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⑤【9作集約】無音な奏曲の囚われ人  作者: 邑 紫貴
殺人輪舞の夢を観る

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後半

海。まだ季節は寒い。

あの日、もっと寒かったはずなのに。感じなかったのは心だろうか?寒い。冷たい風。

「あの、夢幻さん?」

急に声をかけられ、慌てて振り返る。

「はい。」

そこには見知らぬ男の人。20代半ばだろうか?

「これ、刑事さんから預かっていたんだ。俺が、彼の最期の日に会った人物。君とはここで、さよならだ。もう会うことはない。君も、いつか。観る夢を。」

俺は、彼を目で追わなかった。

予感がする。何かが始まる。止まったはずの時間が。動き出す。

俺は人を怨むのを。また忘れる?いや、それはない。きっと怨むべき人物に。辿り着くんだ!!

エン。君を殺した。そいつを、必ず見つける!必ず。

林藤さんは、見つけた?

どこが現実?どこが真実?どれが嘘?

いつか観る。夢?俺も観る?

手にはメモ。『生きている』

俺はその紙を口に入れ。飲み込んだ。

正気の沙汰じゃない?本当に?正気だ。現実。夢じゃない。

林藤さんは、彼女をミタ。だから幸せそうな顔。

では誰かに殺された?さっきの人。振り返るが、もう姿はなかった。

『さよならだ』君“も”観る。『会うことはない』?

俺に何が出来るだろう?普通の学生。力もない。ただ日常を繰り返す。

林藤さんが亡くなった県外。インターネットの履歴。今、動くのは危険?

『慎重に行動しろ』。

生きている?どこで?

エンの部屋は、そのままだった。まるで今も生活しているような。

考えよう。何か、おかしい。俺に怨みが無い?本当に?

あんな孤立した村。俺のことを知っていた家族。クリスマス。あの日、雪が降っていた。エンの携帯は見つかっていない。

携帯。まさか。


「夢幻?珍しい。気分転換か?」

海を眺めるように、立ち尽くす俺に声をかけたのは英だった。

「あぁ。広い海や波を見て。音を聴くと気分が。」

言葉が上手く出なかった。

「無理するな。女の子たちも一緒だ。そこに喫茶店があるから移動しよう。風邪引くぞ。」

俺の手首を掴んで、少し強引に引いていく。

俺の頭の中に、渦巻く黒い陰謀。いや、根拠の無い空想。か?本当に現実なのか?

夢。を観ているようだ。

「夢幻、大丈夫か?」

「あぁ。女の子たちはいいのか?」

「あぁ。」

「英。俺、エンのこと。」

「うん?」

俺の味方でいてくれる英に、心が安定してくる。俺の大切な友人だ。

拙い俺の言葉を、黙って受け止める。英の心はわからないけど。俺にとっては、大事な友達に変わりない。ありがとう英。

「想い続ければいい。間違いなんて、誰が決める?夢幻の心は、誰にも。どうすることも出来ない。」

その後、しばらく俺は無言で窓の外を見ていた。

英も、同じ外を見。時に、俺の表情を見ていた。心配そうに。

俺は、本当にエンを愛していただろうか?エンを奪った奴を、恨まない俺。怨む。だろうか?

エン。俺は、君が生きていると思うことが。良いと。本当は、分かっていたのかもしれない。現実逃避。夢の中。

「英~~。時間だよ?」

一人の女の子がやってくる。

「英、ありがとうな。君たちも。ごめんね?」

「いいのよ。気分は、大丈夫?」

「あぁ、帰るよ。英、また明日な。」

「あぁ。気をつけて帰れよ。」

何か言いたそうな英を後に、喫茶店のドアを開けた。

やはり風は寒いけど、さっきまでの冷たさは感じない。俺の心は。まだ夢の中。


家に近づくと、女の子が壁にもたれていた。

エン。じゃない。どこまで夢を観る?

「あ、夢幻君。あの。」

岸谷さんだった。

「どうしたの?」

この雰囲気。

「好きなの。蝋飴さんのことは周りから聞いた。けど。ごめんなさい。」

小さくなる声。

明るいイメージの君も、こんな俺に心を傾け。俺の何を知っている?

「ごめん。」

「いい。覚えてくれてたらいい。好きで、いても。いいですか?」

俺は、彼女の横を通り過ぎる。無言で。

返事は返さなかった。いや。言葉が出ない。英の言葉を思い出す。

『想い続ければいい。間違いなんて、誰が決める?夢幻の心は、誰にも。どうすることも出来ない。』

君の心を、どうすることも出来ない。

もしかしたら、いつか君の心を受け止める日が来るかもしれない。でも。他の人に、心を許すかもしれない。

俺は弱い。林藤さんのように、長い間。その人だけを想い続けることは出来ないだろう。

エン。やはり、君を本当に愛していたんだろうか?

苦しい。誰かを呪うほどの憎しみを。持つチャンスを逃した?今からでも。


自分の部屋。

エンとの思い出。何がある?エン。君を奪った奴を。怨むことが出来るだろうか?

林藤さんが悪いわけではない。人の気持ちは、違う。どうすることも出来ない。

自分の弱さに逃げていたんだ。夢の中に。君を求め。生きていると思うことで。何も、考えようとはしなかった。

俺の名の通り。夢幻。だ。



朝。電話が鳴る。

「夢幻。あの、警察から。電話なのよ」

静かな、母さんの不安そうな声。何かあった?

「はい。え。はい。昨日、夕方。確かに。18時半過ぎ。」

言葉を失う。

岸谷さんが亡くなった。近くの公園。池で発見された。

首には、紐で絞められた痕。服の乱れは無く、物品はそのままだった。明らかに殺人。

誰が。何のために?彼女は明るい。誰かの恨みを買うような子ではない。

殺人。事件に巻き込まれた。いや、俺が巻き込んだ。俺に係わったから。

ただ、君は俺を好きになっただけ。しかも想いは通じてもいない。

俺は。優しくしていない。ごめん。俺は。何も、してあげていない。怨んで欲しい。

誰が殺した?何故?

【携帯の着信音】

「はい。英?」

彼女が亡くなったのを知って、心配したと。いつもの声に安心した。が、もう誰も失いたくない。

「英、ありがとうな。でも、ダメだ。怖い。人と係わるのが怖いんだ。頼む。お前が大事なんだ。少し、距離を取ってくれ。失いたくない、友達だから。」

『生きている』。まさか?

俺は、どうかしている。君を疑うなんて。

エン、君は。どこで、何を?どうして。チカクニ。イル?

血が騒ぐ。これは、どっちだ。

君に逢いたい?君が。彼女を殺した?まさか、俺は。

エン。君が観えない。


【携帯の着信音】『非通知』

まさか。


殺人輪舞の夢を観る。

くるくると。消えた君の周りを踊り、現実を避けるように、自分を守ってきた。

君を失って、他の人の悲しみや。怨みを。考えなかった。いや、考えようとしなかった。避けていたんだ。

林藤さん。あなたも観たのだろうか。そんな夢を。あなたは、違う夢だったかもしれない。けど、殺人輪舞の夢だ。

俺も向かう。県外へ。

多分、林藤さんが行っていた。村。隠された神隠村に。

そこで、あなたは観て幸せを感じ。消えた。

俺も、同じ夢を観るだろうか?


俺も、君に逢う。『生きている』君に。

どうして、死んだことになっているの?


「あなたの子が。」

「エン。愛している。よ。」

「私も、あなたを。愛しているわ。」






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