

「はい!すぐに。え?川口さん。もう一度。」

俺は着替え、家を飛び出した。

連絡は、手首を風呂場で切った自殺。

名前は、岸谷きしたに 陽香ようこ。住所は、俺が昨日いた場所だ!!

遺体は、すでに移送されていた。

風呂場に立つ。血が湯船に赤く。赤く染まっていた。

陽香。俺の所為だ。

俺の肩に、川口さんが手を置いた。

「彼女だったのか?」

黙ってうなずいた。

「仕事だ、事情を訊く。署に来い。」

口調が厳しかったが、手は温かく。優しく導く。懐かしい。エンの時も、川口さんが導いてくれた。

川口さんの運転で、自動車は走るが。道が違う。

「川口さん?あの、どこへ?」

「アイツが好きだった海。」

嫌な予感がした。何だか、寒気のする予感。まさか。

まさか?違う、何かが違う。けど真実に近い。何かが待っている。

俺は、窓から見える景色に視線を移す。

思い出せ。何かが、答えに結びつく。

川口さん。何故、エンが亡くなった後。あの村に?何故、俺を案内した?

『君は、信じるだろうか。』エンが亡くなったことを信じる?俺を励ますためでなかったのなら?何故、そんな言葉を?

林藤さんが亡くなった時。

『何度か、相談にのったのもそこだった。数日前、追い詰められたみたいに何かを調べていた。訊いたが、答えなかった。』

亡くなった海。何かを調べ、真実を知った林藤さんは。川口さんに訊いた。

犯人は。アナタ。ですか?それに川口さんが。


「俺は、答えなかった。」

車が海に到着し、川口さんが呟いた。

俺は川口さんを見る。

「海に出よう。会わせたい人がいるんだ。」

会わせたい人?誰だ?今、この時に。会わせたいのは。

俺の中に一人思い浮かんだ。まさか。そんな!

何故、今?そうなのか?君が、エンを殺し。陽香まで殺した?

あの現場は不自然だった。


海辺に人が立ち、振り返る。

川口さんは、タバコをくわえ。火をつけた。離れたところで俺たちを見ている。まるで、観客のように観ていた。

林藤さんの彼女を殺したのは。誰?

川口さん?それとも、君なの?でも君は。当時6歳。

「ふふっ。怖い顔ね。何を考えてた?当ててあげましょうか。」

「委員長。いや、川口かわぐち 五月さつき。何故、ここに?お前は何をした。質問に答えろ!!」

憎しみが襲う。感情が制御できない!

今にも、五月の首を絞めたいほど、憎い!!

五月だ。陽香を殺したのは。

理由は、俺?だとしたら、エンを殺したのも。五月。

川口さんに差し入れ頻度が多かった。女優で忙しい五月に、時間なんてよくあるなと。不思議だった。

将来の話をしたとき、君は言った。

『私は。なれたらいいな。このままいけば、なれる……』

このままいけば。時が、同じように何事もなかったように過ぎ。

君は、表に立つが。自らスタントをしている女優。演技。どこまでが?これは、夢。なのか?

「夢幻、林藤さんも。どうして、私を好きになってくれないの?」

でも、何故。今?

「くす。あの女、自分が身代わりだって知ってた。それで、結婚?許せない。夢幻が、あの子から解放されるのをずっと待っていた。亡くせば、すぐに気持ちが手に入ると思ったのに。あんな綺麗な子でも、あなたの心は解放されない。女優の私でも。ずっとあなたの中で、あの時から進まない。“委員長”。時を動かしたかった。だから、今。」

俺の時は。あの時から止まっていた?止まったままだった?

「夢幻、私は。人の裁きを受ける。これから、あなたの心を支配するのは私。嫌いだったけど、同情してたのよ?陽香。苦しみは、理解できたから。でも、私に対する憎しみを。真実を知ったあなたを。癒されると憎い。夢幻のそばにいるのも憎かった。憎い。」

憎しみは募らせるな。囚われるな。

「五月。林藤さんの彼女を殺したのは。君なの?」

彼女は微笑む。

「えぇ。6歳。簡単だった。スタントの関係で、大人の世界を知った。面白半分に、大人が殺人の話をする。物語を聞かせるように。まるで、夢を観ているようだった。現実ではない。夢。憎しみも、美しい焔。消える炎。美しい。」






人は亡くなる。もう存在しない。君は、確かに。ここにいたのに。

人の命は尊くて、儚いモノだから。

消えてしまうロウソクのように、一瞬で。燃える炎がある時は、輝いて見えるのに。

消えた灯火が、闇を呼ぶように。周りの世界を一変させる。

闇が怖い?

闇は、美しい。惹きつけて捕らえ、離さない。

アナタハ、ソレヲ。観タ。



END

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