第三章:輪舞。参
君は、確かに。ここにいたのに。
人の命は尊くて、儚いモノだから。
消えてしまうロウソクのように、一瞬で。燃える炎がある時は、輝いて見えるのに。
消えた灯火が、闇を呼ぶように。周りの世界を一変させる。
闇が怖くなりましたか?
でも闇は、美しい。でしょう?
惹きつけて捕らえ、離さない。
アナタハ、ソレヲ。観。続ける。
神隠村の入り口に来た。
来てみたものの、エンの家が分からない。途方にくれる中、林藤さんとの会話が頭を巡る。異質な村。
『村から遺体が見つかり葬儀をしたと。村人以外は遺体を見ていない。』
「夢幻君?」
男の声に驚き。血の気が引いた。
「あぁ、ごめん。林藤と同僚の刑事で、川口だ。」
警察手帳を見せてくれた。
「あの。」
言いにくそうにする俺に、微笑んで。
「おいで。案内するよ?」と。
案内について歩く。
エンの家。刑事さんは、話を聞いている。多分。お母さんなんだろう。
中には入らなかったし、俺のことは黙っていてもらった。会うのが怖かった。
俺が、あの日。一緒に出かけなければ。付き合ったりしなければ。後悔する。
落ち着いたら、心の整理ができたら。遠まわしに。逃げて。ここにいる。
エンの生まれ育った場所。静かな村、小さな集落。
話の終わった刑事さんは、また歩き出す。何も言わない。俺も、何も話さずについて行く。
薄暗いけど、空気が澄んで。綺麗な場所に墓地があった。
川口さんの足は、新しい沢山の花束が添えられた墓で止まる。
「君は、信じるだろうか。」
小さい声で、墓をじっと見つめ。川口さんは言った。
エンの死を?
ただ見つめる墓は。俺に何も伝えなかった。何かを信じられるような答えはない。
「エン。」
どれくらいの時間が過ぎただろう?
「日が暮れる。村を出よう。」
川口さんに導かれ、そこを後にした。
君は、本当に。死んだの?
学校。普通の日々が続く。
ただエンがそばにいないだけ。それ以外は変わらない。変らないはずなのに。俺にとっては異状だ。
エン。君と過ごした時間が忘れられない。
「夢幻、次。移動だぞ?」
英に声をかけられ、現実に戻される。ここは。ホントウニ現実?夢をミテイル?
心配そうな目で、英が様子をうかがう。
分かっている。この事実を受け止めないといけない。現実を。君が死んだと。
俺は、林藤さんが言うように。エンを殺すことになる。
現実から、逃げては駄目だ。
エンは、殺された?誰に?村の人間?ストーカー?変質者?通りすがりの気まぐれな、殺人?
見つけたい。自分に力があれば!!畜生。殺してやりたい!!許さない。
林藤さんは、知りたいのは真実だと言った。
本当は、林藤さんだって知ってる。死んで、この世にいないんだと。
ただ殺した奴を見つけない限り。捜し続けるんだ。自分の力の限り、自分が納得できるまで。
俺も、将来。警察の仕事をしたい。エンのことだけじゃない。他に、誰も同じ想いをしないように。誰か一人でも護りたい。
家。
「夢幻、少しいいか?」
各地を転々と出張し、久々に父が帰った夜。食事の後、重い口を開いた。
多分、エンのこと。
「あぁ、何?」
言いにくそうに、母さんの入れたお茶を飲み。
「辛いことは、ためず。話してみるのがいいかもしれん。父さんでは、役に立てないか?あまり家にいてやれない。こんな父に、話すことは。」
「いや、父さん。」
いつも仕事でいないのは淋しかった。
でも父さんを尊敬している。そんな父から自信のなさそうな言葉を少しでも聴きたくなくて。止めた。
「ありがとう。聴いてほしい。母さんも。」
俺はエンと付き合い。亡くし。将来、どう考えているかを伝えた。
林藤さんのことは、出来るだけ情報を少なく。彼は、慎重に行動している。
「そうか。母さん、夢幻は成長したね。」
「はい。」
二人が自分の親で良かったと、心からそう思った。
「夢幻、憎しみは募らせるな。すぐに忘れられる感情じゃないし、調整も難しい。ただ、囚われるな。お前は、まだ若い。」
父さんは、悲しそうに微笑んだ。
憎しみを持つこと。これは普通。でも囚われるなら?彼のように。
話が途切れ、父さんはテレビのスイッチを押した。野球の中継。
仕事の忙しい父さんだったけど、少しでも時間があればキャッチボールをしてくれた。懐かしい。
携帯が鳴る。表示は『委員長』。
何かの連絡網だろうか?電話に出ながら、自分の部屋に移動する。
「はい?え、明日?あぁ、わかった。連絡、サンキュ。」
職場体験に、近くの工場へ3人グループで行動する予定だったが、この不景気に倒産。
3ヶ月前の計画なので、うすうすは工場の人も感じていたようだが。快く了承してくれていた。
倒産で、急に行く場所が見つからず。英が父親に頼んでくれたらしい。行き先は、駅前の大きなオフィスビルに変わった。
俺と英と委員長。くじの結果だ。
駅前。待ち合わせ時間9時。英の父親が、その場にいた。
「はじめまして。」
秘書の女の人に説明を受け。会社の中に案内される。
事務の人の緊張が伝わった。多分、英の父。社長も一緒にいるからだろう。
「いや、こんな機会でないと。会社に目を向けられないのでは、改善しなくては。」と、難しい話を大人達がしている。
大人の世界。俺も、いつかは社会に出る。その時が、何故か怖い。未知の世界。
この体験に、どれほどの効果があるか。でも知らないより良い。見ているだけいい。感じただけでも良かった。
「夢幻くん、真剣ね。」
委員長は、そう言いながらも。俺より真剣な表情に見える。
「委員長は、将来。何の仕事するの?」
「映画とかのスタント。」
「意外だな。OLとか、言うのかと思った。でさ、そんな特殊な仕事って、どこで情報を集めるんだ?」
興味深いよな。と、言おうと思ったが口を閉ざした。委員長が、驚いた顔で俺を見るから。
「どうした?何で、驚いてるの?」
委員長は顔を赤らめ。
「そんな反応、初めてだった。」と、つぶやいた。
何だか可愛い一面だ。ま、顔は可愛い。
「そうだよな。委員長なら、女優でもいいんじゃない?」
俺の台詞に、いちいち顔を赤くし。微笑んだ。
「楽しそうだね。俺も、入れてよ。」
会社はお昼休みに入っていた。秘書の人が、お昼に連れて行ってくれる。
「へぇ、すごいね!俺は、会社を継ぐのかな?」と、英は秘書の人に訊いた。
「社長は、そう望んでいますよ。ただ、英様の希望なら。と。」
英は何も答えず。ただ移動する車の外の景色を見ていた。英は、他に何かしたいものがあるんだろうか?
「夢幻くんは、何がしたいの?」
会話を変えたかったのか、重い空気を気遣ったのか。委員長が俺に訊いた。
「内緒。」
まだ林藤さんの言葉が頭にあった。誰にも言うなと。ただ、親にだけは言った。それでも最低限の情報。
「まだ、どの道を行けるか知らないんだ」
これは本当。ただ漠然と。林藤さんのように、真実を捜せる。そんな仕事がいい。
その道が、どれほどあり。自分が通れるのか。
「ふぅ~~ん。私は。なれたらいい。このままいけば。なれる……」
委員長も車の外の景色を、遠い目で見ている。
未来が続くなら。エン、君は……
英の父親が経営するファミレスに着く。
「ごめんなさい。社長から、ここを視察するように言われていますので」
秘書の人は、申し訳なさそうだ。
「いいよ、ここのほうが落ちつくし。食べたら、中を見学したい。」
英の言葉に、安心した顔。俺たちの方も確認する。
俺と委員長は、微笑んだ。
「じゃ、遠慮なく食べて!何でも、好きなもの頼んでね!」
「いらっしゃいませ!……夢幻くん!?」
入り口で出迎えたのは、短いスカートの岸谷さん。
制服なのか、つい目が。
「あぁ、同じ学校の!そういえば、同じような内容で体験の子達が。」
秘書の人も忘れていたみたいだ。
「すみません。お席のほうに、案内いたします!」
体験に、バイトしている4人の姿。へぇ。こんな形で体験もいいな。
秘書の人が、店の人と話をしている。
岸谷さんたちのグループ4人も食事に加わり、話が弾む。将来の話、仕事の話。そう、未来について。
この時間も、過ぎれば過去。もう二度と戻ってはこない。
エン。君の時間は、あの日から止まったまま。俺の中の、君との思い出も。
でも、いつかは過去のことにしてしまうのだろうか。過去の事。
「夢幻くん、食べないの?」
斜め前に座った岸谷さんが、心配そうに見ている。
「あぁ、俺。猫舌なの。」
くすっ。と、微笑む彼女は本当に太陽のような笑顔。
心に刻まれ。癒されるように感じる。君の光は、俺をどこに導く?何を照らしてくれるだろう?
俺は、注文したカツカレーを口に運んだ。
「あっつ!!」
意外に冷めないものだ。
昼食の時間も遅かったし、その時間が楽しくて。体験完了時間15時になる。
ファミレスチームは、挨拶をしに事務所に戻る。俺たちは、外に出て秘書の人の会計待ち。
「英、俺は寄るところがあるんだ」
林藤さんに会いに行こうと思った。
あの事件ではなく、仕事のことを知りたいと言えば。不自然じゃないよな?
「あぁ、じゃあ。ここで解散?」
丁度、秘書の人が来たのでお礼を述べた。
ワクワクしている?なんと言うか、気持ちが高揚する感じ。
足の速度が上がり、走り出す。警察へ。
玄関口に入り、異様な緊張を感じたが。
「林藤さん、いますか?」
俺の目的を告げた。
応対してくれた女の人が、複雑な顔。奥に入ると、近くにいた警察の人が口を開く。
「あいつ、死んだんだ。」
死。んだ?
「夢幻くん、どうしたんだ?聞いて……。そうか、こっちにおいで。」
涙が止まらなかった。
ただ川口さんに促され。個室に移動した。
「林藤。気持ち的に、追い詰められていたんだ。」
自殺。まさか信じられない。林藤さんは強い目をしていた。
真実を求めていたのは、彼女の死を受け止めているからだ。違う、絶対に!
いつ、どこで?
「教えてください。」
もっと、本当は訊きたいことが沢山ある。けど、林藤さんの死は。他殺だ。
『誰にも言うなよ』。
今は、訊かないほうがおかしい!
「近くの海だ。アイツの思い出の場所。何度か、相談にのったのもそこだった。数日前、追い詰められたみたいに何かを調べていた。訊いたが、答えなかった。」
次の日。俺は、林藤さんと話をした海に行った。砂浜に立ち、海を見つめる。
新聞に小さな記事。『自殺。過去の事故を、追いかけるあまり。憎しみに囚われた。』
憎しみには、囚われるな。募らせてはいけない?
畜生!違う、絶対に自殺じゃない!!
林藤さんは、真実を見つけたんだ。多分、それで殺された?
ゾクッ。背筋に寒気。
誰が。犯人。どの?林藤さんの彼女?それともエン?
そういえば、林藤さんとここで会ったとき。次に会う約束をしていた。来年の話だったから、忘れそうになっていた。
事件から落ち着く頃、場所は。この海で。
この海に何か隠している?警察も調べただろう。犯人だってきっと。まだ、あるとすれば?捜すのは今じゃない!




